86話目 変貌

 佐々木は、少し間を置いてから口を開いた。


「あるんですよ…ハニワのわざの中には口に出すのもはばかられる呪われた禁術が…! その名は……」


「いや、なんの話をしてるの。とりあえず、このアカマンボウをどうするのかを教えてくれればいいんだけど」

「アカマンボウを使って、なにをする気ですか」


「いやいやいや、さっきの話聞いてたでしょ。マグロ大王の身体からだを作ろうと思ってさ」

売子木きしゃのきさんが殺しておいて、なんで今さら身体からだを作ろうだなんて」


「まだ殺してない。生きてた生きてた。あと、ステンノさんが治療してるから、たぶん死なない。だから、身体からだを作ってあげたいの」

「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、おこがましいと思わんかね」


「誰だよお前。口調まで変わっちゃって」

「人間の体は水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、及びその個人の”遺伝子の情報”によって構成されている。大王のアラ持ってこーい!」


「おい! わけの分からないこと言ってんなよ! 人間の身体からだの組成なんてどうでもいいんだって。大王のアラが欲しいなら、さっきのところに戻ればあるけど」

「はっ! すみません。僕の中のマッターホルンちゃんの意識が、マグロ大王の思念と干渉したみたいで、少しトリップしてました」


「意識が干渉? そんなことがあるの?」

「なんせ、マグロ大王ですからね。ほかのマグロに思念を飛ばすことくらい、出来るんじゃないでしょうか」


「ちょっと、久しぶりにマッターホルンさんを出してみてよ」

「いやーん、もうびっくりしちゃったわよー。大王さんの感情がビンビン伝わって来ちゃって。売子木きしゃのきちゃんに、友達だって言われたのに裏切られたのが、相当ショックだったみたいよー」


「いや、もう戻ってもらっていいや。はい、引っ込んで」

「え? もういいのー? せっかくだから、もう少しお話しましょ――はい。戻ってきました。佐々木です」


「というわけで、俺は、友達を救うためにも、身体からだを作らないといけないんだ。早く、このアカマンボウをどうしたらいいか教えてくれ」

「すり身にしちゃいましょう」


「それで大丈夫なの?」

「いんじゃないですか、代用品なんで。足りないときは、チクワを足す! これがハニワ会のセオリーです。そしてチクワと言えばすり身」


「オーケー」


 とは言ったものの、すり身にする器具など持っていない。

 数回、周囲を見渡した結果、ひとつの結論に達した。


「よーし。ケルベロス、このアカマンボウをかじって、口の中ですり身にしておいて。それ飲み込まずに取っておいてね」

「突然、無茶苦茶な要求を出すのう」


 俺と佐々木がその場から少し離れると、ケルベロスが、巨大なパラボラアンテナのようなその頭部を地面に近づけ、アカマンボウの死体の上を滑らせるように動かした。

 果物にかじり付いたときのような音が、多重に鳴り響き、ケルベロスが頭を上げると、アカマンボウの死体からは、頭と尾と中骨しかなくなっていた。


 近づいてケルベロスを見ると、いくつかの顔が咀嚼をしているらしく、アゴを動かしていた。


「それ、飲み込んじゃ駄目だからね」


 改めて注意をしたところ、いくつかの声が同時に返事をしてきて、なんと言ったのか聞き取れなかった。


 よし。すり身にすればいいことは分かった。そして、魚肉をすり身にする方法も、持ち帰る手段も手に入れた。

 となれば、もう数体の死体を探して、たっぷりのすり身を持ち帰ることにしよう。


「ケルベロス、もう少し付き合ってよ」


 その後も、ケルベロスに周囲を飛び回ってもらい、数体のアカマンボウ星人とアロツナス星人の死体を発見。

 先ほどと同様に、ケルベロスに加工処理と保存をお願いした。


 ケルベロスのほとんど顔が口を閉じたまま喋らなくなった。


「そろそろ限界?」


 たずねると、白狼顔が口を動かした。


「だろう。ワシ以外の、すべての顔の口は、もうすり身でいっぱいのようだ」


「じゃあ、これで充分なすり身が確保できたと思うから、マグロ大王のところに戻ろう」


 俺と佐々木は再びケルベロスの背に乗り、マグロ大王のもとへと急ぐ。

 マグロ大王は無事だろうか。秋山さんにより、すでに頭も殺されてしまってないだろうか。一応ステンノに、手段を問わずに止めるようお願いはしてきたが。


 ケルベロスが跳び上がったかと思うと、瞬く間に、マグロ大王の頭部とステンノの姿が視界に入り、迫ってきた。


 あれ、マグロ大王が、さっきまでとなにか違うような……。


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 マグロ大王の頭部はどうなっていた?

 秋山さんによって解体されてしまったのか、それともステンノがなにかをしたのか……

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