第4章 ローカラト防衛編
第53話 眷属会議
ここはある城の一室。
部屋の中央には円卓が置かれ、その下には血の色と同じ色をした紅色の絨毯が敷かれている。壁と床は鼠色の石造りになっている。また、壁には松明が等間隔で掛けられている。
そして、円卓を囲む3人の男。全員が2m近い身長がある大男たちだ。
一人は真紅の髪をしており、毛先だけが朱色になっているタンクトップ姿の男。その男は退屈そうにあくびをしており、足を円卓の上で組んでいる。
その男から1席空けて座っている藍色の髪をしたスーツ姿の男。その男は腰からサーベルを下げ、腕を組んで俯いている。
真紅髪の男の真向かいの席に腰かける唐茶色の髪をした鎧に身を包んだ男。右手には大斧を握りしめ、姿勢よく椅子に腰かけている。
そこへ扉の開く大きな音が静寂を破った。
「ほう、全員揃っていたのか。結構、結構」
「そのようでホントでありんすねぇ」
そこへやって来たのは黒いローブを纏った男と背と肩が大きく開いた髪の色と同じ乳白色のドレスを着た女。
黒いローブを纏った男は真紅髪の男の左隣に腰かけた。女はそのさらに左隣に。
「さて、それでは会議の方を始めていこうと思うのだが」
黒いローブを纏った男がそう言うと、皆一様に小さく頷いた。
「それでは魔王軍総司令・ユメシュ様の元に『眷属会議』を始めるでありんす」
乳白色のドレスを纏う女の一言で『眷属会議』が始まった。ユメシュとはあの暗殺者ギルドのマスターの男である。
「今回の会議では要件が2つ。遺跡襲撃の件の報告とスカートリア王国侵攻の詳細の説明だ。まずは、レティーシャ。遺跡襲撃の報告を」
ユメシュは右隣にいる女性、レティーシャに話を振った。彼女こそ、上空から光線を放って遺跡を破壊した張本人である。
レティーシャは起立し、声高らかに報告を始めた。
「はい、ユメシュ様。ワタクシは昨日に魔王様からのご命令でローカラトなる劣等種どもが住んでいる町の近くにある遺跡を襲撃、破壊したでありんす。また、少々派手にやり過ぎたこともあり、ゴミどもに姿を見られてしまったために急遽、帰還するルートを変更したために魔王城への到着が遅れてしまったことに関しては一応深く、お詫びするでありんす」
レティーシャは円卓に額が付くほどに頭を深く下げてから、椅子に腰かけた。
「それで、人間たちに正体はバレてはいないのだな?」
「ええ、姿は見られてしまいましたがワタクシのことは天使か何かと間違えているでありんしょうねぇ」
「それなら、構わないのだが。これで要件の1つ目である遺跡襲撃の報告は終わりにするとしよう。誰か、まだ何か言いたいことがある者は?」
ユメシュは他の4人を流し見たが、4人とも特に意見を述べる様子は無かった。
「それでは次はスカートリア王国侵攻に関してだが……レティーシャ、地図を」
「ここにありんす」
レティーシャは円卓の上に大陸の地図を広げた。
「現在、我らが王は90万の軍を率いて南の大陸の制圧の最中であられる。その間に我々が為すべきことを連絡用の
ユメシュが“我らが王”と言った途端に他の三人の男の表情が強張った。
「現在、我ら魔族の領土に残されている軍は計10万。これを2万5千ずつ、4つの部隊に分けることになっている」
魔族の領土はスカートリア王国の南にあり、ローカラトの町の南にあるY字路の先にある山脈を挟んだ平原である。その中央部にある1000m級の山の山頂に魔王城が構えられている。現在、眷属会議が行われている城こそが魔王城なのである。
「1つ目の部隊はゲオルグ、お前が指揮を取れ」
ユメシュは真紅髪の男、ゲオルグを指名した。
「ああん?俺に命令だと?」
ゲオルグは不満げにユメシュを睨んでいる。それに対してユメシュは涼しげな顔をしている。
「何か、問題があるのか?ゲオルグ」
――ガシャン!
ゲオルグは円卓に両の拳を叩きつけ、勢いよく席を立った。
「俺はお前の指図には従わねぇからな!“我ら”だと?人間如きが俺たち魔族と同じにするんじゃねぇよ!そもそも人間如きに指図されるいわれはねぇぜ!」
「ゲオルグ、ヌシというやつは……」
「別に構わないぞ、レティーシャ」
ユメシュにくってかかるゲオルグ。それをレティーシャが止めさせようとしたのをユメシュは制した。
「ゲオルグ、これは私からの命令ではない。魔王様からの命令だ。従わないというのなら、魔王様に報告し厳罰に処するぞ」
「ちっ!」
ゲオルグは舌打ちをして再び着席した。
「ゲオルグは軍2万5千を率いて魔族領とスカートリア王国の境にあるセベマを陥落させるのだ」
「ハァ……分かったよ」
ゲオルグは不満げな顔をして席を立ち、部屋の入口へと歩いて行った。
「ゲオルグ、どこへ行くでありんす?会議はまだ途中……」
「セベマに向かう。すぐに準備して出発するからな」
ゲオルグはそう言い残して、わざと大きな足音を立てながら部屋を出ていった。
「全ク、相変ワラズ反抗的ナ奴ダナ」
「フン、あれだから奴は嫌いなのだがね」
唐茶色の髪をした男、藍色の髪をした男が順にボヤいていた。
「まあ、二人ともそっとしておいてやれ。奴は私が嫌いなだけで、それ以外のことは問題を起こしてはいないだろう?」
「承知シタ」
「それはそうなのだがね……」
二人ともそれ以上ゲオルグのことは何も言わなかった。
「さて、話を戻そう。次はベルナルド、君の番だ」
「はっ!総司令、私は何をすればいいのかね?」
ユメシュの向かいに座る藍色の髪の男は丁寧な物言いでユメシュの話の続きを待っている。
「君には海路を行ってもらう。大陸の東に位置する港町アムルノスを攻撃してほしい」
「陥落ではなく、攻撃するだけで良いのかね?」
「そうだ」
「……それでは私も会議の途中ではありますが、準備のため席を外させていただきます」
ベルナルドは終始、礼儀正しく振る舞い退出した。
「さて、次はヴィゴールだが、君にはローカラトを陥落させてきてほしい」
「承知シタ、ユメシュ総司令。タダチニ支度ニカカリマス」
ヴィゴールもまた、会議室を退出していった。
「……全く、どいつもこいつも会議を何だと思ってるでありんすか!?」
ゲオルグ、ベルナルド、ヴィゴールの三人が退出してユメシュとレティーシャのみとなった部屋でレティーシャは少々どころか、かなり怒り狂っていた。
「魔王様への反骨心があるのならまだしも、きちんと忠実だし、任務にも支障はないのだから問題視する必要はないだろう」
「それはそうですありんすが……!」
ユメシュの言葉にレティーシャは黙るしかなかった。
「それにしても、スカートリア王国とやらの王都に潜り込んだかいがあったようで何よりでありんす」
「まあ、王都で暗殺者たちを使って貴族の関係性や王国の情報を十分に得ることが出来たのでな」
ユメシュは口角を上げて、嬉しそうに微笑んでいた。
「随分、嬉しそうでありんすねぇ」
「私はそんなに嬉しそうだったのか?」
「ええ、それはもう」
ユメシュはレティーシャと話をしながら、組んでいる足を変えた。
「……そうか」
「それで、あの王都からお連れになった人間どもは一体どうなさるおつもりでありんすか?」
あの5人……
「……彼らにはまだ死なれてもらっては困るからだ」
ユメシュの一言に理解が追い付かないといった風にレティーシャは首を傾げていた。
「それはさておき、レティーシャ。君には残りの軍を率いて魔族領の防衛を任せる」
「分かったでありんす」
レティーシャはドレスの裾を揺らしながら部屋を退出していった。
部屋にはユメシュ一人が残される形となった。
「……愚かな人間どもに20年前の報いを受けさせてやる。あの恨みだけは絶対に忘れん」
その時のユメシュの顔は憎悪に満ちており、体中から殺気があふれ出ていた。
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