72話目 海底の建造物

 佐々木におぶさり、胸に回していた腕にじんわりとした刺激が伝わり、すぐにむずがゆくなってきた。


「なんだなんだ。何が起きるんだ」

「埴輪式古式泳法いちの型・猛雄絶モーゼ!」


 佐々木が声を上げた直後、目の前の水がなくなり、海が裂けていくのが見えた。水の裂け目は海底まで達し、先ほどの小魚の群れの一部が、水のなくなったサンゴの上でビチビチと跳ね回っていた。

 下方にあった水もなくなっていき、それに合わせて佐々木の身体からだも下降する。


「なんだこれは」

身体からだの表面を細かく振動させることで、超音波を発生させ、水を割ったんです。ハニワは一応変身ができますからね、身体からだの表面をある程度自由に操れるんですよ」


「こんなすごい技を持ってたのか。それ、なんかもっと別のことに使えそうじゃない?」

「まあ、それは追々。とりあえず行きますよ」


 佐々木はサンゴを踏みしだきながら、海底を走り出した。


「ねえ」

「なんでしょう」


「これ、泳いでないじゃん」

「それがなにか?」


「さっき、泳げるのかって聞いたら、任せてくださいって言ってじゃん。あと、埴輪式古式泳法とも言ってたけど、これ泳法?」

「細かいことを気にしますね。水の中を移動できればなんでもいいでしょう。金属のフルートを木管楽器って言うのと一緒ですよ」


 納得できるようなできないような例えだが、まあいい。


 佐々木の前方の水がどんどんと左右に裂けて行き、やがてその先端が、ペーターや秋山さん、アーツ、ケルベロスを捉えると、浮力を失った彼、彼女らは次々と海底に墜落していった。


 腹からサンゴの上に落ちて、痛みにうめく秋山さんのもとに着くのに、そう時間はかからなかった。


「ちょっと、あんた。なにしてくれてんの」

「あ、すみません。埴輪式古式泳法いちの型・猛雄絶モーゼを使いました。海底を走ったほうが楽かなと」


「まあ、そうなんだけどさ。それなら最初にやってよね」


 お腹を押さえて恨めしそうな表情を向ける秋山さんの小言を聞き流しつつ先を急ぐと、間もなく、ペーター、アーツにも追いついた。


 意外だったのは、あれほどの速度で移動していたケルベロスにも、すぐに追いついたことだ。どうやら、ケルベロスは走るのをやめていたらしい。


 ケルベロスのホオジロザメ顔が佐々木に言った。


「これじゃにおいが追えん。水の中のマグロ大王のにおいを追っていたのに、水をなくされちゃかなわん」

「あ、これはすみません」


「わしは水中のにおいを追うから、おぬしは少し離れて、進行方向を少しずらしてついてきてくれんか」


 こうして、ケルベロスに多大な迷惑をかけた佐々木は、少し位置と方向をずらしながら、海を割ってついていくことになった。


 遠目でケルベロスの位置を確認しながら、邪魔しないように慎重についていくと、やがて海底に巨大な建造物が現れた。

 その建造物の周囲を一回りしてきたケルベロスが、こちらにやってきて言った。


「どうやら、マグロ大王はあの中に逃げ込んだらしい」


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 海底に現れた巨大な建造物とはなに?

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