54話目 右からやってくる

「無策に突っ込むのはまずい。ビルに入る前に作戦を立てよう」


 そう言って、俺は3人をビルの入口から少し離れたところまで連れていった。ビルの窓からこちらを見られている可能性も考慮し、他の建物の陰に入り、ビルから死角になる場所へと移動した。


「ハッ! ハッ! どうしたんですか! あとはビルに突入して、イカ野郎の足という足を噛みちぎってダルマにするだけですよ!」


 アーツが歯の間からよだれをにじませな、世話しながら跳びはねている。どうやら、イカを咀嚼したくて仕方ないらしい。


「相手は宇宙ボムで会社をふっとばした連中だよ。どんな武装をしているか分からない。銃を持っている可能性もある。何も考えずに突入するのは危険だと思う」

「ハッ! ハッ! 大丈夫です! ワタシの鼻が捉えた限り、ここに逃げ込んだ人たちは、銃や爆弾は持ってないと思います!」


「そんなことまで分かるの?」

「ハッ! ハッ! 分かります! 火薬系のにおいは独特ですから!」


「となると、そこまで慎重になることもないのかもしれない。しかし、ここはみんなの特性を活かして、万全を期して進もう」

「みんなの特性と言いますと?」


 と問いかけてきた佐々木に向き直った。


「まず、基本的に4人で固まって行動するけど、先頭は佐々木にやってもらう」

「なんで僕なんですか」


「最悪、撃たれても割れるだけで済むから。痛みとかもないでしょ。他3人は、殴られたり撃たれたりすると、やっぱり痛いわけ」

「僕、せっかく永遠の愛を手に入れたんで、できたらもう割れたくないんですけどね」


「大丈夫。策はある。じゃあ先頭は佐々木で決まり。次に2番手はアーツ。においをたどって、進むべき方向を教えてほしい」

「ハッ! ハッ! お任せください!」


「じゃあ、サードはわたしね!」


 ペーターが割って入ってきた。


「そうです。もし、敵が確認された場合には、自慢のブローで倒してください」

「オーケー! キルしてもいいの?」


「あ、まあいいんじゃないかね。相手がイカなら」

「エキサイティング! 殺人ブローをお見舞いしてやるわ!」

「ハッ! ハッ! 事故に見せかけて相手を殺すのが、ペーターさまの必殺技なんです!」


「事故に見せかけた必殺って、相当たちが悪く聞こえるんだけど」


 俺が言っている横で、ペーターが両手のボクシンググローブを取り外すと、その下から、マットな黒の金属のような手が現れた。


「ペーターさん。なんですか、その手は」

「アイアンフィストよ。っていっても、地球のアイアンとは比べ物にならないくらいハードでヘビーだけどね。これで殴ると、すぐキルしちゃうから普段はグローブをはめてるの。でも、今回はいいんでしょ」


 そう言って、黒髪の美少女は爽やかな笑みを浮かべた。

 ペーターは、初対面のときからボクシンググローブをはめていたとは言え、想像以上に武闘派らしい。いや、武闘派を通り越して、ちょっと道を踏み外してる雰囲気がある。だが、この状況ではそれが頼もしい。


「はい。ではペーターさんは3番目で。俺がしんがりを務めます」


 これでパーティの役割は決まった。


「ところで、さっき言ってた策ってなんですか」


 聞いてきた佐々木に、内容を説明し、俺ら4人は、ビルの道路に面した側の中央にある入口前まで行き、中の様子をうかがった。

 さすがに、道路から入口を覗いただけで攻撃してくるようなことはないだろうという判断だ。


 入口のドアは、すでになくなっており、素通りできる。入ってすぐに道はくすんだ灰色の壁に突き当り、左右へと分かれている。


「よし、佐々木。出番だ」


 押し殺した声で告げると、佐々木は自分の足の裏から小さな破片を割り取り、それを突き当りめがけて、ボーリングの投球の要領で、転がすように投げた。


「左右ともクリアです」


 このように、分かれ道や死角と遭遇するたびに、佐々木に破片を投げてもらい、破片を通じて状況を確認し、敵がいないかを確認するというのが、俺の策だった。


「じゃあ、アーツ。頼む」

「ハッ! ハッ! お任せください!」


 アーツは速やかに、突き当り付近まで駆け寄り、右を指した。においが右に続いているということだ。


 佐々木が先に突き当りまで歩を進め、破片を拾ってから右に歩き出す。すぐうしろにアーツとペーターが続き、少し遅れて俺が追いかける。


 ビルの中に入ると、外から見たときの印象そのまま、電気が消えていて薄暗い。廊下の床は薄い緑色のタイル張りで、経年劣化によるものか、あちこちに亀裂が入っている。

 両側に立ち並ぶ灰色の壁には、スプレー缶で書いたカラフルな文字のようなものが見えるが、なんと書いてあるのかは読めなかった。


 なるべく足音を立てないよう、4人で息を殺しながら進むと、前方左側の壁が途切れており、どうやら左へ折れる通路があるようだった。


 目顔で促すと、佐々木が、床を滑らせるようにして破片を投げた。


「クリア。左に上り階段があります」


 佐々木が破片を取りに行き、アーツがにおいを確認する。


「ハッ! ハッ! においは左に続いてます。階段で上に行ったんですね!」


 アーツが、努めてささやき声で言った。


 佐々木を先頭に階段を上ると、すぐに踊り場が現れて、階段が折り返している。再度、佐々木が破片を投げて、2階に誰か居ないかを確認する。

 これを繰り返し、においを頼りに4階まで上った。


 階段を上りきると、正面は丁字路になっており、左右に分かれる道がある。佐々木が破片を投げようとしたとき、右側から足音が聞こえることに気づいた。


 他の3人と順に目を見合わせる。みんなにも足音が聞こえているらしい。佐々木が、自分の破片を見せつけるように、みんなの目線まで持ち上げ、正面の丁字路に向けて滑らせた。


「あ」


 佐々木が小さな声を漏らした。


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 右からやってくるのは何者?

 そいつに対してどうするかも書いてくれてもいいです。

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