第114話 シスコンとロリコンを足して2で割った感じ
これは冒険者ギルドの者たちが地下迷宮を探索している日から1週間前の話である。
「それで、ギルドっていうのはどこにあるんや?」
「それはだな……」
直哉は自宅から冒険者ギルドまでの道のりを順にイシュトイアに説明しながら、スタスタと歩いて行く。その道は陽も落ちたこともあって闇に包まれており、明かりは町の建物から漏れる光だけだ。
「それで、ここが冒険者ギルドだ」
「ほぉ~、ここがナオヤのおる冒険者ギルドか~!」
何とも興味津々な様子で子供のようにはしゃいで動き回るイシュトイアに直哉からクスリと笑みがこぼれる。
「それじゃあ、中に入るか」
イシュトイアは直哉の後にテクテクと付いていった。どうも、そこだけ見れば直哉とイシュトイアは父と娘という感じのオーラがあった。
「お、レオ!ただいま」
「ニャ~」
ギルドの中に入ると、入り口に付近には猫のレオの姿があった。可愛らしい鳴き声と共にこちらへと歩み寄ってきた。
直哉がレオの頭を優しく撫でる。そうすると、レオもゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしていた。だが、イシュトイアが触ろうとすると毛を逆立てて怒ったのだった。
「ちょ、何で怒ったんや!?」
自分が触ろうとするやいなや怒って逃げていくレオに驚いた様子のイシュトイアであった。
「イシュトイアが錆び臭かったとか、そう言ったことじゃないのか?」
「失礼な!うちは滅神剣やで!錆びるわけないやろ!」
直哉の一言にイシュトイアはムッとした表情を浮かべていた。その後、しばらくの間はイシュトイアの機嫌が直ることは無かった。
「あ、お兄ちゃんだ!」
直哉がその声に呼ばれるように後ろを振り向くと、エミリーとオリビアの姿がそこにはあった。エミリーは直哉を視認するなり駆け寄って来ていた。その後ろにオリビアがくっついてくる。。
「エミリーちゃん、オリビアちゃん。こんな夜に子供だけじゃ危ないぞ?セーラさん……お母さんはどこにいるの?」
直哉は夜に子供だけで歩き回るエミリーとオリビアを少し優しく注意した後で、膝を付いて目線を二人に合わせた上でセーラの行方を尋ねた。
「えっと、確かお母さんは王都に行くって言ってました」
直哉の問いに答えたのはオリビアであった。エミリーの方は思い出そうとしているようだが、思い出せるかどうか怪しいところであったため、オリビアがいたのは助かった。
「王都か……。教えてくれてありがとう、オリビアちゃん」
「どういたしまして」
直哉がオリビアの頭を撫でるのを羨ましそうにエミリーが見つめていたために、直哉は左右の手でそれぞれエミリーとオリビアの頭を撫でたのだった。
「お兄ちゃん、遠くの用事は済んだの?」
「……用事?」
直哉はそんな用事があったかどうかを落ち着いて考えてみたが、思い当たる節は無かった。
「エミリーちゃん、オリビアちゃん。俺の用事のことでお母さんは何か行ってなかった?」
「う~ん、何も言ってなかった!けど、聖美お姉ちゃんと一緒にお母さんが泣いてるのは見たよ!」
直哉はエミリーの言葉を聞いて、一つの結論に達した。セーラが聖美から聞いたのは直哉の死の一報だったのではないかと。
そして、俺が死んだというのは少女二人に伝えるのは酷だと判断したセーラさんが俺が遠くに用事で出かけてしまった……ということにしたのではないか。直哉はそう、結論付けた。
「そっか……俺の用事はもう済んだんだ。だから、そのことをセーラさんにも伝えたくてさ」
直哉がそう言うと、二人とも合点がいったという風なリアクションを取っていた。そんな時、直哉はふとした疑問が湧いてきた。
「セーラさんが王都に言ってる間は二人だけでお留守番してるの?」
「うん、そうだよ!でも、みんなが私たちの様子を見に来てくれるから平気だよ!」
直哉の問いに対して、エミリーは明瞭な回答を示した。その表情からして大丈夫だということは読み取れた。
「あの、みんなっていうのは近くに住んでる人たちのことで……!」
「ああ、なるほどね。オリビアちゃんは俺の思ってることが良く分かったね」
直哉が口に出そうとしていた疑問はオリビアによって、前もって説明がなされた。オリビアは内気だが賢い。そのことが身に染みて分かる。そして、人の行動をよく観察している。
「そうだ、お兄ちゃんも晩ごはん一緒に食べようよ!」
「えっ、そんな急な……」
直哉はエミリーに手を引かれるも抵抗感からか立ち止まった。だが、直後に放たれた破壊力抜群の一撃にノックアウトされてしまう。
「……ダメ?」
「分かった、一緒に晩ごはん食べようか」
直哉は弱かった。彼女である聖美や妹の紗希、幼い子供からの頼みを無下にはできない性分である。そんな男に幼女から上目遣いを無下にすることも到底できない。
ズバリ、シスコンとロリコンを足して2で割った感じなのである。
「ただ、晩ごはんは俺が作らせてもらうけど……それでもいい?」
「「うん!」」
直哉は晩ごはんをご馳走になるだけなのは申し訳なかったために名乗り出ただけなのだが、エミリーとオリビアの笑顔を見て腕によりをかけて作ろうと誓ったのだった。イシュトイアは頬を膨らませながらも、3人の後ろをついていったのだった。
―――――――――――
ここはゲイムの地下迷宮。そこを進んで行く男女の姿があった。
「よし、次の角を右曲がったところにある階段を降りるぞ!」
先頭を行くバーナードが後ろにいる者たちに声を飛ばす。声を聞いた全員は何も言わず、ただ静かに頷いた。
「止まれ!」
角を曲がった途端に緊急停止したバーナードの顔の横を一つの矢が通り過ぎていく。これにはバーナードも焦った。もし、止まっていなければ口の中に矢が撃ち込まれていた。
これはバーナードの身長が高かったことが関係している。聖美とミレーヌの身長なら額に矢が突き立つ高さだ。
「たぶん、この仕掛けは身長が170cmの人間を確実に仕留めるためのものなんだろうな」
バーナードの言葉に一連の出来事を見ていた聖美とミレーヌ、セーラの3人の表情は凍り付いた。先頭を走っていたのが自分だったら、今ごろは死んでいたということなのだから。
「他にも罠があるかもしれないな。やはり、急いで進むのは危険だろう」
バーナードの一言で迷宮の危険さを実感した一同は罠に気を付けて慎重に進んで行く方向性を固めた。
一同はその後も鉄のギロチンが上から真っ逆さまに落ちてくるトラップや天井から落ちてきた岩に追いかけまわされたりと散々な目に遭った。そんな中でも、着実に奥へと進んで行っていた。
「「キャッ!」」
バーナードたちが通った通路に突如として出現した落とし穴に落ちかけたのはマリーとエレナ。この二人の手をそれぞれデレクとディーンが素早く押さえて、引き上げたために二人とも無事であった。
「デレク、ありがとう」
「ありがとね、ディーン」
マリーも恥ずかしそうにデレクにお礼を言い、エレナは嬉しそうにディーンに抱き着いていた。
「おう、気を付けろってよ」
「ホント、気をつけてくれッスよ」
デレクとディーンは安堵の息を吐きながら、二人に注意するように促していた。デレクは追加でデコピンまでしていた。デコピンをされたマリーは痛そうに額を両手で押さえていた。
紗希と茉由の二人はそんな二組をニヤニヤと笑みを浮かべながら見守っていた。
「バーナードさん、おいらとセーラさんとで先行して偵察してくるぞ!」
「ああ、二人とも頼む」
ぶっ通しで歩き続けたバーナード一行は少し迷宮内の開けた場所で休息していた。そんな中で、体力が有り余っているスコットに面倒見の良いセーラを付けて迷宮の先行偵察を命じたのだった。
二人は10分ほどで戻って来て状況報告を行なった。その状況報告によれば、特に罠などは無かったが、またしても広間があったという。
「ここからが本題なのですけれど、この先の広間には王国騎士団が100名ほど居りましたよ」
セーラが言うには騎士団の刺繍の色は赤色、つまりは第四王国騎士団ということである。
「ただ、そこに第四王国騎士団長であるシルヴェスター様も居られたのが一番の問題なのです」
セーラの口から出た"業火の剣王”と呼ばれる八英雄の一人であるシルヴェスターの名に全員が動揺した。だが、紗希が臆することなく進もうと言った。
「紗希ちゃん、そのシルヴェスターって人強いんだよ?」
「だったら、ボクが責任を持って相手をするから――」
聖美は紗希を止めようとしたが、紗希はシルヴェスターが剣の達人だということは百も承知している。それを踏まえた上での発言である。
そして、紗希が武術大会の決勝で敗れたクラレンスに剣術の指導をしたのがシルヴェスターであることは紗希も試合後にウィルフレッドから密かに教えてもらっている。
「紗希ちゃん一人でダメなら、私も手伝います!」
加勢を申し出たのは茉由だった。紗希も嬉しそうに表情を崩した。これにはバーナードも任せざるを得なかった。
「分かった、英雄シルヴェスターの相手は紗希と茉由の二人に任せる。ただし、条件がある」
バーナードの条件という言葉にキョトンとした表情をする紗希と茉由だったが、次のバーナードの言葉にやる気を増したのだった。
「負けるな。勝つことは考えなくていい、ただ足止めしてくれればいい。そして、無事に戻って来いよ」
そのバーナードの言葉は全員を鼓舞した。その後のセーラの提案で、踏みとどまって騎士団の相手をする組と前進する組に分かれることになった。
騎士団の相手をするために広間に留まるのは、セーラを筆頭に、紗希と茉由、デレク、マリー、スコットの6人。
これによって、先へと進むのはバーナードをリーダーとしてミレーヌ、聖美、シルビア、ディーン、エレナの6人となった。
「よし、行くぞ!」
セーラたち踏みとどまる組が先頭を切って騎士団を分断し、突破口を開いたタイミングでバーナードたちが駆け抜けていく。
この実質的な奇襲攻撃に騎士団は案外容易く突破されたが、シルヴェスターが陣頭指揮に出てくると態勢を整えた。そこからはセーラたちを捕らえんと連携の取れた動きを仕掛けてきた。
「茉由ちゃん!」
「うん!」
シルヴェスターが出てくるなり、紗希と茉由は一直線に彼の元へと疾駆した。だが、行かせまいと騎士たちが行く手を塞ぐ。
「薪苗流剣術第四秘剣――絶華」
紗希の周辺に居た騎士たちを目にも止まらぬ速さの斬撃の嵐が包み込む。紗希の剣は騎士たちの鎧と剣や槍を始めとした騎士たちの武器と防具のみを解体した。スゴイのはそれだけではない。斬られた騎士たちの皮膚に傷の一つも付けずに行なうという離れ業である。
「総員、その黒髪の少女二人は僕が相手をする!だから、君たちは他の4人を捕らえてくれ!」
シルヴェスターが指示を出し終えるのと同時にサーベル同士が激しく火花を散らしてぶつかり合う。
紗希の一太刀を受け止めたシルヴェスターから笑みがこぼれる。その笑みから楽しいという感情があふれ出ている。シルヴェスターが紗希を押し返した直後、追い付いてきた茉由から冷気を纏った斬撃がシルヴェスターを強襲する。
茉由とシルヴェスターの間で何度もサーベルと片手剣が交差する。だが、剣捌きはシルヴェスターの方が遥か高みにあった。
「茉由ちゃん!下がって!」
左横から聞こえた声に言われるまま、茉由は後ろへ跳んでシルヴェスターから距離を取った。
茉由の敏捷性ではシルヴェスターから見れば幼稚な速度であった。だが、追い付こうかというところで一閃。邪魔が入った。
「やっぱり、君の剣捌きは別格だ」
「お褒めに預かり光栄です!」
紗希の加勢によって、難を逃れた茉由だったが、依然として気を抜くことは出来なかった。
紗希とシルヴェスターが斬り結ぶ合間を縫って、茉由が斬撃を見舞うもシルヴェスターには一太刀も届くことは無かった。それはシルヴェスターからの斬撃も同じではあったが。
双方の熾烈な戦いの背後では100名に及ぶ騎士と4名の男女との間で激闘が繰り広げられていた。
「フッ!」
セーラは繊細なレイピア捌きで騎士たちを圧倒し、立て続けに戦闘不能へと追いやっていた。無論、殺さないように急所を外しながらではあるが。
殺さないように手加減して戦うのには相手よりも実力で上を行っていなければ到底できない。セーラのように戦うには針に糸を通すようなレイピア捌きが欠かせないのである。
そして、デレクとマリー、スコットの3人はスリーマンセルで騎士たち相手に戦いを繰り広げていた。
マリーを壁際に配置し、その前にデレクとスコットが立ち塞がるという構図である。
「“
「“風霊砲”!」
デレクとスコットは同時に魔法を発動し、群がる騎士たちを一掃した。デレクの酸魔法は騎士たちの武器や鎧をドロドロに溶かしていく。皮膚に当たれば皮膚がただれるどころの騒ぎではない。これには騎士たちも恐れをなして、近寄りがたい状況になっていた。
スコットの方は風の精霊魔法で騎士たちを吹き飛ばしたものの、デレクを攻めあぐねた騎士たちに波状攻撃を仕掛けられて、疲労していっていた。
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だが、キチンとマリーが先輩として召喚魔法・氷装を操って援護してくれていたために戦線そのものが崩れることは無かったのだった。
こうして、冒険者たちと王国騎士団の戦いはまだまだ続く――
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