20話目 素材

 再度、換金所に向かいバニーガールに話しかける。


「チップは預けておけるのかな」

「はい。お預かりもできますし、様々な通貨に換金することもできますよ。どうされますか」


「じゃあ、いったん預けておくよ」


 換金所のカウンターに、手持ちの全チップを乗せた」


「わあ、短時間でずいぶんと稼いだんですね。すごいすごい」


 言いながら、バニーガールは耳をブンブンと振り回した。


多牌ターハイばっかりするイカたちが居てさ、何もしてないのに儲かっちゃったよ」


 それを聞いて、バニーガールの表情が曇った。


「ああ、それはもしかすると、あまりよくないかも知れませんね。うん」


「よくないって、何が?」

「うん。多分よくないです」


「だから何が?」

「お気になさらずに」


「気になるよ」

「きっと大丈夫です。何かあったときは、腹をくくってくださいね」


「何? どういうこと」


 このあと、何度か問答を繰り返したが、バニーガールは思わせぶりな発言を繰り返すばかりで、具体的なことは何ひとつ教えてくれなかった。

 少々の不安は感じるが、所詮は気味の悪い人面うさぎの言うことだ。真に受けることもないだろう。


「じゃあ、ハニワ工房に行こうか」


 歩きながらササキに声をかけた。


「え、行ってくれるんですか」


「うん。だから、どうやって行ったらいいか教えてよ」

「カジノの入り口のほうへ行ってください。そこに案内板がありますから、ここへ来たときと同じように、ハニワ工房と書かれたところに触れてくれれば大丈夫です」


 言われた通り、まずはカジノの入り口へと向かった。なんのことはない。このカジノにやってきたとき、最初に自分が立っていた場所が入り口のすぐ近くだった。

 入り口横に受付があり、たしかに、そこには案内板があった。


 どれどれ。ハニワ工房、と。


 案内板に指を触れた直後、気づくと、周囲の景色はすでにカジノではなくなっていた。

 煉瓦造りのような、少し懐かしさを感じる空間に居た。煉瓦のかまで、ハニワを焼き上げたりするんだろうか。


「工房見学のかたですか」


 唐突に声をかけられ、返答が遅れた。振り向くと、白い防護服のようなものに身を包んだ人間が居た。いや、中身は人間ではないのかも知れないが、人型ではあった。頭には、溶接の際に使う保護マスクのようなものをかぶっているため、顔も見えない。ただ、透明のグラス部分から、薄い黄緑色の目と、縦に細長い黒目がこちらを見つめていた。


 やはり、人間ではなさそうだ。猫だろうか。猫星人。


「工房内を見学する際には、安全のため、防護服をご着用ください」


 猫星人は、そういって防護服一式を渡してきた。どうやら、猫星人が着ているものと同じもののようだ。


 その場で、服の上から防護服を着用し、頭に保護マスクをかぶった。


「これでいい?」

「はい。くれぐれも工房内では防護服や保護マスクをお脱ぎにならないようご注意ください」


 いやに厳重だなと思ったが、ハニワを焼き上げる際に、有害な光線でも出るのかもしれない。地球での溶接でも似たような格好をすることを思えば、宇宙土器の工房で、これくらいの防護が必要になる理由も納得できた。


 しかし、完全防護をしたあとになって気づいた。


「そういえば、別に見学に来たわけじゃなくて、君の修復に来たんだよね。見学なんてせずに、さっさと修復をお願いしたほうがいいかな」


 小声でササキに聞いてみた。


「このまま見学しちゃっていいですよ。どのみち、修復は工房の職人さんにお願いすることになりますからね。そこの係員に修復を頼んでも、面倒なことになるだけです」


 ということらしいので、早速、工房に入ることにした。

 工房への扉は、まるで放射性物質でも保管してあるかのような、ものものしい金属製の扉だった。係員が、扉を開けるための丸型ハンドルを、重そうに回しているのを見ている内に、やはりとんでもない危険があるんじゃないかと不安になる。


 見た目に反して、扉は音もなくスムーズに開いた。


 恐る恐る中に足を踏み入れると、すぐ背後で扉が閉まる。もうあと戻りはできない。


「これがハニワの材料です」


 音声ガイダンスが流れた。どうやら、保護マスクの内側にスピーカーが内蔵されているらしい。


 目の前には、ハニワの材料と思われるものが、塊で転がっていた。


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 さて、ハニワの材料は何?

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