53話目 捜索

「9人のほうを追おう。やっぱり、社員のみんなが気になる」

「ハッ! ハッ! 承知しました! ワタシについてきてください!」


 迷いなく走り始めるアーツに、3人が続く。野次馬の切れ間を縫いながら、小走りで移動していくと、何台かの緊急車両とすれ違った。

 これからあの車たちは、会社のビルの前に停まり、捜査や後処理をするのだろうか。


 5分ほど走ったところで、早くも俺の息が上がってしまった。


「ちょっとタイム!」


 先頭を走るアーツを呼び止めると、ペーターも佐々木も、なにごとかという顔でこちらを振り返る。


「ハッ! ハッ! どうしましたか!」


「いや、ちょっと、ペースが」


 言葉の合間に呼吸をしながら、なんとか答えた。


「ハッ! ハッ! ペースがどうしましたか! まさかペースが速いとか言わないですよね! 売子木きしゃのきさんのお知り合いの命がかかってるのに!」


「ペーターと、佐々木は、大丈夫なの?」

「ノープロブレム! ロードワークは牧場長のルーチンよ!」

「僕は、地球人が言うところの呼吸とかはしてないですからね。運動で疲れるといったことはありません」


 なんてこった。アーツは犬だから、いくらでも走れるのだろう。佐々木も人間ではないから疲れ知らずだ。

 ペーターが人間なのかどうかはよく分からないが、体力には自信があるらしい。


「よし分かった。俺は、佐々木におんぶしてもらうことにする。運動で疲れないなら構わないでしょ」

「まあ、いいですけど」


 俺が佐々木の背後に近づくと、佐々木はかがんで、おんぶの受け入れ体制を取ってくれた。

 大の大人が、おんぶしてもらって移動するなど、少々奇異な光景だろうが、今はそんなことは言ってられない。どうせ周りも宇宙人だらけなのだ。多少、行動がおかしかろうが構わないだろう。

 俺は佐々木の背中におぶさった。


 こうして、俺は足を手に入れ、心置きなく追跡することができるようになった。しかし、その前に確認したいことがある。


「目的地は遠いの?」

「ハッ! ハッ! さすがに、ここからのにおいで、目的地を完璧には把握できません! でも、おそらくそんなに遠くはないと思います! なんとなくの距離感はつかめるんです!」


「なるほど。9人は、乗り物で移動したりはしてないの?」

「ハッ! ハッ! してません! 徒歩です!」


 あまりに目的地が遠いようなら、タクシー等での移動に切り替えたほうがいいかと思ったが、相手も徒歩で、そう遠くないのであれば、このまま佐々木におぶっていってもらおう。


「よし、出発進行! ペース上げて!」

「ハッ! ハッ! かしこまりました!」


 アーツは、一度姿勢を低く構えてから、猛烈な勢いで走り出した。ペーターも難なくそれに続き、少し遅れて佐々木が追いかける形となった。


「佐々木! 遅れてるよ!」

「そう言われても、走りにくいんですよ」


「いっそのこと、人間の姿をやめて馬にでもなったら?」

「簡単に言ってくれますね。あいにく、人間以外の生き物には化けられないんです」


「よし。じゃあ頑張れ。君が頑張るしかない! 君には愛のちからがついてるぞ」

「エンダアアアァァァ」


 心なしか、佐々木のスピードが上がった気がする。どうやら、愛は無限の燃料として使えそうだ。


 もう数分走ったところで、先頭を走っていたアーツが、急に立ち止まり左の建物を見た。


「ハッ! ハッ! においはこの中に続いてます!」


 それは、深緑色をした外壁の大きなビルだった。中に人気ひとけはなく、窓越しに見える暗い室内のところどころに、逆さまになった椅子の足や、壁に倒れかかっている書類棚などの姿が確認でき、どうやら廃墟らしい。


 あまり深く考えずにここまで追ってきたが、建物の中に入るとなった途端に、ある種の可能性が現実味を帯びて頭を支配した。

 敵は武装している可能性が高い。敵が居る建物の中に踏み込むとなると、相当なリスクがあるのではないか。


 相手は、宇宙ボムだかを使って、会社をまるごとふっとばした連中だ。追いついたところで、こちらの戦力でどうにかできるのだろうか。


 さて、このビルの捜索をどうするべきか。


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 みんなで中に入る?

 先に誰かに偵察させる? その場合は誰?

 それとも何か他の手が?

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