第18話 再会

 ミレーヌさんが開けた扉の先には……!


「……直哉?」


「直哉じゃねえか!何でここに!?」


「それに紗希ちゃんと茉由ちゃんも!?」


 寛之と洋介、武淵先輩。三人とも俺たちを見るなり駆け寄って来た。俺たち六人の会話はそれはもう言葉では言い尽くせないほどに盛り上がった。


「ちょっと皆、話があるんだけどいいかな?」


 そこへミレーヌさんの声が響く。何か話があるらしく俺たちも一旦話を中断させて、ミレーヌさんの方へと向き直った。


「……ごめんなさい。話も途中だったのに」


「……僕たちは全然大丈夫ですよ。それより話っていうのは?」


 寛之にしては珍しい。いつもなら決まって後ろで黙って見ているだけなんだが。


「それじゃあ、1つ質問なんだけど。皆はこれからどうするのかって決まってるのよね?」


「どうするのか……そうね、まずは聖美ちゃんを探さないといけないわ」


 武淵先輩はそう言った。しかし、呉宮さんがこの世界にいるとは限らないんじゃ……?


「……夏海先輩。そもそもお姉ちゃんがこの世界にいるとは限らないと思うんですけど……?」


 俺が聞こうとしていたことを俺より先に茉由ちゃんが武淵先輩に質問した。


「実は……」


「夏海姉さん、ここは俺が話すよ」


 武淵先輩が言いかけたのを洋介が遮った。そして、洋介が話した内容に俺たちは驚愕した。


 洋介の話の内容をまとめるとこうだ。


 三日前、寛之が洋介の家に探検道具の用意を手伝いに行って帰る途中に神社の前を通りがかった時。黒いローブを着た男がを担いで境内の方へと歩いて行くのを見たらしい。目を凝らしてみるとその男が担いでるのは呉宮さんだったらしい。


 寛之が急いで後をつけると遺跡の方へと向かって行った。それを確認して急いで洋介にその事を連絡したらしい。


 十分ほどで洋介と武淵先輩の二人と合流して遺跡に向かったらしい。遺跡にその黒い服を着た男が遺跡に入ったのを確認して俺たちと同じように四つの人型の像が並んでる所から入ったらしい。


 それからの遺跡の中での起こった事も俺たちが体験したことと寸分違わず同じだった。


「……と言うわけだ。さらに、こっちの世界でどうしたものかと困っているときにウィルフレッドさんに出会ってここに連れて来て貰ったんだ」


「なるほどな。ほぼっていうか全部俺たちと辿って来たルートは一緒だったのか」


 とりあえず、呉宮さんはこの世界にいる可能性が高い。それが分かっただけでも上出来だ。


「俺たちはこれから呉宮さんを探そうと思います」


 俺は半分、自分に言いかけるようにミレーヌさんに伝えた。


「分かったわ。お父さんと同じように私もできる限り協力させてもらうわね」


「ありがとうございます!」


 俺たち六人は揃って頭を下げた。……ただ、茉由ちゃんは勢いをつけすぎてベッドの角で頭をぶつけていたが。


「……話はまとまったようだな」


 開けっ放しのままになっている扉の方から声が聞こえてきた。誰かと思って見ると、そこにはウィルフレッドさんが立っていた。


「お父さん!始末書書き終わったの?」


「あれか。ちょうど今燃やしてきた所だ」


 それを聞いた直後、ミレーヌさんには何やら烈火の如き炎を纏っているように俺には見えた。何かヤバいことになりそうな気がする……。


「何で燃やしちゃうのよ……!それじゃあ、また辺境伯様に呼び出されるでしょ!?」


「別に大した問題ではないだろう。そもそもあの程度の事で壊れる城壁がもろすぎるだけだ」


 ミレーヌさんの手はプルプルと震えている。その後は予想通り、二人は口論になった。俺たちは何も言い出せず、ただただそれを眺めていることしか出来なかった。


 ちなみに二人の口論の内容をまとめるとこうだ。


 一カ月前。アスクセティの森に通常とは桁違いの強さを誇るオークが出現した。最初は数名の冒険者たちが討伐に向かった。しかし、三日経っても帰ってこなかったので、今度は別の冒険者たちが様子を見に行ったらしい。


 そこで彼らが見たものは、三日前に出発した冒険者たちの亡骸だった。彼らの報告で放置しておくのは危険だと判断した辺境伯が軍を派遣したが、多くの負傷者を出しただけに終わり、ウィルフレッドさんに依頼が回って来た。


 ウィルフレッドさんは難なくそのオークを掃討した。しかし、戦いの時にウィルフレッドさんがオークを城壁に叩きつけた時に壊れてしまったらしい。


 ミレーヌさんの言う始末書というのは壊した城壁に対しての物らしい。それで今さっき揉めていたんだそうだ。何でも城壁の修理費用の半分はオークの討伐報酬で消えてしまったんだそうだ。残りの半分も始末書の提出と同時に支払うように言われたのだそうだ。


「とにかく、明日辺境伯の使いの人が受け取りに来るんだから何とかしないと……!」


 ミレーヌさんは随分焦っている様子だが、当の本人はどこ吹く風といった感じである。おそらく始末書を書かずに支払期限も延ばすつもりでいるのだろう。


 そして、俺はこれから何をしようかと考えていると、突然横から寛之に肩を叩かれた。


「……直哉。今から一階に行かないか?」


「一階?ここが一階じゃないのか?」


 俺はてっきりここが一階だと思っていたんだが、どうやら違うらしい。


「……ここは地下一階だ」


「そうなのか。……で、一階には何があるんだよ」


 俺は当然の疑問を投げかけた。突然そんなことを聞いて来られてもな。何があるかも知らないしな。俺の疑問に対して寛之は思いのほか早く回答した。


「……食堂だ」


「……ほう?」


 ……え?まさかそれだけ?


 俺が寛之の言葉に固まっていると洋介が会話に入って来た。


「いや、食堂だけじゃないんだけどな。まあ、見た方が早いだろうから一緒に行かないか?」


「へえ、それなら行ってみるか」


 そんな俺と洋介の様子を寛之はじっと見て、こう言った。


「……何で僕の誘いには乗らなかったのに洋介の誘いには乗るんだよ」


 寛之の言葉を聞いて洋介はこう言った。


「いや、お前は誘い方が下手なんだよ」


「……何……だと……!?」


 寛之は随分と落ち込んだ様子だった。でも、俺と洋介が食堂の方に行くと自然と後ろを付いて来ていた。


 部屋を出て右、階段のある方へ石畳の廊下をまっすぐ歩く。すると途中で左右に木製の扉があるのを見つけた。


「なあ洋介、この扉は何の扉なんだ?」


「ああ、えっと、右は鍛冶場で、左が調合場だ」


 鍛冶場?調合場?一体、この家が一体何なのか全く分からなくなってきたぞ……。普段ウィルフレッドさんやミレーヌさんは何をしている人なんだろう……?ますます分からん。


「まあ、俺もそれ以上のことは知らねぇんだ」


 ……どうやらそう言う洋介も詳しいことは良く分からないようだ。


 俺と洋介、そして寛之の三人は石造りの階段を上り一階に到着した。


「おおー何かラノベによく出てくる冒険者ギルドって感じだな」


 一階は木の床に木の柱が目立つ。それに思っていたより広くて驚いた。すぐ左には開け放された木の扉。そこから月光が差し込んできている。そして、扉からは湿った風が吹き込んでいた。


 また、壁は石造りになっており、辺りには木製の長机に長椅子が並んでいる。さらに、奥にはカウンターがあり、その奥に掲示板がある。その前に空色の長い髪をクリーム色のバレッタで留めた背の高く若そうな一人の女性が何やら作業をしているのが見えた。


 俺たちはカウンターの方へと歩いて行く。すると、その女性は俺たちに気が付いたようでこちらに顔を向けた。


「あら、洋介と寛之じゃない。えっと……もう一人の方は……?」


「あ、初めまして。俺は直哉と言います」


 俺は自分の名前を名乗ってから、ウィルフレッドさんやミレーヌさんに話したように事情を説明した。


「そうだったのね。これからよろしく、直哉」


「はい。こちらこそよろしくお願いします。えっと……」


 ……彼女の名前を聞くのを忘れていた。しかし、俺が名前を聞くより早く彼女が先んじて名乗ってくれた。


「私はラウラよ。他人ひとを先に名乗らせておいて自分が名乗るのを忘れるなんて失礼なことをしたわね。改めてよろしく、直哉」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします。ラウラさん」


 ラウラさんは右手を差し出してきたので俺は受け取るように握手をした。


 その後、ラウラさんを含めた俺たち四人は夕食を摂りながら他愛もない話をしていた。そして、俺たちが食べ終わろうとしていたまさにその時。地下にいた女性陣がやって来た。


「ラウラ、遅くなっちゃったけど夕食貰ってもいいかしら?」


 一番先頭を歩いてくるミレーヌさんがラウラさんにニコニコと親しげに話しかける。


「全然大丈夫よ。今作って持っていくから座って待っててくれるかしら」


「分かったわ。それじゃあ、私たちはここで座って待ってることにしましょうか」


 ミレーヌさんはラウラさんに言われた通りに席に着いた。そして、彼女に促されるまま紗希も茉由ちゃんも席に着いた。一方、武淵先輩は壁際にいる洋介と何やら仲良さげに話をしていた。


「……前から思っていたんだが、あの二人は何で付き合ってないんだ?」


 突然寛之から話しかけられてしまった。俺的には無視して紗希に話しかけたかったが、茉由ちゃんとミレーヌさんの三人で何か話をしていたのでそれは叶わなかった。


「さあな。俺にもさっぱりだ。まあ、強いて言うなら幼馴染だからじゃないか?あの距離感に慣れてしまったとか」


 ……まあ、詳しいことは何も知らないからな。適当に行ったが我ながら当たっているような気もする。


「……幼馴染だから、か。案外それはあり得るかもしれないな。……それより幼馴染で思い出したんだが、お前と呉宮さんも幼馴染だよな」


「ああ。それがどうした?」


 寛之のやつ、急にどうしたんだ?俺と呉宮さんが幼馴染だという事がどうかしたんだろうか。


「何で未だに名字呼びなんだ?洋介たちみたいに下の名前で呼ばないのには理由があったりするのか?」


「ああ。別に大したことじゃないんだが……」


 ――話は10年前に遡る。

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