19話目 移動

 まずは、この広大なカジノの中を歩き回ってみることにした。少し歩いただけで、実にさまざまなゲームが楽しめるようになっていることに気づく。


 遠くのほうにレース場のようなものもあり、カートが甲羅をぶつけたりよけたりしながら、デッドヒートを繰り広げているようだった。レースの優勝者を当てるギャンブルであると同時に、レーサー側も、優勝すれば賞金がもらえるという仕組みのようだ。


 ふと左手を見ると、茶室カジノの中でもさらに和風な一角があり、そこでは花札の勝負が行われていた。その横では、チンチロも行われており、ギャンブルならなんでもござれという様相だ。


 ううむ。花札はあまりルールを知らないんだよな。チンチロはルールは簡単だが、あまりに運任せすぎてやる気になれない。イカサマサイコロを使うならまだしも。


 しばし歩いていると、ジャラジャラと懐かしい音が聞こえた。


 この音は。


 音のするほうを振り向くと、やはり、麻雀だった。


 麻雀であれば、運と実力のバランスがちょうど良く、ゲームとしては最適な気がする。異星人たちと卓を囲むのも悪くない。


 ちょうど1人欠けた卓を見つけたので、近づいてみる。


「すみません。ここ、いいですか」


 座ってからよく見てみると、自分以外の3人は、みんなイカであった。イカ星人なのであろう。


「おや、地球人かい。珍しい」

「うちらは誰でも歓迎だよ」

「我らの10本足殺法に、どこまでついてこられるかな」


 とりあえず歓迎ムードではあった。10本足殺法は少し引っかかるが。


「では始めましょうか」


 まずは、親決めのサイコロを振ろうと卓上に手を伸ばし、改めて確認する。

 これだけハイテクを備えた母艦内のカジノにあって、この卓は全自動卓ではない。やはりこれは、手積みのほうが味があるという、異星人なりのこだわりだろうか。

 こだわりと言えば、マットの色が黒なのも気になる。普通、雀卓のマット言えば緑だが、この卓のマットは真っ黒だ。


 自分が親になった。


 洗牌シーパイを始めようとしたところ、ふいに、手の甲をムチのようなものでひっぱたかれた。痛みに手を引っ込めると、目の前では3人の10本足が高速で飛び交い、凄まじい速度で洗牌シーパイを済ませ、あれよあれよという間に、牌山が作られていった。

 気づけば、自分の分の牌山まで作られている。


 これはもしや、洗牌シーパイと牌山作りを乗っ取ることで、配牌を意のままにコントロールするというたぐいのイカサマではないだろうか。


「イカサマじゃないでしょうね」


 単刀直入に聞いてみたところ、予想外の返答が来た。


「そうさ。俺様はイカ様さ」

「我ら、イカ様ブラザーズ」


 まずい。面倒な卓に入ってしまった。とりあえず半荘だけ打って、さっさと撤退しよう。


 イカサマイカ3人衆に囲まれ、敗戦を余儀なくされるかと思っていたが、意外とそんなことはなかった。彼らはあまり麻雀が得意ではないらしい。

 いや、それ以前の問題かもしれない。


 ゲームが開始された瞬間、彼らは10本足をムチのようにすひゅんすひゅんと鳴らしながら、高速で手牌を揃えていく。ご丁寧に、こちらの手牌だけ残してだ。

 こんな高速でやられたら、こちらにはなすすべがない。本当に配牌は自由自在、なんなら天和テンホーの連続も覚悟していたのだが、そんな事態にはならなかった。


 当初、この違和感に、すぐには気づかなかった。そして、気づいてからも、すぐに口に出すべきか悩んだ。しかし、これは言わねばなるまい。

 覚悟を決めて言った。


「あの、多牌ターハイしてますよ」


 そうなのだ。このイカどもは、足が上手く制御できないのか、数が数えられないのか分からないが、高速で手牌を揃えたかと思うと、ほぼ毎回多牌ターハイしているのだ。


 何回か指摘をしたのだが、


「貴様! 多牌ターハイの指摘などしてないで麻雀で勝負しろ」


 と、よく分からない反論をしてくる。


「でも、それ和了あがれないでしょ」

「黙れ! 薄汚い地球人め。これでも喰らえ!」

 

 しまいには、スミを吐いて雀卓を漆黒に染めてしまった。雀卓マットが黒い理由はこれだったのだ。そして、全自動卓でない理由もこれだ。このバカイカどもがスミを吐くから、全自動卓では壊れてしまうのだ。

 そして、牌は防水加工がされているのか、綺麗にスミをはじいて、汚れひとつない状態を保っていた。


 とりあえず、イカどもの負けは負けなので、きっちり負け分は支払ってもらった。


「貴様! ろくな死にかたをしないぞ!」


 イカの恨みは買ったが、10万円分ほど稼がせてもらった。これが、異星間問題の火種にならないことを祈るばかりだ。


 さて、そろそろ行くか。


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 ハニワ工房と牧場、どっちに行く?

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