2-2

 翌日、本格的なプレイをするのは夜だけでしたが、夕方のうちに回復しているMPを使い切るために刻印を済ませておきました。まぁ、まだ数はありますが、土曜には間に合うといいですね。

 夜のログインではいつものように刻印を済ませてから行動開始です。まぁ、これといって予定はないので、第三の街でもふらついてみましょう。

 クランを作ってから全員で行ったため、ポータルの解放は済ませてあります。センファストのポータルへ向かい、ノーサードのポータルへと飛びました。そこで私の目に映ったのは、いかにも炭鉱の街と言った雰囲気の場所です。センファストから北に移動したため、若干肌寒い気もしますが、雪などは見えないので気の所為でしょう。

 街のいたる所から黒煙が上がっており、金属を叩く音が聞こえます。店らしき家のほとんどに剣や盾といった装備系の絵が描かれた看板が下がっているため、ひと目見ただけで武器防具屋だとわかります。よくあるファンタジー系のゲームだと、金属系の装備は魔法に悪影響を与えることが多いですが、HTOではそんな話を聞いたことがありません。……いえ、私が情報を集めていないだけなので、あるのかもしれませんが。ですが、護身用兼何かの為のナイフの一本くらいは持っておきたいものです。

 そんなことを考えながら街を歩いていると、お酒やらジョッキやらの絵が描かれた看板の割合が増えていきました。どうやら武器防具屋のエリアから食べ物屋のエリアへと変わったようです。遅い時間であれば、日も暮れて趣のある風景になったのかもしれませんが、それは諦めましょう。

 それにしても、ゲーム内ではまだ日が出ているのに酒場が賑わっているのはどうなんでしょう。

 少し覗いてみると、筋骨隆々のおっさん達がビールジョッキ片手にどんちゃん騒ぎを行っています。日が出ている内からいい御身分のNPC達です。おや、筋骨隆々のおっさん達の中に、少し違う人がいます。筋骨隆々なのは変わりませんが、背が小さく、手足が短いです。その上、髭が大量に生えています。まるで、ドワーフとでも言いたげな見た目です。まぁ、このHTOには異種族という設定がないそうなので、ドワーフ風のおっさんだということです。

 おっと、見ていたら目があってしまいました。


「へへへ、嬢ちゃん、何かいい匂いがするな」


 へ、変態です。うら若き乙女に向かっていい匂いがするなんて言うとは、このNPCは変態です。流石の私でも引きました。


「……」


 とりあえずジト目でも向けておきながら対処法を考えましょう。


「フハハ、嬢ちゃん、勘違いはいけねぇ。嬢ちゃんからいい食いもんの匂いがすんだよ」

「……」


 今更取り繕っても信用できません。そもそも、私は食べ物なんて……、いえ、持ってますね。いくら私でもインベントリに焼き鳥やら串焼きやらが入っているのは覚えています。


「なあ嬢ちゃん、そのいい匂いがするやつ、ちょっと分けてくれねーか? かみさんに小遣い減らされて、ちょっときついんだ」


 変態だと思っていたのですが、話を聞く限り少し可哀想に……は、なりませんね。この発言内容からして自業自得でしょう。


「タダで人から何か貰えると思っているのなら、考えが甘いですね」

「そりゃそうだ。もちろん、報酬は用意する」

「内容しだいでは、受けますよ」


 ピコン!

 ――――クエスト【魔力付与を学ぼう】が開始されました――――


 おや、クエストですか。私の返事は受けると言い切っていないとても曖昧な表現だったのですが、受けると判断されたようです。報酬はタイトルから推測するに魔力付与というスキルでしょう。付与魔法に関わる何かだとは思いますが、何でしょう。


「それでだ。いい匂いがする肉料理をそーだな、10個用意してくれ。そうすりゃ、魔力付与を教えてやる」

「それってこれですか?」


 私はインベントリから焼き鳥を10本取り出してみました。けれど、反応が芳しくありません。


「嬢ちゃん、そっちじゃねーよ。肉の種類は問わねーが、今の嬢ちゃんが用意出来る中で上手くいったもんを用意してくれよ」


 今の私で……ですか。先程、私からはいい匂いがするという変態的なことを言っていました。つまり、こっちではないということです。

 私は別の欄に入っている三本の焼き鳥を見せました。


「そうだよ、そっちだよ。だけど、数が足りねーな」


 そういうことですか。大成功のお肉を持ってくればいいんですね。よくわかりました。


「期限はありますか?」

「なるべく早く欲しいが、そこまで急いじゃいねーから、用意が出来たら持ってきてくれ」

「わかりました」


 さて、肉の種類は問わないということは、コケッコーでもラビトットでもいいということです。まぁ、どちらでも倒すのに苦労はしないので、胃石を落とすコケッコーにしましょう。





 そんなわけでコケッコーの出るフィールドを訪れました。何だかラビトットの場所と比べて少し人が多い気もします。料理系のプレイヤーも普段食べない兎よりも慣れた鶏の方が料理に使いやすいのでしょうか。

 まぁ、気にしてもしかたないので、どんどん狩りましょう。

 ………………………………

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 疲れました。

 人はそこそこ多く、MOBはすぐに倒されてしまうので、譲り合いやら奪い合いやらで精神的に疲れます。私は魔法使いなので射程が長いのですが、他のプレイヤーも弓やら魔法やらでどんどん狩っていきます。ただ、暗黙の了解なのか、ある程度の距離にMOBがいる場合は他のプレイヤーは手を出さないようです。自分の目の前に出現したMOBが他のプレイヤーに狩られたらトラブルになりそうですから。

 始めはフレイムランスを使っていたのですが、ファイアボルトでも倒せるので、消費MPのことも考えそちらにしました。っと、MPがかなり回復しているので、一度刻印してしまいましょう。流石に狩りをするので使い切るわけにはいきませんが。

 木陰で作業をしていると、一人のプレイヤーが近付いてきました。


「おーい嬢ちゃんも休憩か?」

「そうですよ」


 正確には違いますが、訂正する必要もないので流しておきます。私は作業中なので顔を上げる気がないので、その内どこかにいくでしょう。


「嬢ちゃんはどっちだ? 食材か? 料理か?」


 いえ、クエストです。

 さて、ある程度MPの消費もしたので、料理してしまいましょう。料理スキルはLV10になったのでレシピ再現が使えますが、それを使うと成功で固定されてしまうので今回のクエストには使えません。それでは簡易料理セットを展開してと。

 流石にレベルが上ったせいか、切り方で薄切りが選べるようになっていました。まぁ、今回は選びませんが。鶏肉をぶつ切りにして串に刺し、焼く準備完了です。外で作業をしているせいでBBQ感溢れていますが、一人だと寂しいことこの上ないです。気にしなければいいのですが。


「嬢ちゃん、ここで料理するのか?」


 これから大成功を狙って集中するのに話しかけられたくありません。釘を指しておきましょう。


「集中するので」


 さて、始めましょう。

 料理スキルLV10ともなれば、大成功の範囲もかなり大きくなっています。目算ですが、最初と比べて三倍といったところでしょうか。それでは……おっと、余裕だと思ったら失敗してしまいました。何事にも気を抜いてはいけないということでしょう。それでは気を取り直して次です。

 ………………………………

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 飽きました。コケッコーの肉自体は20個ほどですが、これも1個の肉で3個の焼き鳥が作れます。つまり、60回もやらなければいけないということです。まぁ、必要個数が揃った時点でやめればいいのですが、切った肉はインベントリに入れられないので、中途半端に残すことも出来ません。もう少しで大成功品が10個になりますが、クランハウスでハヅチ達と話しながらやった作業の後に同じことを一人でやるのは辛いです。人の集中力はそんなに持たないといいますが、何としてもおわらせてしまいたいです。


「よっし」


 おっと、つい声に出してしまいました。焼き鳥の大成功品も持っていたとはいえ、出来たての方がいいだろうと妙な気を利かせた結果、新たに10本の大成功品を作り終えました。30本近い成功品とは別の枠にしまったので、後はクエストの続きをするためにノーサードに行くだけです。


「嬢ちゃん、少しいいか?」


 おや、まだいたんですか。それにしても、集中すると言われただけで黙ってずっといるとは、この人は暇人でしょうか。


「少しならいいですよ」


 作業を止めて座っていればMPの回復速度も上がるので、少しくらいは聞きましょう。


「嬢ちゃんは料理スキルを持ってるんだと思うんだが、コケッコーの丸焼きのドロップ条件知らないか?」

「?」


 何のことだかわからず、本気で首を傾げてしまいました。あれは普通にドロップしたので、条件があるようには思えません。何かあったとしても、気にしなければ気付かないものですし。


「その顔からして知らないのか。いやすまん、時間を取らせたな」

「いえ、用が済んだのならもう行くので」


 ステータスを確認すると、満腹度が減っていたので、手持ちの焼き鳥でお腹を満たしておきました。スキルレベルが低いのか、料理の難易度が低いのか、回復量は低いですが、数を食べれば問題ありません。美味しくはなくともまずくはないので。





 今日受けたばかりのクエストですが、必要なアイテムが揃ったのでクリアしてしまいましょう。メニューのクエストで受けたNPCの居場所を視界の隅に出しているミニマップに表示することが出来るため、納品で道に迷う事はありません。先程は何となくで歩き回っていたので道を覚えていなくても安心です。

 微かに見覚えのある酒場を訪れると、筋骨隆々だけど小さいおっさんがいました。おや、NPCの上に見たことのない緑色のアイコンがあります。どうやら、クエスト関連のNPCに現れるようです。


「おじさん、約束の物、持ってきましたよ」

「おお、嬢ちゃん、いい匂いのもん、持ってきてくれたか」


 どうにも怪しい取引にしか思えません。ただ、クエストウィンドウが現れ焼き鳥の大成功品を納品するかどうか尋ねられたので、クエストは間違いなく進行しているようです。それでは【はい】を押して進めましょう。


「ちゃんと持ってきましたよ」


 返事をする必要はなかったようで、【はい】を押すとインベントリが開き、焼き鳥が10本減ると同時に、小さいおっさんの手に1本の焼き鳥が現れました。これで納品は完了です。


「確かにいい匂いだ。それに、なかなかだな」


 手にした焼き鳥の匂いを嗅ぎ、一気に頬張っています。そんな食べ方をするからお小遣いをなくしてしまうのでしょう。まぁ、設定に突っ込んでもしかたないので、クエストを進めましょう。


「それで、報酬の方は……」

「ああ、そう急かさんでもちゃんと教えるわい。ここじゃ無理だから、ついてこい」


 串をくわえたおっさんが歩き出したので、私は着いていくことになりました。残念ながら地図には目的地が表示されていないので、大人しくするしかないようです。まぁ、先回りしてもおっさんがいたらおかしいですから、それを防いでいるのでしょう。


「さあ着いた、ここがワシの工房だ。魔力付与はこっちでやるからついてこい」


 一見すると武器屋ですが、奥には鍛冶場もあるようなので、自分で作った武器を売っているようです。並べられた武器を魔力視で見てみると、薄っすらとですが魔力が宿っていました。普通の武器を魔力視で見たことがないのでこれが何を意味するのかはわかりませんが、とりあえず覚えておきましょう。

 おっさんが向かったのは鍛冶場ではなく、その隣にある倉庫のような場所です。部屋の壁やそこら中に武器が置いてあるのに、中央の台には一切武器が置いてありません。何の台なのかはわかりませんが、何かしらの魔法陣が描かれており、とても濃い魔力を帯びています。陣が鑑定出来ないので、台かこの部屋と一体化しているのでしょう。


「それじゃあ一度見せるぞ」


 そういっておっさんは剣を手に取り魔法陣の上に置きました。次に魔石(小)を取り出し、剣に叩きつけています。そうすると、魔石が砕け、剣に魔力が宿りました。見た限りではとても簡単そうですが、実際はそうでもないのでしょう。


「まあ、やることは簡単だ。魔石の魔力を剣に移す、それだけだ」

「具体的な方法を教えてください」

「そう急ぐもんじゃねーぞ。まあ、今の方法はこの工房だから出来ることだ。嬢ちゃんにはこの工房がなくても出来る方法を教えてやる。まずはこれを読め」


 そう言って放り投げられたのは一枚の羊皮紙です。このゲームでは普通に紙が使われているので存在しているとは思いませんでした。ただ、ここで出て来るということは魔法に関わる物の場合、羊皮紙の方が性能がいいのでしょうか。識別してみると【ラーニングスクロール・魔力付与(金属)】と書かれています。そこに描かれているのは魔法陣のようですが、アイテムの説明欄には何も書かれていないので、調べようがありません。クエスト用アイテムの可能性がありますが、これを作れるようになったら大儲けの予感です。

 今は無理なので考えていてもしかたありません。読む……使ってしまいましょう。


 ピコン!

 ――――System Message・アーツを習得しました―――――――――

 【魔力付与(金属)】を習得しました。

 付与魔法から選択することが出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 おやおや、本当に金属だけですか。まぁ、金属と書かれているということは、金属以外の魔力付与もあるということですね。ゆっくりと探しましょう。


「覚えましたよ」

「そうか。じゃあこの剣に手を添えろ」


 私はおっさんの指示に従い、剣の握りに手を添えました。そして、魔石(小)を渡され、付与魔法から魔力付与を発動させます。そうすると、魔石(小)が砕け、剣に降りかかりました。


「見てみろ」


 おっさんに言われ、鑑定してみると、見慣れぬ項目が増えていました。


――――――――――――――――

【鉄の剣】

 鉄の剣

 耐久:100%

 魔力付与:100%

 攻撃力:▲

 魔法攻撃力:▼

 INT:▼

 MP:▼

――――――――――――――――


 装備する気はありませんが、魔法使いには向かない装備ですね。何せ必要なステータスがことごとく下がるのですから。


「魔力付与ってそのまま表示されるんだ」

「そうだ。魔力がなくなったらただの剣に戻っちまうから気を付けろ。まあ、もう一度付与することは出来るんだけどな」

「補充は出来ないんですか?」

「出来るが、同じように魔石を使うから、あまり勧めんぞ。……嬢ちゃん、魔力を操れるのか?」


 おや、クエストが派生したのでしょうか。それとも別ルートに入ったのでしょうか。条件は言葉にしてくれたのでわかりやすいですが、オババから教わったこのスキル、優秀ですね。


「もしかして、魔石の代わりになります?」

「ああ、試してみろ」


 スキルの連動設定に付与魔法と魔力操作の組み合わせが増えていたので、設定を弄って試すことになりました。すると。


――――――――――――――――

【鉄の剣】

 鉄の剣

 耐久:100%

 魔力付与:100%

 攻撃力:▲

 魔法攻撃力:▼

 INT:▼

 MP:▼

――――――――――――――――


 結果は先程と同じです。ですが、それでいいんです。


「嬢ちゃんなら見えると思うが、この辺りに魔力の塊があるだろ。ここに魔力を流し込めば、消費した魔力を回復することも出来る。覚えとけよ」


 剣全体を薄っすらと魔力が覆い、鍔の辺りに少し魔力の濃い場所があります。そこが魔力付与の中心なのでしょう。剣以外の武器だとどこになるかはわかりませんが、それは実際に付与した際に確認すればいいことです。


「ワシから教えられることはここまでだ。後は嬢ちゃん次第だ」

「いえ、まだあります。この武器使うと、ダメージにどう影響するんですか?」

「……そこは礼を言って立ち去るところだろ」

「そんなの物語の中だけで十分です」


 オババにも似たようなことを言われましたが、気にしてはいけません。私は金属製の装備を使っていないので、実験出来ないので聞いておく必要があります。


「まあいい。武器の場合、INTを元にダメージを追加する。防具の場合、INTを元にダメージを軽減する。それだけだ」


 なるほど、完全な物理職の場合は恩恵が少ないですが、補助用に魔法を持っているプレイヤーには有用でしょう。


「ありがとうございました」


 ピコン!

 ――――クエスト【魔力付与を学ぼう】をクリアしました――――


 アーツ自体は途中で覚えたのでクリア報酬は無いようです。まぁ、チュートリアルも兼ねているようなので、こういう流れなのでしょう。さて、結構時間も使ったのでクランハウスで刻印の続きをしてログアウトしましょうか。フィールドで刻印をしていたので全回復ではありませんが、次のログインは明日の夕方以降なので、残しておく必要はありません。大量のMPが溢れますから。





 翌日も家に帰ってきてから一息ついて軽くログインしました。やることはオババの店でちょっとした買い物と刻印の続きです。少し時間を使って残りのウェストポーチへの刻印も全て終わらせました。そのかいもあって魔力陣がLV40になり、双魔陣というアビリティが解放されました。説明を見る限り、同じ魔法陣を2個展開出来るらしく、瞬間火力は上がりそうです。今は試せませんが、機会があったら試しましょう。





 晩御飯の後、葵には鞄とウェストポーチの刻印が終わったことは伝えました。すると、今回ほどでは無いにしろ、毎週土曜に鞄の在庫を補充するつもりだと言われました。私としては鞄があり、時間もくれるのなら文句を言う気はありません。流石に土曜日に今すぐ全部やれと言われても不可能ですから。ただ、素材集めばかりだとプレイに支障が出ると思ったのですが、素材の買い取りも行うとのことで、利益は減りますが、プレイ時間は減らないから安心していいと言われました。ウェストポーチの材料は簡単に手に入りますが、鞄の方はラクダなので一つ気になることがあります。


「葵ー、ラクダの皮の相場は大丈夫なの?」

「最前線のプレイヤーの一部が……、ザインさんのPTが大量に持ち帰ってくるから、そこまで値上がりしてねーんだ。それに、鞄の材料って知ってるプレイヤーは俺達以外にはいない。だから、鞄を売り出して、買い取りを発表するまでは大丈夫だ」

「なるほど、その時の相場に合わせるから、値上がりしても知らんぷりと」


 私の弟ながらあくどいですね。売りに来る人がいなければ素材不足を理由に作らなくて済みますし、いっそのこと受注生産にしたっていいんですから。私達の誰かに個人的な繋がりのある人しか手に入れられないとなっても私は困りません。まぁ、鞄のことはこれくらいにして寝る準備をしてログインしましょうか。





 少し遅くなりましたがログインしました。さっそくクランハウスへ向かうと、時雨が工房の方から出てきました。


「そういえば学校で言い忘れたけど、グリモアのこと、ありがとね」

「あー、流石に私でもわかるほど落ち込んでたからね。それに、私には不利益なさそうだから」

「どんな理由でもいいよ。同じPTメンバーのことだから」

「ま、同じクランメンバーだからね」


 少し返答を似せると、時雨は一本取られたかのように笑っています。後付で良ければ理由なんていくらでも作れるので、ここで切り上げておきましょう。


「そういえばさ、魔力付与っての覚えたんだけど、金属製の装備ない?」

「あー、あれ、覚えれたんだ」


 おや、どうやら知っているようです。ただ、口ぶりから察するに、条件は知らないということでしょう。


「まぁね、まだ実験してないけど」

「それじゃあ、着いてきて」


 私が金属製の装備と言ったので、時雨が使っている鍛冶の工房へと案内されました。武器の種類としては刀が多いですが、剣や金属製の鈍器、各種金属鎧といった、クランメンバーが使っていそうな装備も少量置かれています。私は金属装備を使っていないので、私のがないのは残念です。


「何でもいい?」

「金属ならね」

「それじゃあ……」


 そういって時雨が取り出したのは手頃な場所にあった短刀です。ハヅチの使っている武器かと思ったのですが、持ち物装備という形で時雨も持っているので、何とも言えませんね。

 私はそれを受け取り近くの台へと載せました。


「【魔力付与】」


 工程としてはそれだけです。鑑定は時雨も出来るので、見てもらいましょう。


「……詳しい仕様、聞いていい?」

「えーと、本来は魔石を使うんだけど、魔力操作があればなくていいの。そんで、魔力の補充も出来るけど、魔石の場合はお勧めしないって言ってたよ。えーと」

「作り方の方はいいから、装備としての性能の方、教えて」


 そっちですか。やはり聞いておいて正解でした。


「えーとINTを元にダメージの増減だってさ。武器にも防具にも出来るらしいから、便利で羨ましいよ」

「補充は魔力操作?」

「そうそう。魔力視持ってた方が補充はし易いと思うよ。ちなみに、消費量とかダメージ量とかの詳しい数値は知らないから、実験しといてくれると助かるかな」


 調べる手間は押し付けますが、結果を聞かされても布に付与出来ない限り恩恵は受けられないので、微妙な所です。


「リーゼロッテの武器って両手杖だよね」

「そだよ」

 システム的には両手武器でも、魔法を使う場合には片手で持っていても問題ありません。スクロールを使う都合上、左手だけで持っていることも多いですが、武器のアーツを使う場合、両手で持たないと発動出来ないので注意が必要です。


「補助武器って知ってる?」

「知らない!」

「そんな自信満々に言わないでよ。まぁいいけど、補助武器っていうのは、持ち物装備扱いで装備するんだけど、状況に応じて主武装と使い分けられるの」


 あー、なんだか昔に聞いたことのあるシステムです。というか、武器の切り替え方法は違くとも、多くのゲームに搭載されている機能です。


「それで?」

「リーゼロッテの場合、片手武器を持てば切り替えられるんじゃない? どっちを使うっていう意識の問題だから」


 何とも曖昧というかいいかげんというか、雑なシステムですね。もう少しきっちりしていてもいいと思うのですが。ただ、一つ疑問があります。


「それってさ、格闘系のスキルでも適用されるの?」

「あー、検証は済んでないけど、出来るって話しだよ。何、素手にするの?」

「いやー、最近SP使ってなくてさ。上位スキル解放したら使うのはわかってるんだけど、どうせなら格闘系と片手剣系の両方を取っちゃおうかと」


 魔法との組み合わせで魔法剣などを取れたら面白そうだという思いもあります。流石に魔法剣士系のプレイヤーは多いので、あれば見つかっているとは思いますが。


「魔法剣は見つかってないからね」


 ……見透かされていました。流石は時雨です。


「今後見付かるかもしれないし、魔力付与みたいにクエストで解放されるかもしれないから、持ってても問題はないよ」


 というわけで早速とってしまいましょう。あ、その前に確認しなければいけませんね。


「忘れてたけど、短剣ってどういう派生?」

「剣、片手剣、短剣の順だよ。始めっから短剣使ってても成長は遅れないって検証結果出てるから、欲しい武器あれば渡せるよ」


 時雨とハヅチは武器スキルに合わせて種類を切り替えていたと思いますが、その必要はないわけですか。それなら、補助武器らしい武器にしましょう。


「そんじゃ、短剣に――」

「はい、短刀」


 あれ、おかしいですね。私は短剣を頼んだはずなのに、時雨が持っている短剣には反りがあります。これではまるで――。


「短刀じゃん」

「だから短刀って言ってるでしょ。というかね、短剣は用意がないの」


 あー、そういうことですか。時雨とハヅチは装備と好みの問題で刀系統を使っているので、練習も含めて用意してある数が違うわけですか。それに、私のために短剣を作るとなると、試行回数が増えますから、元から作っている短刀を渡せばいいという判断もあるのでしょう。


「まぁ、それならそれでいいかな」


 気を取り直して手渡された短刀を見ることにしました。


――――――――――――――――

【銅の短刀】

 銅の短刀

 耐久:100%

 攻撃力:▲

 魔法攻撃力:▼

 AGI:▲

 INT:▼

 MP:▼

――――――――――――――――


 普通の短刀です。素材が銅ということは、最低ランクの武器でしょうか。そういえば、何も気にしていませんでしたが、装備制限などはどうなっているのでしょうか。聞いてばかりですが、今更質問が増えても気にしてはいけません。


「装備制限とかあるの?」

「基本的にはスキルとSTRだよ。鉄やら鋼にはある程度のSTRと下級スキルが必要だから。一応、短刀だから普通の剣とかと比べるとその辺は緩いけど、今はそれにしといた方がいいよ」

「りょーかい。【魔力付与】」


 これでよし。まずは持ち物装備で装備しました。腰の後ろに専用のベルトも貰い角度を調節して装備することによって、ローブに隠れて外からは見えません。座るときにも邪魔にならないので、暗器っぽくてかっこいいですね。次に、忘れる前にスキルを取りましょう。あ、ついでですから武器防御も取ってしまいましょう。

 えーと、【剣LV1】はスラッシュですか。ただ、軌道は横と決まっているようです。次に、【格闘LV1】はパンチです。ええ、パンチです。説明も殴るとしか書いていません。何ともあっさりしていますね。そして、【武器防御LV1】はパリィした時のダメージや耐久消耗の軽減率や成功率が上がるとのことなので、LVUPによる通知はいりませんね。


「よっし、準備完了。時雨の方も準備出来てるね。じゃあ、手当たり次第に付与しちゃおうか」


 私がメニューを弄っている間に魔力付与をするための装備が用意されていました。何とも数が多い気がしますが、MPの消費は大したことありませんし、付与魔法のレベル上げにもなるので、問題はありません。


「やりながらでいいからさ、魔力付与の習得条件聞いていい?」

「あーうん、いいよ」


 大まかに今日受けたクエストのことを話しました。クエストを受注したNPCの居場所はクリア済みクエスト一覧から探せるので案内は楽にできます。ただ、時雨は付与魔法を持っていないので、取れないという問題点があります。


「その辺はグリモアに頼むつもり。それに、これで魔力操作も上げやすくなるし」

「ん? 何で?」

「魔力操作を必要とするスキルがないと上げにくいんだよ。それに、魔力操作のレベル上げする時間があったら、他のスキルを上げたいし」


 なるほど。私も瞑想のようなことをしたのは一度だけだった気がします。あれは面倒ですし、時間を食いますから、他のことをしていた方が有意義でしょう。


「剣だと大抵鍔の辺りに流し込めばいいから。後、料理が必要だったら言ってね」

「了解、ありがと」


 時雨が用意した装備に魔力付与を済ませると、かなりの時間が経っていました。ただ、落ちるには少し早いので、冒険者ギルドで取ったばかりの武器スキルのチュートリアルを受けてきましょう。





 魔力付与をした武器のテストをしに行った時雨と別れ私は冒険者ギルドの講習を受けています。まずは剣の講習を受けているのですが、棒の時と同じで案山子に打ち込むだけでした。ただ、最後にLV5になり、スラッシュが上からの斬り下ろしも選択可能になったので、それを試して終わりました。次に、格闘ですが、これも基本的に両手を空けてサンドバックを殴り続けるだけでした。ちなみに、素手ではなく格闘なので、LV5ではキックを覚えました。この時、スカートの挙動が不自然で、俗に言う鉄壁スカートと言われる状態でした。まぁ、ある意味安心できる挙動ですね。

 最後に武器防御の講習も受けたのですが、杖と短刀と素手で攻撃を捌く練習でした。教わったことを今後も実践できる気はしませんが、ノリで取ったものはその程度の扱いで十分です。いい汗をかいたのでログアウトです。

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