35話目 迷った末の
服屋の名前はユニークル。さぞ、ユニークな服が揃っているに違いない。
ステンノが、今、着ているドレスは、おそらくフォーマルなものだろう。であれば、2F のフォーマルは後回しだ。せっかくだから、違うジャンルの服装を見てみたい。
1~5F があるものの、階の移動はエレベーターではなく、やはりラインで行うため、時間はかからない。
ユニークルの価格設定も分からないので、まずは1Fから見て回ってみよう。多少時間がかかっても構わない。服を選んでいる間もデートなのだ。
ラインを通じて、1Fの中へと入った。店内の雰囲気は、地球の服屋とあまり変わらないように見えた。インナーやアウター、トップス、ボトムスなどが種類別に分けて置かれている。
「ハイカラだねえ。しばらく見ない内に、服屋ってのはこんなになってたのかい」
色とりどりの服に目を奪われながら、ステンノはまんざらでもない口調で言った。
玄人としては、ここで彼女のインナーも選びたいところだが、デート初日に、それはあまりにもアレなので、とりあえずはトップスとボトムスを選ぶことにしよう。
カジュアルのトップスといえば、やはりTシャツか。いや、ブラウスも捨てがたい。
Tシャツのコーナーに行ってみると、一見、普通の人間女性のMサイズ相当の大きさの服が並べられていた。
こんなサイズでは、とてもステンノが着られるとは思えない。
大きめのサイズはないのだろうかと探していると、あらゆる服に、フリーサイズと書かれているのを見つけた。
ううむ。もしや宇宙テクノロジー的なアレで、どんなサイズにもフィットするように作られているのだろうか。
「試着室に行ったほうが、話が早いですよ」
唐突にササキが声を発した。
「そういうものなの?」
「ええ。試着室に行けば、基本的には店内のあらゆる服の試着ができます」
それは興味深い。
店の奥に進むと、そこには試着室へと続くラインが何十本も束になって設置されていた。
なるほど。この試着室の数を見ても分かる通り、店内の陳列はおまけで、試着室がメインらしいことが分かる。
使用中の試着室へと続くラインは赤色になっており使用できないらしい。誰かが使用中の試着室にうっかり、または故意に入ることはできない仕組みだ。
「あれ。試着室には、俺も入っていいの?」
「大丈夫ですよ」
こともなげにササキが答えた。
「いや、大丈夫かどうかを決めるのはステンノさんでしょう」
そう言って彼女に視線をやると、彼女は両肩をすくめた。
「あたしに聞かれても分からないよ。別にいいんじゃないかい」
「え、そんな、いいんですか。大胆ですね」
豪放なステンノに、こちらがドギマギしてしまう。
「残念ながら、
何がなんだか分からないが、とりあえず試着室に移動してみることにする。
「では、5番に行きましょう」
ラインを通ると、やけに広い部屋の中に出た。20畳ほどはありそうだ。
部屋の中央では、スポットライトのような光が幾筋も走り、壁にタブレットのような端末がかかっていた。
「この試着室、広すぎない?」
「団体さんでも入れるように、このくらいの広さになってるんですよ」
団体で試着だと。どういうことだろう。
「では、
ここへきて、ササキがてきぱきと指示を飛ばし始めた。母艦内の施設のことがよく分かっていない俺らが、もどかしいのかもしれない。もしくは、さっさと用事を終わらせて工房に行きたいか。
部屋の中央で、光に照らされたステンノは、より美しく見えた。
俺は、ササキに言われるまま端末を操作し始めた。
なるほど。この端末で、照明を操作したり、試着する服を選ぶことができるらしい。しかし、実際のところ、どう試着するのだろう。
試しに、白のTシャツとデニムのホットパンツを選択して、試着ボタンを押してみた。
部屋の中央のステンノの服装が、またたく間に、Tシャツホットパンツ姿に変わった。
「あ、服が変わった」
「ホログラムの応用で試着ができるんですよ」
彼女も驚いたようで、顔を下に向けたり、前に向けたりして、自分の服装を確認しているようだった。
「中央で試着している人には、鏡のようなものが見えていて、前後左右から見た自分の姿を確認できるんです」
こちらの疑問に先回りするかのように、ササキが説明した。
なるほど。端末を操作するだけで、試着し放題というわけか。
Tシャツ、ホットパンツ姿の彼女を、まじまじと見る。
ドレスのときには気づかなかったが、だいぶ胸があるらしい。Tシャツの下から、2つの膨らみが、だいぶ激しく主張している。
端末のほうのスライダーを動かすと、Tシャツのサイズを変えることができた。ゆったりめからピチTまで、自由自在だ。
極限までピチピチにすると、胸がさらに強調され、大変けしからん光景になった。この試着室は大変けしからん。
ホットパンツからすらりと伸びた生足は、照明を浴びて、真っ白に輝いていた。
だいぶ快活なイメージになったな。
「こういう服は、もうちょっと若い子が着るもんじゃないかい」
両手両足をせわしなく動かし、自分の姿を何度も確認しながら、ステンノが言う。
「あなたが不死身であるなら、何歳であるかは、もはや意味をなしません。あなたはまだ少女とも言えるわけです。とっても似合ってますよ」
手元で端末を操作して、今度は、クリーム色のフリルブラウスと、ベージュのフレアスカートを選択し、試着ボタンを押してみた。
先ほどと同様、彼女の服装が瞬時に変わった。
「ああ、こっちのほうが、まだしっくり来るかね」
スカートの裾を、指で少し引っ張り上げながら、ステンノが言った。
ふむ。これはこれでいい。彼女の凄味のようなものが消えて、だいぶおとなしめの女性に見える。
手元の端末で、ブラウスの胸元に着けるリボンの色や形状を変化させることができた。紺の細リボンから、赤の太いリボンまで自由自在だ。
まずい。試着だけで1日遊べてしまいそうだ。
端末の中のラインナップを見てみると、フォーマルも、ミリタリーも、水着もコスチュームもあった。
「あれ、全部選べるの?」
当然の疑問が口から出た。
「試着室は全フロア共通ですから」
当然のように答えるササキ。
「フロアを分ける意味あるの?」
「まあ、そこは気分ですよ。効率化を推し進めすぎると、楽しさがなくなったりしますからね」
「では遠慮なく」
気に入った試着データを、そのまま端末内のカートに放り込んでおき、買うものリストに入れておき、新たな服を探す。
水着は、やはりビキニか。いや、ビスチェも捨てがたい。ラインナップの中には、なぜかスクール水着もあった。
あえてスクール水着を選んで試着をさせてみた。
「へえ。こりゃまた、動きやすそうな服だね」
ステンノは、これが水着であることに気づいていないように思える。
「水陸両用なんですよ。地球の日本という国では、若い女性はほぼ全員それを着たことがあります」
ウソは言ってないはずだ。
しかし、身長3メートルのスクール水着というのもまた、地球ではお目にかかれない壮大さであった。
コスチュームの中には、各種民族衣装から、ナース服等の職業衣装、さらにはアニメやゲームキャラの衣装まであった。
とりあえずは、民族衣装の中から、
色は黒にしてみよう。
「あ、これは、あたしのドレスと似た感じだね。足元が少しスカスカだけど」
スリットから、長い足が覗いており、これまた趣が深い。
これは迷う。なるべく多く買いたい。
予算の都合上、カジュアル1着、水着1着、コスチューム2着といったところか。
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それぞれ何を買うかと、何を着せて店を出るかを選んでください!
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