88話目 転換
「よーし、あの大量のすり身を、マグロ大王の頭の切断面にくっつけていこう」
俺が言うと、周りに
「くっつけていくって、どんなシェイプにするの?」
久しぶりのペーター節を聞いた。
「どんな形にするかはあまり考えてなかったな。ステンノさんが触れている状態ですり身を付けていけば、勝手に
「ハッ! ハッ! それじゃ面白くありません! せっかくですから、クリエイティブな
目を輝かせてアーツが言った。
「おい! 聞こえてんねんぞ! ひとの
「ハッ! ハッ! イカなんてどうですか!」
「おい! 話聞いてんのか! オレ、マグロやぞ。なんで
「ハッ! ハッ! マグロ大王の
「おおー! それだ!」
数人から感嘆の声が上がった。
「それだ、じゃないやろ! やめろや! イカの
「よーし、じゃあみんなでイカの
「ウェイト! イカのボディを作るって、どうするのよ」
「適当にすり身をくっつけて、10本足を
「リアリィ? まあ、いいわ。レッツドゥーイット!」
完全に球体になってしまっている佐々木は、あまり作業の役に立ちそうになかったので、傍観していてもらうことにした。ステンノには回復を継続してもらうことにする。
なので、俺、ペーター、アーツの3人でマグロ大王イカを造成する一大事業を成し遂げることにした。
俺は、すり身の山の前に立った。その山は、高さ3メートル、幅5メートルほどあり、あらためて見ると、目の前に相当な量のすり身があることを実感した。
そして、臭い。だいぶ生臭い。ケルベロスの口の中で長時間噛まれていたこともあり、だいぶ液体化している部分も多い。
ケルベロスの唾液が混ざったドロドロのすり身を、両手いっぱいにすくい上げると、生温かい感触が伝わってきた。
「うわあ。だいぶ気持ち悪いな、これ」
そう言いながら、両手ですくったそれをこぼさぬように、マグロ大王の頭のところまで持っていき、切断面からなぜか1本生えている、チクワの周囲になすりつけた。
「ステンノさんは、しばらく切断面付近に触れ続けておいて」
「あいよ」
ステンノが、マグロ大王のエラの下あたりに手を当てると、先ほどなすりつけたすり身が、みるみる色形を変え、チクワが中骨となり、その周囲に綺麗な赤身が生成された。
「おお! すごい! ちゃんと
ボクシンググローブをはめた両手いっぱいにすり身を持ったペーターがやって来て、先ほど赤身が出来たところに、さらにすり身を付けると、赤身と中骨が大きくなっていった。
再びすり身の山のほうへ向かうと、山の前で少し戸惑った様子のアーツが見えた。
「アーツ、どうしたの?」
「ハッ! ハッ! これをどう運んだものかと思案しています!」
「どうって、普通に手ですくって――」
そこまで言って気づいた。アーツの手は犬の手なのだ。肉球と爪で構成されており、人間のように液体をすくう形になっていない。
「じゃあ、口の中に入れて持っていけば」
「ハッ! ハッ! でもこれ、おじいちゃんの唾液まみれで、乙女のワタシとしては、口に入れるのをためらってしまうのです!」
「そこは、あまり気にしなくていいんじゃない。犬なんて、ほかの犬が食べたものでも平気で食べるでしょ」
「ハッ! ハッ! 失礼な! でも、それもそうですね!」
アーツは四つん這いになり、顔を横にして、山のふもとにあたる、地表付近のすり身を器用に口に中に入れた。
こうして、3人での共同作業は軌道に乗り、マグロ大王の
マグロ大王とすり身の山の間を往復し、すり身をなすり付ける作業を繰り返した。
中骨の周囲に赤身が出来、その周囲に、中トロ大トロが出来、といった具合に、
その再生が、いよいよ
うっすらと朱色に染まっていて、まるで金魚の体表に見える。そして、この色を俺はつい最近見た記憶がある。
「これ、ひょっとしてアカマンボウじゃないか? 再生されてる
つい、独り言が、口からこぼれた。
「おい! オレの
マグロ大王は、取れかけた目を、器用に蛇で操り、自分の
「まあ、アカマンボウの
丸い佐々木が言った。
「すっかりフォゲットしてたけど、そもそもイカの
「そうだった。赤身が再生されて喜んでる場合じゃなかった。ここから、どうやってイカの
このままでは、マグロ大王マンボウになってしまう。
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ここから、どうやったらイカの
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