89話目 謎の交渉

「イカの身体からだを作るために、なにかいい手はないの?」


 誰に言うともなく言うと、少し遠くでケルベロスのどれかの顔が答えた。


「遠い昔に聞いたことがある。たしか、7種のイカを集めれば神のイカが現れて、どんなすり身もイカになるんじゃ」


「……マジで言ってる?」

「大マジじゃ。たしか、大昔にその神イカのちからをかりて、巨大なイカに生まれ変わったすり身があったはず」


「いやいや、ちょっと待っておじいさん。イカって、数百種類居るでしょ。そのうちの7種が集まっただけで神のイカが現れるってのは、どういうことなの? 海の中で神イカ出現しまくってんじゃないの」

「ううむ。そう言われてものう」


「7種のイカっていうのは、どのイカでもいいの?」

「ワシも自分で呼び出したことはないからのう。そう言えば、昔、イカの10種盛りを食べたときは、神イカは現れなかったのう」


「ううん。今試しにやってみるには、あまりに不確定要素が多すぎる。っていうか、雲をつかむような話だ。いや、マユツバと言ったほうが近いかもしれない」

「そんなことを言うなら、もうええわい! ワシはなにも教えてやらん!」


 ケルベロスは、へそを曲げてどこかへ行ってしまった。


「ハッ! ハッ! いいアイデアを思いつきました!」


「お、アーツ、自信ありげだね。聞こうじゃないか」

「ハッ! ハッ! まず、アカマンボウの身体からだを先に作ってしまうんです! そのあとで、足先あたりを10等分に切り刻んで、加熱するんです!」


「それ、ただの刻まれたアカマンボウじゃない?」

「ハッ! ハッ! とんでもない! 足が10本あるアカマンボウが居ますか? 足が10本あれば、もうそれはイカですよ!」


「アーツは、ちょっと思想が偏っているね」

「ハッ! ハッ! それほどでもないです! 少しリベラルなだけです!」


「あと、一回出来上がった身体からだを切り刻むのは、マグロ大王がだいぶ痛いんじゃないかな」

「ハッ! ハッ! 一度、頭を切り落としておいてよく言いますね! 今さら、マグロ大王の痛みを気にするとは、どういう風の吹き回しですか!」


「まあ、強いて言うなら、そこで本人が聞いてるからかな」

「せやで! さっきから全部聞こえてんねん! イカの身体からだなんて嫌や言うてるやろ! しかも、一回身体からだを作ってから切り刻むとか、なにを恐ろしいこと言うてんねん! お前ら、魚はいくら切り刻んでもええ思うとるやろ」


「ハッ! ハッ! もちろんですとも! なんせ魚ですからね。しかし売子木きしゃのきさん、マグロ大王が聞いてるからって意見を変えるなんて、そんな裏表がある人だとは思いませんでした! 幻滅です!」


「いや、これを裏表と言われるとちょっと困るんだけど」

「ハッ! ハッ! とりあえず減点1しておきますね!」


「え、なにそれ。減点が溜まるとどうなるの?」

「……」


 アーツは急に黙り込み、口角を大きく上げた。笑顔のように見えたが、その顔の意図は分からなかった。


「即席の型を作って、無理矢理イカの形に再生させてしまうというのはどうでしょう」


 言ったのは佐々木だった。


「おお? それでイカの身体からだが出来る?」

「肉の質はアカマンボウのままでしょうけど、少なくとも、イカの形にはなるんじゃないでしょうか」


「ふむ。それが一番現実的かもしれないね。問題は、その即席の型をなにで、どうやって作るか」

「そこら中に転がっている、魚介星人の死体からすり身を収集してきて、型を作ったらステンノ様に石化してもらうのがいいんじゃないですか」


「そうしよう」


 となると、またケルベロスの協力が必要だ。先ほど、機嫌を損ねてどこかに行ってしまったので、探さねばなるまい。


 ケルベロスを探してあたりを少し歩き回ると、マグロ大王の身がさばかれている場所に来た。立派な刺身盛りが作られている途中のようだが、秋山さんの姿が見えない。


 そう言えば、マグロ大王の頭を巡って、ステンノと秋山さんが少々やりあったようなことを言っていた。

 そこの詳細を聞いていなかったが、実際にはなにがあったのだろう。


 ステンノは、どうやって秋山さんに、マグロ大王の頭をあきらめさせたのだろうか。


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 ステンノは、秋山さんになにをした? またはなにを言った?

 秋山さんは今どうなってる?

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