第37.5話 ラウラとミロシュ

 この話は前半はミロシュ視点、後半はラウラ視点で進んでいきます。


 ――――――――――


「姉さん、危ない!」


 気づけば僕の体は勝手に動いていた。


 そう、大事な家族である姉の元へと。


 僕は迫りくる死の刃から姉を守ろうとした。


 別に守ろうと思って守ったのではない。ホントに無意識のうちに体が動いていた。


 僕の魔法は風属性の魔法。空気を固めて足場にすることが出来る。


 これのおかげで王都からローカラトの町まで帰ってくることが出来た。


 でも、そのせいで皆を巻き込んでしまった。


 僕がおとなしく始末されていれば、こんなにもギルドが荒らされることは無かっただろう。


 でも、それでも、僕は依頼を果たしたかった。いや、それよりも姉さんに会いたかった。


 姉は人の話を全然最最後まで聞こうとしない。そんな姉だが、この世に一人しかいない大切な姉だ。


 僕は向こうの壁まで届くくらいの力で姉を突き飛ばした。


 その直後、鋭い痛みが腹部を駆け抜けた。


 その次に僕が見たのは


 僕はこの時理解した。あれはと。


 僕が最後に見たのは壁際で青ざめた姉の姿。


 ……姉さんを守れて良かった。


 でも、もう一緒にはいられない。


 僕は先に行って待ってるから。


 ――それじゃあ、バイバイ。姉さん。


 ――――――――――


 私は凶刃を見て『死』の一文字が浮かんだ。


 ああ、私はここで死ぬんだ。そう思ってまぶたを閉じる。


 そう思った瞬間。体が浮かび上がった。そして、衝撃で目を開けると、そこには上と下、別々になって地面を転がるの姿が見えた。


 私の思考は混乱した。何が起こったのか、理解が追い付かない。いや、理解することを脳が拒んでいるのか。


 私はあの暗殺者が去ってから、泣いた。泣くことしか出来なかった。私の治癒魔法では弟を治すことは出来なかった。


 この世にお人よしの弟はもう居ないんだ。


 その事実だけが私の胸を締め上げる。


 私はこの悲しみと共に生きていく。


 それが弟に繋いでもらった命の使い方。


 ミロシュ。先に行って待っていて頂戴。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る