17話目 素性

  数十はあろうかという施設名が記載されている案内図を、なめるように上から見ていくと、興味深いものを見つけた。


「宇宙船の中だというのに、ずいぶんたくさんの施設があるんだね」

「はい。町がまるまる1個揃ってるようなものですから」


「町が!? 外から見たときは、そんな大きさには見えなかったけど。ビルと同じくらいの幅しかなかったじゃない」

「まあそこは、宇宙テクノロジーでどうとでもなるのですよ。実際、この空間がすでに、ビルの面積より広いでしょう」


 そう言われて、改めて周囲を見回した。たしかに広い。向こう側に何があるのか見えないほどの広さだ。


「たしかに、すごい広さだね。でもさ」

「なんでしょう」


「この広大な空間に、人っ子一人見当たらないんだけど、どういうことなの? 母艦は過疎化が進んでるの?」

「ああ、こちらの入り口から入ってくる人――便宜上、あえて人と言いますが――はあまり居ませんから。皆さん、時空駐盤場ちゅうばんじょうに円盤を駐めて、別の入口から来るんですよ」


 宇宙人界隈では、円盤を駐める場所を駐盤場ちゅうばんじょうと言うのか。


「なるほど。でもさ、ここ、だだっ広いだけで何もないんだけど、どこに施設があるわけ?」

「あ、まだラインが見えないんですね」


「ライン?」

「各施設に繋がっている、言わば道路のようなもので、ラインに触れれば瞬時に目的地に着けるんですよ」


「なにそれ。ハイテク」

「案内板の施設名に触れるのでも大丈夫です。僕としてはハニワ工房に寄りたいところですが、まずは牧場に行くんですよね。牧場のところを触ってみてください」


 にわかには信じられない気持ちだったが、言われた通り触ってみることにする。

 先ほど見つけた、興味深い施設の名前に触ってみた。


 瞬時にして景色が変わり、気づけば、広大な茶室に佇んでいた。茶室の中には、派手な光を放つスロットマシンが立ち並び、各機の前では、見たこともないような、いや、漫画や映画の中で見たことがあるような生き物が、喜んだり怒ったりしているようだった。

 奥のほうにはルーレットや、ポーカーのコーナーもある。


「ここ、カジノじゃないですか」


 意外そうにササキが言った。


「1回来てみたくてね。宇宙カジノとなればなおさら」

「牧場に行くんじゃなかったんですか」


「本来の目的を忘れて、まずはカジノで遊んでしまう。ゲームやってても、そういうことよくあるでしょ」

「まあ、その気持ちは分かりますが」


 分かるんかい。でも、それなら話は早い。


「まずはここで稼いで、良い装備を手に入れないと」

「装備? そんなもの手に入れてどうするんですか」


「いや、分からないけど、カジノってそういうものでしょ」

「誤ったカジノ観をお持ちのようですが、そもそも、お金あるんですか?」


「日本円は使えるの?」

「使えますよ。換金所でチップと交換してください」


 換金所に行くと、カウンターの中には、カジノらしくバニーガールが居た。といっても、人間の女性がうさぎの耳を付けて網タイツをはいているのではなく、人間の女性っぽい顔をしたうさぎだったが。

 ううむ。かわいいんだか気持ち悪いんだか。判断に迷う。


 3万円ほどチップと交換してみた。


「幸運を!」


 そう言ってバニーガールは、耳をブンブン振り回した。


 チップを抱えて、まずはスロットマシンのコーナーへと向かった。どの機も、よくあるタイプの見慣れたスロットマシンだった。

 スロットマシンには、チップ投入口が付いており、1ドルスロット、10ドルスロット、100ドルスロットが、区画ごとに置かれている。


「宇宙カジノの割りに、地球のと変わらないんだね」

「当然ですよ。地球のカジノは、宇宙カジノを模して作られてますからね」


「この投入口に君を突っ込むと、君が中からスロットを操作して大当たりさせてくれたりしないの?」

「僕を突っ込んだ瞬間に、警備員に黒焦げにされますよ」


「物騒だなあ」

「どの口が言うんですか」


 そんな会話をしながら、スロットマシンの間を歩いていたとき、知ってる人を見つけた気がした。


 こんなところに知人が?


 不思議に思いながら、よく見てみると、その人はチョウチンアンコウ星人のようだった。頭から生えた触手のような器官が顔の前に垂れ下がっており、その丸みを帯びた先端がスロットのネオンに合わせて明滅している。


 よく見ても、こんな顔の知り合いなど居ない。しかし、なぜか自分はこのチョウチンアンコウをよく知っている気がする。


 チョウチンアンコウは、数回、スロットをはずしたあと、絶叫してからこちらを振り返った。


「さっきから何を見てやがる!」


 ツバを飛ばしながら怒鳴り散らしてきたかと思うと、向こうも、あ、という顔をした。その後、数秒間、お互い見つめ合った。その間も、チョウチンは明滅を繰り返していた。


 社長だ……。このチョウチンアンコウは山田社長だ。顔はこんなだが、声はそのままだ。ツバを飛ばして怒鳴るさまを見て確信した。


「お前は……」


 やはり、向こうもこちらのことを認識したようだ。


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 そろそろ、主人公の年齢と性別と名前を決めてくれませんか。

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