1-10

 いじけた私はいつものように寝る準備を済ませ、夜のログインをしました。

 二人にはログインしたらウェストポーチを渡す約束をしてあるので、センファストに戻らなければいけません。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが二通届きました。――――


 おや、珍しい。リコリスとシェリスさんです。リコリスの方は、申し訳なさそうな返事ですが、使用感を教えて欲しいと書いておいたので、受け取ってくれるそうです。

 シェリスさんは頼んだ装備の確認と、詳しい話を聞かせて欲しいとのことです。二人には冒険者ギルドに用があるため少し遅くなると連絡し、ポータルをくぐりセンファストへ移動しました。冒険者ギルドへ向かう途中、オババの店により魔石(小)を30個ほど買い込んでおきました。これで実験が出来ます。

 冒険者ギルドへ着くと、ハヅチと時雨が待っていました。


「ごめんごめん、遅くなちゃった」

「こっちはこっちで受け渡ししてたから構わねーよ」

「そうそう、いいアイテムが手に入るし」


 そんなわけで二人に頼まれていた分のウェストポーチを渡しました。


「あの……、リーゼロッテさん」


 用事が終わるのを見計らっていたのか、後ろから声をかけられました。私の名前を知っていて、少し幼い声のプレイヤーは一人しかいません。


「あーリコリス、早かったね」

「いえ、急ぎの用もなかったので……。ところで、タイミング悪かったですか?」


 一応受け渡しは終わったので、悪くはないはずですが……。とりあえず紹介しておきましょうか。


「こっちの二人は私の知り合いで、ハヅチと時雨。そんで、こっちの娘がリコリス」


 お互いに簡単な自己紹介をしたところで、ハヅチが切り出しました。


「実験用の鞄、作ってきたけど、どうする?」


 ほほう、それはすぐにでも試したいですね、ただ。


「オババの所行かないとね」

「問題なければ俺が個室借りるぞ」

「いいの?」

「1,00Gくらいいいさ。それより……」


 ハヅチはリコリスへと目を向けました。どの程度の知り合いなのかわからないのでどうするのか迷っているのでしょう。


「それじゃ、リコリスも行こっか」

「え……」


 何をするのかよくわかっていないリコリスを連行し、ハヅチの借りた個室へと向かいました。運営の意図している使用用途は簡単な会議用なので、机が大きいため、作業がし易いです。私とハヅチが準備をしている間、怯えるリコリスに時雨が優しく話しかけているため、段々と落ち着き始めました。ふむ、これが人徳の差ですか。


「それで、何をするんですか?」

「あー、メッセージで教えたコレの大きいのが作れるか試すの」


 そう言って私はリコリスにウェストポーチを渡しました。話はしてあったのですが、やはり驚きを隠せないようです。


「リーゼロッテが隠す気ないならいいか。それじゃ、注文の品だ」


 ハヅチが作った鞄を確認すると、言ったとおりに出来ています。本当に――。


「いい仕事してますねー」

「問題ないようで」


 私はインベントリの肥やしにしていた魔石(大)を1個取り出し、準備万端です。


「【刻印】」


 MPは全回復しているのでどれだけ縮小しても問題ないはずです。そして、前もって空けとくよう指定しておいた場所へと貼り付けます。

 第一段階終了です。刻印自体が出来なくなるようなことはないので失敗はありえません。

 そして、次です。


「【魔石融合】」


 魔石(大)を刻印した魔法陣の中央へと埋め込みました。その結果は。


――――――――――――――――

【肩掛け鞄・インベントリ(大)】

 肩から斜めに掛ける鞄

 多くのものが入る

 刻印:インベントリ(大)

――――――――――――――――


 成功です、成功ですよ。これで中だったらどうしようかと思いましたが、大成功です。これで、999種のアイテムが、それぞれ999個まで持ち運べます。


「す、凄いな」

「凄いねぇ」

「凄いよ」

「凄い……です」


 気が付けば出来上がったばかりの鞄を皆で囲んでいました。さて、このゲーム、デスペナによる所持アイテムのドロップがなくてよかったです。


「そ、それじゃあ、全員分の鞄、お願いね」

「あ、ああ。リーゼロッテも、皮、頼む」


 ええ、そうでした。ハヅチには皮を一つ渡す約束をしていました。ん?


「リコリスも欲しい?」

「……い、いえ、私はウェストポーチが手に入るだけで十分です」

「あっそう。じゃあ、それなりの皮と魔石(大)を手に入れたら言ってね。やるから」


 それではせっかくの個室なので、もう一つ実験を行いましょう。

 まずは初級錬金セットを広げます。そして、大量の魔石(小)です。


「やるのか?」

「【昇華】」


 そこそこのMPをもっていかれました。その結果は、成功です。ここまで上手くいくと、いえ、上手く行き過ぎると何かの見落としがありそうで怖いです。


「魔石(中)か」

「30個用意して、3個だから、小10個で中1個だね。流石に大の必要個数は今度でいいや」


 今度でいいというより、準備していないので出来ないと言った方が正しいですね。魔石の安定供給は可能なので、後は皮です。


「あの、本当に私がいてよかったんですか?」

「んー、気にしなくていいよ。だって、何のスキル使ったかわからないでしょ」

「それはそうですが……」


 使ったスキルは魔法陣と錬金です。リコリスには魔力操作を教えてあるので同じことが出来る可能性はありますが、同じことが出来るようになるまでにはかなりの時間がかかります。それに、こうして確認するようなら、問題ありません。私は今までの鞄を外し、新しい鞄を装備します。今までの鞄の中身はそのまま入れてしまいましょう。スクロールはインベントリより普通に入っていたほうが楽なので。

 実験が終わり、個室から出ると倉庫にある下級悪魔の皮膜を2個ともハヅチに渡しました。1個はハヅチ用ですが、もう一個は予備です。後回しでいいと言ってあるので、忘れた頃に渡されるでしょう。後は、倉庫に預けてあった素材を取り出し、シェリスさんの元へ向かうだけです。

 ハヅチと時雨に別れをいい、リコリスを連れたまま南側の露店エリアへと向かいました。

 移動中、リコリスはウェストポーチを弄り、アイテムの入れ替えをしています。持ち運べる数が増えるというのはいいことです。


「そういえば、リーゼロッテさんはエスカンデに行きましたか? あそこには魔術ギルドがあるらしいのですが」

「ああ、行ったよ。魔法の上位スキルを持ってると見学出来て、スキル次第で新しいスキル覚えられるよ」


 実際にいくつかのスキルを覚えましたが、その条件はわかっていません。覚えてしまった以上、これ以上の調査は出来ませんから。


「私は治癒魔法だけ覚えました。他の魔法はまだ上位魔法を覚えられていないので」

「私は治癒と付与と無魔法で、スキルポイントのいらない探索魔法と魔術ってスキルも貰ったよ」

「……無魔法と魔術って掲示板にもなかったんですけど」

「そうなの? まー、条件はわからないけどね」


 何となくの予想はつきますが、あくまでの予想なので放っておきましょう。今はやることがあります。


「シェリスさーん」

「リーゼロッテ、待ってたよっと、それとリコリスも。二人は知り合いだったの?」

「そうですよ」

「そうなんです」


 リコリスの使っていたどんな杖でしたっけ。まぁ、気にならなかったので、普通の杖だったのでしょう。


「それじゃあ、まずは私の用から。これが頼まれてた杖だよ。受注システムでの受け渡しも出来るけど、今回は手渡しね」


――――――――――――――――

【下級悪魔の杖】

 下級悪魔の力を宿した杖

 耐久:100%

 攻撃力:▲

 魔法攻撃力:▲

 INT:▲

 MP:▲

――――――――――――――――


 基準はわかりませんが、今のよりはとてもいい杖です。悪魔の杖という名前ですが、見た目は普通の杖です。色がほんのりと黒い以外は。


「一応伝えておくけど、使った素材が良い物だったから、普通の杖よりも、性能はかなりいいよ」


 一応は真とか隠しとか呼ばれるタイプのボスドロップですから。具体的な数値はわからなくとも、しばらく買い換える必要がないというのは助かります。


「いい杖ですね。ありがとうございます」

「気に入ってもらえたようで何よりだよ」

「それじゃあ、私の用件です。これをどうぞ」


 シェリスさんにウェストポーチを手渡ししました。相手は商人です。そのためこれの価値を判断し、表情を一瞬で引き締めました。口に出した私達とは大違いですね。


「気になることは多いけど、これ、どうするつもり?」

「それはシェリスさんの分ですよ。対価を払いたいというのなら、金銭以外でお願いします」


 お金に関しては、それこそこれを売ればいいだけです。ウェストポーチでも、鞄でもいいのですから。ですが、相手は生産者。なら、お金に変えられない対価があります。


「杖のレシピでもよこせっていうの?」


 おお、怖い怖い。自分で作るなんて面倒なことしたくないので、そんな勘違いは止めて欲しいです。


「それ、私が貰っても意味ないですよ。私が欲しい対価はそれが売れるのかってことと、売るならいくらかってことです」

「あー、そういうこと。商人の感覚を頼りたいってことね」

「生産者を敵に回すのはただのバカですから」


 生産者がアイテムを売らなくなれば、手に入るのはNPCが作ったものやMOBのドロップ品のみになります。そうなると、何も出来なくなるも同然です。


「んー、このウェストポーチ、代理販売でよく見るよ。ハヅチブランドって言われてて細かい所に気が付くって一部じゃ有名だよ。付加価値付けて高く売るのか……」


 ハヅチ……、やはり有名になっていたのか。昔はゲーム内で裁縫スキルを育てるために、現実で作り方を学んでたりしてましたね。その結果、家庭科の成績が上がったり、女子力が高いとか言われていましたけど。まぁ、自分が作りたいものしか作らないからトップ生産者にはなれません。


「元が30,000Gで、インベントリの量を考えると100,000Gくらいかな。純粋にインベントリが倍になるし、物珍しさとかもあるから、強気に行っても売れると思うよ。ただ、インベントリを付与するために必要な物がわからないから、正確な数値にはならないと思うけど」

 なるほど、このウェストポーチの原価は知りませんが、ハヅチの売値である30,000Gに、100Gの魔石を追加しただけで3倍以上ですか。まぁ必要なスキルを揃えるのに時間はかかりますが、揃えてしまえばいい金策です。


「それはいいことを聞きました。ちなみに、これを扱う気はありませんか?」


 価格はそのままで私の取り分を下げれば問題ありませんね。あの二人が分け前を受け取るとは思えませんし。


「……止めとく。騒ぎにはなるだろうけど、安定供給は無理そうだし、何より確実に面倒事が起きる」

「残念です。迷惑料として独占販売をお願いしようと思ってたのに」

「リーゼロッテさん、自分で代理販売しないんですか?」

「MPポーションの時はしてたけど、これでそれをしちゃうと他の鞄を流してる人の邪魔しちゃうから、露店に出したかったんだよね。それに、安定供給すると、これの製作者にも迷惑かかるから」


 私はハヅチから直接ウェストポーチを受け取っています。けれど、他の人は、露店や代理販売から入手した物を使っていると思うはず。大量にハヅチの作ったウェストポーチに刻印して流すと、ハヅチと私が繋がっていると気付かれてしまいます。そうなればハヅチに迷惑をかけるでしょう。それなら、何かを聞かれてもその場で答えられる露店の方がいいはずです。まぁ、答えるとは言っていませんが。


「それじゃ、価格は決まったんで、自分で露店を出す方向で考えてみますよ。それでは、知り合いで欲しい人がいれば、優先的に売りますんで、連絡下さいね」

「インベントリが倍になるから、すぐに頼むと思うよ」

「あ、この鞄には一番大きいインベントリが付いてるので。それじゃ!」


 私は自分で付けている鞄を叩いて示し、リコリスと共に露店を後にしました。この後することは決まっていませんが、リコリスと相談しましょうか。


「今日は予定決まってるの?」

「一応、早い時間に薬草を集めたので、調合をしようかと思ってました」


 それは悪いことをしました。時間のかかる生産作業の邪魔をしてしまったのですから。


「邪魔しちゃったかな?」

「いえ、レンタル施設は時間貸しですから、問題ありません」

「レンタル施設?」

「知らないんですか? 各種生産設備が使える施設があるんですよ。お金はかかりますが」


 いつもオババに奥を借りていたので知りませんでした。ただ、よく考えれば大抵のゲームにはありますね。


「リコリス、ちょっと着いて来て」

「どこに行くんですか?」


 せっかくなので連れて行って見ましょう。調合のレベルはわかりませんが、いい物が買えるかもしれません。





 リコリスを連れた私はオババの店へとやって来ました。大通りから一本入っているため、少し怯える様子がそそります。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、珍しく連れがおるのう」

「え、えっと……」


 落ち着く反応です。それでは用件を済ませてしまいましょう。


「調合やってる娘を連れて来たの」

「あの、初めまして。リコリスです」

「嬢ちゃん、面倒なのに捕まったのう。お詫びに出来る限りのことを教えてやるよ」


 ぬを。私の扱いと違います。聞けば教えてくれますが、簡単な指導をしてくれると言うくらいです。それなのに、リコリスには出来る限りのことを教えてくれると明言するとは……。


「そ、それって……」

「奥を貸しちゃる。好きにせい」


 な、なんと――。


「ハヅチと時雨はダメだったのに、奥を借りる権利を得るとは……。リコリス、恐ろしい娘」

「奥って何のことですか?」

「とりあえずこっち」


 私は勝手知ったる他人の家なので、リコリスを連れて奥へと向かいました。


「あー、そっちは小娘用じゃ。そっちの嬢ちゃんはその隣じゃ」


 おや、違ったようで。オババに指示された部屋の扉を開けると、私が借りている部屋と同じ作りの部屋がありました。……今までこんな部屋はなかったと思うのですが。なるほど、プレイヤー毎に部屋が割り当てられるということですか。奥に入る条件としては、オババが出来る生産スキルを持っているかどうかでしょうか。あの二人は鍛冶と裁縫ですから。


「この部屋、レンタル施設と同じくらいの広さです。流石に休憩用の設備はないようですが」

「ここならオババの指導も受けられるよ」

「それは助かります。レンタル施設は教本があるだけですから」


 教本ですか。わかりやすければ使えそうですが、この言い方から察するに、よくわからないのでしょう。オババは聞けば教えてくれますが、知らないことは聞けないので、一長一短があります。


「それじゃ、私も調合やろうかな。ある程度は育てたいし」

「私も、ここをお借りします」


 私は薬草と水入りポーション瓶を10個づつ買い、私用の部屋へと篭ります。リコリスと一緒にやろうとも思いましたが、きっと向こうの方がスキルレベルは上でしょう。なら、足を引っ張るだけなので、邪魔してはいけません。

 一度目、前に習った記憶とシステムを頼りにゴリゴリします。しばらく続け、ちょうどいいところでポーション瓶へと入れました。結果、出来上がったのは9%の物です。けれど、ちょうどレベルが上がり、工程短縮というアビリティが解放されました。これは各種工程を登録し、一瞬で再現してくれるようです。


「オババオババー。ちょっと監修して」

「何じゃ小娘……。まったく、見といてやるから、さっさと始めんか」


 オババに催促され、指示を受けながらゴリゴリしました。その結果――。


「よっし」

「まったく、手間のかかる小娘じゃ」


 回復量10%のポーションを作り終えると工程を登録するかというメッセージが出たので、登録しました。どうやら工程単位で登録出来るようなので、複数の工程があるアイテムを作る時は、理想的な工程を登録したいのですが、最後の結果しかわからないので、何とも使い勝手の悪そうな能力です。

 では、材料を用意し工程短縮を使い、薬草をゴリゴリします。出来上がりがこちらです。後は、出来上がった物を水に入れ、回復量10%のポーションが出来上がりました。多少のMPを消費しましたが、すぐに回復しきったので、連続して作れそうです。

 量産しました。

 材料を40個づつ追加し、一心不乱に作り続けるとスキルレベルが10になりました。あ、少し残ったので全部作りきって……、使えないものを作ってもしかたありませんね。ノーマルポーションの材料にしましょう。

 レベル10になると、初級調合セットが使えるようになるそうなのでオババから買おうとすると。


「それなら入門セットを貸しな。……ほら」


 入門セットと4,000Gを払うと、アルコールランプセットが追加されました。どうやら錬金と違い、道具をアップグレードしていく仕組みのようです。


「オババオババ、ノーマルポーションってどうやるの?」

「すり潰した薬草と胃石を熱しながらかき混ぜるんじゃ」


 あれ? それだと乳鉢が二つ必要じゃ……。


「手順としては、薬草と胃石を別々の容器で潰す。次に、水を入れた容器に薬草と胃石を入れ、熱しながらかき混ぜるんじゃ。見といてやるから、さっさとやらんか」

「はーい」


 初級錬金セットは乳鉢セットとアルコールランプセットで構成されているわけですが、試しに乳鉢セットに触れてみるとメニューが表示され、もう一つ取り出せることがわかりました。これなら安心して続きが出来ます。

 薬草の方は短縮してと、胃石(小)はインベントリから取り出します。

 赤い印目掛けてすりこぎ棒を振り下ろしました。

 ガツン、ガツン、ゴツン。

 硬いですね。それでもなんとか潰しオババにOKを貰いました。後はビーカーに移し、アルコールランプで熱します。


「もうよいぞ」


 火を消し、ポーション瓶に移しました。


――――――――――――――――

【ノーマルポーション】

 一般的なポーション

 HPを1分かけて10%回復

――――――――――――――――



 成功なのでしょうか。ヘルプを見る限り、今はまだ取得SPによる減算はないようですが。

「成功じゃ。それが店に卸す場合の性能じゃから、それを目指すがよい」

「いえっさ」


 おっと、オババは女性なのでサーではダメですね、語感はいいのですが。それでは、このまま残りを作りましょう。

 初心者用ポーションは露店では売れそうにないので、今回作った分は全てオババに買い取ってもらいました。他に手持ちの材料で作れるのはMPポーションとイエローポーションくらいですね。薬草の補充は必要ですが。MPポーションは胃石を砕いて魔力水に入れるだけなので工程短縮に登録して終わります。結果は10%なのでごくごく普通の結果ですが、問題はありません。

 イエローポーションはノーマルポーションよりも難易度が高いという設定なので、もう少しレベルを上げてからにしましょう。MPポーションの材料は大量にあるので、LV15を目指して作り続けます。

 工程短縮で大量生産した結果、45本のMPポーションを作ったところで通知がありました。これで、調合がLV15になり、レシピ登録というアビリティが解放されました。これは作った物のレシピを登録出来るものです。今まで作った物は、既に登録されているようですが、よりよい物が出来た場合、上書き出来るそうです。

 これはとても助かる能力です。ですが、大きな問題があります。ボタン一つでレシピから再現出来る能力ですが、あくまでもレシピが登録されているだけなので、一度は作らなければいけません。さらに、少ない確率で性能がブレるようで、何とも痒い所に手が届かない仕様です。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、誰でしょう。

 早速確認してみると、ザインさんでした。何でも、作り方についてはとても気になるが、製作者が努力した結果なので、聞き出すことはしない。これの使い勝手に関しては、純粋にインベントリが倍になるので、いつもより長時間の狩りが出来るし、ポーションも多く持っていけるとのことでした。複数の武器を使う場合にも便利とのことで、大変好評のようです。

 是非とも買い取りたいということで、価格を教えて欲しいのと、全員分を用意して欲しいとのことでした。それと、最後にザインさんの分の色を変えて欲しいと書いてありました。

 ウェストポーチの残りは5個です。ザインさんのPTには2個渡してあるので、色に拘らなければすぐに渡せますね。

 それでは返信しましょう。知り合いの生産者に相談して100,000Gに決めたこと。残りの個数と色を書き、最後のザインさんの分に関しては却下しました。そこは絶対に譲りません。質の悪い悪ふざけと自覚していますが、それでもです。

 次にイエローポーションを作ろうと思い、薬草をオババから買おうと思っていると、返事が来たようです。簡単に言うと、言い値を払うから色を変えて欲しいと書いてありました。それと、取引のためにどこに行けばいいのかも聞いてきています。そんなに桃色はいやですか。しかたありません、そのままにしましょう。

 私はザインさんのPTまとめて売るので、分配は好きにすればいいと書きました。それと、今はセンファストにいるので、ポータルに向かうと添えました。

 何処かで待つよりも、お互いに向かった方が早いですから。

 今日の作業はここまでにすると決め、リコリスのいる部屋をノックしました。


「リーコーリースー、用事済ませて落ちるから、おつかれー」


 すると、慌ただしい音が聞こえています。ですが、扉が開く気配はありません。


「すみません、手が離せないので、お疲れさまです」


 近くにいる以上、声をかけないという選択肢はありません。ただ、作業を邪魔しちゃった可能性もあるので、今度からそのあたりをどうするか取り決めておきましょう。





 センファストのポータルに着くと、見たことのある人がいました。向こうも私に気付いたようです。


「わざわざすまない」

「いえいえ、お待たせしてしまったようで」


 簡単な挨拶を済ませ、トレードを行いました。最前線を攻略しているザインさんのPTと話しているため、悪目立ちしていますが、絡んでこないのですから放っておきます。今思えば、代金は情報でもよかったのですが、その辺りはハヅチに任せたので、これでよかったはずです。次からはウェストポーチを買うのですから。

 ザインさん達と別れの挨拶をし、ログアウトです。

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