18話目 遊戯

売子木きしゃのき、こんなところで何をしている」


 山田アンコウ社長がチョウチンをチカチカさせながら怒鳴った。


「おっぱい星人フェアの仕入先の視察に来たのですが、受付の案内板でうっかりカジノに触ってしまいまして」

「うっかりだと? チップを抱えてうろついてる男の言うセリフじゃないな」


 やはり説得力がなかったか。

 ふと見てみると、自分の3万円分のチップと見比べると、社長の持ちチップは尋常じゃない量だ。しかも、社長は100ドルスロットの席に座っている。

 まさか、会社の1,000万円は、社長がくすねたんじゃないだろうか。


「だいたい、地球人のお前が、どうやってここに来た」


 こちらの疑惑を感じ取ったのか、少し早口でまくし立ててきた。


「ササキが案内してくれまして」


 言いながら、内ポケットからササキを取り出してみせた。


「社長。お疲れさまです」

「お疲れさまですじゃないだろう。お前、地球人をこんなところに連れてきて、どういうつもりだ」


 土器の欠片であるササキと普通に会話をしているところを見ると、やはり社長は、ササキの正体を知っていたのだ。


「お前、祝賀パレードはどうしたんだ」

「ご覧の通り、千千ちぢに砕けてしまいまして、たまたま居合わせた売子木きしゃのきさんに、母艦に連れてきてもらったんですよ」


 みんながみんな、ササキを見ると祝賀パレードのことを口にする。宇宙人たちにとって、ハニワが祝賀パレードに参加するのは、それほど当たり前のことなのだろうか。


 いや、重要なのはそこではない。社長は、今日、ササキが祝賀パレードに参加することを知っていたのだ。つまり、会社に来ないことを知っていた。ということは、朝の会社でのあのやりとりは、すべて演技だったということだ。


 こうなってくると、ますます社長が怪しくなってくる。


「だったらさっさとハニワ工房に行け! なんでこんなところに居るんだ」


 社長はご機嫌斜めのようで、やたらと当たり散らしてくる。

 やはり、都合の悪いところを見られたからだろうか。


「だから、案内板でうっかりカジノに触ってしまってですね」


 懲りずに、同じ言い訳をしてみた。


「だったら、すぐ出てってハニワ工房に行け」


「いえ、行くのは牧場なんですよ。おっぱい星人フェアの視察に――」

「ああ、もうなんでも良いから早く行け! 仕事中だろう」


「社長。まあ、そうチョウチンをチカチカさせないでくださいよ。仕事中なのは社長も同じでしょう。ひと勝負したらすぐおっぱい牧場に行きますから」


 自分でもびっくりするほど、社長に対して臆さなくなっていた。なぜだろう。見た目がチョウチンアンコウだからだろうか。

 いや、いろんなことが起きすぎて、自分が会社員であることや、社長が上司であることなどがどうでもよくなっているのかもしれない。


「くっ……。貴様」


 それ以上、社長は何も言ってこなかった。チョウチンだけは相変わらず不満げに明滅を続けていた。


 さて、せっかくだからカジノで楽しもうじゃないか。

 この少ない元手で何をしようかな。


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