1-7

 大型連休六日目、学校の宿題は終わっているので、家事が終わった後の短い時間ですが、午前中もログイン出来るようになりました。狩りに行こうと思えば行けますが、火魔法をLV25にするのに必要な時間を考えると足りないので、別のことを探しましょう。葵は宿題を写すと言っていたので、今までとは逆ですね。ログインした私はその足でオババの店へ向かいます。


「オババオババー」

「何じゃ小娘」

「調合を覚えようと思うんだけど、道具売ってる?」

「調合が出来るのなら、売っちゃる」


 フラグ管理ですね、わかりました。では、メニューを開き、スキル一覧から調合スキルを探しました。

 ちゃんと検索機能があるので、膨大なスキルの中から目当ての物を探す必要がなくて助かります。【調合LV1】が所持スキルに記載され、残りSPが55になりました。

 改めてオババの店の商品一覧を見ていると、調合入門セットが追加されていました。更に、薬草も増えています。


「そんじゃ、調合入門セット、買いますね」

「使えるんなら好きにすればええ。材料があるなら、奥も使えばいい。多少は教えちゃる」


 ついでに薬草とポーション瓶を9個づつ、調合入門セットが500G、合計で770Gの出費です。初心者用ポーションを1個作るのに30Gかかり、オババに売ると90Gのなので60Gの儲けですか。初心者用ポーションを9個作って売れば元がとれますね。オババに奥を借り、調合入門セットと言う名の乳鉢とすりこぎ棒を取り出します。そして、薬草をすり潰す!

 ただ無心になってゴリゴリしてると、何やら赤い点とゲージが出現しました。赤い点の場所をゴリゴリすると点が消え、ゲージが一気に増えます。どうやら、すり潰す場所とすり潰し具合を現しているようです。ゴリゴリしながら増えていくゲージを見ていると、調合スキルに経験値が溜まっている気がします。


「そのくらいでいいじゃろ」


 赤い点を無心で減らしていると、オババの声でふと気付きました。どうやら本当に無心ですり潰していたようです。後は水を入れながら混ぜて、ポーション瓶に移せば完成とのことなので、言われた通りにすると、一瞬光りました。

 試しに鑑定してみると。


――――――――――――――――

【初心者用ポーション】

 初心者用のポーション

 HPを1分かけて10%回復

――――――――――――――――


 こうなっていました。どうやら成功のようです。ちなみに、所持スキルのレベルに応じて効果が減少することについてはヘルプに書いてあるので、アイテムだけ見ていてはわかりません。


「それでいいんじゃ。初めから良い物は作れんのじゃから」

「そりゃそうですね」


 今度はオババが口を出さないというので私一人でやってみます。

 ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ。

 ふむ、まだ点が残っていますね。今度はそのあたりを中心に、ゴリゴリゴリゴリ。


「あっ」


 赤い点が消えたのにも関わらず余計にゴリゴリしてしまいました。その結果、ゲージが一気に増えています。


「ふむ、やりすぎじゃ」


 やはりやり過ぎですか。ゲージには成功だの失敗だのの目盛りがないので、どの程度でどうなるのかがわかりません。スクリーンショットでも撮っておけば参考くらいにはなったはずです。

 試しに作ってみると。


――――――――――――――――

【初心者用ポーション】

 初心者用のポーション

 HPを1分かけて8%回復

――――――――――――――――


 やりすぎた結果がこれだよ。きっと足りなくてもこうなるのでしょう。まずは慣れですね。時間もギリギリですが、9個全部を使った結果、回復量が10%の物が3つ、後はそれ以下です。わざとゴリゴリしたりなかったり、ゴリゴリしすぎた物もありますが、大凡の感覚は掴めました。10%の成功物はオババに売り、ついでにインベントリに残っている初心者用ポーション18個の内9個も買い取ってもらいました。オババ監修の結果、一応は成功なので、【調合LV4】となりました。

 今回はここまでにして、お昼の準備をしましょう。





 今日のお昼はうどんです。ええ、もちろんザルですが。


「宿題の量、多すぎだろ」

「コピーって言っても、宿題用のプロテクトあるから写すのも大変だよね」


 一昔前はデータの名前だけ変えて送るということが出来たらしいのですが、今では大昔のように横に並べて写すしかありません。


「まぁ、もうすぐ終わるけどな。それと、装備出来てるから、午後のログインの時にでも渡そうか?」

「もう出来たの? まぁ、貰えるなら嬉しいけど」

「そんじゃ、後でな」


 そんな訳で午後のログインは冒険者ギルドでハヅチとの待ち合わせから始まりました。昨日も同じことをしていたと思いますが、気にしてはいけません。


「ごめんごめん、遅れちゃった」

「いや、俺片付けしてないし……」


 いつものことなので気にしていないのですが、ハヅチが気にする分には構いません。


「あ、綿の追加もいる?」

「頼めるか?」


 ハヅチに綿を押し付け、私は装備を二つ貰いました。


――――――――――――――――

【魔女志願者の外套】

 魔女を目指す者が身に着けているローブ

 耐久:100%

 防御力:▲

 魔法防御:▲

 INT:▲

 MP:▲

――――――――――――――――

【魔女志願者の三帽子】

 魔女を目指す者が身に着けている先折れ三角帽

 耐久:100%

 防御力:▲

 魔法防御:▲

 INT:▲

 MP:▲

――――――――――――――――


 外套は黒いローブのようです。流石に胸の上下にベルトはないので、悪意は感じません。ただ、帽子が別にあるのにフード付きですか。ふふ、よくわかってるじゃないですか。帽子の有無に関係なく、フードは必須です。黒い帽子もしっかりと先が折れているため、文句の付けようがありません。

 問題があるとすれば、初心者用装備が魔女っぽくないということですね。


「いやー、いい装備だよ。あ、ちょっと手、貸して」


 アイテムの受け渡しも済んだので、やりたくありませんが一つやりましょう。疑問を浮かべながらも手を出してくるので、ハヅチの手を握り、MPを流しました。男が悶えているところなんて見たくないので全カットです。

 結果的にSPを1手に入れました。それだけです。


「そんじゃ、私は行くから」


 疲れ切っているハヅチは放っといて北側の岩場へと足を運びました。途中のスコッピーにはファイアボールを使い、ロックスネークの出現区域まで一気に駆け抜けました。

 さて、それでは準備です。インベントリを使い、ファイアボールのスクロールを取り出します。前にここで狩りをした時は、スクロールを4枚同時使用したので、今回も4枚で試してみましょう。ロックスネークはワタワタよりも動きが早く、左右に動き回るので狙って当てるのは難しいです。なら、戦い方は前回と同じにしましょう。


「【ファイアボール】」


 ロックスネークが体当たりしてくる瞬間、手にしたスクロールを叩きつけ、魔法を発動させます。手元でファイアボール4つが発動するので少し熱いですが、我慢できる範囲です。途中、試しに3枚を叩きつけると、爆風で吹き飛び、もう一度体当たりしてきたので、防具を変えて少しステータスが上がっても4枚が確殺ラインのようです。32枚のスクロールを消費したところで火魔法がLV25となりました。魔法1発分の差ですが、こちらの方が経験値がいいのはあきらかです。移動速度や攻撃力を比べてみても、ロックスネークの方が強いので、不思議ではありませんが。思った以上に早く終わっていまいました。ここなら更なるレベル上げも出来るはずなので、もう少し続けましょう。


「【ファイアウェイブ】」


 驚きました。今までフィールドMOBでウェイブ系を生き残ったMOBはいません。けれど、ロックスネークは生き残りました。かなり弱っていますが、確かに生き残っています。


「【ファイアボール】」


 ウェイブ系はクールタイムが長いので連発は出来ません。まぁ、魔法を変えてしまえば問題ありません。それでは、残り218枚あるのでどんどん行きましょう。

 この岩場は暫く行くと山になるようで、ツルハシでも持ってくれば鉱石が掘れるのでしょう。流石にレベル上げそっちのけで鉱石を掘っていては意味が無いのでやりませんが。流石に何度も叩きつけていると手が疲れた気がします。肩をほぐしていると、何かに日を遮られました。私は原因が気になり、ふと視線を上げると、そこには巨大なロックスネークがいました。倍では効かないくらいの大きさで、どうせならレアMOBであって欲しい個体です。流石に4枚のスクロールを叩きつけても倒せそうにありません。

 ですが、向こうは殺る気満々です。


「【ファイアウェイブ】」


 魔法陣を使い、先制攻撃して様子を見ます。スクロール8枚で倒れてくれればいいのですが、節約しなければいけない枚数ではありません。大量に使い、一気に倒してしまいましょう。端数と一目盛り分のスクロールを破り取り、向かってくるロックスネークに叩きつけました。


「【ファイアボール】」


 炎が視界を埋め尽くし、爆風が私を襲いました。

 反動で宙を舞いながら空を眺めていると、リザルトが出ました。


「いてて」


 受け身らしきことは出来ましたが、地面に落ちると痛いです。まぁ、倒せたのでよしとしますが、ドロップ品の【胃石(中)】はレアアイテムとみていいのでしょうか。正直使いみちに困ります。その内錬金か調合で使うはずなので、これも死蔵ですね。MPに余裕があるので落下ダメージを回復しておきましょう。


「【ライトヒール】」


 さて、それでは気を取り直して続きです。今ので上がりきってくれると話のネタになったのですが、上手いこと行かないものですね。その後もしばらく続け、残りが100枚になると。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【火魔法】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【炎魔法】 SP3

 

 【火魔法】【光魔法】【闇魔法】がLV30MAXになったため、関連スキルが解放されました。

 【魔力増加】 SP3

 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 ……、いえ、炎魔法は基本なので構いません。ですが、魔力増加ですか?

 恐らくですが、このスキルの組み合わせというよりは魔法攻撃系のスキル3個で解放されるものなのでしょう。説明を見る限り、最大MPが増えるようなので、もちろん取得します。新しい魔法攻撃スキルで最初に覚えた魔法は【フレイムランス】です。聖魔法や冥魔法で覚えたものと違い単体魔法のようです。帰りに試しに使ってみましたが、中々かっこいい魔法でした。ちなみに、魔法陣は△を二つ組み合わせた六芒星に似た図形が基本となっているようです。これは魔力描写があっても面倒臭そうな陣ですね。

 それでは街に戻ったら、夕食の買い物にでも行きましょう。





 街に戻り、ログアウト……、するはずでした。

 そう、ドロップ品には銅鉱石や胃石があるため、冒険者ギルドに着くまでインベントリを使ったままです。そのため、空間魔法を使い続けていることになります。つまり、いくつかのスキルには経験値が入り続けることになります。今回、空間魔法がLV10となり、リターンという魔法を覚えました。これはポータルに戻るための魔法です。つまり、センファストとエスカンデのポータルに飛べる魔法です。PTメンバーにも有効ということなので、いろいろと便利そうな魔法です。

 索敵もLV30MAXになったのですが、何も出なかったので他のスキルとの複合スキルに期待しましょう。





 ログアウトした訳ですが、今日の夕食は何にしましょう。今日は蛇を大量に倒したので……、いや、蛇は止めましょう。似てるものと言えば鰻くらいしか思い浮かびませんが、あれの旬は冬なので、却下です。結局、安かった鶏肉を焼き、後はサラダにしました。ある意味ずっと寝ているのでお肉は避けたかったのですが、悪いものではないので、たまにはいいでしょう。


「茜はダンジョン行ってるのか?」

「あのゴブリンダンジョン?」


 私が知っているダンジョンはエスカンデの入り口にあるインスタントダンジョンだけです。スキルの育成にはいいのですが、それはあくまでもPTの場合です。それに、ドロップがつまらないので行く気になりません。


「いや、他の」

「他にもあるの?」

「今入れるのが確認されてるのは、北西にある奴だな。他にも見つかってるけど、解放条件がわかってないから、入れねーし。……あ、今回は魔力操作が条件じゃないから、安心しろ」


 安心も何も葵には魔力操作を覚えさせたので、わざわざ私が行く必要はありません。SPが手に入るのなら考えますが、街の解放と同じなら、将来的に使えるであろうアイテムが貰えるだけのはずです。それなら、面倒です。


「ま、その様子じゃ行ってねーか。スキル育てるならダンジョンの方がいいんだが、気が向いたら行けばいいさ」


 確かにあの時のスキルの上がり具合はかなりよかった気がします。


「そんじゃ、気が向いたらね」


 伊織には魔力操作を伝授しに行かなければいけませんが、邪魔をするわけにもいきませんね。あの巨乳が悶えるところを見るのは今度にしましょう。





 いつもの様に準備を整えログインしました。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、またですか。噂をすれば何とやらといいますから、きっと時雨でしょう。そう思いメッセージを確認すると、やはり時雨でした。内容はダンジョンへのお誘いです。ついでにPTメンバーも紹介したいということです。それでは時雨に返信しておきましょう。すると、向こうもまだ全員が揃っているわけではないらしく、時雨が迎えに来ることになりました。ついでに、少量ですが銅鉱石を渡してしまいましょう。


「ごめん、待った?」

「待ったというほど待ってないよ」


 ここは人の目が多いので、時雨を悶えさせるには相応しくありません。そのため、銅鉱石を渡し、北門へと向かいました。準備は前もって終わらせているらしく、揃い次第出発する段階とのことです。そんな時に混ざっていいのかと疑問に思いながらも、歩いていると時雨に対して手を振っているプレイヤーが目に入りました。


「お待たせー。まだ足りないけど、とりあえず紹介しとくね。こちら、リーゼロッテ、私の現実の友達リアフレ

「は、はじめまして、リーゼロッテ、ですっ」


 時雨の友達ということで緊張してしまいました。私の知り合いやどうでもいい人相手なら気にならないのですが。


「……えっと、魔法使いやってます。よろしくお願いします」


 PTを組むかもしれないので役割は伝えておく必要があります。まぁ、見た目でわかるとは思いますが、稀に殴り魔法使いとかいるので、自己申告は大切です。


「それじゃあ、まずは私から。ゴホン、私はアイリス。見ての通りの剣士だ。よろしく」


 アイリスさんは金髪の剣士です。マントを装備して、どことなく騎士風ですね。


「じゃあ、次はあたしだ。あたしはモニカ。自慢の盾で敵を引きつけてるよ」


 全身鎧のモニカさんです。兜の下から紫色のポニーテールの先端が見えました。


「後二人いるんだけど……。あ、来た」

「ククク、我としたことが遅れてしまったようだな」

「……道、間違えた」

「あれほど地図の見方を教えたと言うのに……」


 アイリスさんがどこか疲れ顔をしています。どうやらいつものことのようで。


「まぁまぁ。とりあえず紹介しとくね。私の友達のリーゼロッテ」

「……よろしく」

「そうか。汝が噂の魔法使いか! 我はグリモア、全ての魔法を操る者なり」


 緑がかった黒髪を靡かせ、フリルの付いた黒い服の少女は、芝居がかった動きしています。どうやら思春期特有の病気にかかっているようですね。


「……リッカ。隠密」


 青い髪ショートカットの少女は隠密系らしいです。弓と矢筒、それに短剣が見えます。どちらがメインか確証はありませんが、構成比から考えると、弓メインでしょう。ただ、口元のマフラーには見覚えがあります。というか、ハヅチがやりそうな格好なので、時雨が仲介したのでしょう。しかし、このPTは5人のようです。このゲームでは6人が最大人数なので、一人分の余裕があるため私が入れます。時雨はわざと一人分空けていたのでしょうか。


「それで、今回は私も行っていいの?」

「ああ、時雨から聞いていたし、魔法使いが一人増えるのは心強い」


 普段は時雨のPTと言っていますが、どうやらアイリスさんのPTのようです。それでは、張り切って加わるとしましょう。


「それじゃあ、グリモアさんと――」

「我はグリモア! 同じ魔導を目指す者として汝もそう呼ぶがいい」

「そうそう。私達は仲間になる。なら、そんな堅苦しい呼び方は不要だ」


 全員が頷き、肯定の意を現しています。こう言われてはしかたありません。


「わかりました。では、徐々に変えていきます。それで、時雨、ちょっと手を出して」


 それでは今のうちに要件も済ませてしまいましょう。


「……何か満面の笑みが怖んだけど」


 おっと、これからのことが楽しみで顔に出ていたようです。ですが、怖いと思っていても時雨は手を出さずにはいられないようです。ゆっくりと差し出された手を勢い良く掴み、MPを流し込みました。すると、驚いたのか体を小さく跳ねさせ、空いた手で自身の体を抱きしめながら何かを我慢しています。


「ちょ……、な、何……を」


 しっかりと、着実にMPを丹田へと向けて伸ばしていきます。それが進むために体が跳ね、顔を赤らめながら小さく声を漏らしています。

 そして。


 ピコン!

 ――――System Message・スキル【魔力操作】を伝授しました――――

 【魔力操作】を伝授しました。

 SPを1入手しました

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 ああ、終わってしまいました。とても残念です。


「はぁ、はぁ、リーゼ……ロッテ、先に言って……よ」

「ちょっとちょっと、大丈夫?」

「大丈夫だよ。前の約束を果たしただけだから」


 そう、私はハヅチと時雨に約束をしました。オババに教えてもらうか、私が教えられるようになったら教えると。


「ほう、汝は豊満なる者にここまでのことを出来るとは……。恐ろしい」


 時雨は息を整え、平静を装っています。しかし、豊満……ですか。やはり、誰から見てもそこに目が行くとは。恐ろしい。


「ねぇねぇ、時雨に何したの? あたしにも出来る?」

「出来るよ。ただ、やるとなると全員にやることになるから、MPが足らないかな」

「そうか。なら、何をしたのかは移動しながらにしよう」


 アイリスの合図で移動を開始しました。グリモアと簡単な打ち合わせをしながら、分担を決めます。お互いに6種類の魔法スキルを持っているため、使う魔法がお互いの邪魔にならないよう注意しなければいけません。ただ、会話が噛み合いません。


「我は全ての魔法において一つ上の次元へと足を踏み入れている。よって、我が魔法の前に、敵は立っていられぬであろう」


 あー、上位スキルになっているから、攻撃は任せろってことかな。だとすると、前衛の回復と数少ないバフは任せるってことか。


「それじゃあ、私は回復メインで、サポートに回るから」

「ふむ、我ら、互いの力ある言葉を聞き、その力を高め合うことも出来そうぞ」


 えーと、魔法を使う時に名前を言うから、属性に注意しろってことかな。

 魔法スキルは思考操作で発動出来るので、何を使うのか口にする必要はありません。けれど、口に出した方が理解し易いし、PTなら周りに知らせることも出来るので、殆どの人が口にだしています。

 だって、かっこいいし。


「リーゼロッテ。初対面なのによくグリモアの言葉がわかるな」

「単語を精査すれば何となくわかるよ。一応、わかりやすく言ってくれてるみたいだし」


 私の言葉に驚きを隠せないアイリスはただただ呆然としています。それに比べ、グリモアはどこか自慢げです。移動中もそれぞれのポジションを確認しながら移動しました。出て来るMOBはスコッピーなので苦戦はしません。

 そして、しばらく進むと古ぼけた塔が見えてきました。


「さぁ、着いたぞ。ここがインスタントダンジョン、蜃気楼の塔だ」


 ふむ、確かにここから西へ進めばすぐに砂漠になります。けれど、この辺りはまだ岩場や荒れ地なので、蜃気楼と言われてもピンときませんね。


「蜃気楼……」

「そうだ、蜃気楼の塔だ。簡単に情報の共有をしておくと、数の多いMOBはスコッピーとサンショギョ、それに、ロックスネークだ。グリーンサボテンテンは出ないから安心してくれ。後、塔というだけあって通路は狭い」


 胃石と黄色い鱗が落ちるのはありがたいです。


「塔と言うくせに2階建てだから、そんなに広くはないから、時間もかからないはずだ。ボスについてはボス部屋の前で説明する。何か質問はあるか?」

「はい先生。バフ系はどうしますか?」


 基本魔法には各属性につき一つ、一時的なステータスアップの魔法があります。滅多に使わないので存在を忘れていましたが、使える以上、確認しなければいけません。


「ボス戦の前には欲しいが、それ以外では不要だ。ただ、未確認のMOBが出た時は、臨機応変に頼む」


 全ての情報が出揃っているわけではありませんからね。


「いえっさ」

 相手は女性なのでサーではなくマムですが、そこは気にしてはいけません。ああ、そういえば。


「空間魔法のインベントリはどうする?」


 私の言葉を聞き、アイリスと時雨が悩んでいます。どうやら、この二人が基本方針を考えているようで。


「あれは維持コストがきついと聞くが?」

「私のステータスなら、真ん中の大きさで自然回復が上回りますよ」


 空間魔法のインベントリには3種類の大きさがあります。

 一番小さいのは、プレイヤーに支給されているインベントリと同じ性能。

 真ん中のは、1マスに対して99個までで、99マス。

 一番大きいのは、1マスに対して999個までで、999マス。

 ただ、一番大きくすると維持コストが上回るので、使えるのは真ん中までです。


「……魔法が問題なく使えるのなら、頼む」

「はーい。【インベントリ】」


 普通に詠唱し、インベントリを発動しました。魔力陣を使ってもよかったのですが、詠唱系のスキルも鍛えたいので、使える時は使っておきます。おや、PT設定なる画面が出てきました。


「へー、PTだと、インベントリの共有出来るんだ」


 全員に出し入れ許可を出します。こうすれば、それぞれの設定でドロップ品を直接入れられるようになります。ソロだとわからない便利機能です。


「それじゃあ、行くぞ」

「「「「おー」」」」

「……おー」


 出来れば前もって言っておいて欲しかったです。確実に出遅れましたが、まぁ、よしとしましょう。





 蜃気楼の塔は中に入ると光源もないのに明るく、ピラミッドの中のような作りです。通路は狭いので、リッカが先行し、モニカとアイリスが前衛、私とグリモアが後衛、時雨がその後ろに着いています。この配置が自然だったので、時雨は後衛の護衛も兼ねているようです。ただ、リッカは弓も持っているので後衛だと思ったのですが、フィールドでは前衛として動いていました。両方こなせるので、臨機応変に動くのでしょう。時雨が近くにいるのは助かりますが、迷惑をかけるわけにはいかないので、集中していきましょう。

 先行しているリッカが弓でMOBを引っ掛け、モニカがヘイトを稼ぐスキルで引きつけ、立ち位置によって他のメンバーが攻撃するようです。私は各種ヒールくらいしかしていませんが、グリモアは上位魔法のランス系を使っています。数多く出て来るロックスネークやサンショギョは硬いのでその辺りが必要なのでしょう。


「後ろから来る。【ウォーターボール】」


 回復以外には索敵スキルを活かして後ろから来るMOBに対して先制攻撃をするくらいですね。

 それにしても気になることが。


「重ねて放つ、【アイスランス】」


 グリモアは指揮棒の様な杖を使っています。初心者用杖という両手杖とは大違いです。ああいった杖もいいですが、私としてはこういった両手杖を片手持ちして振り回す方が好きですね。


「ここって、どこが蜃気楼なんだろ……」


 おっと、口に出してしまいました。

 PTの面々は、私の言葉に同意見のようなので疑問を口にしてます。砂漠が近いからといって蜃気楼というのは、何か違う気がします。


「クックック、蜃気楼というには幻による罠がある。それを見破ることこそ、我らに与えられし試練」

「事前情報で何かあったの?」

「いや、ボス部屋の前にスライドパズルがあるのだが、絵が完成しても何もないらしい」

「そう、それこそが罠。故に、我らはその謎を解くのみ」


 意味もないパズルがあるはずないので、何かあるはずです。まぁ、フラグがわからない以上、手も足も出ませんが。

 ダンジョンの2階に登ると、MOBの出現頻度が上がり、群れで現れるようになりました。モニカのヘイトスキルは優秀で、大抵のMOBが引きつけられています。私はヒールを使いながら、頃合いを見てウェイブ系の魔法を使います。ディレイが終わる度に属性を変えて魔法を使うと、ヘイト値を稼いでしまう危険性があるので、抑え気味にしています。そのあたりはグリモアが自然とやっていることなので、魔法を合わせれば、上手くいくようです。


「……この先、モンハウ」


 何かを調べに先行していたリッカが戻ってきました。索敵と何かの複合スキルを持っているようで、索敵範囲は私よりも広いです。報告を受けたアイリスが少し考え、私達の方を向きました。


「グリモア、リーゼロッテ、この先にモンスターハウスがある。モニカがヘイトを取ったら、思いっ切りやってくれ。もちろん、ヘイトは考えなくていい」


 随分と思い切りのいい指示です。モンスターハウスの対処法は人それぞれですが、範囲火力で薙ぎ払うというのは、私の好みです。


「我らが魔法で、全てを飲み込んでくれよう」

「聖魔法と冥魔法は取ってるけど、どっちにしよっか?」

「魔を滅する者として、聖なる光で焼き払わん」


 聖魔法のシャインですね。このゲームでは同士討ちはしませんが、吹き飛ばされたりはします。魔法によっては互いに影響があるので、注意が必要です。

「シャイン使って、MOBが耐えたらシャドウね、わかった」

「うむ」

「それじゃ、私が合図を送るから、準備出来たら教えて」


 MPは大丈夫。ライトヒールを基本にしていたこともあり、MP消費は抑えられています。それに、せっかくの機会なので。


「本気でやりますか」


 おっと、声に出してしまいました。私の言葉に対し、グリモアも何故かかっこいいポーズを決めています。恐らくですが、負けないぞという意思表示でしょう。

 私達が準備できたことを告げると、私にジト目を向けていた時雨が合図を出します。


「【ハウル】」


 モニカのヘイトスキルを皮切りに、私達は動き始めました。

 思考操作で魔法陣を展開します。必要MPが一瞬で減り、足元に白い魔法陣が広がりました。

 魔法陣が広がり切ると、魔法が発動します。


「【シャイン】」


 普通に詠唱していたグリモアは私に少し遅れて詠唱が終わりました。


「【シャイン】」


 この部屋にいるMOBの大群が光に包まれました。光が収まり、MOBの弱った様子が確認出来ます。今度はグリモアの魔法が発動し、再び光に包まれました。二度目の光が収まると、MOBの数がかなり減っています。ですが、部屋が広かったせいで、範囲外にいたMOBが向かってきます。私の方が先に放ったため、ディレイが終わるのも早く、すぐに次の魔法を選択しました。


「【シャドウ】」


 今度は黒い魔法陣が広がり、MOBが闇に包まれました。移動速度の早いMOBも多かったので上手く範囲に入ってくれました。その結果、MOBの大半が死滅し、辛うじて残っているMOBも弱っています。残りは他のメンバーの遠距離攻撃により、始末されました。

 数が多かったので、リザルトが凄いことになっています。


「ねぇねぇリーゼロッテ、そんな使い方が出来るって聞いてないんだけど」

「あー、だって魔法陣が魔力陣になってるから」

「……ごめん、意味わかんない」

「要するに、使いやすくなったってことだよ」

「……驚愕! ……汝は封印されし力を手にしていたとは。けれど、我は我が道を行き、並び立ってみせようぞ」


 えーと、使い方不明のスキルを使えるようにしていて驚いたと。そんで、負けないよ。ってところかな。


「さ、話はここまでにして先を行こう。休むにしても適した場所があるはずだ」


 雑談に移行するまえにアイリスが止めてくれました。よく見れば、何か騒ぎたそうにしているモニカの口をリッカが抑えています。リッカは寡黙であまり喋りませんが、よく動くようです。

 先へ進んでいると、今度は大きな扉のある部屋に着きました。この様子から察するに、あれでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る