第77話 相次ぐ戦い
ついに3日目になった。今日の9時40分から俺と紗希の2回戦の試合がが始まる。さらに、その後にはディーンとエレナちゃんの試合がある。
これは何とかして見に行きたいところ。ケガでもすれば治療のせいで見に行くことが出来なくなってしまうからだ。
昼からは4試合。13時40分からバーナードさん、シルビアさん対スコットさん、ピーターさんの試合。
夕方である17時からはデレクさんとマリーさんの試合がある。
残りの2試合は夜だ。19時20分から洋介と武淵先輩、20時からはローレンスさんとミゲルさんの試合がある。
寛之と茉由ちゃんの2回戦の試合は明日だ。寛之たちは2回戦を勝ち進めば、3回戦、準決勝、決勝の4試合を明日だけでしなければならなくなる。俺たちは今日勝てば明日3試合だけで済むのだ。
試合会場が1つしかないと、こうも詰め込まないといけないものなのか。
とにかく、俺と紗希は試合の準備のために待合室に向かった。そこで、紗希が一人で二人を倒すと断言した。しかし、昨日とは違って相手のランクは俺たちと同じ
しかし、試合で俺の心配は杞憂だったことが証明されてしまった。
紗希は多少、敵が手強かったために昨日ほどあっさりと勝敗が付くことは無かった。それでも紗希が勝利を収めてしまった。ホント、紗希の近接戦闘能力が高すぎる。敏捷強化を使わなくても、魔法とかも軽々とかわしてしまうのだ。
そして、接近されたが最後。紗希の刀の錆にされてしまう。
――これは下手をすると俺の出番、ナシで予選終わっちゃうんじゃないか!?
俺の脳裏をそんな言葉がよぎった。マジにこれはあり得るかもしれない。
「……ん?」
俺は対戦のトーナメント表の写しを見た。明日戦うのはこの次の試合の勝者だ。ということは、次の試合でディーンとエレナちゃんが勝てば、明日俺と紗希が戦うのは二人だ。
まさかの同じ冒険者ギルドの冒険者同士で戦わないといけなくなるとは。でも、今日も1つそんな試合があるな……
それはさておき、ディーンとエレナちゃんの試合を見なければ!
俺と紗希は急いで観客席まで戻った。試合はまだ始まってなかったので、セーフだ。
俺たちが着席してしばらくすると、試合時間になった。
試合は明らかに苦戦していた。相手は二人よりもランクが上の
ランクだけで比べるなら、二人はここで敗北するだろう。だが、俺は知っている。二人の実力は高々ランクが自分より上だからという、ただそれだけのことで負けたりはしないということを。
「直哉君、これって……!」
隣に座る呉宮さんは驚いたといった表情をしていた。
「これは魔力融合といって、掛け合わせた属性の数によって威力を指数関数的に上昇させるものだ。今回の場合はディーンの光の魔力とエレナちゃんの土の魔力を融合させるんだ」
「……ということは、この場合は4倍の威力になるってこと?」
俺は呉宮さんからの問いかけに静かに頷いた。恐らく、繰り出すのはあれだろう。
ディーンとエレナちゃんの二人は目をつむり、意識を研ぎ澄ましている。相手方の二人は魔力融合のことに気づいたようで、発動前に片付けようと接近してきた。
だが、気づいたのが遅かったうえに、二人に近づいたことが命取りになった。
「「
砂を纏った光の斬撃が二人の影を斬り裂いた。会場はわざの発動後、経過を見守るかのように静まり返った。対戦相手である
勝者は誰の目から見ても明らかだった。
「兄さん」
「ああ」
紗希の言葉の先は分かっている。明日の3回戦の相手はディーンとエレナちゃんの二人だ……ということが言いたいのだろう。何にせよ、二人とは直接戦ったことがなかったので楽しみなところだ。
「紗希、3回戦は俺が一人でやってもいいか?」
「何で?」
紗希は優しく、目を細めながら俺を見つめてくる。俺の言おうとしていることを分かっているのだろう。
「紗希の力を温存するためだ」
俺はそう返した。俺が予選で誰とも戦わず仕舞いだったら、予選を突破しても何も嬉しくない。それだと、まるで他人事のような気分になってしまうのは目に見えている。
それに何より、明日は3連戦だ。ここは紗希を温存しておいた方が得策というものだろう。
昼食までの間、俺は紗希と呉宮さん、エミリーちゃんとオリビアちゃんも連れて、闘技場の外にある露店巡りをしたりして好きなように過ごした。
そして、昼も過ぎて、バーナードさんたちの試合になった。
バーナードさんとシルビアさんの表情からは緊張は見受けられない。だが、スコットさんにもピーターさんにも緊張の色はうかがえない。むしろ、吹っ切れたような感じだ。
試合が始まるやいなや、スコットさんとピーターさんはタイミングを合わせて、"風霊砲”と"炎霊砲”を放った。
二つの砲撃は地面を抉り、二人の元に着弾。爆風は観客席にまで届くほどなのだから喰らえば一たまりもないだろう。
しかし、土ぼこりの中からピンピンした様子のバーナードさんとシルビアさんが現れた。
バーナードさんはピーターさんと対峙し、シルビアさんはスコットさんに挑んだ。
そこからは力量の差が顕著に出た。スコットさんもピーターさんも精霊魔法の斬撃技である“風霊斬”や“炎霊斬”を使い、二人にかすり傷程度のダメージは与えられていた。
だが、勝敗はその程度のことで覆ることは無く、スコットさんもピーターさんもそれぞれ倒されてしまい試合終了となってしまったのだった。
でも、格上相手に試合時間の半分も粘った二人に心の中で『お疲れさま』と言葉を送った。
対して、バーナードさんとシルビアさんは余裕で3回戦へと進んだのだった。二人の3回戦の試合は明日の11時20分からだと紗希から聞いた。つまり、明日の俺たちの試合が終わった1時間後に行われるということか。
明日は自分の試合も3つあるし、応援する回数も増えるからゆっくりできるヒマはなさそうだ。
俺はそんなことを思いながら、夕方の17時から始まるデレクさんとマリーさんの試合まで呉宮さんと一緒にぶらぶらと街の散策をして過ごした。
そして、17時。デレクさんとマリーさんの試合が始まる時刻になった。対戦相手は二人と同じ
だが、結果はデレクさんとマリーさんの勝利で終わった。
これは試合を見ていて思ったことなのだが、デレクさんとマリーさんの試合での息がピッタリなのだ。
紗希はそのことから、「二人はどういう関係なのかな?」とか言いながら目を宝石のように輝かせていた。これは試合終わりに二人のところに突撃していきそうな勢いだ。本当に紗希はこの手の話が好きだなぁ。
でも、ホントに二人はどういう関係なんだろうか。ただの冒険者仲間だよ……という感じではないとは思う。……俺も何だか気になって来た。
俺も紗希もデレクさんとマリーさんの関係が気になるところだが、結局本人たちの前ではその話を切り出すことは出来ずじまいだった。
――夕食を挟んで19時20分。今度は洋介と武淵先輩の試合だ。洋介は1回戦と同じように薙刀を武器にしている。刃の部分が
二人の表情も凛々しく、試合への熱意とかも伝わってくる。確か対戦相手は同じ
この日の洋介たちの試合は、やや苦戦気味だった。相手は剣士二人組だったのだが、間合いが近寄られ過ぎると心底やりづらそうにしていた。
しかし、武淵先輩は重力魔法で自分自身を少し後ろまで下がらせることで、間合いを仕切り直した。そこからは間合いで勝る得意の槍技で剣士を追い詰めていき、撃破した。
洋介の方はと言えば、途中で薙刀で戦うことをあきらめたのか、地面に突き立てていた。そこから腰に差していたサーベルに手をかけた。剣士はジリジリと間合いを詰めようとしていたが、時間がないことを悟り、一気に勝負に出た。
洋介は紗希から教わった抜刀術と“雷霊斬”を掛け合わせた技を炸裂させた。そう、抜き打ちざまに“雷霊斬”を放ったのだ。
これには紗希も「スゴイ!」と褒めていた。茉由ちゃんは「私も早く実戦で使えるレベルにならないと……!」とか言っていた。ここで気づいたことが一つ。
……あれ?紗希に抜刀術教えてもらってないの、俺だけ?
「紗希、俺にも抜刀術を教えては……」
「兄さんには10年は早いよ。いや、何なら100年くらい!」
そこまでハッキリ言われると、聞いていてさすがに辛いよ……。ダメ押しではあったが、俺はその後も何度も抜刀術を教えてくれるように食い下がったがダメだった。
俺も早く剣術を上達させたいところだ。上達させれば、抜刀術とか教えてもらえるだろうし。抜刀は男のロマンだ。
俺は紗希と話している間にローレンスさんとミゲルさんの試合になった。二人の相手は2回戦では珍しく、
さすがにローレンスさんとミゲルさんのレベルでは余裕だったらしく、ホントに1分経たずに試合の決着が付いてしまった。
試合の感想を問われれば、「あれ?もう終わり?」というくらいに見ごたえがない試合だった。ローレンスさんとミゲルさんは「よくあれで1回戦突破できたよな」と言っていた。それには俺も鉄ランクの冒険者二人には申し訳ないが、同感だった。こんな感じで、予選3日目はあっけなく終了した。
明日は4試合もある寛之と茉由ちゃん以外のメンバーは明日だけで3試合ある。
明日の9時から寛之と茉由ちゃんの試合の応援をした後で、10時からディーンとエレナちゃんの二人との試合がある。その試合では俺が一人で相手をすることになっている。体調万全で臨みたいところだ。
俺は「明日は朝から忙しいから」と、呉宮さんにその事だけ伝えて眠った。呉宮さんはそういう俺に優しく微笑みかけてくれた。
その夜は深夜に呉宮さんに少しだけ血を吸われたりしたが、それ以外は何事もなく朝を迎えることが出来たのだった。
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