1-13
大型連休最終日の晩御飯は、両親が帰ってきたため、そのお土産です。出張だったため、面白い話は少なく、逆に私達の様子を聞かれていました。
その後、いつもより遅れて寝る準備を済ませた私は明日の学校の準備も済ませ、後はログインするだけです。今日はログインしたらウェストポーチに刻印して、ポーション作って露店しましょう。
そういうことでログインしました。まずはオババの店に向かいます。
「オババオババー」
「何じゃ小娘……、随分と成長したようじゃのう。じゃが、それはまだ使えんから、宝の持ち腐れじゃのう」
……何のことでしょうか。アイテムのことなのか、スキルのことなのか、まぁ、聞けばいいことです。
「何のことですか?」
「それじゃ、グリーンポーションの材料じゃよ」
グリーンポーション……、解毒とかしそうなポーションですが、今のところ状態異常を使う相手は出てきていません。なら、何でしょう。
「色から判断するに、サボテンの皮ですか?」
「そうじゃ。じゃが嬢ちゃんの技量じゃ無駄にするだけじゃ」
調べるまでもなく使いみちがわかりました。それならもう一つも聞いてしまいましょう。
「この鋭いトゲトゲって何かに使えます?」
「それは敵の吐き出したゴミじゃ、冒険者ギルドが集めとるから、持ってけばええ」
吐き出したゴミですか、ばっちいですね。確かにグリーンサボテンテンが口をすぼめるのを目撃しましたし。まぁ、納品クエストの対象物のようなので、気が向いたら持っていきましょう。
「それじゃ、奥借りますね」
ポーションを作ったり刻印したりで忙しいので、オババとの会話はここまでにします。MPを大量に使う刻印をし、MPの回復を待ちながら調合をしています。空間魔法と魔力陣と魔力制御のスキルレベルが上がってきているので、MPの消費も減ってきています。ですが、流石に数が多いと時間もかかりますね。
テロン!
――――フレンドメッセージが一通届きました。――――
生産をしているとシェリスさんからメッセージが届きました。内容としては、今日露店をしないのかということです。何でも、前回隣で露店をしていたため、刻印してあるウェストポーチを求めているプレイヤーが殺到しているらしいです。そこまでして小型インベントリしか付与してないウェストポーチを求めるのでしょうか。この鞄のように大型インベントリならまだしも……。とりあえず、返信しておきましょう。
えっと、準備中なので、気長にお待ち下さい。
これでよし。それでは作業の続きです。しばらく続けていると、今度は通知が来ました。調合スキルがLV25になり、製作物リストというアビリティが解放されました。これは、素材から何が作れるかわかるようになる能力……、まぁ、簡単にいえばリストにグリーンポーションの作り方が載っかるということです。流石に作ったことないレシピで、全ての材料が埋まっているわけではないのでレシピ再現は出来ませんが。おや、偶然手に入れていた胃石(中)と何かで何かが作れるようです。必要な物を手に入れたり、何が作れるか知れば、この【***】がアイテムの名称に変わるのでしょう。筆写スキルとの連動設定で、人に教えることも出来るようです。しかも、私の工程短縮やレシピ再現まで写せるとか。
ウェストポーチ50個に刻印したためかなりの時間がかかりましたが、ようやく終わりました。初めは2回でMPが空になっていたのですが、1レベルあたりの影響が大きいのでしょう、空になるまでの回数が増えていました。オババの店を出る前に、蜃気楼の腕輪の力を使い変装し、露店を出すべく南側へと向かいます。途中、私から直接ウェストポーチを買おうとするプレイヤーもいましたが、全てはぐらかしました。ここで普通に取引をしたら点数制限に含むことが出来ませんから。私が前回と同じ場所に着くと、既にシェリスさんもいました。シェリスさんと近くにある木の間に一人分の場所が空いています。つまり、あそこで露店を開けということでしょう。さらに、何らかの協定を結んでいるのか、プレイヤーがある程度の距離を保って静かに待っています。
「また会ったのう」
「こんばんは」
一応知らない人という体裁があるのでこんな感じです。それでは露店の準備をしましょう。ウェストポーチは前回と同じリストに入れることで、購入制限が適応されます。ポーションには制限を掛ける必要がないので、そのままです。ただ、前回の設定を引き継ぐという項目があるので改めて価格を入れる必要がないのは楽です。
「開店じゃよ」
その瞬間、人が雪崩込んできました。システム面で過度な接触が出来なくなっているので、現実のように怪我人が……、いえ、そもそもフルダイブなので怪我しませんが、まぁ、大混乱するようなことはありません。ただ、運悪く弾き出されれば露店で買い物が出来ないだけです。
そして気が付けば残っているのはポーションだけです。それも一切手を付けられず、綺麗に残っています。
「凄い人気じゃのう」
「くそー」
「何でだ!」
「おい、まだあるだろ」
阿鼻叫喚、罵詈雑言、暴言多数です。まぁ何を言われてもこれしかないのでどうしょうもありません。ただ、一つ言えることは、往生際が悪い人の中では、私はまだ在庫を持っていることになっている。ということです。
「全部出したんじゃがのう」
「ねぇねぇ、オバアさん、次はいつ?」
「そうさねぇ、この小さい鞄次第じゃのう」
「ウェストポーチ持ってくればインベントリの付与してくれるの?」
あー、持ち込みですか。やってもいいですが、一人許可すると我も我もと集まってきますし、手数料の問題もあります。
「必要な物があるから無理じゃのう」
魔石もありませんし、嘘はついていません。それを聞き、どう解釈したかは知りませんが、わらわらと散っていきます。何を言っても無駄だとわかっているのでしょう。そうしてもらえると私としても助かります。面倒なことをしなくてもすみますから。
周囲から人がいなくなると声をかけるタイミングをはかっていたシェリスさんが近付いてきました。
「さて、一段落したから聞くけど、あれは何?」
「どれのことかのう」
「ワールドメッセージ」
やはり気になるようです。それでは情報は共有しましょうか。筆写スキルで砂漠の情報を書き出しました。
「これを使えるかのう?」
「……聞きたいことが増えた。でも、探索スキルが必要なんだね。私、持ってないんだよね」
思わぬ盲点です。確かに探索スキルと連動していますが、見るためにも探索スキルが必要とは。
「一応識別で目次みたいなのは見えるけど、内容はわからないね」
「わしがマッピングした場所と、戦ったMOBの情報じゃ。あくまでも、わかっとる範囲じゃがのう。まぁ、誰かに渡せばいいんじゃよ」
「う、うん。対価は、杖の修理費でいい? 消費が少ないうちはこの場でも出来るし」
「今、頼めるかのう?」
まだ10%くらいしか減ってませんが、直せる時に直しておくべきです。
「あいよ」
杖を受け取ったシェリスさんは手早く修理をしています。見事な手際ですね。見た目上は何も変わっていませんが、ピカピカになった気がします。さて、売れ筋商品は品切れてしまったので、別のことでもしましょうか。
「おう婆さん。ウェストポーチ買いに来てやったぞ。さっさと出しやがれ」
「はて、今日は売り切れじゃ」
いつどんな時でもこういった人はいるようです。今日は気分良く終われるはずでしたのに、何なのでしょう。
「ふざけんな! この前といい、今回といい、もっと量を作ってこい」
「これが限界でのう」
「そんなこと知るか! 俺の分を持ってくるか、用意出来次第連絡するかしろ」
そういうと私の目の前にフレンド登録ウィンドウが現れました。それに対する反応はもちろん拒否です。というか、承諾する理由がありません。
「騒がせてすまんのう、今日はここまでにするからのう、さよならじゃ」
隣にいるシェリスさんに声をかけ、店を畳もうとします。ですが、その前にどこかで聞き覚えのある声が聞こえました。
「店を閉めようとしてるお婆さん、少し待ってくれるかしら?」
空色の髪の魔法使い、ああ、ユリアさんです。それにしてもどうしたのでしょうか。
「来てくれたんだ」
「ええ、このお婆さんがまた妙な物を持ってるって聞いたから」
「妙な物とは、酷い言い草じゃのう」
妙な物とは筆写スキルで作ったマル秘メモのことでしょう。それにしても、連絡してすぐに来るとは、最前線のプレイヤーは暇なのでしょうか。
妙な物を私から渡してもいいのですが、それにはそれ相応の対価が必要です。
「おいあんた。今は俺が話してるんだ。後にしろ」
はて、話している? 一方的にまくし立て……、いえ、喚いているだけですね。一応返事はしていますが、話しているという感覚はありません。そもそも。
「この人に相手をする価値はないなー」
あ、口に出していましました。しかも、お婆さんのロールプレイではなく、素です。やってしまいました。
「な、な、な……」
「貴女、意外と言うのね」
「ふぉっふぉっふぉ、何のことかのう。それで、お主もその妙な物が欲しいのかのう?」
「そうね、今は北の鉱山を攻略しているけど、それが終われば西に行くつもりだったから、欲しいと言えば欲しいわ」
「随分と後になりそうじゃのう」
攻略の終わりが何を示すのかはわかりませんが、いるかもしれないボスを倒して終わりではないはずです。北で街を探して、その周囲を探索してからでしょう。それなら、その時にした方が渡せる情報は多くなります。
「そうなの。だから、西側の情報は後にして、その妙な物を作るスキルの方を教えてくれないかしら」
「おい、俺を置いて話をしてるんじゃねえ」
「あら、貴方まだいたの? 自分の思い通りに行かないからって相手のことを考えずに発言していると、自分が困るわよ」
本当にまだいたんですね。しかたありません、さっさと処理してしまいましょう。私は、煩いプレイヤーに対し、ある意思を持って中指と人差し指を揃えて向けました。
「ほら、このお婆さん、容赦しない気よ」
「はっ! 街の中で何が出来るってんだ」
しばらくすると、【***】という文字列がポップアップしました。それはタッチパネルで操作するように私の指と連動して動きます。そのまま右へとスライドし。
「相手に二本の指を向けて、ポップアップしたらそれをメニューのある項目へと放り込む。このゲームの操作説明を読んでいればわかるでしょ」
その先にはゴミ箱のアイコンがあり、ブラックリストと名付けられています。そこまで移動したら指を放して終わりです。これでこのプレイヤーがブラックリストに登録されました。次に露店メニューも操作し、ブラックリストを連動させ、購入不可の設定をします。ちなみに、プレイヤー毎に度合いの設定を出来るようですが、初期設定では大体の項目が拒否になっています。
「ぉぃ……」
何か言っていますが、言葉として認識できる音量ではありません。頑張って耳を傾ければ聞こえるかもしれませんが、そんな労力を払う気はありません。声が届いていないことに気付いていないようですが、手を伸ばして私に触れようとした瞬間、何かに弾かれる音と共に、警告のシステムウィンドウが表示されました。接触の拒否はこういう風に反映されるわけですね。
相手プレイヤーは恨めしそうな視線を向けていますが、私に声は届きませんし、私の声も届きません。なら、もう無視して構わないでしょう。
「……行動に戸惑いがなかったわね」
「いえ、初めてだったのでゆっくりでしたよ。それで、筆写スキルですよね。今取得方法をメッセージで送るので、ちょっと待っててください」
よく考えればメッセージに対する返信がほとんどなので緊張します。えーと、紙とペンを持って冒険者ギルドで何かを書くスキルについて聞く……と。もしかしたら探索スキルが必要かもしれません。
「送りましたよ」
「ええ、来たわ。……これだけなの?」
「ええ、これだけです。なので、正直対価の設定に困る情報です。何せ、書く情報がないと意味ありませんから」
「申し訳ないけど、対価はスキルが取得出来てからにさせてちょうだい」
「構いませんよ」
「ありがとうね。それで、貴方はそこで睨み続けてどうするの? 貴方のPTメンバーには連絡してあるから、迎えが来ると思うわよ」
あのプレイヤーとユリアさんは知り合いのようですね。騒がしく面倒なプレイヤーと面識があるとは、厄介なことです。
それからしばらくして数人のプレイヤーが現れ、周囲に謝りながら面倒なプレイヤーを引きずって行きました。今のがPTメンバーのようですが、手つきが慣れていたので、常習犯なのでしょう。
それを見届けたユリアさんもどこかに行ったので、今度こそ今日の露店はここまでですね。
「あれ、生放送見ないの?」
「生放送?」
いったいぜんたい何のことでしょうか。
「今更だけど、老婆の姿で普通の話し方だと違和感が凄いね……。それで、今日ゲーム内で開発者の生放送があるんだよ。後で公式HPにアップされるけど、コメント出来るしある程度は反応してくれるらしいから、ゲーム内で見た方が楽しいよ」
おやおや、そんなのがあるわけですか。よく考えれば、システム説明と地図以外のページに目を通していないので、全く知りませんでした。人通りが少なく、いたとしても座り込んでウィンドウを見ているのはそのためですか。それと、つい思ったことを口走ったせいで話し方が戻っていました。注意しなくてはいけません。
「そうかのう。まぁ、店も閉めたし、どこかで見るかのう」
「それならこっち来なよ」
そう言ったシェリスさんは横を叩きました。そこは露店シートの上ですが、お言葉に甘えましょう。ついでに、蜃気楼の腕輪も解除です。
「お邪魔します」
「あれ、いいの?」
「露店も閉めましたから。それに、私の名前を出さないように気を使ってもらい続けるのも悪いですし」
前回も含め、蜃気楼の腕輪を使っている間は私の名前を出さないようにしてくれています。露店を閉めた状態でそれを続ける必要はありません。
シェリスさんに放送の観かたを教えてもらい、生放送のスタートを待ちます。今はこのゲームのPVが流れ、横には質問コーナー用のページも表示されています。このPVはサービス開始前から流れているものです。確か、規約によればプレイヤーによるボス戦などを編集して活用することが出来るらしいのですが、まだ目を引く戦闘がないのでしょう。
PVが終わり、カウントダウンが始まりました。そして、画面が切り替わると白衣を纏った渋い叔父様が現れました。
「Hidden Talent Onlineのプレイヤーの皆様、今晩は。開発責任者の
生放送が始まると、画面には、渋いだの、どこから放送してるのだの、思い思いのコメントが流れています。
「私がいるのはこのために作られた専用エリアで、これもアバターです。ただ、現実の記事見たことある人ならわかると思いますが、現実の私を忠実に再現しています」
そういえば何日か前に見た街頭モニターに映っていた人はこんな感じだったと思います。ただ、アバターの方が渋そうです。
「さて、まずは既に公開してある情報の確認ですが、今日が終了した段階で、育成イベントが終了し、獲得経験値とアイテムドロップ率が元に戻ります。なので皆さん、今日はちゃんと寝て、明日はちゃんと起きて下さい」
ふむ、レベルが上がりやすく、アイテムもよく落ちると思っていたら、ブーストがかかっていたのですか。知っていればもう少し……、いえ、欲張ると視野が狭まるので今のスキル構成にはなっておらず、西のオアシスにも辿り着いていなかったでしょう。
最初の頃はレベルが上がりやすいものですが、レベルアップが目的になると、途端に作業になってしまいます。とりあえず思いついたインベントリの鞄も成功したので、最終的なプレイスタイル・魔女のために、必要なものを揃えましょうかね。
他のプレイヤーのコメントを見るに、ブーストの終了を残念がっている人が大半のようです。まぁ、当たり前ですね。
「はいはい、皆さん落ち着いて下さい。スキルの育成や装備次第で、もっと歯ごたえのある場所へ行けるのですから、冒険を楽しんで下さい。次に、週末のイベントについてです。イベントを行うとだけ発表していましたが、センファストにある闘技場で一対一のトーナメントを行います。上位入賞者には賞品もあるので頑張って下さい」
トーナメントですか。私は不参加です。なにせ純粋な後衛の魔法使いですから。ハヅチ辺りは喜んで出そうですね。表示された簡単なルールによると、回復効果のあるアイテムは使えないそうなので、バフ系のスクロールを作って渡しましょうかね。面白い魔法を覚えたら、それもですね。
「後は、6月からのキャンペーンですが、それに関してはまだ秘密です。……残念かもしれませんが、まずはトーナメントに集中して下さい」
物凄いコメント量というか、これはもう弾幕レベルですね。私のように出場する気のないプレイヤーからすれば6月のキャンペーンの方が気になりますが、言っても仕方ないので、詳細が出る日を待ちましょう。
「おっと、忘れるところでした。コメントにもある通り、生産者には楽しみが薄いと思われがちですが、ちゃんとメリットもあります。それは、勝者が持っているアイテムを作ったプレイヤーも賞品が手に入ります。ただ、匿名の委託販売によって手に入れたアイテムと、持ち物装備の製作者は対象外です」
忘れていい情報ではないと思いますが、私には関係ないのでよしとしましょう。持ち物装備に関してですが、まぁ、そうせざるを得ませんね。知り合いの生産者に持ち物装備を作らせ、賞品をせしめるとか出来てしまいますから。えーと、画面に表示された情報によると、前日から闘技場で委託販売が出来るようなので、回復以外の消耗品を作っているプレイヤーに関してはそこを利用して欲しいとのことです。まぁ、これも私には関係ありませんが。
「それと、一部の生産者には賞品の作成依頼を出すので、是非受けて下さい」
テロン!
――――運営からのメッセージが一通届きました。――――
おや、私は生産者ではないはずですが、何でしょう。えーと、何々。何だかかたっ苦しい文面ですが、私にはインベントリを刻印した鞄を作って欲しいということです。受けるには、同封されているアイテムを受け取ればいいそうです。目的のもの以外には使えないそうなので、受け取って作らないということは出来ないようです。ちなみに、出場者部門と生産者部門があるので、2個作る必要があるそうです。メンドクサッ。
「へー、いい装備が作れそうだね」
「シェリスさんにも届いたんですか?」
「へ? そっちも?」
……あ。
「……刻印が目的のようです。私の場合、鞄は委託しないといけないので面倒ですが」
「それが出来るプレイヤーは私の知る限り貴女だけだからね」
魔法陣に必要な魔力操作に関しては何人かに教えているのですが、魔法陣は誰も取っていないのでしょう。遠慮しているだけなら取っても問題ないのですが。
「それで、受けるの?」
「……報酬は、賞品を選んだプレイヤーの順位次第ですか」
つまり、優勝者やその装備を作った生産者が選ぶと、いい報酬が貰えるそうです。どうにもこうにも素材系が多いようです。私にはメリットがありませんね。
「賞品の依頼を受けてくれるプレイヤーが多くて助かります。一部のプレイヤーはまだ迷っているようですが、依頼を拒否してもデメリットはないので、ご安心を。それでは次のコーナーです。多くのプレイヤーが様々な質問を送ってくれています。一番多い質問は……、インベントリの仕様についての苦情ですね。大変不便だと言う声を頂いています。ただ、我々としては多くのプレイヤーに協力して欲しいので、あえてこういう仕様にしています。それに関連して、小型インベントリが使える装備が出回り始めたと報告を受けていますが、これに関してもコメントが来ていますね。文面から察するに手に入れられなかったプレイヤーのようですね。流石に出回り始めたばかりということで生産が間に合っていないようなので、ゆっくり待ってあげて下さい。ちなみに、作っているプレイヤーは正規の手段で作っているので、何ら違反はありません」
生産が間に合っていないというより、生産に大した時間を割り当ててないと言った方が正しいですね。私を含め、ハヅチも生産は嗜むものだと考えているので、そうそう生産量は増えません。それに、知り合いには行き渡っていますし。それにしても、どんなことでもチートを疑う人がいるんですね。運営側が正規の手段だと言っても、自分が正しいと思い込んでいる人達は信じないでしょう。ああいう輩はそういうものですから。ですから、そういった輩の相手をしてあげる気はありません。
コメントには、あの婆さんだの、老婆だの書かれていますね。一部伏せ字になっているので、暴言やら、ハヅチの名前などが出ているのでしょう。
「そうですねえ、これはHidden Talent Onlineの名前の由来にもなるんですが、開発時にヒドゥンスキルと呼んでいた物があります。それは通常はSPの消費やクエストの達成でスキルを取得しますが、これはNPCからの伝授という形で入手するものです。今のところ伝授されているのは2つですが、いくつあるかは秘密です。それがないと発動出来ないスキルや、取得条件となっているスキルもあるため、探してみて下さい」
ヒドゥンスキル……ですか。魔力操作は確実に含まれていますね。もう一つはわかりませんが、その内話題になるでしょう。コメントでは各々が推測を書いていますが、一部に私が流したワールドメッセージや、刻印に触れているものがあり、魔法陣スキルの使用条件だと正解している人もいます。
「コメントでユニークスキルかと聞かれましたが、面白い使い方の出来るスキルではありますが、一人のプレイヤーしか取得出来ないスキルではありません。現に、片方は複数のプレイヤーが取得していますから」
ええ、もちろん伝授しましたから。このゲーム、異世界をシミュレートするタイプではありませんが、ある程度はNPCと交流しないといけないタイプのようです。アイテムの販売制限のように簡易的な物流があるようなので、しっかりと考えればわかったことかもしれません。
「尚、ヒドゥンスキル以外にもNPCとの交流がきっかけとなったり、行動によって出現するスキルがあるので、探してみて下さい。次に、システム面での今後の予定ですが、トーナメントが終わった次の日、15日にアップデートを実施します。一つは、前々から予告している通り、満腹度の実装です。流石に最初から実装してしまうと、育成が大変になってしまうので、サービス開始から時間を置いての実装となります。ちなみに、料理スキルの取得可能者はそれなりにいるので、是非探してみて下さい」
は? 料理スキルの取得可能者? 探す? どういうことでしょうか。私の取得可能スキル一覧に料理スキルがあることは把握しています。料理は出来ますが、わざわざゲーム内でやろうともおもっていないので、取得していませんが、最初は取得出来ないものなのでしょうか。疑問を浮かべた顔でシェリスさんを見ると、何故かジト目を向けられてしまいました。
「料理スキルあるの?」
呆れた顔のシェリスさんが聞いてきました。ふむ、どうやら料理スキルがないようです。
「条件は知らないので教えられません」
「……てっきり持っているものは全部理解してると思ってたよ」
「流石に検証はしたくないです」
そもそも一度取得可能にしてしまえば一人で調べることは出来ません。そういった意味でも、面倒くさい作業になります。
「それじゃ、わかったら教えて。対価考えとくから」
「りょーかいです」
私は目線を手元にある運営からのメッセージに戻しました。送られてきた材料は、全てイベント用の特殊アイテムで鞄の材料と魔石(大)です。トレード不可属性が付いており、納品だけは出来るようですが……、ん、トレード不可? ああ、これは拒否しかありませんね。何しろ私は鞄を作れませんから。依頼の拒否ボタンを押すと、必須ではありませんが理由を記載する場所がありました。そこに、鞄を作るスキルがないためと、正直に記載しました。これで拒否完了です。
「次に、クランシステムを実装します。これは、何かしらのギルドで一定ランク以上になっているプレイヤーをマスターとして作ることができます。最初に作れるクランの大きさのは三種類ですが、クランクエストを行うことで、人数制限を解放していくことが出来ます。他の詳しい条件は当日のアップデートをお待ち下さい」
クランですか。これに関しては、ハヅチと時雨が作るかもという話がありました。ただ、私自身はどちらでもいいので、二人に任せましょう。それぞれにPTがあるのですから、私を優先させるつもりはありませんし。
「流石にネタバレになったり、プレイヤーの努力を無に帰す質問には答えられませんよ。現在の課金要素は毎月の接続料だけですが、今後ガチャを導入することはありえません。まぁ、ちょっとした強化アイテムを販売することは検討されていますが、そんな凄いものは出さないですし、成長したプレイヤーメイドの方が性能は高くなります。ん? あー、いくつかの賞品の確保に失敗しましたね。しっかりと理由も書いてくれていますし、これは我々の不手際ですね、申し訳ない。今この場を借りて発言させてもらうと、素材アイテムの仕様を変えて再度させて頂くかもしれません」
この発言、私にじゃなければいいのですが。まぁ、いくつかと言っているので、私以外にもいると思いましょう。
「今の攻略具合についてですか? そうですねえ、北の鉱山の攻略が終わる前に西のオアシスが解放されるとは思いませんでしたよ。ログを見る限り、偶然のようですが。ちなみに、中間ポータル系は辿り着くのに一工夫必要な場所や、ボスが待っている場所があるので注意してください」
……しかたありませんね、偶然の産物ですから。
「それでは、今後もHidden Talent Onlineをお楽しみ下さい」
こうして生放送が終わりました。私に利のあることはあまりなかったようですが、こうして見るのも楽しいものです。
「トーナメントか。基本的には近接武器のプレイヤーメインかな。私は杖と弓しか作ってないから、サポートがメインだね」
「そうですか。私はポーションを作っても意味が無いので、観戦だけですね」
「アレは売らないの? 一度だけ並べてたヤツ」
アレとかヤツとかでは伝わらないと思いますが、恐らくはアレでしょう。
「アレは、知り合いが出場するなら必要分を作るくらいですよ」
スクロールという形で公になっているのはリターンだけですが、ウェストポーチにインベントリを刻印している以上、関連付けて考えれば他の魔法のスクロールを作れることはわかるはずです。ですが、実際に目にしないと気付かないものです。
「そっか。売り出せば売れるのに、もったいない」
「防具に関しては知り合いに任せてるので、困ることはありませんし、武器もこうして特定の相手がいるので、大金を稼ぐ必要はないんですよ。そもそも、私はエンジョイ勢です」
「……いや、未発見の情報も持ってくるエンジョイ勢なんてほぼいないから」
そうでしょうか。サービス開始当初であれば、案外いるものです。……私のように。
「ま、いいさ。そんで、トーナメントが終わったら店を持つ予定だから、オープンしたら教えるよ」
「お店ですか。土地を買うにはかなりかかると思うんですが、凄いですね」
「まぁ、生産クランの話もあるから、どうなるかはわからないけどね」
このゲームではどのくらいか知りませんが、昔やったゲームでも、土地は最低でも百万単位です。ですが、店となると、更に値が上がります。まぁ、人の懐事情を気にしてもしかたありませんね。
「杖の依頼をしなければいけないので、必ず行きますね」
「待ってるよ。そんじゃ、私は賞品を作りに行くよ」
「それじゃあ私は残り少ないブースト期間を満喫してきます」
シェリスさんと別れ、私はセンファストのポータルへとやってきました。そこで、砂漠のオアシスへと転移します。
ブラウンキャメルの出現区域にやって来た私はエリアシールドを使い、空間魔法のレベル上げも行うことにしました。MPの回復量がかなり下がりますが、そんな長時間の狩りは出来ないので、ちょうどいいはずです。
ブラウンキャメルを見つけると、まずは魔力視で属性を確認します。魔力が薄っすらと黄色く見えるので土属性だとはおもうのですが、この色の薄さはなんでしょう。とりあえず識別出来る距離になったので確認すると、属性という項目が増えていました。そこには土属性(極小)と書かれており、ヘルプに何かが追加されたようです。ついつい確認しようとしてしまうのですが、そこはMOBのいる場所。ブラウンキャメルがアクティブだということもあり、私に向かってきました。後ろに大きく跳びながらフレイムランスを叩き込み、ディレイが終わるとマジックボルトでトドメを刺しました。心なしか後ろへ飛び退く距離が伸びていますね。これは何故でしょう。可能性のあるスキルは跳躍くらいです。まぁ、回避行動であるバックステップで跳躍のスキルレベルが上がるのなら、跳躍のレベル上げも心がけておきましょう。
ついでにマジックアップを使ったのですが、フレイムランスだけでは倒せませんでしたし、属性相性のいいエアーランスでも無理だったので嵐魔法は後にし、MPを心配して付与は維持しませんでした。オアシスの東側で戦っていたのですが、オアシスから離れすぎるとグリーンサボテンテンに狙撃されるので、探すのに時間がかかるようになりました。今度は西側へと足を踏み入れます。見たところ、ここではまだブラウンキャメルが出現するようなので、安心してレベル上げが行なえます。ただ、MPが心もとないので一度ゆっくり回復しましょう。
休みながらヘルプの追加された項目を見ていると、属性に関する詳細が増えていました。何でも、極小・小・中・大・極大・化身という括りがあり、属性相性の増減率に関係するようです。極小では影響は少なく、極大や化身では倍以上のダメージを受けたり、無効化したりするそうです。続いてアイテムの確認をしていると、胃石(中)が混じっていました。1個しかないところを見ると、レアドロップなのでしょう。次にLV30になっていた杖ですが、アンチマジックアタックというアーツが増えていました。これはMPを消費して魔法を打ち消すようですが、魔法の中心を攻撃しなければいけないようなので、かなりシビアです。今のところ魔法を使ってくるMOBもいないので、完全にPV向けですね。
それではMPもそこそこ回復したので続きをしますか。
同じ手順でブラウンキャメルを倒していると、炎魔法がLV10になり、フレアブラストという魔法が使えるようになりました。試しに使ってみると、手元から放つ魔法ではなく、範囲魔法のように離れた場所で発動させるもののようです。ただ、範囲魔法ではなく単体魔法なので、詠唱の長さを考えなければ奇襲に使えそうです。さて、次は属性相性のいい嵐魔法を使いましょう。
そう思っていたのですが、すぐに無魔法がLV10になってしまいました。追加された魔法はマジックランスです。試しに使ってもやはりランス系でした。途中、魔力陣がLV30になり、遅延発動という能力が解放されました。これは、広がりきった魔法陣を発動待機状態に出来るそうです。ただ、発動待機中はMPを消費したり、行動に制限がかかるらしいので、使い所は見極める必要があります。
そろそろいい時間なので、ここまでにしましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます