1-16

 土曜日になり、朝御飯を食べながら葵にトーナメントの予定を聞きました。


「8ブロックに分かれてバトルロイヤル形式の予選があって、各ブロックの勝利者1名づつによるトーナメントだ。だから、最初の予選で負ければそこまでだ」

「……何というか、多人数での立ち回りも大事だね」

「ま、やれるだけやるさ」


 本戦出場は8人ということもあり、試合数は少ないようです。予選は現実時間の午後1時に開始ですが、1ブロックづつ行うため、Gブロックの葵の試合は後の方になるそうです。





 お昼を済ませ、ログインしました。

 ハヅチは他のブロック予選を見るために闘技場へ行きました。私はハヅチが出る試合だけを見るので、闘技場の周りを散策しています。公式イベントということもあり、多くのプレイヤーが露店を出しています。何気なしに露店を眺めていると、屋台が目に入りました。そういえば、イベント後のメンテで満腹度が実装されるとかで、料理アイテムが欠かせなくなると聞いています。ここはどんなものなのか見ておきましょう。

 屋台を見る限り、コケッコーの焼き鳥のようです。ですが、丸焼きはドロップしましたが、肉なんてドロップした記憶がありません。その辺りはどうなっているのでしょう。

 ある程度待っていると、列が進んでいないことに気が付きました。理由を確認するために前を見ると、何だか前の方が騒がしそうです。せっかく買うためにならんでいるのですから、騒ぐのなら列がなくなってからにして欲しいです。


「だから、気付いたら取得可能スキルに出てたから条件は知らん。このことは掲示板にも書いてある」

「……!」


 何かを叫んでいるようですが、私には聞こえてきません。ふむ、謎です。


「……何を言われようと答えは変わらん。邪魔だ、そこをどいてくれ」

「………………」

「はぁ、仕方ないか」


 そう言って屋台の店主は二本の指を揃えて煩いプレイヤーへと向けました。


「出来ればこれはしたくない。だから、どいてくれ」


 喚いていたらしいプレイヤーはそれが何を意味するのか理解しているため、苦虫を噛み潰したような表情をしています。まぁ、ブラックリストに入れられては、そのプレイヤーからアイテムを買えなくなりますから、満腹度のことを考えると大人しく引き下がるしかありません。……冷静に考えることが出来る状態ならの話ですが。


「………………」

「出来るものならやってみろ。それ相応の対処をするからな」


 相手は物騒なことを口にしたようです。それを切っ掛けに店主は相手に伝えた通り、ブラックリストの操作を行ったようです。それでも諦めずに喚いているようですが、駆けつけた仲間と思わしきプレイヤーに引きづられて何処かへ去っていきました。これでようやく列が進みそうです。

 しばらくして私の番になりました。


「おっちゃん、タレ一つ」

「あいよ。待たせて悪かったな」


 ふむふむ、美味しそうな焼き鳥です。それでは――。


「なぁ、あんた、前に東のフィールドでドロップしたアイテム配ってなかったか?」

「もがもが?」


 美味しい焼き鳥を食べている最中なので、何も言えません。

 さて、ドロップしたアイテムを配るようなことはするはず無いのですが……、あ。


「違うんなら――」

「んぐ、そういやインベントリに入り切らないコケッコーの丸焼きをテキトーに押し付けてましたね」

「そうか。じゃあ、やっぱり君か。なぁ、今並んでるプレイヤーが捌けたら時間あるか?」


 何でしょう、新手のナンパでしょうか。ですが――。


「私、おじさん趣味じゃないんで」


 おっと、つい本音が。まぁ、しかたありませんね、本音ですから。


「……いや、そういう意味じゃない。ちょっと確認したいことがあるだけだ」

「まぁ、確約は出来ませんけど、知り合いが出る予選ブロック以外の時間ならいいですよ」

「そうか。じゃあ――」

「このあたりを散策してるので、頃合いを見て声かけますね」


 ここで会話をし続けていては迷惑なので、さっさと切り上げてしまいましょう。

 滅多にこない闘技場なので周囲にあるものを見て回っていたのですが、大して面白そうなものは特にありませんでした。そのため、時間を持て余しているのですが、闘技場の方で歓声が聞こえ始めたので、予選が始まったようです。なら、屋台も暇になっているでしょう。

 屋台があった場所へと戻ると、店がなくなっており、おっちゃんらしき人が佇んでいます。


「もう閉店ですか?」

「ああ、品切れ……、君か、ちょうど良かった」


 ちょうどいいというより待っていたという感じですが、そこは突っ込んではいけないところでしょう。


「店じまい出来るほど待たせてしまったようですね、すみません」

「……いや、いいんだ。俺から頼んだんだから」

「それで、確認したいことって何ですか?」

「確認自体は出来てるんだが、改めて説明させてくれ。俺はタイヤ、元々は料理をしたくてこのゲームを始め――」


 ふむふむ、長く興味のない話なので割愛しますが、カクカクシカジカウマウマデ、料理スキルが見つからなくて困っており、やめようか考えていたところ、私がお裾分けしていたドロップの料理アイテムを食べ、料理スキルが取得可能になったとかで。思わぬところで料理スキルの条件が判明しましたが、それと私に何の関係があるのでしょう。


「それで、料理スキルの取得条件の取扱を君に任せたいんだ」


 ……激しくどうでもいいことを任されてしまいました。このゲームで料理スキルを取る気はありません。まぁ、満腹度と売られる料理アイテム次第では取るかもしれませんが。そのため、私としては料理スキルは普及してもらわないと困ります。ただ、それに私が関わるのは避けたいです。


「それじゃあ、……タイヤさん? に任せます。私は一切関わらないので」

「それでいいのか? 料理スキルは取得条件不明のスキルだ。それを発見したとなれば……」


 功績にはなるでしょうが、名前を売る気はありません。つまり、私に利はありません。さて、なんと言って説得しましょうか。


「私が多少なりとも関係していたというのは理解しています。その上で言っています。きっかけは私でも、正確な条件を発見したのはタイヤさんですから、その功績はタイヤさんのものです」

「いや、しかし……」

「気が済まないというのなら、今度屋台をするときに少しサービスしてください。それで十分です」


 ここでにこやかな微笑みを追加しておきましょう。こういうちょっとしたことで好感度が上がり、ことが上手く運ぶようになります。ただ、やりすぎると余計なことまでするらしいので、程々にしなければいけませんが。


「そ、そうか、わかった。それじゃあ、君の、言う通りに、しよう。もちろん、君の意思は尊重する」


 さて、大丈夫だといいのですが……。心配してもしょうがないので、そろそろ闘技場の観客席へ向かいましょう。他の皆は観戦しているはずなので、連絡を取れば合流できるはずです。





 時雨のPTメンバーとハヅチのPTメンバーと合流するために観客席へと足を踏み入れると、そこは熱気に包まれていました。大きな闘技場ですが、上空にはスクリーンが浮かんでいるため、細かい場所でもよく見えるようです。


「そこ、空いてますか?」

「聞かなくても、私達しか入れないから」


 観客席は一見オープンですが、使用人数を申請する必要があり、簡易的な個室扱いになっています。そのため、時雨の横に座れるのは、現状私だけです。ちなみに、ハヅチは控室にいるようなので、ここにはいません。


「今どんな状況?」

「今はEブロックの試合だよ。ハヅチはGブロックだから、次の次だね」

「そっか。まぁ、知ってる人なんていないから、ハヅチの試合以外は見てもねー」


 そう思っていると。


「さー決まったにゃー。Eブロックから本戦に出れるのは、GGGさんにゃー」


 何でしょう、この――。


「にゃにゃー言ってるのは誰?」


 おっと、口に出してしまいました。本人が近くにいないので陰口になってしまいますね。これは反省しなければいけません。


「あー、ネコにゃんって言って、自称ネットアイドル候補生で、実況に立候補してたんだってさ。そんで、隣にいるのは運営側の実況担当の人。広報部の人らしいんだけど、ほとんどネコにゃんさんに任せてるよ。まぁ、何したのかわからない時に解説するくらいかな」

「何とも長い肩書のアイドルだねぇ。そういや、巫女服にうさ耳ハットってバランス的にどうなの?」


 巫女服であれば頭装備は簪とかでいいと思うのですが、そうなるとハヅチの専門外ということもあり、初期に手に入れた装備を使いまわしているのでしょうか。詳しい能力はわかりませんが、今なら自分で作った方が良い性能になると思うのですが。


「あー、これ今は持ち物装備だよ。そのうち変えるとは思うけど、もらったものだし、目立つから」

「まぁ、それが目印になることは否定しないけどね」


 そんなことを話していると、Eブロックの勝者であるGGGという人が解説席へと上がっていきインタビューを受けていました。それが終わる頃には次の試合の準備が出来ていたようで、Fブロックの試合が開始されています。リングの上を直接見ていてもごちゃごちゃしているだけで何もわからず、上空のモニターを見ていますが、画面が一定時間でランダムに切り替わるので、いいところで違う所を映し出したりしてしまいます。


「席のメニューで手元にモニター出せるよ」


 時雨に操作方法を教わり、ハヅチの試合が始まる前に操作方法を覚えようといろいろといじってみました。そのお陰で何とか困らずに観戦出来そうです。最初の試合の前に操作説明があったらしいのですが、出来ることなら各試合の前に説明して欲しかったです。

 Fブロックの勝者はブゥードゥーというビキニアーマーを装備したアマゾネスのような人でした。大剣を装備しているので、随分と派手な試合だったのでしょう。まぁ、まともに見ていませんでしたが。

 勝利者インタビューの最中にハヅチが出るGブロックの準備が行われています。手元のモニターでは名前を打ち込んでプレイヤーを探せるので、ハヅチに固定しておきましょう。


「それでは、Gブロック、開始にゃ」


 ネコにゃんの合図と時を同じくして空中にもスタートの文字が浮かび上がり、大きな音が鳴りました。そこからはもう大乱戦です。剣と剣のぶつかる音が聞こえ、魔法が飛び交います。まぁ、魔法を使った、もしくは使おうとしたプレイヤーは大きな隙を見せているわけですから、すぐに退場しているようですが。出場者が減ってくると、モニター越しにハヅチがしっかりと見え始めました。今まではかなり速く動いていたので気が付きませんでしたが、左腕に布のようなものを巻いています。昨日は巻いていませんでしたし、ハヅチの中二病は和装系に偏っていますが、方向性が少し違います。あれは何のためなのでしょう。現在のスキル構成は知りませんが、忍者風の衣装から想像出来る動きを見せています。飛んだり跳ねたりと、相手を早さで翻弄しているので、ハヅチを狙うプレイヤーも苦労しているようです。時折、ダークボルトを牽制に使っています。どうやら魔法スキルを持っていることを隠す気はないようです。


「さー、Gブロックの勝者が決まったにゃー。持ち物装備で有名にゃハヅチにゃー」


 危ない場面はなかったためハラハラドキドキとは行かず、順調に勝負を決めたようです。その後のインタビューも無難な受け答えで面白みはありませんでした。まぁ、スキル構成などの情報を漏らすことはないでしょうから、これに関しては聞き手次第ですね。


「皆は次も見るの?」

「一応は見ようかな。ハヅチは控室で見るだろうから、合流はその後になるけど」

「そんじゃ、一応見てこうかな。時間も時間だから、おめでとうを言ったら落ちるけど」

 闘技場の中は明るいですが、ゲーム内の時間ではもう日も落ちています。なので、一度落ちるつもりです。まぁ、ハヅチが特訓をするというのなら、必要なものを提供してもいいですが。


「予選最後のブロックも終わり、最後の本戦出場者はジークハルトにゃー」


 ネコにゃんが最後の勝利者の名前を呼ぶと黄色い声が聞こえました。遠くてよく見えませんが、とりあえずは人気があるようです。聞いたことありませんが、最前線の有名なプレイヤーでしょうか。本戦出場者に関してはハヅチに聞けばよくわかると思いますが、そこまでして知りたいわけでもないので、本戦での選手紹介を見ればいいでしょう。

 本選出場者には専用の控室が与えられ、許可をもらったプレイヤーのみが訪れることが出来ます。私達は全員でハヅチの控室に入ると、そこそこの広さはあっても、人でいっぱいになってしまいました。


「ハヅチ、おめでとう」


 皆が思い思いの言葉で本戦出場を祝います。本戦に出る気ではいたようですが、出たいからと言って出られるわけではないので、ハヅチも素直に祝われています。そんな中、私に言わなくてはいけないことがあるようで、バツが悪そうにしています。


「ほらほら、洗いざらい吐いたほうがいいよ」

「いや、そこまで悪いことじゃないんだが……。ほら、出場者の所持品を作ったプレイヤーにも賞品がいくだろ。それで、リーゼロッテの名前も入れる必要があって、俺が上位に入った場合、表彰式に呼ばれるっぽいんだ……」

「は?」


 意味がわかりません。上位入賞者を表彰するのはわかります。けれど、所持品を作ったプレイヤーも呼ぶと言うのはどういうことでしょうか。優秀な生産者にとっては宣伝になるかもしれませんが、生憎と私は知り合いにばらまくだけなので、宣伝をする必要はありません。スクロールが売れるかは確認しましたが、そこまで熱心にやる気はないので。


「防具は俺で、武器は時雨、消耗品はリーゼロッテで申請してあるから……」


 私は優しげな笑みを浮かべながらハヅチの肩に手を置きます。


「貸し一つ」

「……わかりました」


 私が鞄を二つ納品したように、トーナメントの出場者と生産者で賞品のラインナップは同じです。その中には運営の用意したアイテムもありますが、私が欲しいと思うものはないので、消去法でポーションの詰め合わせか、薬草各種のどちらかですね。


「そんじゃ、私は一度落ちるから、何かあったら呼んでね。お疲れー」


 定型文でログアウトしました。

 休みの日に寝てばかりもよくないので、近所を軽く散歩しようと考えていると、買い物を頼まれてしまいました。ついでにお菓子の補充も出来たので、よしとしましょう。





 夜のログインをしました。今の時間は闘技場が空いており、自由に使えるそうです。ただ、観客席からは様子が見えるため、本戦出場者はいないそうです。ハヅチはスキルレベルを上げるために何処かへいっているそうなので、私の出番はありません。たまにはエスカンデのフィールドへ行こうかと思ったのですが、難易度が高いと聞いているので、今日は止めておきましょう。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、騒がしいのう」


 いつものやりとり、落ち着きます。


「グリーンポーションの材料ってサボテンの皮以外に何が必要ですか?」

「グリーンポーションかのう、そういえば材料を持っておったな。なーに、簡単じゃ、最初のポーションの材料にサボテンの皮を足すだけじゃ。今の嬢ちゃんの技量なら作れるじゃろうから、見てやるわい」


 そんなわけでサボテンの皮を一つ使い、オババの言うとおりに作ります。薬草とサボテンの皮をすり潰し、下級調合セットによって加わった試験管へと入れ、溶かします。後は、アルコールランプセットで加熱した水に順番に加えて終了です。さて、完成品を見てみましょう。


――――――――――――――――

【グリーンポーション】

 緑色のポーション

 HPを1分かけて15%回復

 上級スキルを持っていると基本値が10%に落ちる

――――――――――――――――


 おや、今までは見えなかった物が見えています。これは識別のレベルが上ったからでしょうか。まぁ、ポーションなんて滅多に見ないので、どこでわかるようになったのかはわかりませんが。この制限が私にかかるようになるのはかなり先なので、量産してもあまり意味はなさそうです。何せ、基本値はイエローポーションと同じなのですから。


 ピコン!

 ――――World Message・ダンジョン【北の鉱山】がクリアされました――――

 プレイヤー・【ザイン】率いるパーティー【アカツキ】によって、ダンジョン【北の鉱山】が初クリアされたため、これ以降、同ダンジョンの難易度が下方修正されます。

 【北の鉱山】に阻まれた街【ノーサード】解放クエストが開始されます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ピコン!

 ――――World Message・ワールドクエスト【閉ざされた門を砕けが開始されます――――

 このクエストは【北の鉱山】をクリアしたプレイヤーのみが挑戦できます

 閉ざされた門の破壊 【未達成】

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 また何か始まりました。前にも同じようなメッセージを見た記憶があります。ただ、前とは違って魔力を供給するわけではないようです。これは私には突破できないですし、ダメージを蓄積すればいいのなら、ザインさんがすぐに終わらせるでしょう。そう思い、私はグリーンポーションへと意識を戻します。


「リーゼロッテさん、凄いですよ!」


 おや、隣の部屋にいたらしいリコリスが何か騒いでします。何が凄いのかわかりませんが、とりあえず反応しておきましょう。


「どしたの?」

「ワールドメッセージですよ。このザインさんって前にもワールドメッセージを流してましたよね」

「あー、そうだね。何でも、最前線のトッププレイヤーらしいよ」

「そういえば、ワールドメッセージって履歴が見れるんですよね。最近まで知らなかったんですけど、設定をいじると、ワールドメッセージの、ログ、が…………、え?」


 どうしたのでしょうか。そんな設定があったのは知りませんでしたが、リコリスが固まっている理由の方が気になります。目の前で手を振っても反応がありません。さて、どうしたものでしょうか。


「おーい、リーコーリースー。どうしたー?」


 何をしても復活する兆しがありません。


「閉ざされた門……、中間ポータル……」


 んん? 何か聞き覚えのある単語が聞こえました。さて、何でしたっけ。


「リーゼロッテさん! ワールドメッセージを流したことあるんですか!」

「あれ? 知らなかったの?」

「初耳ですよ。何で言ってくれないんですか」

「いやー、聞かれなかったし」


 そんなものをわざわざ自慢しようとも思いませんし、話すことでもありません。たまたま必要なスキルを持っていただけですから。


「で、でも……」

「そんなことより、調合持ってるよね。グリーンポーションの需要があるかどうかってわかる?」

「……グリーンポーションですか? えっと、図書館でレシピは発見されているんですけど、材料の入手方法が不明って言われています。まぁ、サボテンの皮なので、西の砂漠だとは言われていますが……。まさか」

「これなんだけど」


 私は出来たばかりのグリーンポーションを見せました。そういえば図書館の利用登録をしただけで、何も使っていませんでしたね。まぁ、行き詰まっていないので、急ぐ必要もありませんが。


「そうですよね。リーゼロッテさんは西の砂漠のポータルを解放しているんですから、持ってるに決まってますよね」

「いやー、偶然なんだけどね」

「そうなんですか?……とりあえず、それの需要でしたよね。はっきり言えば、最前線の人達は欲しがっていると思いますよ。一部の人達が中級スキルを手にし始めているらしいので」


 中級スキルですか。スキルレベルが30を超えたものもいくつかありますが、手持ちのスキルがそこまでいくにはまだかかりそうです。けれど、イエローポーションの効果が落ちている人達がいるのなら、需要はありますね。私は鞄からサボテンの皮を8枚取り出すと、リコリスに押し付けました。


「とりあえず情報料。これしか持ってないから、足りない分はつけといて」

「え……、何言ってるんですか。これってまだ出回ってないアイテムですよ。どれだけすると思ってるんですか。それに、私の方が借りは多いんですよ」

「いやだって取りにいけるし。それに、最初に売るより、後追いした方が話題にならないじゃん。気になるんなら、私の盾になったと思っといて」


 そうです。これは私の平穏のためなのです。ラクダ狩りは時雨に任せることにしたので、私はサボテン狩りに移行します。


「でも……」

「なら、次からは買い取ってね」

「自分で作ってくださいよ」

「んー、後でね」


 そう言って私はオババの店を後にしました。





 西の砂漠へと足を踏み入れようとしている私は、しっかりとエリアシールドを発動しました。これがないと即死ですから。流石に久しぶりでもないのにそんなミスはしません。それでは砂漠をふらつきましょう。エリアシールドに撃ち込まれた鋭いトゲトゲを回収しながら跳ぶように移動します。無駄が多い動きですが、こうすることで跳躍にも経験値が入るのですからしかたありません。グリーンサボテンテンを発見したので、魔力陣の遠隔展開を使い射程距離を誤魔化して嵐魔法のエアーランスを使いました。ただ、グリーンサボテンテンは風属性の極小なので、わずかながら風属性に耐性があります。そのせいか倒しきれなかったので、追加のメタルボルトを叩き込んでおきました。もう少しINTが上がれば一確出来るかもしれませんが、スキルレベルを上げられるので気にしなくていいでしょう。

 何体かのグリーンサボテンテンを倒したわけですが、動かない相手であり、出現地点が離れているため、そう多くを倒すことは出来ませんでした。途中、鋭いトゲトゲを拾うのが面倒になったので放置したのですが、サボテンの花というアイテムを一つだけドロップしました。何に使うのかはわかりませんが、個数から判断するにレアドロップの類でしょう。とりあえず今日はここまでです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る