91話目 願い事

 目の前に突如現れた、巨大なイカ。


 全員が固唾を飲んで見守る中、それは言った。


「オッス! オラ、神イカ! どんな願いもひとつだけ叶えてやるぞ! オラの出すクイズに答えられたらな……!」


「……」


 予想外の言葉に、全員は固唾を飲み続けたままだった。


「あれぇ? なんだ、全然盛り上がってねえなぁ。願いを叶えたくて、オラを呼び出したんじゃねえのか?」


「ほれ見てみぃ! イカ神が現れたじゃろう! 年寄りの話は聞くもんじゃ」


 ケルベロスの100の顔が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。その言葉で、俺はようやく我に返ることができた。


「あ、ああ、そうだね。たしかにケルベロスの言った通りだった。ただ、イカ神なのか神イカなのか、そこは、はっきりさせてほしい」

「聞こえてなかったのかぁ? オラ、神イカだって言ったろぉ」


「本人がああ言ってるので、じゃあ神イカということで」

「ハッ! ハッ! そこはどっちでもいいですよ! さばいてしまえばどうせイカなんですから!」


 神を前にしても、アーツはぶれなかった。


「オメエラ、オラをさばく気なのか? せっかく出てきてやったのに、そんな態度なら、オラもうけえるぞ」


「あ、待って! 願い、叶えてほしいです。クイズやります!」


 アーツを黙らせつつ、慌てて言った。


「よおし、じゃあオラの取っておきのクイズだ。心して答えろよぉ。チャンスは3回までだ」


「なんでも叶えてくれる割に、条件緩いんですね」

「今まで、このクイズに答えられたヤツは居ねえからな。3回でも少ねえくれえだ」


 いったい、どのような難問が出されるのか。しかし、正解することができればなんでも願いが叶うのだ。

 このチャンスを活かさない手はあるまい。

 マグロ大王の身体からだをイカにしてる場合ではない。


「さあ、問題だ! イカはイカでも、他人の妨害ばかりするイカは?」


 なんだこの問題は。小学生向けのなぞなぞレベルじゃないか。いやしかし、裏になにか隠された意図があるのだろうか。

 しかし、いくら考えても、答えはアレしか浮かんでこない。チャンスは3回あるのだ。言うだけ言ってみよう。


「……ジャマイカ」


「正解! オメエ、すげえなぁ」


 正解だった。裏の意図もなにもなかったらしい。


「じゃあ、なんでも願いを叶えてやっぞ」


 そう言われても、クイズの内容に動揺してしまい、願いの内容がまだ固まっていない。


「すみません。ちょっと待ってください」

「ちょっと待つ、オメエの願いはそれだけでいいのか? それならちょっと待つぞ」


「ああ! いや、待たなくていいです。それは願いじゃないんです」

「なんだ、紛らわしいヤツだなぁ」


 危ない。うかつなことを言うと、しょうもないことを願い事だと認定されてしまう。なにかをお願いするような言い方は避けなければ。


「今から願いを言います!」


 そう言って、俺はしばらく考えた。なにを願うべきか。すると、背後から女性の声が聞こえた。

 その声に、神イカは大きくうなずき言った。


「分かった。その願い、叶えてやっぞ」


 振り向くと、そこには秋山さんが立っていた。


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 秋山さんは、神イカになにをお願いした?

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