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 夕食の後片付けの後、ログアウトしたら寝られるよう準備をしてログインしました。新着メッセージを確認すると、代理販売の報告が来ていました。MPポーションが売り切れたのは予想通りですが、コケッコーの丸焼きも売り切れていたのは驚きです。あれは割合上昇のアイテムですから、序盤は効果が薄いはずなのですが……。まぁ、気にせず代金を受け取りにいきます。

 商人ギルドに入ると視線が集中しましたが、目立った動きをする人はいません。人も減っているので、NPCの総当りでもしているのでしょう。さて、代金を受け取り、所持金が【844,180G】になりました。MMOで金額を表記する時、あと一つ桁があがると単位がKからMに変わります。目的なく貯める時の目標にはちょうどいいですね。まぁ、MMOですから、これくらいはすぐに消し飛びますけど。早くオババの店に行ってスクロール作りの続きをしましょう。





「オババオババー」

「おや? あの時の嬢ちゃんか」


 おや? 落ち着きませんね。オババの他にもう一人、鎧を着た人がいます。どこかで見たとこある気がしますが、誰でしょう。


「何じゃ小娘、今日は随分と早いのう」

「外に出る前に寄ったからね。ところでそっちの人は?」

「ハハハ、ひどいな。俺がここを教えたのに……」


 ここを教えてくれたのは……。


「ああ、東門の門番さんですか。もしかして、オババの息子さんですか?」

「その通りだ。この通り寂れた道具屋だから、滅多に客が来なくてな……」


 オババを思っての事だったんですね。まぁ、オババの店に文句はないので何の問題もありません。


「ここを教えてくれて感謝してますよ。それでオババ、また奥を借りていいですか?」

「かまわん、いつものように好きに使え」


 どうやらオババは息子さんの相手で忙しいようです。奥の作業場へ入り、スクロールを作る準備をします。最優先であげることにした光魔法と闇魔法はレベル18とレベル15。大量にあると便利なダークボールのスクロールとライトボールのスクロールを作りましょう。

 カキカキカキカキ。

 ……ああ、途中ですがMPが尽きました。現時点で魔法陣LV22、闇魔法LV17です。今描いている束が終わればレベル18になるはずなので、それが終われば中途半端になりますが、ライトボールに移る予定です。MPがなければ何も出来ないのでスキル一覧でも見てみましょう。自然回復速度を上げるスキルがあってもおかしくありません。

 しっかしいろんなスキルがありますね。戦闘補助系や各種生産、ネタにしかなりそうにないスキルまで、様々です。条件を満たしていないため、解放されていないスキルも山ほどありますが、この中の何割は未実装なのか……。

 おや? 再精というスキルを見付けました。このスキルの上は未開放ですが、恐らく再生でしょう。解放条件は自然回復量が関わっていると思いますが、HPもそれなりの量を自然回復しています。それでも解放されていないのであれば、尽きたかどうかでしょうか。一度HPを全損すれば解放されるかもしれませんが、検証マニアではないので、考えるのはやめましょう。ステータスに再精LV1が追加され、残りSP31になりました。

 しばらく机に突っ伏して休んでいると。


 ピコン!

 ――――World Message・インスタントダンジョン【草原の門】がクリアされました――――

 プレイヤー・【ザイン】率いるパーティー【アカツキ】によって、インスタントダンジョン【草原の門】が初クリアされたため、これ以降、同ダンジョンの難易度が下方修正されます。

 【草原の門】に阻まれた街【エスカンデ】解放クエストが開始されます。


 ――――World Message・ワールドクエスト【閉ざされた門を開け】が開始されます――――

 このクエストは【草原の門】をクリアしたプレイヤーのみが挑戦できます。

 閉ざされた門への魔力供給 【0/100】

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 何か始まりました。

 一部のプレイヤーにとっては名誉とはいえ、名前が晒されるわけですか。ダンジョンをクリアしたプレイヤーだけが挑戦出来るとは言え、達成状況は誰でも確認出来るようです。見ている限り、少しずつ上昇しているので、すぐに終わるは……。あ、供給が止まり、しばらくすると減少し始めました。なるほど、これは長引きそうです。供給方法は不明ですが、次の街が解放されたらダンジョンに挑むつもりです。さて、こうしている間にもMPがかなり回復し、再精のレベルも3になっています。この手のゲームで序盤はレベルが上がりやすいのですが、段々と辛くなっていくのは基本ですね。

 さぁ、続きだ!

 気合を入れて描き、【ダークボールのスクロール】200枚が描き終わりました。ステータスには魔法陣LV23、闇魔法LV18と記載されています。

 次は、【ライトボールのスクロール】200枚です。全回復していないため、MPが100枚分持ちませんでした。これほどまでにMPポーションを残しておかなかったことを後悔するとは思いませんでした。また机に突っ伏していると、再精がLV5になった通知が来ました。まぁ、アーツなり、アビリティなりが解放されたわけではないので、この通知は切ってもいいかもしれません。

 【ライトボールのスクロール】100枚を描き終わる直前に、また通知が来ました。何のスキルかと思えば、光魔法がLV20になった通知でした。ライトウォールを覚えましたが、一度も使っていない魔法はリストに陣が乗りません。流石にここで使うわけにはいかないので、後回しです。

 光魔法LV20は切りがいいので、次は【ダークボールのスクロール】にしましょう。

 そして、【ダークボールのスクロール】の最後の一枚を描き終わり、束に戻します。

 これで準備したスクロールは、【ファイアボールのスクロール】100枚、【ライトヒールのスクロール】100枚、【ライトエンチャントのスクロール】100枚、【ウィンドボールのスクロール】100枚、【ダークボールのスクロール】300枚、【ライトボールのスクロール】100枚の計800枚です。

 その結果は、魔法陣LV25、光魔法LV20、闇魔法LV20、再精LV7、魔力操作LV18、残りSP36です。今日やることは、ウォール系の魔法を使って陣をリストに乗せるのと、スクロールを使った場合、スキルに経験値がはいるのかですね。ああ、でも魔法陣LV25で魔石排出が解放されたので、手持ちの魔石(小)を使うとどうなるか試すのもありですね。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや?フレンドメッセージが来ました。へぇーこんな音が鳴るんですね。

 フレンド登録してあるのはハヅチと時雨だけなので、そのどちら――。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 きっと二人共ですね。出来ればまとめて来て欲しかったです。

 先に来たのはハヅチですね。

 えっと、何々?

 胃石(小)を大量に確保したからMPポーションを作って欲しい。ですか。

 後、皮とか羽毛を取りに行きたいとのことです。


「オババー、ここに知り合い呼んでもいい?」

「構わんが、奥には入れんぞ?」

「ありがとー」


 さて、マップのスクリーンショットを添付して、返信っと。次は時雨です。まぁ、内容が同じなので二人目の許可も取って返信しました。私はMPを回復しながら待つとしましょう。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 今日は連絡がよく来る日です。ハヅチからですね。送ったマップデータの場所に着いて時雨と合流したけど中に入れないそうです。……この店、何かしらのフラグ管理がされているようです。とりあえず、私が中から扉を開けると二人が溜め息をついています。


「……何でフラグ管理されてる店を見つけてんだよ」

「うん、何でだろうね」


 フラグを立てたプレイヤーが扉を開けている間は他のプレイヤーも入れるようで中に入った二人をオババに紹介します。


「こっちがハヅチで、こっちが時雨。私の友達だよ。そんで、こっちがこの店の店主のオババ」

 二人が自己紹介を始めました。ハヅチは双子の弟ですが、それは現実での話。ここではゲーム内の名前を借りて友達と紹介します。


「嬢ちゃんの知り合いなら、好きに来るがいい」


 どうやら二人のフラグも立ったようです。ただ、私と違い、奥には入れないようなので、その辺りは自力で頑張ってもらいましょう。


「そんで、MPポーションなんだけど……」

「本当に頼んでいいの?」


 今までずっと生産をしていたので狩りをしたいとも思いますが、別に急ぎではありません。ここは二人の頼みを優先すべきです。


「ダメだったら呼んでないよ」


 ただ、安請け合いしたことを少し後悔しています。何せ、二人あわせて400個の胃石(小)があるのですから。材料持ち込みということで、魔力水入りポーション瓶の代金も貰い、追加で手数料として1個につき1,000G貰うことになりました。原価自体はβテストと変わってないらしいのですが、その利益率に顔が引き攣っていました。ですが、それは私のせいではありません。なぜなら、代理販売の価格は自由に決められますが、今までの価格から大まかな数値が仮で入っています。私はその5,000Gという数値をそのままにしただけです。文句をいうなら、1日10個しか入荷しないMPポーションを高値で転売した人に言って欲しいです。

 私は鞄に詰め込んでいた白い皮(小)と羽毛をハヅチに押し付け、作業を始めました。MPは全回復していたため、すぐに終わるので、店で待っていて貰うことになりました。そして、大量の素材を使い、錬金します。錬金よりも運ぶほうに時間がかかるのもどうかと思いますが、全て終わりました。錬金LV22、再精LV8、残りSP39となり、複数の同じアイテムを合成し上位アイテムにする昇華と、その逆を行う分解という能力が解放されました。今は試せそうにありませんが、その内何かで試しましょう。


「全部終わったよー」

「はぇ!」

「量が多いから、もっとかかると思ってたのに」

「いやー、材料二つなら一気に作れるし、魔法系スキル多いから、MPも回復量も多いんだよ、きっと」


 胃石の状態では鞄に入りきっていたようですが、MPポーションにすると入り切らないようです。そのため、ハヅチは前もって大量の鞄を用意していました。とても重そうですが、前衛スキルが多いのでSTRが高く、問題なく持てているようです。

 二人にMPポーションを渡すと、ハヅチからトレード申請が来ました。

 MPポーションは手渡しトレードをしたので、追加で何かをする必要はないのですが……。


「皮とかの素材は、リーゼロッテの装備の代金だろ。とりあえず試しだから受け取ってくれ」

「ん、あんがと」


 トレード画面には【魔女志願者の外套・試作品】と書かれています。「魔女の」ではなく、「魔女志願者の」としているところに何か含みを感じますが、現状のスキルで魔女を名乗ることは出来ないので、まぁ、良しとしましょう。

 受け取った外套を装備すると、袖の長い黒いコートのようです。デザイン的には男物にも見えますが、袖が捲くってあるのはいい演出です。ただ、胸の上下にあるベルトには悪意を感じます。

 ですが、性能はいいですね。


――――――――――――――――

【魔女志願者の外套・試作品】

 魔女志願者が身に着けている外套

 試作品であるため、特殊な効果はない

 耐久:100%

 防御力:▲

 魔法防御力:▲

 INT:▲

 MP:▲

――――――――――――――――


 さて、どの程度の性能なのでしょう。魔法使いは後衛職なので防御力自体は気にしませんが、INTとMPが上がるのはありがたいです。


「うん、悪意も一緒に受け取ったから」


 この胸を強調する二本のベルト。強調出来るだけのモノを持った人がつけているのを見るのは好きです。ですが、私がこれを締めることはないでしょう。ハヅチもそれを知っていながら付けるとは……。


「フフフ、フフ、フフフ」


 自然と笑みがこぼれました。まぁ、今後の装備には要望を出すので、今は問題ありません。


「まぁまぁ、装備に空きがあるのはまずいからって、急ぎで用意してくれたんだから」

「わかってるから、強く出れないんだよね」

「ま、正式装備の時までには要望決めといてくれ。物理防御は低いけど、魔法周りはそこそこの数値のはずだ」

「はーい。……ハヅチは数値見れるの?」

「他の装備との比較だよ」

「なるほど。それで、これの素材、どこで取ったの?」

「ん? ああ、街の南東にある森だよ。綿を落とすMOBがいるから、レベル上げついでに乱獲した」

「ハヅチのPTはそっちメインなんだ。私のPTは北をメインにしてるよ」


 二人のPTはそれぞれの生産に役立つマップをメインにしているようです。私はどこかに拘る必要がないので、次回からは他のマップを回ってみましょうか。


「それでだ、リーゼロッテ。現実の明日、俺達はそれぞれのPTでインスタントダンジョンに挑戦する。その後、難易度によっては三人でいかないか?」

「あれ? その手の解放クエって第一発見者にしばらくは任せる主義じゃなかった?」

「俺のPTに解放クエストを突破する方法はない。だから、俺と時雨は明日の昼過ぎに行って、リーゼロッテを連れて行くのは夜だ。攻略組を自称するんだ、そのくらいあれば攻略してるだろ」

「βだと、第二の街で携帯用の生産設備が売ってたから、早く行きたいんだよね」

「私がクリア出来る保証はないよ。進化したの杖だけだから」

「だから、難易度によっては、だ。それと、魔力水入りポーション瓶まだ見つかってないから、手持ちの材料がないなら、瓶だけでも市場に流して欲しい」


 おやおや、私にNPCが売っているアイテムを転売しろというのですか。

 今の状態では焼け石に水だと思いますし――。


「自分で売ればいいのに」


 おっと、口に出してしまいました。


「やっぱ気付いてねーか」

「しかたないよ、リーゼロッテだもん。あのね、このお店、プレイヤーのスキルによって買えるアイテムが違うの。私には鍛冶系のアイテムが買えて、ハヅチには裁縫系のアイテムが買えるの。だから、魔力水入りポーション瓶を買えるのは、リーゼロッテだけなの」


 面倒です。とても面倒です。何ですか、このフラグ管理されまくったお店は。

 試しに、ちゃんと見ていなかった商品一覧を見てみると、【魔力ペン】という商品にNewと付いていました。スキルレベルで解放されるのでしょうが、これはインクがいらなくなるペンなので、買っておいて損はありません。


――――――――――――――――

【魔力ペン】

 魔力で字を書くペン

 字を書くのにMPを消費する

――――――――――――――――


 話がずれましたが、魔力水入りポーション瓶を原価で売ると転売で凄いことになるので、ある程度の価格で売ることにしましょう。

 私が買った瓶を二人にも持たせ、合計150本用意しました。相談の結果、1本1000Gで流すことにしたので、利益は500Gです。

 まぁ、売れなければ取り下げて私が作ればいいんです。

 瓶を流すという情報はハヅチが掲示板に上げるらしいので、必要な人には頑張って手に入れて貰いましょう。

 今日は生産で疲れたので、ログアウトします。


「あ、錬金が20越えたらでいいから、今度から皮の小は10枚で昇華すれば大になるから、そっちでくれ」


 それだけいうと二人はオババの店から出ていってしまいました。

 どうやら複数作れるようになったので錬金が15を越えていると思ったようですが、20を越えているとは思っていなかったようです。昇華を使うのは次回からですね。





 大型連休三日目、双子の弟の葵が呑気にログインしている中、私はいつものように家事やら宿題やらを済ませています。

 そろそろ葵もログアウトしてくる頃ですし、お昼の準備をしましょうか。


「葵ーご飯できたよー」


 まぁ、ログインしていると聞こえないわけです。

 そこでスマホからゲーム内にメールを送ります。フルダイブシステムが出来たばかりの頃は、そういった機能がなかったらしいのですが、安全面から追加された機能の一つです。

 連絡が来たからといってログアウトしてくるかは葵次第ですし、時間もかかるものなので、出来上がる前に連絡しています。もう少しで出来上がる。そんな頃、葵の部屋から物音がしました。まるで出来上がるのを待っていたかのようです。


「おー、出来上がってる」

「ミートソースとトマトソース好きな方選んでいいよ」


 今日はレトルトのパスタなので楽をしました。葵はインスタントダンジョンの話をしたがっているようですが、それは食べ終わってからゆっくり聞きましょう。


「いやー流石に初回クリアの終わってるインスタントダンジョンは楽だったよ」

「クリア済みかどうかでそんなに違うの?」

「他のダンジョンなら変わらないけど、次の街への解放ダンジョンだから、ある程度育ったらクリア出来るようになってんだよ」


 それなら、そもそも初回も簡単でいいと思うのですが……。


「初回クリアに関して言えば、何かしらのレアアイテムがあるから、難しくしてるんだとさ」

「ああ、そーゆーこと」


 トッププレイヤーの証とか、攻略組のトップとか、そういうことですね。レアアイテムというのも、次も街を散策するのに有利になるアイテムだったりするのでしょう。


「そんで、伊織とも話したんだけど、茜連れてっても問題ないだろうってさ」


 パーティーでの攻略は午後で、私と行くのは夜と聞いていたのですが、どうやら二人共既にPTでクリアしたようで。ですが、それだと問題があります。


「PTメンバー放っておいていいの?」

「ああ、それに関しては前もって言ってあるから問題ねーよ。そもそも、ときたま生産する人間が集めたPTだぞ。自由時間も多いんだよ」

「まぁ、それならいいんだけど。ところで、解放クエとかどうなったの?」

「あー、難航してるらしい。扉に埋め込まれてる玉に魔力を貯めるってクエなんだけど、魔法攻撃をぶつけると、消費MPの一部をチャージ出来るんだ。だけど、MPポーションがぶ飲みしても全然間に合わないらしい」

「へぇー。そんじゃ、ボス倒して誰かがクリアするの待ってればいいんだね」


 MPポーションがぶ飲みで誰かがクリアしてくれるはずです。それまでゆっくり蓄えを増やしておきましょう。


「なぁ、茜。魔力操作なんてスキル持ってるの、何人いると思ってんだ?」


 急にどうしたのでしょう。とりあえず、私はオババに教えてもらいましたが、ああいったスキルは何だかんだで入手している人はいるものです。


「少なく見積もっても10人はいると思うよ」

「……掲示板を見る限り、茜だけだよ。他に取ってるプレイヤーがいれば、とうに終わってる」

「そ。そんでいつ行くの?」

「興味なしか。はぁ。ダンジョンには、午後1時……ゲーム内時間で15時に東門だ。解放はまだでもクリアしとこうって奴が多いけど、ダンジョンは独立してるから、入っちまえばすいてるぜ」

「りょーかい」

 そんなわけで、私は次の街の直前にあるインスタントダンジョンに向かうことになりました。

 出来れば空間魔法を取得してからにしたかったのですが、しかたありません。ダンジョンでスクロールの試運転です。





 ログインしました。ゲーム内時間で15時少し前です。初のダンジョンということで、デスペナもありうるので代理販売の代金は受け取らず、冒険者ギルドの倉庫に不要となった初心者用棒、羽ペンそして、今はいらない錬金用のアイテムを押し込み、無くなった紙を補充しました。

 これで、インベントリの空きが3ヶ所になりました。重いものが多く持てるのはいいことです。

 東門へ着くと、既に時雨がいました。

 前のうさ耳ハットはそのままですが、胴の部分が変わっています。鎧というよりは胸当てに近いので、動きを阻害しない防具という感じなので、身に付ける防具の形はずっと変わらないのでしょう。

 存在感のある胸を潰しているようですが、私への当て付けでしょうか。後で問い詰める必要がありそうです。


「お待たせ」

「時間より早いから、問題ないよ。それで、説明するから臨時PT作ってくれる?」


 私は時雨に言われた通りにPTを作りました。PTを作る時、名前を決められるようですが、初期設定は臨時PTなのでそのままでいいでしょう。PTを作った後は、時雨を誘えば準備完了です。ハヅチを待ちましょう。


「すまん、待たせた」


 時間ピッタリですね。遅れてない以上、何の問題もありません。


「PT送るよ」


 時間になったのでさっさとPTを組んでダンジョンへ向かってしまいましょう。

 私の意図を察したのか、ハヅチも歩きながら説明することにしたようです。


「今から行く草原の門はフィールド型ダンジョンだ。マップはランダムだから省くけど、出てくるのはゴブリンだけだ。まぁ、遠近揃ってるから、やっかいだけどな」

「何と言うか、基本だねぇ」

「まっ、ブランクがあるとはいえ、リーゼロッテなら問題ないでしょ」

「りょーかい。遠距離から狙えばいいかな」

「そうしてくれ。ただ、火魔法はやめてくれ。草原と森だから燃え移る」


 それはちょうどいい。光と闇を中心に育てるつもりなので火を使わない理由になります。

 インスタントダンジョンへ向かう途中、多くのプレイヤーが通っているためか、MOBの数が少なく、戦闘になったのは片手で足りる数でした。


「目的は同じだろうけど……、凄い人」


 ダンジョンの前には入場の行列が出来ており、順調に動いているとはいえ、それなりの時間がかかりそうです。


「中がインスタントってのが救いだな」

「ボスの順番待ちは面倒だからね」

「そうそう、面倒ごとは避けるべき」


 意外と早く回ってきた順番に従い、ダンジョンの入り口である門をくぐると、周囲からプレイヤーが消え、私達三人だけが残ります。青空の下、草原を基本に、木々が生え、森になっている部分もあります。遠めにゴブリンの集団が見えました。森の中にも多くのゴブリンがいるのでしょう。


「それじゃ、行くか。遠距離潰してくれれば、楽出来るから、頼むぞ」


 二人も武器スキルが進化しているため、武器に差が出来ています。

 ハヅチは片手剣を解放し、時雨は両手剣を解放したようです。ただ、時雨の場合は今後使う予定の武器の都合上、大きい剣は使っていません。

 しばらく進むと、木々の数が増えていき、死角が増えていきます。それでも、二人の索敵のレベルが高いようで、ゴブリンの位置を把握しているかのように、不意打ちを受ける事無く戦っています。


「そーいや、宝箱ってあるの?」

「ん? ゴミ箱ならあるぞ」

「何言ってんの、罠箱もあるじゃん」

「いや、中身はゴミだし、罠系のスキルないやつからしたら、ゴミ箱とかわらねーよ」


 どうやら宝箱もゴブリンのドロップもゴミばかりのようです。

 確かに、先ほどからドロップが【錆びた剣】やら【錆びた弓】やら【折れた杖】などの素材アイテムだけしかなく、二人はそのまま捨てていました。


「まぁ、ゴブリンは強さのわりに経験値いいから、スキル上げには重宝するぞ。今の内は」


 何と言うか、本当に次の街を開放するためだけのダンジョンのようです。可哀想な場所ですが、スキルの糧になってもらいましょう。

 草原が森になってしばらくして、システムからの通知がありました。光と闇の魔法が25になったようです。交互に使っていたということもありますが、思いのほか早くレベルが上がったため、ゴブリンを認めようと思います。


「【ライトウォール】」

「急にどうした?」

「いやー、使うの忘れてたんだよね。使っとかないと陣が登録されないんだよ」


 スキルレベルが上がって思い出しましたが、火魔法がLV19でした。出来れば20にしたいのですが、それはダンジョンをクリアしてからでも遅くはないでしょう。

 こうしてダンジョンを進んでいると、前を歩く二人が足を止めました。


「この先、モンスターハウスだ」

「それじゃあ、25になって覚えたウェイブ系使ってみよっか。光と闇があるから、何とかなるでしょ」

「2発撃てるなら、何とかなりそうだね。所詮ゴブリンだし」


 と言うわけで早速試してみました。

 ウェイブ系2発で大半のゴブリンが死に、ギリギリ生き残ったゴブリンはハヅチと時雨に斬り捨てられました。


「手応えが……ない」

「しかたねーよ。初回クリアされる前の難易度なら苦労するけど、その後じゃ、ただのチュートリアル用ダンジョンだ」

「ボス部屋、見えたよ」


 時雨が示す先には大きな扉がありました。ありがちなボス部屋ですが、普通に曲がったらボスがいた何てことは避けたいので、ありがちであって欲しい部屋です。

 この先に居るのは仮にもボスということで一度休憩を取る事になりました。


「ここのボスって強いの?」

「最初はジェネラルゴブリンだったらしいけど、今はホブゴブリンだ」

「取り巻きにゴブリンいるけど問題ないよ」


 どうやら弱いようです。

 それなら一つ試してみましょう。


「魔法陣で試したいのがあるんだけど、やってみていい?」

「何するんだ?」


 流石に何かを聞かずに了承するわけも無く、私は【ライトボールのスクロール】の束を見せました。

 同じPTなので持っているアイテムは鑑定が出来ます。二人はこれが誰でもライトボールを使える可能性のあるアイテムだと知り、唖然としています。


「作ったのはいいんだけど、まだ試してなくてね。何なら、試してみる?」


 私以外、正確には、魔力操作や、魔法陣、光魔法を持っていないプレイヤーが使ったらどうなるのかが知りたいんです。一番可能性が高いのは、発動は出来るが、光魔法の有無やレベル次第で威力が変わるということです。魔力操作や魔法陣は恐らく関係ないでしょう。


「試しに1枚貰っていいか?」

「わ、私も」


 二人に1枚づつ渡し、注意事項を告げます。まぁ、使ってないのでわかっている事は少ないですが。


「これにはキーワードが設定してあります。それを言うか、タッチして【はい】を押すかで、発動します。キーワードは魔法の名前にしてあるので、注意してください」


 説明口調で説明しました。やはりこういったアイテムの説明は機械的でなければいけません。それに、下手にキーワードを口にすると発動する可能性があります。それはそれで実験になりますが、98枚全部が暴発したら大変なことになるのでやめておきましょう。


「とりあえず、リーゼロッテが使ってからにするか」

「そ、そうだね」

「まー、そうなるよね。そんじゃ、そろそろ行く?」

「ああ」

「そうだね」


 扉の前で改めて動きを確認します。

 今回に関しては、私がスクロールの仕様を確認してから突っ込む事になりました。左手で杖と紙の束を持ち、右手で一枚づつ取って使います。とても持ちづらいですが、杖を装備しないという選択肢はないため、しかたありません。


「そんじゃ、開けるよ」

 私が扉を開けると、部屋の中央に座っているホブゴブリンが立ち上がり、奥からゴブリンがわらわらと出てきます。


「【ライトボール】」


 私がキーワードを口にすると、右手に持ったスクロールの魔法陣が光り、ライトボールが発動しました。それは狙い通りの場所へと向かい、ホブゴブリンを吹き飛ばします。

 どうやら、通常の魔法のように狙う事ができ、使うつもりの枚数しか発動しないようです。一束全部が発動したらもの凄いダメージになりそうなので、機会があったらためしてみましょう。ハヅチと時雨も私の真似をしてキーワードを口にしライトボールを放ちます。見た目は変わりませんが、INTの差が威力に直結している可能性はあります。

 この後はただ敵を倒すだけでした。大した山場もなく、ただMOBを倒すだけです。


 ――――Congratulation ――――


 空中に大きく文字が現れ、奥の扉が開きました。その先には水晶のような玉が埋め込まれた扉がありました。

 扉の前に行くと、初回クリアされた時に流れたメッセージに似たウィンドウが現れました。


 ――――ワールドクエスト【閉ざされた門を開け】――――

 閉ざされた門への魔力供給 【0/100】

 ――――――――――――――――――――――――


「二人とも、どうする?」

「俺達に出来る供給方法は魔法を放つことだけだ」

「変換率が悪くてね。絶対無理」


 自分達には出来ない。そう言っていますが、私にやれと目で言っています。今思えば、私にPTを作らせたのだって、自分達の名前を出さないためでしょう。それを今になって気付くとは、一生の不覚です。しかたありません、大人しく魔力を供給しましょう。ただ、魔法を使っていたのでMPが心許ないですね。それに、MPポーションは商品としか思ってなかったので、補充するのを忘れていました。


「二人とも、MPポーション残ってる?」

「ほらよ。代金は今度素材にしてくれ」


 ハヅチがトレード画面を出し、私に9本押し付けられました。私が何かレアな物を見つけると思っているようです。まぁ、見付けてみせましょう。

 1本を飲み、水晶に手を当てます。

 おへその下辺り、丹田と呼ばれる場所に意識を集中し、MPを操ります。MPは体から出さない限り消費せず、体から出しても繋がっているうちに戻せば、減ったMPは元に戻ります。MPが届く距離は魔力操作のスキルレベルに依存しているようですが、こうして手で触れている以上、何の問題もありません。

 私がMPを流し込んでいると、ウィンドウの数値がどんどん上がっていきます。このゲームはステータスを明確な数値で表してくれないため、MPがどれだけあるかはわかりません。ただ、減り具合と数値の上昇速度を見る限り、足りなそうです。


「これって減少が始まるのってどのタイミング?」

「今わかってるのは、一定時間供給がないと、ってことだけだ」

「それだけわかれば十分」


 それなら速度を落としましょう。1分かけてMPを流し込めば、次のポーションが飲めます。それを繰り返していけば、供給を終わらせることが出来ます。

 途中、魔力操作のレベルが上がったため、MPの操作がやりやすくなりました。加速も減速も思いのままです。

 そして、追加で2本のポーションを飲んだ後、とうとうその時がやってきました。


 ピコン!

 ――――ワールドクエスト【閉ざされた門を開け】をクリアしました―――

 報酬【魔石(大)】×2

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 ピコン!

 ――――World Message・ワールドクエスト【閉ざされた門を開け】がクリアされました――――

 プレイヤー・【リーゼロッテ】率いるパーティー【臨時PT】によって、閉ざされた門への魔力供給が完了しました。

 閉ざされた門への魔力供給 【クリア】

 これより60分後、【エスカンデ】への門が開き、ポータルによる移動が可能になります。

 なお、【センファスト】以外のポータルは現地に行って登録する必要があります。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 どうやらクリア特典として、1時間自由にしていいようです。

 街を回るも良し、フィールドに出るも良し、ポータルとやらを使って最初の街に戻るもよしということですか。ところで、センファストってどこでしょう。それに、ポータルなんてありましたっけ?


「先に言っとくぞ。センファストは最初の街だ。ポータルは多分だが、ログイン地点のことだ」


 あー、そういえば地球儀みたいなオブジェクトがありましたね。


「リーゼロッテは、MMOだとストーリーは後で派だもんね」

「んー、ちょっと違うよ。ストーリーは困ったら派だよ。何だかんだヒントの塊だからね」

「それで他の奴より先に見つけるからタチわりーんだよ」

「十分時間はあったんだから、見つけられない方が悪いの。ところで、クエストのクリア報酬って二人にもいってる?」

「出てるよ」

「魔石(大)だろ。まぁ、用途不明アイテムだから、今すぐ騒がれることはないな。……処分に困るけど」


 ……用途不明?


「これの使い方、多分わかるよ」

「「は?」」


 せっかくですし試してみましょう。

 ここに取り出したるは何の変哲もない魔力ペン。そして、インベントリの肥やしになっている魔石(小)。


「この二つを……【魔石融合】」


 そう、魔法陣LV20で解放された能力です。これがダメになるのは困りますが、その時は運が悪かったということにします。

 万年筆のようなペンに小さな魔石が融合し、黒い石があしらわれた魔力ペンになりました。

 鑑定の結果は。


――――――――――――――――

【魔力ペン(魔石・小)】

 魔力で字を書くペン

 魔石が埋め込まれているため、

 字を書くのにMPを消費しない

――――――――――――――――


 こうなりました。予想通りの結果です。これで魔法陣のストックがなくなった時のMP消費が抑えられます。

 二人も鑑定したようで、驚きのあまりに、唖然としています。


「何でも、魔石の大きさは出力に関係するらしいから、これの使い所は考えたほうがいいよ」

「「……」」


 沈黙が流れています。

 二人の反応をまっているのですが、どうしましょう。

 しばらくして、ハヅチが意を決したように口を開きました。


「とりあえず、今度にしよう」


 こうしていてもしかたないということですね。

ハヅチを先頭に私達は開いた扉をくぐりました。すると、転送されるような浮遊感に襲われ、眩しさに目を閉じてしまいました。目を開けると、そこには最初の街にもあったポータルらしき物があり、見知らぬ街並みが広がっていました。


「懐かしーな」

「ほんと、そうだね」


 どうやら思い出に浸ることで現実逃避しているようです。まぁ、二人はβの時に来た事があるので見逃しましょう。


「二人はどうする?」

「簡単な用事だけすませて落ちるかな。結構時間かかったし」

「私もかな」


 確かに、時間を見る限り、晩御飯の買い物にいかなければいけません。

 次の街を開放した栄誉とかいらないので、60分待つつもりも毛頭ありません。と、いうわけで、私はポータルの解放だけ行い、先にログアウトします。


「あ」


 ちなみに、ログアウト前にスキルを確認すると。


基本スキル

【棒LV30MAX】

【火魔法LV19】【水魔法LV15】【土魔法LV15】

【風魔法LV17】【光魔法LV27】【闇魔法LV27】

【錬金LV22】【言語LV8】【鑑定LV15】

【魔法陣LV25】【魔力操作LV23】【詠唱短縮LV26】

【再精LV11】【索敵LV17】【隠蔽LV8】


下級スキル

【杖LV12】


【残りSP49】


 と、なっていました。

 杖はLV10の時に【連打】というMPを消費することで手数が増えるアーツを覚えていましたが、まぁ、使わないでしょう。光と闇だけ突出しましたが、目的のためです、しかたありません。

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