1-3

3話





 大型連休二日目、午前中の今はゲーム内では早朝です。葵はログインしているようですが、私は家事を済ませ、宿題のために別のソフトにフルダイブ中です。今の時代、3倍加速を念頭に置いた量の宿題が出されるので、現実でやる人はまずいません。ある程度終わらせたら、お昼を済ませてその後ログインするつもりです。

 ログアウトしてきた葵とお昼を食べていると、面白い話があると言ってきました。


「昨日の夜にMPポーションが見つかったらしいんだよ」

「へぇー」


 何処かでNPCが売っていたのでしょう。あの街にはいろいろな店があるので、総当りすれば見つかるはずです。


「冒険者ギルドと商人ギルドでは毎日10個出てたんだが、昨日の夜、一時的に在庫が増えたらしいんだ。しかも、匿名の代理販売もあったとかで。……売ったよな?」


 笑顔が怖いです。

 どうやら私が売った分のようです。ああ、何だか面倒臭そうなことになりそうです。


「まぁ、誰かに言ったりはしないからいいんだが、公式HPに掲示板やwikiがあるのは知ってるな? そこで話題になってるぞ」


 最近のゲームでは運営が掲示板と攻略サイトの場所を提供していることが多いため、時間加速しながら見ることが出来ます。アクセスしていませんでしたが、あるとは思っていました。


「後で錬金のレシピでも調べようかな」

「気を付けろよ。魔力水入りポーション瓶見つかってないから」


 はぐらかしていても気付かれているようです。二卵性とはいえ双子ですから、わかるものなのでしょう。


「普通にNPCが売ってたんだけどなー」

「そのNPCが見つかってないんだよ。とにかく、代理販売の代金受け取りにギルド行くだろうから、気を付けろよ」

「はーい」


 お昼の片付けをしている間、葵から現在のMPポーションを取り巻く状況を聞きました。

 何でも、最初に見つけたプレイヤーが大騒ぎしたらしく、その話はあっと言う間に広がりました。そして、一瞬で売り切れ、代理販売したプレイヤーの情報を聞き出そうとしたらしいのですが、匿名になっていたため、一切の情報が手に入らず、代金を受け取りに来るプレイヤーを待ち伏せ、関係ないプレイヤーの後を付けたプレイヤーもいたため、あっちこっちで問題になっているそうです。

 予想以上に面倒臭そうな状態なので、代金を受け取りに行くのが億劫になりました。ただ、MPポーションを手に入れた攻略組のPTが門の先にあるインスタントダンジョンを攻略直前まで行ったらしく、そのPTを狙って高額で転売されているそうです。先へ進むためには作るべきなのでしょうが、面倒ですね。オババ以外で売っているNPCがいればいいのですが。





 ログインしました。代理販売の商品が売り切れたことがメッセージで来ていたので、商人ギルドの様子を見ると、人集りが出来ています。衆人環視の中、受付に近付こうとすれば、すぐに人に囲まれてしまいそうです。所持金を考えると、受け取らないわけにも……。あー、今はまだいりませんね。下手に取りに行って囲まれても面倒ですし、このまま狩りにいきましょう。

 まずはコケッコーの様子でも見に行くことにしました。道中、ボルト系の魔法だとレベルの上がりが悪い気がします。恐らくですが、後から覚えた魔法の方が上がりがいいのでしょう。そこで、かなり無駄ではありますが、ボール系の魔法でMOBを倒すことにしました。ファイアボールで1確出来るのですが、一つ実験をしてみましょう。手にしたのはファイアの陣を描いた紙5枚。これをまとめてコケッコーに押し付けMPを流し込みます。


「あっち!」


 MPの分散に失敗したため紙を無駄にしましたが、普通の時より少し炎が大きかったので、何枚かは発動したようです。リザルトウィンドウを確認して続きをしましょう。

 何度か練習し10枚同時に発動できるようになりました。というか、MPを分散させるというより10枚使うという意思を強く持てばいいようです。この辺りはシステムが補助してくれるのでしょう。まぁ、10枚も同時に使う必要はないので、枚数の調節もしながら進みましょう。

 手持ちの陣を使い切ると、火魔法、魔法陣、魔力操作がそれぞれLV15になり、ファイアエンチャントと魔力描写を覚えました。ファイアエンチャントはSTRを強化してくれる魔法です。そして、魔力描写とは、使い捨ての魔法陣を描ける能力です。何でも、描く時にMPを消費することで、魔力操作スキルがなくても発動出来ます。設定したキーワードを口にするか、タッチして使用するなど選べるようです。どうやら、さっき苦労した複数枚同時発動が無駄になりそうです。

 早速試したいのですが、人がいるので描くのはオババの店にして、他のスキルを上げましょう。棒が24まで上がったので、頑張れば30まで上げて上位スキルを取れるかもしれません。

 微妙なレベル差のせいか、魔法スキルと棒では上がる速度が違く、棒がじわじわと上がっていきます。

 何度かかすり傷を負いました。ダメージ量としては放っておけば自然回復する量ですが、はっきりと痺れとして認識できました。どうやら小さいダメージを連続して受けていつの間にかHPが0になることはないようです。まともに攻撃を受けた場合でも痺れに変換されるので、痛みで動きが鈍らないように工夫されているようですね。まぁ、受けたのが体当たりとか突くくらいなので、斬撃の場合はどんな痺れがくるかわかりませんが。

 集中して狩りをしていると、6個の魔法スキルが15に、棒は29になりました。とても惜しいです。ですが、鞄が胃石(小)と羽毛でいっぱいです。火魔法を使っていた時に落ちた丸焼きですが、おやつ代わりに食べたり、周りのプレイヤーにお裾分けしました。もちろん、インベントリに入らない分をです。

 悔しいですが、棒は帰りながらレベルを上げましょう。ファイアエンチャントを使いながら殴れば、すぐに上がるはずです。途中で気付いたのですが、複数のエンチャントを使えば効率が上がります。ただ、MPの消費が激しいので、AGIの上がるウィンドエンチャントを重ねるだけにしました。

 その結果。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【棒】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【棒・改】 SP3

 【槍】 SP3

 【杖】 SP3

 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 今すぐ杖を取りたいです。ですが、外では危ないので街まで走っていくことにしました。

 目的地はもちろんオババの店です。あ、いや、杖と魔力水入りポーション瓶が買えないので、商人ギルドですね。胃石(小)を持っているのに売らないのは不審ですが、値段を確認して高くなるのを待っているのを装えばいいですし、他にも手段は色々あります。

 他のアイテム? その内ハヅチに押し付けますよ。





 商人ギルドへ足を踏み入れると、周囲の眼が私へと向きました。動きに無駄がなかったので、これは予想ですが何度も同じことを繰り返しているのでしょう。よく飽きないものです。私がカウンターで手続きをしていると、足音がしました。


「おいあんた、MPポーションの代金を受け取りに来たんだろ。次はギルドを通さず直接俺に売れ」


 ああ、面倒な輩です。面倒なので無視しましょう。時折受付嬢のNPCとの会話が入りますが、取引に関することは口にしないようです。これなら喚いている輩を放っておけます。


「それでは、又のご利用をお待ちしております」


 これで私の所持金は385,180G。杖を始めとした必要な物が買えるはずです。


「ところで、杖は何処で買えますか?」

「武器としての杖でしたら、街の武器屋か冒険者ギルドで買えますよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「おい、わかったならまずはフレンド登録だ。早くしろ」


 さて、それでは杖を買いに……、あ、まだ喚いていますね。こんな人と友達になりたくないですね。というか――。


「逆の立場だったら、フレンド登録しないんだろうなー」

「なっ……」


 ああ、口に出してしまいました。ですが、ここで言い淀むということは、図星なのでしょう。まったく、自分ならどう思うか考えてから口に出して欲しいものです。さて、静かになったところで向かいにある冒険者ギルドへ向かいましょう。コレに付き合っている暇は、ありません。


「待て!」


 ふむ、肩を掴まれた程度ではハラスメント警告はでないようですね。これは面倒な。とりあえず、振り返って少し待ってみます。


「……待ちました。では、さようなら」


 希望通り待ったのですからこれ以上は付き合う必要ありません。


「こっちが下手に出てりゃ付け上がりやがって!」

「そこまでにしたらどうだ? 下手に出てないし、そもそも彼女がMPポーションを……、魔力水入りポーション瓶を見つけたプレイヤーだと決まったわけじゃないんだ」


 く……、それは私が言いたかったのに。私から台詞を奪ったのは何処の誰でしょう。


「ああ、すまない。困って……そうはなかったが、騒がしかったから……な」


 騒がしかったの部分は騒がしい輩に向けられていました。この人が後を引き受けてくれるのなら押し付け……、任せてしまいましょう。


「てめぇ、いきなり何だ!」

「俺か? 俺は――」


 商人ギルドを出ると二人の声は聞こえなくなりました。この辺りはシステム的な物なのでしょう。

 冒険者ギルドへ足を踏み入れると、そこは静かでした。いえ、多少なりとも声は聞こえるのですが、煩い輩がいないだけでこうも違うのですね。ここで買える装備は基本的な物が基本的な価格で買えます。街の武器屋では、性能と価格にバラツキがあるので、高性能な物や安い物が欲しい場合は街を回った方がいいでしょう。ですが、今は時間が欲しいです。


「嬢ちゃん、杖を使うための訓練はどうする?」


 最初のログインの際、武器スキルに関しては冒険者ギルドで簡単な指導をしてもらえると聞いた覚えが薄っすらとします。これがそれなのでしょう。LV30が上限の基本スキル、その一段上にあたる下級スキルなので上がりが遅い可能性があります。なら、受けて損はないはずです。


「お願いします」

「それなら、杖のスキルを身に付けてあっちに並んでくれ」


 杖スキルはオババの所についてから取ろうと思っていたのでまだ取っていませんでしたが、取ってしまいましょう。

 SP3を使い杖LV1を入手、残りSP32です。ちなみに、上位スキルを取っても下位スキルがきえるわけではないので、進化ではなく解放です。よくあるスキルツリー形式というわけです。棒から派生する他のスキルを取るために棒を育て直さなくていいのは助かります。おっと、スキルを取ったらパワースイングというアーツを覚えました。棒で覚えた振り下ろしとスイングの強化版のようです。

 受付で新しいスキルの訓練を頼むと、訓練場へ連れて行かれました。そこで教官のNPCに打ち込むように言われました。最初の案山子からNPCに変わっただけでやることは変わらないようです。

 元のスキルである棒のアーツも含めて言われた通りに行っていると、杖がレベル5になりました。この段階でアーツを覚えなかったので、下級スキルはLV5刻みではないのでしょう。

 さて、用事はおわりました。次は本来の目的地です。





「オババオババー」

「なんじゃ小娘」


 このやり取り、落ち着きます。いつものように奥を貸してもらったので、MPポーションを作ります。一個ずつ作っていると、途中でレベル15になり、2点複数作成という能力が解放されました。これは2種類のアイテムを素材にする場合、複数個分の素材を入れることで大量生産が可能になります。前回は気にしていなかったのですが、この後やろうとしていることを考えると、錬金でのMP消費は痛いです。まぁ、時間さえあれば回復を待ってもいいですし、赤字が出ないように少量ならMPポーションを使っても問題はありません。


「オババー、MPポーション売りたいんだけどー」

「嬢ちゃんが直接売った方が儲かるじゃろうに」

「んー、ちょっと面倒なことになってるんだよね」

「そうかい。まぁ、嬢ちゃんがいいなら構わんぞ」


 結果、半分の90個をオババの定価で売りました。

 休憩しながら錬金のレベルを確認すると、LV17まで上がっていました。ノーマルポーションを作れるレベルですが、MPポーションが高い間はこのままでいいでしょう。MPもある程度回復したので今度は魔法陣の出番です。

 まずは前回の失敗を踏まえ、紙を束ねている紐を外します。終わった後で束ね直せば持ち運びが楽ですから。

 まずは攻撃用のファイアボールです。一枚描くと、発動用のキーワード入力画面が出てきました。魔法の名前と同じにしましたが、いちいち入力するのは面倒です。

 スキルの詳細を見ていると、設定画面がありました。アーツの名称をそのまま採用するようしたので、どんどん描いていきま……、先に鑑定ですね。

 鑑定してみると、【ファイアボールのスクロール】となっていました。どうやら魔力操作を使わずに発動出来る物はスクロールになるようです。

 最終的にファイアボール、ライトヒール、ライトエンチャント、ウィンドボールを100枚描き終わると、スキルレベルの上がった音がしました。

 スキルを確認すると、魔法陣がレベル20になり、魔石融合という能力が解放されました。そういえば、魔石(小)というアイテムがありました。後でオババに聞いてみましょう。っと、見逃すところでした。火魔法、風魔法、光魔法がそれぞれ19,17,18になっていました。恐らくですが、魔法陣を描いていたため、レベルがあがったのでしょう。今まではそんなことなかったので、紙がスクロールに変化していることが関係しているはずです。

 スキルの確認も終わったので描いた魔法陣を一つの束にしました。元々の束とは別の物になってしまったため、インベントリには入れられませんでしたが、メモ帳を鞄に入れるようなものなので、鞄の容量に問題はありません。


「オババー、魔石って知ってる?」

「なんじゃ急に。知っとるが、それがどうした?」

「魔石融合ってのが出来るようになったんだけど、小さい魔石1個しか持ってないから、迂闊に使えなくて……」

「なんじゃ、そういうことかい。魔石とは、自然界に漂う魔力を蓄えるものじゃ。大きさによって一度に使える力に違いはあるが、その力が切れることはないと言われとる」


 えっと……、自然回復する電池といったところでしょうか。スクロールに埋め込めば、何度も使えるようになるということですね。試してみたいですが、安定供給されてからにしましょう。

 作業も終わったので、もう一度商人ギルドへ向かいます。





 商人ギルドに入ると、まだ人が沢山います。MPポーションに関わってないで狩りでもすればいいものを。暇なのでしょうか?

 もう一度、匿名での委託販売を選択すると、前回は気付かなかった詳細設定という項目が目に入りました。いつから売り出すかや、個数制限など、様々な設定項目があります。ただ、ブラックリストだけは、委託販売申請時のものが適用されるようです。後から何かあっても、変更は出来ないということですね。

 こういったものを見つけると使ってみたくなるのが人間です。販売日時は現実の時間で午後6時から、1人につきスタックの最大単位である9個までにしました。オババがギルドに卸す分は知りませんが、私の売る90個は、この制限で売られます。インベントリに残っていたコケッコーの丸焼き9個ですが、これも邪魔なので売ってしまいましょう。前回は無事売れましたが、果たして今回はどうなることやら。

 そろそろログアウトして買い物にいかなければいけませんね。


「そこの君、ちょっといいか?」


 街の中であればログアウトはどこでも出来ますが、ログインは決まって街の中央広場です。宿屋に泊まっていたりすると、話は別ですが、現状、その必要はありません。


「そこの銀髪の女の子、ちょっと待ってくれないか?」


 辺りを見回しても銀髪は私だけです。それにしても、白に近づけているこの髪を銀と言い切るとは、中々やりますね。


「何かようですか?」


 どこかで見たような気もしますが、記憶に無いので気の所為でしょう。とりあえず怪訝な目を向けておきます。


「忙しい所すまない。前回君が商人ギルドに来た時のことを覚えているか?」

「……面倒な人がいましたね。それがどうかしましたか?」


 今思えばあのプレイヤーをブラックリストに入れておくべきでした。そういえばあの時途中で何か言っていたプレイヤーがいましたね。


「……いや、それはおいておこう。ごほん、君は掲示板とか見るかい?」

「情報の鮮度には拘らないので見ません」


 wikiにはある程度確証を取った情報が書かれますが、掲示板は生の情報なので不確定や余計な情報が多かったりします。ある程度の指針にはなりますが、そこからの取捨選択をしなければいけませんし、何より関係ないことが大半です。


「そうか。嫌なら断ってくれて構わないんだが、MPポーションの出処……、いや、魔力水入りポーション瓶を何処で見つけたか教えてくれないか?」


 ああ、喧嘩腰で来ないからまともな人かと思ったのですが、あまり変わらないようですね。


「もちろん、それ相応のお礼はする」


 訂正、まともな人のようです。本来、情報には対価が必要ですから。ですが――。


「私が知っていると仮定して、私が言ったことが正しいと誰が証明しますか? それに、私が知らないと言ったら、貴方はそれを信じるんですか?」


 人は自分の信じたいことを信じたいようにしか信じません。前回のプレイヤーのように、自らが正しいと思えば、何をしても許されると思ってしまうように。

 まぁ、一番の理由はオババに商売っ気がないことです。多くの人が押しかけると、あそこでゆっくり出来なくなってしまいます。それは、なんとしても避けたいものです。


「君が知っていると仮定して、その証明は俺がする。話した内容が嘘だったら、俺に見る目がなかっただけだ。二つ目に関しても……、君が本当のことを話してくれていると信じるよ」


 こう言われると、嘘をつきづらいのでしょう。まぁ、言っているのが知り合いだったらの話ですが。


「この街のNPCが売ってましたよ。探し方が足りないんじゃないんですか?」


 それだけ言うと、私はログアウトの操作を始めました。街でのログアウトした場合、次のログインは最初にログインしたオブジェのある広場になります。何かしらの拠点を手に入れれば変わるのかもしれませんが。そして、去り際に一言。


「この程度のことで報酬は貰えませんよ」






 ログアウトしました。

 何だか面倒な人達に関わってしまった気がします。

 お花を摘みに行って一休みしていますが、葵が出て来る様子はありません。どうやら夕食は私に任せっきりにするようです。しかたありません、葵の嫌いなものにしましょう。





 今日の夕食は焼き魚です。葵は嫌いなものがないので安売りしていたものにしました。そして、洗い物をしていると、何か話しかけてきます。


「そういやさ、MPポーション、凄い騒ぎになってるよな」

「あー、商人ギルドに人多かったね」

「バカなプレイヤーがずっと騒いでたらしいけど、大丈夫だったか?」


 あのプレイヤー、ずっと騒いでいたんですね。下手な鉄砲なんとやらといいますが、下手すぎです。まぁ、当たりもしましたが、効果はありませんでしたね。


「相手にしなけりゃ問題ないよ」

「そうだな、茜はそうだよな。そんで、攻略組の一人がNPCが素材を売ってたって証言を手に入れてさ、その人の人脈使ってNPCの総当りしてるらしいぜ」

「ふーん。総当りしなくても、看板読めば何売ってるかはわかると思うんだけどねー」


 まぁ、変な名前の店もありますが、ある程度の目安にはなるはずです。


「看板を……、読む?」

「そう、読むの」


 何かに引っかかっているようです。一応RPGなので武器屋や道具屋などの共通マークはありますが、オババの店のようにマークのない店もありますが、基本的には看板を読めば、店かどうかはわかります。


「……言語スキルか。なぁ、ゲーム内の看板って日本語じゃねーんだ。多分だけど、茜が言語スキル持ってるから、読めるんだよ」

「あー、なるほど」


 街を歩く度に言語スキルのレベルが上がっていたのはそのせいだったんですね。将来的にルーン文字とか古代語とか魔法っぽいのが解放されないかと思って取ったんですが、思わぬ効果があったようです。


「あ、でも、私がよく行く店、門番さんに聞いた店だよ」


 そうでした。そもそもオババの店は門番さんに教えられた店です。言語スキルがなければ見付けられなかった可能性はありますが、場所だけ聞いて探したほうが早そうです。


「NPCに道聞いたのか。なぁ、その情報――」

「葵の好きにすればいいよ」


 身内と他人で対応は違うものです。それに、葵なら上手くやるでしょう。


「あ、今度時間あったら皮とか取りに来て」

「りょーかい。少し変わるけど、魔法スキルは進化したのか? 複合魔法も見つかってるぞ」


 詳しく聞いてみると、βテストでは基本スキルしか実装されていなかったため、上位スキルや複合スキルは誰も知らなかったらしいです。今回見つかったのは、火と土、風と水、光と闇の魔法スキルで、LV30まで上げるとそれぞれの複合魔法が取れるようになるそうです。ちなみに、光と闇で取れる空間魔法にはインベントリという魔法があり、消費したMPによって大きさが3段階に変化し、発動中は維持コストがかかるという仕様とのことです。維持コストは自然回復があっても少しづつ減っていくようなのですが、魔法系のスキルが多く、MPの多いプレイヤーの自然回復で足らないのであれば、仕様に問題がある気がします。

 何か代わりにMPを消費してくれるものが……。


「まずはそれを目指そうかな。何か面白そうだし」

「……今は詳しく聞かないけど、騒ぎを起こす前に教えてくれよ」


 何だか感付かれたようです。流石は私の弟です。

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