2-3

 土曜日のお昼過ぎ、宿題を終わらせ、ゆっくりしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえました。


「茜ー、いるかー?」

「いるよー」


 私の返事を聞いて葵が入ってきた訳ですが、別に入っていいとは言っていません。まったく、女の子の部屋に勝手に入るとは、伊織に嫌われても知りませんよ。まぁ、遊びに来てはいませんけど。


「どしたの?」

「どしたのって、今日からHTOで鞄売るって言ってあったよな?」

「うん、だから、全部に刻印して、魔石も埋め込んだでしょ」

「ああ、それはサンキュウ。それで、売り始めるに当たって皆集まろうって話になってたんだ。言ってなかったか?」


 聞いてませんね。まぁ、伝えた気になっていたのか、忘れてたかのどちらかですね。


「聞いてないよ。まぁ、それならログインするよ。クランハウスでいいんでしょ」

「ああ、それで、確認しとくけど、ブラックリストに登録してるプレイヤーいるか? 俺達の方はいないけど、一応反映させるから、いるなら教えてくれ」


 ブラックリストですか。そういえば、誰か登録しましたね。


「あー、この前一人登録したよ」

「他にはいるか?」


 ふむ、どうでしょう。興味のない相手のことなんでいちいち覚えません。なので、回答は決まっています。


「記憶にございません」

「じゃあ、確認しといてくれ」

「りょーかい」


 葵は私の返事を聞き、部屋から出ていきました。それではログインの準備をしましょうか。





 ログインしました。クランハウスに行くには冒険者ギルドに行かなければいけないので、道すがらブラックリストを確認することにしました。そこにはついこの前登録した一名が載っており、それとは別にもう一人の登録がありました。さらに、登録した状況が記載されていますが、名前は【***】となっており、誰かはわかりません。そういえば誰かを登録した記憶を思い出して来ましたが、これ以上思い出す必要もないでしょう。ブラックリストに登録したということは、これから関わることがないのですから。


「こんー」


 クランハウスに到着しての第一声が挨拶の定型文です。私の声に反応したメンバーを数えると、私を呼びに来たハヅチですら待っていました。


「さて、空いてるところに座ってくれ」

「あー、ブラックリスト、覚えてなかったけど登録してあったよ」

「……わかった」


 座る前に伝えるべきことは伝えておきます。そうでもしないと忘れてしまいますから。


「全員揃ったから、始めようか」


 ハヅチは鞄の取扱や、素材の買い取りについての考えを話し始めました。簡単にいえば、売上から、作るのに貢献した割合でクランの上納金額を決めるそうです。私とハヅチに関しては技術料なので素材の買い取りをしても変わりませんが、他のメンバーは貢献度が変わってくるため、確認を取っておきたいそうです。

 まぁ、素材を集めるよりも先へ進んでドロップした素材を元手にした方が楽らしいので、反対する人はいませんでした。私としては面倒がないのなら、ハヅチに一任します。それに、その辺りは上手くやってくれると思っていますし。

 次に、冒険者ギルドや商人ギルドにクランショップを開設するので、他の物を売りたい場合は自由に使っていいそうです。但し、価格については相場を逸脱しないという条件はついていますが。


「それじゃ、クランショップ開設の手続きしてくるけど、誰か一緒に来るか?」


 ハヅチの問いかけに対し、可哀想になるほど誰も反応しません。私としては面倒なことはしたくないので当然ですが、時雨も手を上げませんか。


「この後、皆でノーサードのフィールド行くから、ごめんね」

「……いやいい。一人で行ってくる」


 哀愁は誘いませんが、少し寂しそうではあります。まったく、しかたのない弟です。


「そんじゃ、私が行こうかな。仮にも生産スキル持ってるから、使い方は知ってた方が良さそうだし」

「そうか。なら、教えてやる」


 今回はここで解散となり、私はハヅチと一緒に冒険者ギルドへ向かうはずでした。ですが、私がクランハウスに入った冒険者ギルドはノーサードのです。けれど、ハヅチはセンファストの冒険者ギルドから入ったそうです。つまり、クランハウスと冒険者ギルドを繋ぐ扉をくぐると、私達は別の場所へと出てしまいます。


「とりあえず、リターンでポータル行くから、センファストのクランハウスで待ってて」

「あー、その必要……」


 クランハウスや建物の中ではリターンは使えないので、急いで外に出てリターンを使いました。街にいてもポータルへの移動が楽になるので急ぎの時は重宝しますね。


「ハヅチお待たせ」

「クランショップも、クランハウスと同じ仕様だから、移動する必要なかったぞ」

「……気にしたら負けだよ」


 合流した私達はそのままクランショップへと向かいました。そこは、冒険者ギルドや商人ギルドから入ることの出来るエリアで、開設費を払うことで店を開けるようになるそうです。ちなみに、店には二種類の形態があり、売り子を含めて自分達で行うタイプと商品を補充しておけば後は勝手にやってくれる自動販売機タイプだそうです。私達の場合、トーナメントの賞品で大型クラン開設権を貰ったので、両方共使う権利を持っているそうですが、今回は自動販売機タイプを使うそうです。ちなみに、商品の種類や数に制限があるそうですが、投資などの方法で制限を緩和出来るそうです。まぁ、所属人数に余裕のある私達には先の話だと思いますが。


「ここで設定するんだ。つっても、基本的なことは設定しといたから、商品を入れるだけだけどな」


 小型インベントリが使えるウェストポーチは100,000Gで、中型インベントリの使える鞄は1,000,000Gで販売するそうです。少し安い気もしますが、そこまでの経費もかかっていませんし、材料の価格からしても十分に利益が出るそうです。私が使うとしたら、基本性能のポーションを定価で並べたり、作った料理を表示された価格で並べるくらいですね。

 ハヅチはインベントリからアイテムを移動するのに手こずっているため少し暇になりました。どんなクランが店を出しているのか気になり周囲を見渡していると、人で賑わっているクランショップが目に入りました。M&Cというマークがありますが、聞いたこと……、ああ、シェリスさんのいる生産クランの略称ですね。

 おや、偶然にも知っている人がいました。ただ、人に囲まれているので、話しかけるのは止めておきましょう。


「あっ。……とりあえず、掲示板の話は知ってますけど、私達は関わっていないので、ここで何を聞かれても知らない以外の答えは出ません」


 私と目があったシェリスさんは囲んでいる人達に対してそう告げると、私の方へと人混みをかき分けてきます。


「武器の修理だね。じゃあ、こっちきて」


 私の返事も聞かず、シェリスさんは手を掴んで私を連れて行こうとします。一応ハヅチを待っているので遠くに行くわけにもいかないので、どうしましょう。とりあえず、断るにしても武器の耐久を確認しましょう。


「あ……」


 あまり気にしていませんでしたが、よく見れば耐久が50%を切っています。武器を新調する予定はないので、今回は、シェリスさんに修理を依頼した方がいいでしょう。警告が出る数値ではありませんが、放っておいていい数値ではありません。具体的な数値はわからなくとも、まずいと察したシェリスさんから、修理システムというウィンドウが送られて来ました。どうやら制作依頼をする受注システムと似たようなもののようで、武器を預けておけば修理が終わった時に武器が送られてくるそうです。


「ここならいいかな。これも使えるようになったんだけど、対価もいろいろ設定出来るんだよ。何か珍しいもので払う気ない?」


 クランショップの並んだ場所の端へと移動したので、聞き耳を立てられることもないと判断したようです。ある程度はこちらを気遣ってくれているようですね。

 それにしても、珍しいものですか。そういえば、時雨はこれを見たことあると言っていましたが、生産クランの中ではどういう扱いなのでしょうか。


「これ、鑑定してみてください」


 まぁ、生産クランでは把握している情報のはずなので、候補になるのはスクロールくらいですが、何が欲しいのでしょうか。

 おや、修理システムに入れた杖にも鑑定申請が出ています。【OK】を押しておきましょう。


「…………ふう。刀だけ?」

「金属だけです。けど、知らないんですか?」


 おかしいですね。私が聞いている話と違う気がします。


「……私は担当外だけど、その内連絡するかも。それで、話を戻すけど、私としては、回復系のスクロールを期待してたんだけど」

「ああ、そんなのでいいんですか? 何の魔法を何枚作りますか?」


 そんなので良ければいくらでも作ります。私が使える魔法限定ですが、イベントリと違って消費MPもそこまで大きくないので、時間もかかりませんし。


「……作れる側からすれば、その程度の扱いなんだね。確か、1枚10,000Gだったね」

「別に原価でもいいですよ。修理代金分と考えると、枚数渡せないかもしれませんし」

「ちなみに、いくら?」


 私が小さく手招きすると、シェリスさんは大人しく近付いてきます。何かいたずらをしたくなりますが、今は止めておきましょう。


「1枚1,000Gです」


 そっと耳打ちすると、シェリスさんはなにか落ち込んでいます。耳に吐息を吹きかけて欲しかったのなら言ってくれればよかったのに。


「じゃあ、ハイヒールを10枚貰ってもいい?」

「わかりました。この修理システムの支払いのところに入れておきますね」


 とりあえず手早く済ませてしまいましょう。私はメニューを開き、刻印を始めました。


「シェリス、ない品を求めるプレイヤーの相手は終わったのか?」


 端へと移動した私達の方へと向かってくるプレイヤーがシェリスさんに話しかけてきました。対するシェリスさんの反応を見る限り、知り合いのようです。


「何とかしたよ。実際、うちじゃないのは確かだから」

「何とかなったのなら、いいだろう。君との話中に邪魔をしてしまってすまない」

「いえ、話自体は終わっていたので問題ないですよ」

「そうか。料理スキルで恩のある君に迷惑をかけていないようでよかった」

「?」


 何のことでしょう。料理スキルの恩と言われても、何かをした記憶はありません。私が首を傾げていると、男性は何かを納得したように頷いています。


「そうだったな。君は何もしていないということになってるんだったな。改めて自己紹介しよう。俺はタイヤ。クラン【MAKING&CREATE】のマスターだ」


 タイヤさんはものすごいドヤ顔をしています。そのため、この一言を言うのは可愛そうですが、言わないという選択肢はありません。


「シェリスさんが入っている生産クランということしか知りませんよ」


 私の言葉を聞いた瞬間、タイヤさんはものすごく恥ずかしそうにしています。恐らくですが、けっこう大きく、有名なクランなのでしょう。私は興味がないので知りませんが。

 ただ、相手が自己紹介をしたので、私も名乗りましょうか。


「始めまして、クラン【隠れ家】所属のリーゼロッテです」


 挨拶をする以上、帽子をかぶったままではいけないので、お辞儀をしながら帽子を脱ぎます。見た目の問題もあるのですぐにかぶりますが。

 それにしても、そこまでドヤ顔が出来るということは、この生産クランは大きいのでしょうか。


「リーゼロッテもクラン入ったんだ。てっきりソロだと思ってたけど」

「よくある身内クランですよ」


 ハヅチと時雨のPTメンバーはリアフレではありませんが、作るきっかけは私達三人なので、身内クランで間違っていないはずです。

 よし、これで完了です。


「とりあえず、対価の10枚出来ましたよ。修理システムに預けておくので、修理お願いしますね」 

「わかった。すぐに修理しとくよ」

「お願いしますね。それではさようなら」


 さて、一度ハヅチの方へ戻って何をするのか考え……、時間があるなら他の装備も修理しておきましょうか。帽子などの古い装備は耐久が怪しいので。


「最後に一ついいだろうか?」


 立ち去ろうとする私に対し、タイヤさんが横から声をかけてきました。立ち塞がってしまうと悪印象を持ってしまうので、いい選択です。


「一ついいかと聞きたいだけですか?」


 よくあるそれ自体が一つ聞いてますよというやつです。


「すまんが、別に聞きたいことがある」


 おっと、流されてしまいました。まぁ。私としても拾われても困るので、気にしないでおきましょう。


「何でしょうか?」

「掲示板にインベントリが付与された鞄が売りに出されるという情報が上がっていた。それに関わっているのか?」


 ハヅチが前もって告知すると言っていた気がします。どんな方法かは知らなかったのですが、どうやら掲示板に書き込むという方法だったようです。なら、先程シェリスさんを囲んでいたプレイヤーはその情報を見て、生産クランだと思い込んだ人達ということですか。


「関わっているかの範囲次第ですかね」

「……範囲、か」


 私は書き込んでいませんし、書き込むのも知りませんでした。つまり、鞄が売りに出されるという情報には関わっていません。けれど、鞄に刻印したのは私なので、微妙な所です。まぁ、タイヤさんがどう取るかはわかりませんが。

 それはさておき、一つ気になることが出来ました。何故タイヤさんは私が関わっていると考えたのでしょう。先程の話が聞こえていたとも思えませんし、私はメニューで作業をしていたので、何をしているのかわかるはずがありません。シェリスさんと同じクランのようなので、一番高い可能性が目の前にいます。

 私がシェリスさんの方を向くと、手を横に振って違うとアピールしてきました。話していないという証拠はありませんが、話したという証拠もありません。なら、本人に聞いてしまいましょう。


「何故、そう考えたんですか?」

「トーナメントで魔法陣を使っていたし、インベントリを付与してある鞄とスクロールの共通点を考えれば、思いつく範囲だ」


 状況証拠の積み重ねというのでしょうか。それでは、シェリスさんを疑ってしまったこともありますし、こうしましょう。


「シェリスさんから聞いてください。そのくらいなら、話しても問題ないので」


 クランチャットの方に終わったと連絡が来たので、一度合流する必要が出来ました。そのため、これ以上ここにいることは出来ません。それは伝えていないので伝わらないと思いますが、話していいということだけ伝われば問題ありません。私は手を振ってこの場を後にしました。


「おう、お待たせ」

「待ってはないからいいけど、掲示板に告知してたんだ」

「……誰かに聞いたのか。まぁいいけど、掲示板に売りに出したって書き込んだから、そのうち売れるだろ。この後どうするんだ?」


 何とも商売っ気のないクランですね。まぁ、現状独占しているアイテムということもあるとは思いますが。


「装備の修理をお願いしてもいい?」

「ああ、いいぜ。修理システム使えるから、クランハウスに戻ったら申請方法教えるよ」


 どうやら私からも修理の申請が出来るようです。何とも便利ですね。


「対価はどうする?」

「ツケと相殺するから大丈夫だ」


 そんなわけで、クランハウスに戻り、装備を外して修理システムに預け入れました。防具を全て外すと、システム的には裸ですが、外見的には初期装備になります。まぁ、持ち物装備はそのままなので、鞄などはそのまま身に付けています。とはいえ、流石に今更この格好ではいたくないので、今度私服代わりの物を作ってもらいましょう。もしくは、装備を更新したら今の装備を着ければ問題ありませんね。

 とりあえず何をするにしてもステータス的に問題があるので、今回はここでログアウトです。





 いつものように夜のログインの時間です。ログイン前に防具の修理は終わっていると聞かされていたので、見た目の問題は解決出来ます。後は、杖の方ですね。


 テロン!

 ――――修理アイテムが二件届きました。――――


 おや、何かと思えば修理システムです。今はほぼ初期装備でポータルにいるので、ここで装備してしまいましょう。

 受け取るからの装備するボタンを押すと、装備が一瞬で切り替わり、魔法使い風の装備になりました。変身シーンにありがちな全裸シーンもなかったので、今後も安心して装備を変えられますね。

 さて、特にすることを決めていないので、所持スキルを見て考えましょう。

 各種魔法スキルの優先順位にこだわりはないので狩場次第ですが、なるべくならLV10に近いものや、低いものを上げたいですね。生産スキルは素材が必要なので、それを集めるという手もあります。錬金術は魔石融合のお陰で少しずつ上がっているので、ほぼ手を付けていない調薬にしましょう。グリーンポーションの素材であるサボテンの皮はサボテンテンが落としますが、あんな倒しにくいMOBだけとは思えないので、オアシス周辺を探すことにします。調べればわかることだとは思いますが、めんど……、答えを聞いてはつまらないですから。

 ポータルを使い砂漠のオアシスへと移動しました。

 周囲を見渡すと、地形は変わっていないのですが、人の数が増えています。休憩中のプレイヤーの中には明らかな魔法使いがいるので、空間魔法を使える魔法使いなのでしょう。流石に私のようなソロは見当たりませんが。

 さて、それでは入ったことのないオアシスの西側へと足を踏み入れましょう。


「おーい、そこの嬢ちゃん、この先の地図やMOBのデータはいらんか?」


 せっかく気合を入れて足を踏み出そうとしたのに調子を崩されてしまいました。まぁ、絡んでくる迷惑な輩ではなく、商品を売りたいプレイヤーのようなので大目に見ましょう。


「自分で見たいのでいりません」

「そうかい、邪魔したな」

「いえ、それでは失礼します」


 今度こそ足を踏み入れました。

 ブラウンキャメルは土属性なので嵐魔法で何とかしますが、他のMOBは魔力視で見てから判断しましょう。場合によっては弱点以外で無理やり倒しますが。

 オアシスの西側は東側と同じように砂漠が広がっています。ただの背景なのか、遠くのあるものが見えているのかはわかりませんが、砂漠にも終わりがあるようですが、誰かしらが次の街を見付けるでしょう。

 この辺りにもそこそこ人がいるので、気を付けながら狩りをします。


「【エアーランス】」


 射程ギリギリから攻撃しました。ブラウンキャメルは吹き飛ばされると、弱々しく立ち上がり、ゆっくりとこちらへ向かってきます。私の記憶が正しければ、ランス系2発で倒していました。けれど、ここまで追い込んだ記憶はありません。魔法系のスキルレベルが上がったお陰でINTが上がったからでしょう。さて、とりあえずは。


「【メタルランス】」


 とどめを刺しておきましょう。

 リザルトウィンドウを確認し、先へ進みます。久しぶりのちゃんとした狩りなので忘れていましたが、魔力陣LV40で双魔陣というアビリティが解放されていたのでした。同じ魔法を2個展開出来るということで、特に難しい操作はいらないようです。

 フリーのブラウンキャメルがいたので試してみましょう。


「【エアーランス】」


 二つ使うつもりで発動すると、普段足元に描かれる魔法陣が背後に二つ並んで描かれました。これはエフェクトとしてもなかなかのものです。手を前に出して、その先に魔法陣が描かれるというのも捨てがたいですが、運営が背後を選んだのですから、大人しく従いましょう。

 二つのエアーランスがブラウンキャメルに直撃し、すぐにリザルトウィンドウが出ました。威力が半分以下になるということはないようなので安心しました。

 次のMOBを探していると、何だか視線を感じました。どうしたの――。おっと、サボテンがいました。識別すると、サボガンマンという名前のMOBで、属性は風の極小のようです。この距離でも攻撃してこないということは、サボテンテンよりも遥かに射程が短いようです。


「【フレイムランス】」


 まずは小手調べ。弱点をついて攻撃すると、1確……、いえ、正確には2確ですね。ドロップにもサボテンの皮があったので、このMOBで間違いないようです。それなら、双魔陣を使って他のスキル上げもしたいので、属性を変えましょう。土じゃなければ問題ないはずなので、水魔法の上位である氷魔法にしましょう。ダメなら他の魔法にすればいいのですから。

 西へと進むと、ブラウンキャメルの数が減っていき、サボガンマンの数が増えていき、人の数が減っていきました。ブラウンキャメルが落とす素材は装備に使えるので、装備更新や金策のために人気なのでしょう。サボガンマンが落とすサボテンの皮ですが、生産職のプレイヤーが基本の素材について流していないとも思えないので、買取価格の問題でしょうか。まぁ、競争相手がいないのは楽でいいです。


「【アイスランス】」


 試しに2発撃ち込んでみると、ある程度弱っているように見えます。ボスのHPは見えるのですが、一般MOBのHPは見えない仕様なので、見た目で判断するしかありません。クールタイムの都合上、連打出来ないので、他の魔法でとどめを刺しましょう。


「【メタルランス】」


 所持している魔法スキルの数が多いとどれを使うか迷いますが、使えなくて困るということはありません。さて、どんどん続けましょう。

 双魔陣を使ってアイスランスを放っていると、クールタイムが2回分になっていることに気が付きました。2発なので間違いではありませんし、余分に伸びていないので、文句はありません。

 狩りを続けていると、満腹度が下がったせいなのか、喉の渇きを覚えました。普通ならお腹が空いたと感じるのに、MAPのせいなのか、ここでは渇きとして現れるようです。氷魔法で出した氷は溶けて水になるわけではないので飲めません。水筒も持っていないので、どうしましょうか。

 ……そういえば探索魔法に給水というものがありましたね。後はコップでもあれば水を飲めるのですが、何かありませんかね。とりあえずどこかの木陰にでも入りたいのですが、砂漠というMAPなので木がありません。仕方ないので来た道を戻りましょう。

 嵐魔法がLV9なので、ブラウンキャメルには双魔陣でエアーランスを放っています。そのお陰でLV10に出来ました。使えるようになった魔法はエアブラスト、フレアブラストの風属性版だと思えばいいはずです。試しに一度使ったのですが、威力もそこそこのようで、ブラウンキャメルは1確でした。

 オアシスに戻り、空いている木陰に入りました。さて、減っているのは満腹度なので、何かを食べれば渇きも治まるはずですが、ここは何かを飲みたい気分です。そう思って簡易料理セットをいじっているとありました、コップです。それでは給水を使って水を飲みましょう。


「【給水】」


 透明なコップになみなみと水が注がれました。よく考えればウォーターの陣でも代用出来た気がしますが、今更ですし、気にしても意味がありません。注がれた水を一気に飲んだのですが、どうにも温いです。いえ、冷えていないというべきでしょうか。そして、渇きを癒すと空腹に襲われました。まったく、手の込んだ罠です。ラクダからは肉も落ちたので、このまま料理しましょう。メニューはもちろん串焼きです。

 さて、アイテム名が【肉】となっているのでレシピ再現で作れるようですね。まったく、肉の種類を問わないとは、ゲームらしくて楽でいいです。

 水を飲みながら串焼きを食べていると、影がさしたので、ふと見上げると見知らぬプレイヤーがいました。


「なああんた、その料理売ってくれないか? 用意した分を使い切っちまったんだ」

「もぐ復もぐもぐすよ」

「……こちらから話しかけているのにすまないが、食べるか話すかどちらかにしてくれないか?」


 まったく、我侭ですね。しかたありません。食事の続きをしましょう。


「食べるのかよ」


 それは食事中ですから当たり前です。そもそも私の知り合いではありませんし。

 この焼き鳥や串焼きは1個の肉から3個作れるということもあり、回復量が低いです。まぁ、全部合わせればそこそこの回復量にはなりますが。さて、ある程度回復したので続きをしましょうか。


「……あのー、ちょっとすみません。どうかその料理を売っていただけませんか?」


 ああ、忘れていました。さて、どうしましょう。


「回復量低いですよ。多分基本値くらいですし」

「ああ、それでもかまわない。何せ思った以上に消費しちまってな」

「後、相場知らないんですよね。自分で作ったので」


 特に売る気もないので調べる気もありません。そもそも、オアシスにはポータルがあるので戻った方が確実でしょう。


「相場としては回復量が10%で1,000Gくらいだ。後はバフの数値次第で跳ね上がるけどな」

「これ5%なんですよね。バフはありませんし」

「……間に合わせか。それでもいい、何なら1個につき1,000G出そう」


 何故ポータルのあるここで回復量の低い料理を欲しがるのかはわかりませんが、相手の言う相場を信じた場合、倍値を払わせるのは私の主義に反します。何せ、相手の言うとおり、間に合わせですから。


「500Gでいいですよ。何個要りますか?」

「すまない。10本くれ」


 食べ物なので手渡しトレードは避けたいので、トレード申請をしたいのですが、残念ながら申請方法を知りません。なので、相手から出してもらいました。


「すまない、恩に着る」

「別に着なくていいですよ。では、さようなら」


 休憩も済んだので、狩りの続きをしましょう。


「あのーすみません……」

「何か?」


 まったく、今度は何でしょうか。私が怪訝な目を向けると、話しかけて来た人が何やら萎縮しています。そのまま何も言わないので用はないのでしょう。


「あ、ちょっと……」


 立ち止まって何かを言うのを待ったのに、それでも何も言わない人の相手をする気はありません。まったく、誰もが自分のために時間を空けてくれると思ったら大間違いです。

 気を取り直してサボテン狩りの続きです。

 LV10になっていない魔法スキルは、氷・地・雷・鉄・聖・冥の6個です。聖と冥は範囲魔法なので使いづらいため、他の魔法を使うことになりますが、サボガンマンには先程と同じように氷を、ラクダには雷を使いましょう。

 サボガンマンに向かう途中に出てくるブラウンキャメルにはライトニングボルトを使うことにしましたが、どうにも基本属性のランス系と比べると、威力が劣るようです。流石に下級スキルなので基本スキルのボルト系と比べれば威力は高いですが。そんな訳で、微妙にブラウンキャメルのHPが残ってしまうので、単発のメタルボルトを叩き込んでみました。それで倒しきれるようなので、ブラウンキャメルの対処法は決定です。

 なお、サボガンマンにはアイスランス2発のままです。

 何度か近くにリポップしたため、針による攻撃を受けてしまいましたが、モロか連続でくらわない限り問題はないようです。

 ある程度続けていると、氷魔法がLV5になりました。普段は通知をLV10毎にしているのですが、明日は時雨と出かける約束があるので、少し早いですがキリがいいので、街に戻ってログアウトしましょう。

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