1-5

 ログアウトした後、葵にも晩御飯の準備を手伝わせました。やらないだけで出来ないわけではないので、今日は随分と楽が出来ました。


「時間が来て街が解放されたらプレイヤーが雪崩込んで来たらしいぞ」

「へー。中で待ってなくてよかった」

「ま、そうだな。それでだ、普通の店で魔力水入りポーション瓶が売ってたらしいぞ。他にも、上位アイテムの素材とかが色々とな」


 そうですか。そうなると、MPポーションで稼げなくなってしまいますね。

 まぁ、ポーションで稼ぐ気ならさっさと調合を取るべきなので、気にしてもしかたありません。私の興味は魔石の活用法に移っているのですから。


「なぁ、茜。魔石で何を作る気だ?」

「ん? 何のこと?」

「とぼけるな。魔石(小)とペンを融合した時、ああなることがわかってたろ。恐らくだけど、融合は出来るけど、何らかの事情で試すのを後回しにしていたってところだろ」


 んー、確かに魔石が一個しかないので試していませんでした。魔石を分離するスキルか、簡単な入手方法がわかれば試そうとは思っていましたが。


「数がなかったし、他にも試したいことはあったけど。確実なのはアレだけだったからねー」

「やっぱりか」


 いろいろと感づかれているようなので、ここは巻き込んでしまいましょう。


「ねぇ葵。私のスキルで使ったことのある魔法は陣に出来るの。だから、今は光と闇を育ててるんだ」

「……」

「陣は何かに描けるの。それで、魔法陣の場合、MPが尽きなければ発動し続ける魔法もあるから、出来ると思うんだよね」


 ラピトットを焼いたり、モゲッラを水攻めにした時のことを考えれば、システム上は可能です。そして、MPを供給するための物として、魔石(大)を手に入れました。


「鞄に描けるのか?」

「さーね。何せ、全てにおいて仮定を重ねてるから。鞄に魔法陣を描ける、かもしれない。魔石を使えば魔法の効果が続く、かもしれない。鞄に魔石を融合出来る、かもしれない。やってみなきゃわからないよ。だから、実験用に魔石はいっぱい欲しいね。……それと、いきなり魔石(大)を使うのは怖いから、小さい鞄……、ウェストポーチみたいなのから始めたいな」


 葵から言ってきた以上、私が何をしようとしているのかはわかっているようです。なので、材料というか、融合させる物を要求しておきましょう。実際、ポーションなどのすぐに使いたい物を別に入れておけると便利ですから。





 そんなわけで、夜のログインの時間です。

 東側の第二の街エスカンデ、ログインした場所は地球儀のようなモニュメントがある場所で固定されているので、軽く街を散策してみましょう。

 まずは冒険者ギルドです。初級錬金セットを預けたままですが、今は作るものがないので、作る時に受け取るつもりです。

 次に目の前にある商人ギルドへ足を運びました。

 基本的に出来ることは変わらないようですね。ただ、受け取っていない代理販売の代金を受け取れるのは便利です。これで、所持金は 1,234,180Gになりました。MPポーションで絡んでくる人はいなくなると思いますが、今まで独占していたのを妬む面倒な人がいるはずなので早く次へいきましょう。


「おや、君は……」


 さて、次はどこへ行きましょうか。どうせならフィールドに出る前に杖を新調したいところです。


「だから、最初にスルーから入るのをやめてくれ。銀髪の君のことだ」


 おや、このゲーム内に知り合いのプレイヤーが二人しかいない私にようがあるようです。


「知らない人が何のようですか?」

「知らな……、ごほん、センファストの商人ギルドでも会ったろ。君に魔力水入りポーション瓶について聞いたプレイヤーだ」

「あー」


 そんな人いましたね。テキトーにあしらったので忘れていました。


「君に言われた通り、NPCの総当りをしたんだが、何らかのフラグでロックされた場所が多いってことがわかっただけだったよ。それで、もしよければ俺とフレンド登録しないか? 何か情報をくれれば、きちんと対価を支払うから」


 私を情報源として扱いたいわけですね。一応、魔力水入りポーション瓶を見つけた実績があるわけですから。

 ですが――。


「面倒くさい」


 おっと、口に出してしまいました。ハヅチや時雨に教えるのは構いませんが、情報として出す場合、裏付けなどなど、様々なものが必要になるので、とても面倒くさいです。


「そ、そうか。面倒くさいか。あはは」

「もういいですか?」


 今日はエスカンデを散策するという大事な用事があるのです。ですから、これ以上時間を取られる気はありません。


「それじゃあ、名前だけでも教えてくれ。俺は、ザインだ」


 ザイン……、ザイン、ザイン、どこかで聞いた気がします。ちなみに、フレンド登録しなくても、目の前の相手に名前を表示することは出来ます。なので、名乗るだけでなく、その操作をすることで、自らの名を証明することが出来ます。

 おや? PT名まで表示しましたね。アカツキですか。しっかりと名前を付けているということは、固定PTなのでしょう。まぁ、悪い人ではないようなので、名前くらいは教えましょう。

 えーと、メニューの……、設定の……。


「リーゼロッテです。それじゃ」


 臨時PTは解散しているのでPT名は出しようがありません。


「リー……、え、ちょっとま……」


 さて、武器屋を回ってみましょうか。





 この街の武器屋もセンファスト同様妙な名前の店ばかりです。ただ、第二の街ということもあり、武器の性能は少し高く、値段はかなり高いですね。今使っている杖は初心者用杖なので、性能は最低ランクです。変えるつもりでしたが、困っていると認識していないので今度にしましょう。何せ、流石にオババの店のようなフラグ管理された店を探すのは面倒ですから。

 今度は普通に観光しましょう。冒険者ギルドと商人ギルドは大きい建物ですが、その他に後二つ、大きい建物があります。今度はそこへ向かいます。

 一つ目の建物は、白く綺麗な建物です。ただ、プレイヤーらしき人が入ってはすぐに出ていっています。プレイヤーには用がない建物なら、こんな目立つ建物を作る必要はないのですが……。

 看板には――。

 おや、言語がLV10になりました。ここは新しい街ですから、無意識に看板を読んでいたのでしょう。図書館と書かれた大きな看板が記念すべきLV10のきっかけです。こういった所は情報の宝庫なので、使えるようにしておきたいです。中に入ると、かなりの蔵書があるようで、これは期待できそうです。とりあえず、受付に言ってみましょう。


「すみません、この図書館は私でも使えますか?」

「はい、ここエスカンデ図書館は誰でも利用できます。説明を受けられますか?」

「はい。説明をお願いします」


 とまぁ、説明を受けたわけですが、初回利用料は10,000Gで本を借りる場合は1冊につき100Gだそうです。貸出期間は現実時間で一週間ということで、中々長期間貸してもらえるようです。貸出期間が終わると勝手に回収され、延長も出来ないので、返し忘れて延滞料金が膨らむこともありません。誰かが借りていたり、読んでいたりしても本の在庫がなくなることはないので、返却待ちをする必要もありません。利用資格の有無はステータスに明記されるので、話に聞く図書カードの様な物を貰ってインベントリが圧迫されることはないようです。


「はい、初回利用料確かに頂きました。何かご不明なことがございましたら、お声掛けください」


 さて、これでいつでも使えます。案内図を見れば大体のジャンルはわかりそうですが、今日は散策をすると決めたので、もう1ヵ所へ向かいましょう。この建物の外から見ていた時、出てくるまでに時間がかかった人の方が少なかったので、利用登録をした人の方が少なそうですね。

 次の建物、それはボロボロの塔のようです。時折、爆発音が聞こえる気がしますし、何だか遠慮したい雰囲気です。しかし、ここを訪れると決めた以上、入らないという選択肢はありません。中には魔法使いの様な格好をしたNPCが多くいます。更に、薬品の臭いが漂い、とてつもなく怪しい雰囲気です。一応受付らしきものがあるので、聞いてみましょうか。


「あの……、ここは――」

「魔術ギルドへようこそ! 見学ですか? 入門ですか? 弟子入りですか?」


 思わず一歩引いてしまいました。入りたくない雰囲気があるため、どうにも人が来ないのでしょう。


「えっと、観光……、です」

「そ、そうですか……。ハッ! 観光なら、見学ですね。では、こちらの水晶に手を乗せてください。実力に合わせて立ち入り可能区域が決まっているので」


 百聞は一見にしかずというので、ここは言う通りにしましょう。

 水晶に手を載せると、白と黒の光がくるくると周り、円形になりました。これは一体なんでしょう。


「おや……。円形は珍しいですが、魔術ギルドの中を見せるには実力が足りませんね。残念です。今の貴女の実力では立ち入りは出来ません」


 最初とは打って変わって意気消沈しています。受付としての仕事が出来ると思った矢先に、対象ではないとわかり、がっかりしています。詳しいことはわかりませんが、魔法系のスキルレベルが足りないのでしょう。上位スキルを解放してから来ることにします。さて、これからどうしましょう。街の散策をするにしても、目立つ場所は回りました。現状では目ぼしい物はないので、センファストに戻りましょう。

 最初の街の東側以外には行っていないので、公式による難易度表記に従って回ってみましょう。





 ポータルは便利です。歩けば時間のかかる距離でも、一瞬なのですから。前に時雨が言っていましたが、北側は岩場となっているらしく、加工難易度の低い鉱石が落ちているとのこと。採掘や発見を取るのもありですが、現在のスキルレベルを考えると、不用意にSPを使うわけにはいきません。上位スキルだけならまだしも、複合スキルまであるのですから。とりあえず、鑑定は出来るので、拾って時雨に押し付けましょう。北門を出ると、聞いていたとおりの岩場が広がっており、手当たり次第に鑑定をしていると所々で反応があり、銅鉱石が転がっています。流石に金属は重い気がするのでインベントリの空き4ヵ所に入れていきましょう。

 ある程度進むとMOBも出てきました。大きさは東門にいるラビトットよりも大きいくらいで、スコッピーという名の蠍です。フルダイブに慣れた初心者向けのマップですから、尻尾には毒でもあると考えておきましょう。現状のスキルレベルを考えると、火魔法を20にしてから、光と闇のレベル上げです。流石に19で放置するのは気持ちが悪いです。


「【ファイアボール】」


 スクロールではなく、スキルを使いました。あれは緊急時用ですし、MPが満タンなので自然回復分がもったいないですし、ある程度は減らしておきます。ただ、属性の問題なのか、強いのか、時々倒しきれないことがあります。まぁ、レベルが上がればいいので、気にするのはやめましょう。多くの魔法を使う機会がある、そう思えばいいのですから。

 東側と比べるとスコッピーはドロップ率が悪いのか、固い殻(小)をあまり落としません。素材アイテムとなっていますが、何に使うのかわからないので、落ちなくてもいいのですが、目に見える実りがないと、やる気に悪影響が出ます。そんなことを考えながら北上していると、火魔法がLV20になった通知が来たので、ファイアウォールを使い、陣をリストに加えました。さぁ、後は光と闇です。

 銅鉱石を拾いながら進んでいると、エリアが変わったのか出現するMOBが変わりました。ロックスネークという人程の大きさがある岩の蛇ですが、そんなに大きくないですね。ただ、蛇のように動き回るので、魔法が当てにく――。


「くは」


 流石に岩は硬いです。体当たりが結構ききます。いえ、私の防御力が低すぎるんですね。初期装備以外は肘当てと外套しかないのですから。

 ここは役に立たないポーショ……、いえ、とりあえず倒しましょう。鞄から手に引っかかったライトボールのスクロールを何枚か破り取り、襲ってくるロックスネークに対し、スクロールを叩きつけました。


「【ライトボール】」


 叩きつけたスクロールから光球が出現し、ロックスネークを飲み込みました。光が収まると、そこには何もありません。ふう、何とかなりましたが、オーバーキルと言うか、少し過剰でしたね。それにしても、ロックスネークのドロップも銅鉱石とは……。どうやらここは鍛冶持ち向けのマップのようです。ライトヒールで回復し、先へ進みましょう。

 スクロールの束に10枚毎に印をつけ、残りの枚数を把握しやすくしたところ、先程は5枚使ったようです。残りは92枚。これはしっかりと把握しておかないといけません。次は4枚で試します。襲ってくるロックスネークに対し、スクロールを叩きつけながら発動すれば、避けられることはありません。その上、失敗してもMPは全て回復に回せるので、順調に進めます。MPが尽きてもライトヒールのスクロールがあるので、回復手段がなくなるということはないでしょう。スクロール3枚の同時使用だと倒せないので、4枚で進みましょう。

 何体か倒しているとドロップに胃石(小)がありました。何というか、コケッコーの胃石とは意味が違う気がします。まぁ、鑑定の結果としては同じに見えるので気にせず行きます。

 同時に襲われたり、死角から尻尾に襲われたりしたときにライトヒールを使っていたお陰か、思いの外早く目的の通知が来ました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【光魔法】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【聖魔法】 SP3

 このスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 ふう、目的の片方を達成しました。途中、索敵がLV20、隠蔽がLV10、魔法陣がLV25になっていたので【残りSP52】となりました。早速取得し、残りSP49です。シャインという魔法が使えるようになりました。説明を見る限り、光属性の範囲魔法といったところでしょう。ライトウェイブよりも強いといいのですが。ちなみに、魔法陣がLV25になった時は、魔石排出という能力が解放されましたが、何となく予想の着く名称なので、確認は後回しにしていました。小休止を挟み確認すると、埋め込まれた魔石を取り出すという能力だったので、魔石融合と対になる能力なのでしょう。

 次は闇魔法です。慣れてきましたが、油断は禁物なので気を引き締めていきましょう。スキルレベルが上がったため、INTも上がったはずですが、3枚では倒せないので、4枚で叩きつけるのを続行です。スキルレベルの差はあっても、今回で魔法陣を30にするのは無理そうですね。それに、街の散策もあったので、戻るのを優先します。





 街に戻ってきました。

 それにしても、とても惜しいです。闇魔法がLV29でした。再精はLV15、魔法陣はLV28、魔力操作はLV26、聖魔法はライトヒールでもレベルが上がるのでLV2になっていましたが、現状それはどうでもいいです。

 スクロールは、【ライトボールのスクロール】58枚、【ダークボールのスクロール】278枚が残りました。スクロールの使用で、魔法と魔法陣のレベルが上がるのはありがたいです。戦利品ですが、銅鉱石が30個、胃石(小)が10個、固い殻(小)が10個です。銅鉱石は時雨に渡す約束をしましたし、胃石はMPポーションにするとして、固い殻はどうしましょうか。……そういえば、冒険者ギルドには納品クエストがありましたね。ちょっと確認しましょう。時雨に連絡すると、合流するのに時間がかかりそうなので、冒険者ギルドで初級錬金セットを回収してオババの店に行きましょう。

 冒険者ギルドのクエストを確認すると、やはりありました。固い殻(小)10個の納品クエストです。10個で700Gなので、この辺りは東門のドロップと変わらないようです。その後、オババの店でいつものやり取りをした後、MPポーションを作りました。商人ギルドには行っていないので、値段がどうなったかはわかりませんが、まぁ、下がっているでしょう。それでも赤字になることはないので、店の商品を見ながら時間を潰すことにしました。

 スキル次第で売り物が変わるので、何か目ぼしい物はないかと見ているのですが、冒険者ギルドでも売っている紙の束以外、欲しい物はありませんでした。


「こんにちは、リーゼロッテいる?」

「おー、時雨、待ってたよ」

「ごめんごめん、ちょっとエスカンデのフィールド行ってたから、時間かかっちゃった」


 どうやら時雨のPTはもう狩場を変えたようです。まぁ、私も東から北に変えたので、場所を言わなければ、同じです。


「あ、そうそう、渡す前に聞くけど、銅鉱石も錬金使うと変化する?」

「えーと、錫混ぜて青銅とかには出来るけど、見た目に拘る人以外はいらないかな。鍛冶の場合はインゴットにするのもレベル上げになるから、私はそのままでいいよ」


 皮の場合、小のままだと継ぎ接ぎだらけになるので錬金して大にした方がいいのですが、鉱石の場合は違うようです。それはそれで私の手間が省けるので、ありがたいですが。


「そんじゃ、はい」

「はい、確かに。ありがとね」

「明日は西側に行くから、期待しないでね」


 西側はある程度成長した人向けとなっていたので、ちょうどいいかもしれません。詳しい内容は見ていないのでわかりませんが、荒れ地から砂漠になっていると聞きました。時雨やハヅチに関係あるものが落ちるとは思えないので、渡すものはないでしょう。


「……そっか、西側か。気を付けてね」


 時雨の表情は本当に心配しているようでしたが、そんなに難易度が上がるのでしょうか。少し緊張しながらも、今日はもう遅いのでログアウトしました。





 大型連休四日目、昨日のログイン時間が長かったため、少し寝坊しました。

 こういう日の朝食は簡単に作れるものにします。


「葵は宿題やってるの?」


 朝ご飯の準備が出来たので葵を起こすと、とても眠そうでした。


「んー、少し、づつ……」


 やっているのならいいのですが、いつもギリギリになって騒いでいるので、私はそれを見て楽しむことにしましょう。


「あ、そういえば、西側行くんだよな」

「そのつもりだよ」

「……まぁ、気を付けろ。無理だと思ったら、南東の森で綿でも集めてくれ」


 綿ですか。恐らくレベル上げが次の段階にいったのでしょう。二人して気を付けるよう言ってくるということは、難易度の高いマップだと思うので、気を引き締めて行きましょう。





 いつもの様に家事と宿題を済ませ、お昼を済ませてからログインしました。普段から疑問に思っているのですが、実質寝ている葵はお腹が空くのでしょうか。まぁ気にしても仕方がないので西側のマップへ行ってみましょう。

 西門から出るとそこは荒れ地でした。この先が砂漠なら、北側にいたMOBはこっちにいるべきだと思うのですが、それは言っても無駄でしょう。ダークボールのスクロールを準備し、出発です。

 西へ向かって進んでいると、イグアナのような黄色いMOBを見付けました。動きは遅いようなので、スクロールを叩きつける必要はなさそうです。それなら1枚づつ試しましょう。


「【ダークボール】」


 動き回ってはいても、動きの遅いイエローサンショギョです。倒すまでに6枚使いましたが、ダメージをくらうことはありませんでした。ただ、固いです。イエローサンショギョだけに、黄色い鱗を落としたのですが、これは何に使うのでしょうか。調べればわかりそうですが、とりあえずしまっておきます。これだけ固いMOBは不人気のようで私以外のプレイヤーは見かけません。ゆっくりと倒しながら進んでいましたが、7体倒した所で通知がありました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました―――――――

 【闇魔法】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【冥魔法】 SP3


 【魔法陣】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【魔力陣】 SP3


 【光魔法】【闇魔法】がLV30MAXになったため、複合スキルが開放されました。

 【空間魔法】 SP3

 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 来ました、来ました、来ました。初の複合スキルです。それに、魔法陣もとうとう、LV30です。さっさと3つとも取ってしまいましょう。


 【冥魔法LV1】【空間魔法LV1】【魔力陣LV1】【残りSP44】


 冥魔法LV1で覚えた魔法はシャドウという範囲魔法です。地味でよくわかりませんが、そこそこの威力はありました。そして、待ちに待った 空間魔法です。前もって聞いていた通り、インベントリという魔法を覚えました。使ってみると、便利ではあるのですが、維持コストが辛いです。まぁ、スクロールがあるので困りませんが、街で解除することを考えると、ドロップ品を預かっておくための魔法です。せっかくなので、レベル上げのために維持しておきましょう。

 そして、魔力陣です。これは、スキルと同じ名前の魔力陣という能力が解放されています。これはMPを使い、魔法陣を展開する能力だそうで、前もって準備していなくても、魔法陣で魔法を使えるようです。まだ詳しくはわかりませんが、発動までに時間のかかる魔法ほど、真価を発揮するそうです。

 次に上げるスキルですが、火魔法はLV20なのでLV17と中途半端な風魔法にしましょう。というか、火と光と闇以外だと、ウィンドボールのスクロールしかありません。イエローサンショギョには風属性の通りが悪いのか、1体倒すのに8枚使ってしまいました。他のスキルレベルが上がってINTが上がっているはずなのに、8枚も使うとは、効率が悪そうです。

 しばらくすると地形が荒れ地から砂漠へと変わりました。ここからはMOBが変わるはずなので、MOBに他の属性の魔法を使ってから――。


「へ?」


 横から衝撃を受け、倒れるのがわかりました。ゆっくりと時間が流れている気がし、視界の隅にあるHPバーを確認すると既に危険域を示す赤色になり、まだ動いています。

 そして、完全に倒れる瞬間、胸に何かを受け、視界が光の粒子に分解されているようです。


 ――――You're Dead ――――


 黒い世界にその文字が浮かび上がりました。

 次に見た光景はステンドグラスから光がさしている所です。何が起きたのかわかりませんが、ログを見る限り、私のHPがゼロになったようです。

 ここはセンファストの教会で復活場所のようですね。ヘルプを見る限り、デスペナルティとしてゲーム内時間で1時間の間ステータスが減少し、装備の耐久大幅ダウン、システムで保護されていないアイテムを手にしていた場合、喪失する可能性があるそうです。ですが、鞄の中身は全てありますし、手にしていたスクロールの束もあるので、今回は……、あ、インベントリが解除されています。もし、インベントリにアイテムを入れていれば、その場にぶちまけていた可能性があるわけですね。後は、手にしていたスクロールの束も、落としていた可能性があります。何せ、鞄の中身はシステム的に保護されるそうですが、外に出した瞬間、システムの保護から外れるので、装備品の杖と違いデスペナの対象のはずです。

 あー、外套と肘当ての耐久が30%を切っています。こまめに確認していませんでしたが、注意域の警告は出ていなかったので、デスペナのせいですね。

 それにしても、二人が気を付けるよう言っていたのはこのためでしたか。

 1時間のデスペナ中に魔法陣関連の作業やスクロール作りをしていてもいいのですが、最大MPも下がっているため、すぐに休憩を挟むことになるはずです。なら、今回はこのままログアウトして、夜のログインに備えましょう。





 ログアウトしてからお花を摘みに行ってお茶を飲むことにしました。葵は出てくる様子がないので、一人でおやつです。

 今日は時間があるのでカレーを多めに作りましょう。これなら、量次第で明日が楽になります。せっかくなので、伊織にもメールを送っておきましょう。調べればわかるかもしれませんが、西側にいたあのMOBについて聞いておきたいですし。

 買い物のため駅前を通ると、家電量販店の街頭モニターに Hidden Talent Online のスタッフインタビューが流れていました。


「本来、春休みに正式サービスを始めるつもりでしたが、αテストで一部のスキルに不具合が発覚した影響で、βがずれこみ、正式サービスが大型連休まで遅れたのは痛手でした。ただ、修正以外にも様々な点を改良したので、よりよいゲームになったと自負しております」


 新型VRシステムにゲームの方でケチを付けてしまったようですね。ただ、正式サービスが遅れた分、新型を多く販売出来たらしく、データ収集という面では利益もあったようです。まぁ、私に関係があるのは6月のちょっとしたお詫びのキャンペーンくらいなので、楽しみにして待っていましょう。






 今日の夕食は伊織も呼んで三人でカレーです。そこで、砂漠のMOBの話になりました。


「何か突然攻撃されて、倒れるって思ったら衝撃があってHPが全損したんだよね」

「あー、やられたんだ」

「やられたな」


 二人が何やら納得しています。やはり、何か知っているのでしょう。


「あそこにいるMOBはな、グリーンサボテンテンって言うサボテンのMOBだ。その攻撃方法は長距離射撃。サボテンの棘を飛ばしているらしい」


 サボテンですか。長距離射撃といいますが、私の視界にMOBはいませんでした。いったいどれ程の距離だったのでしょう。


「しかもね、アレ、威力が凄いの。盾持ちのPTメンバーが偶然盾で受けたんだけど、貫通してそのままやられたんだよね……」


 何やら遠い目をしています。それにしても、盾を貫通するとは……。運営はあのマップを進ませる気があるのでしょうか。


「対処法は……無し?」


 私の問に、二人が無言で頷きました。


「茜ならって期待してたんだけど、無理かー」


 何でもかんでも期待されても困ります。魔力操作の件はただの偶然なのですから。


「あ、コートの耐久が30%切ったんだけど、修理って出来る?」

「出来るぞ。でも、あの性能なら作り直した方がいいんだよなー。てか、あの試作品は大事に使うようなもんじゃねーよ。南東の森で綿取ってこいよ作り直すから」


 葵は試作品と名付けた物の扱いが雑です。まぁ、雑だから試作品なのですが。私としては、あのコートを作り直すよりも先に帽子が欲しいところです。


「帽子先じゃだめ?」

「量によるな。綿なら鞄に大量に詰め込めるから、二つ作れるかもしれんぞ」

「そんじゃ、覚えたてのインベントリ駆使して乱獲しようかな」


 攻撃用のスクロールを用意してから向かえばMP切れを心配する必要はありません。狩りに行くのは遅れますが、準備は大切です。


「あのスクロールってそんなに便利なのか?」

「クールタイムないから便利だよ」

「それはいいな」


 二人が何かを考えています。恐らくは緊急時用に欲しいとおもっているのでしょう。強力な範囲魔法であれば、囲まれた時に役立ちますから。


「私が使えない魔法は準備出来ないけどね」

「そっか、それじゃあそのうち作ってもらおうかな。それと、綿、頼んだぞ」

「今度私のPTメンバー紹介するから、一緒にどっか行こうね」


 伊織のPTですか、ちょっと興味ありますね。その後、葵のPTとも狩りに行く約束をしました。まぁ、全ての予定は未定ですが、約束するというのは大切です。





 いつもの様に寝る準備を済ませログインしました。

 狩りに行く前に準備をしましょう。まだレベル20になっておらず、スクロールが準備出来ていない水と土魔法のスクロールを量産します。


「オババオババー」

「何じゃ小娘」


 斯く斯く然々で奥を借りることに成功しました。魔法陣が魔力陣になったので売っている商品の変化を確認したかったのですが、それは後にしましょう。

 スクロール200枚ですが、スキルレベルが上がったためか、魔石を融合した魔力ペンのお陰なのか、あっと言う間に描き終わりました。と言っても、1時間ほどかかっていますが、MPは尽きていません。……尽きかけてはいますが。

 途中、面白い通知がありました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【魔力操作】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【魔力制御】 SP3

 このスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 魔力制御を取得しました。これで、ハヅチと時雨に魔力操作を教えられるといいんですが、まぁ、そのうちですね。準備が終わり、南東の森へと向かいました。途中、ラビトットを見かけましたが、杖で殴り倒し、ドロップはキャンセルしました。今は鞄の容量が惜しいからです。森に入り暫く進むと、見付けました、ワタワタです。何というか、白い綿に包まれたよくわからないMOBですね。まぁ、あれが何であれ、乱獲の対象である以上、私がやることは変わりません。まずはインベントリを発動し、インベントリの容量を確保します。ウィンドボールのスクロール92枚、ちゃんと10枚毎に印が付けてあるので、残りの枚数もわかりやすいです。それでは、1枚から始めましょう。


「【ウィンドボール】」


 流石に1枚では無理のようです。そのまま連続して使っていくと、3枚目で倒すことが出来ました。ワタワタはアクティブなのですが、距離を取れば十分に狙えます。問題があるとすれば、群れていることですね。索敵で逸れている個体を探していますが、基本的に群れているので、対処が面倒です。

 まぁ、ボルト系と違って、僅かながらに巻き込んでくれるので、いざとなればスクロールの大量消費で誤魔化しましょう。


「【ウィンドボール】」


 3枚同時使用で群れの中心に魔法を叩き込みました。直撃した数体は倒しきれたのですが、外縁部にいくにしたがってピンピンしています。少し下がりながら群れを誘き寄せれば、群れに出来た空白部分を勝手に埋めてくれます。今の中心にいるMOBはある程度のダメージを受けているはずなので、2枚で試しましょう。


「【ウィンドボール】」


 おお、上手くいきました。では、同じ手順で残りも倒してしまいましょう。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 おや、杖がLV15になりました。ですが、アーツを覚える気配がないので、下級スキルは10単位なのでしょう。この辺りの通知設定を変更しておきます。

 また狩りを続けていると、風魔法がLV20になりました。スクロールの残りは54枚、手に入れた綿は全部で72個です。狩りの前にアーツを覚えないスキルの通知は切っていたのですが、再精がLV20になっていました。道理で時々しくじってライトヒールを使っていたはずなのに、MPがじわじわと回復しているはずです。ただ、本当にじわじわとなので魔法を連発しての狩りには使えませんね。

 スクロールをウォーターボールへと変え、次の群れへと向かっていると、MOBを示す赤い点の他に、青い点が3つマップに表れました。これはプレイヤーでしょうか。だとしたら目的にしているMOBがかぶっていますね。まぁ、私はゆっくり狩るので見物してみましょう。


「【ハウル】」


 あれはヘイト系のスキルですね。ワタワタの群れが盾を持ったプレイヤーに群がっていきます。


「【ウィンドウェイブ】」


 魔法使いのステータスはわかりませんが、ウェイブ系で一掃しています。ウェイブ系はLV25で覚えるので、今レベル上げをしてる魔法では使えません。

 あれ? 青い点は3つあったはずですが……。

 もう一人はどこでしょう。マップを見る限り――。

 私は背後にいるプレイヤーに杖を突き付けました。まったく、女の子の背後を取るとは危ない人ですね。


「いやはや、すまないで御座る」


 ここはジト目を向けておく場面です。


「……」


 この忍者装備もしていない御座る口調の男が三人目です。あのPTの斥候役なのでしょう。よく見れば、青い点の色合いが少し薄いです。


「おい、どうした?」

「何でもないで御座る。他のプレイヤーと狙いが被っていたけれど、引いてくれただけで御座る」

「何だ、アンタも今の群れを狙ってたのか?」

「んー、狙ってはいたけど、他のプレイヤーの狩りも見たかったんで、見物してただけですよ」


 御座る口調の男が動かないので様子を見に来たのでしょう。別にやましい事はしていないので、構いませんが、人を挟むような立ち位置は止めて欲しいものです。とりあえず自然と近くの木によりかかりましょう。


「しかし、魔法使いがソロか。大丈夫なのか?」

「まー、そんな強くありませんから。それじゃ、私はあっちに行きますので」

「そうか、それじゃ、気を付けろよ」


 何気にいい人達だったようです。MOBが被らないように行き先を告げたのを理解したようで、私とは別の方向へ行きました。別のワタワタの群れを見つけ、スクロールを3枚同時発動しました。見た限りウィンドボールと同じ3枚が確殺ラインのようです。このまま一心不乱に続けていると、残り52枚の段階で水魔法がLV20になりました。どうやら、大体50枚くらいでレベルがあがるようです。やはり、基本スキルはレベルが上がりやすいですね。

 空間魔法はインベントリの維持だけですが、まだLV3なので大違いです。次は土魔法ですが、そろそろいい時間です。綿は空間魔法のインベントリに移しているので、158個とわかりますが鞄に入りきるかわからないので、一度戻りましょうか。ただ戻るだけでは意味がないのでロックボールのスクロールは用意しています。もちろん、覚えたウォール系の魔法は一度使ってあるので魔法陣は登録済みです。

 街に戻ると、残りが88枚、綿を追加で15個、土魔法はLV18になっていました。ログアウトするとインベントリがどうなるかわからないので冒険者ギルドの倉庫に預けてしまいましょう。

 さ、今日はログアウトです。

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