15話目 門番

「もちろん行くよ。ハニワ星人の母艦なんて、死んでも見る価値はあると思う」

「ハニワは星人じゃなくて、宇宙土器だって言ってるでしょう」


「ああ、そうだったね。楽しみで胸が土器土器だよ」

「最悪、死ぬかも知れないと言ってるのに余裕ですね」


「うん。不思議とね、恐怖は感じてない」

「そこまで変異しているならおそらく大丈夫でしょう」


「変異?」

「まあ、気になさらずに。ところで、僕に名前を付けませんか。この先、僕をハニワと呼び続けると不都合が生じる可能性がありますので」


「唐突だね。まあ言いたいことは分かる。じゃあ、生前の名前にちなんで、ササキと呼ぼう」

「生前ってなんですか。僕は砕けてはいますが死んでませんよ」


「OKOK。ササキ イズ アライブね」

「なんだかむかつきますね」


「それはそうと、どうやって母艦に行くの?」

「とりあえず、会社のあるビルに向かってください」


 ササキに言われるまま、電車に乗り、山田鮮魚店へと向かうことにした。

 電車は、相変わらず空いていた。


「あの窓際の人をよく見てみてください」


 見てみると、そこには吊り革を掴んで立っている男性が居た。一見、普通の男性なのだが、よく見ると、男性の姿の周りにうっすらと何かが見えた。


「なんか、トゲトゲしたオーラみたいなものが見えるけど、何あれ。気でも出してるの?」

「あれは、ハリセンボン星人なんです。擬態が甘いので、今のあなたであれば、その正体がうっすら見えるだろうと思いまして」


 なるほど。電車にも、普通に宇宙人が乗っているのか。


 目的の駅で降りて、山田鮮魚店のビルを目指して歩いた。見なれた道のはずなのだが、あちこちに違和感がある。具体的に何がおかしいのかと考えを巡らせても、分からない。


 大通りを左に折れて、裏通りに入る。少し歩くと、会社のある、細長い7階建てのビルが見えてきた。そのときにも違和感があった。

 ビルの前まで歩き、上を見上げたとき、違和感の正体が分かった。会社のビルの上に、妙な球体がくっついているのだ。直径はビルの横幅と同じくらいで、変に白い光を放っていた。


「あれは何?」

「あれが母艦ですよ」


「普段から、会社のビルの上にあったの?」

「そうです。普通の人間には見えないようになってるんですけどね」


 そうか。会社に来るまでの道に違和感があったのも、きっと、ビルの上に、今までは無かった何かが乗っかっていたからに違いない。


「なんで、このビルの上に母艦が?」

「それはまたおいおい。とりあえず、エレベーターで最上階まで行ってください」


 会社のドアの前を素通りして、エレベーターに乗り込み、7階へと向かった。エレベーターのドアが開くと、目の前には、何も書かれていないガラス戸があった。

 7階にはテナントが入っていないのだ。


「階段を上って屋上へと向かってください」


 ササキに言われるまま、階段を上り、屋上へのドアを開くと、そこにビルの屋上はなく、あったのは廊下だった。壁、床、天井すべてが白く、果てしなく遠くまで続いているように見える。


「何が見えますか?」

「白い廊下が見える」


「では大丈夫です。そのまま廊下を進んでください」

「向こう側が見えないけど、どれだけ歩けばいいの」


「ああ、目印が見えてないんですね。意外とすぐですよ。タイミングが来たら合図しますので、とりあえず進んでください」


 半信半疑のような状態で足を踏み出した。照明が無いにも関わらず、廊下の中はいやに明るい。壁自体が発光しているわけでもなく、どこからどう光が入っているのかは分からなかった。


 20メートルほど歩いたところで、急にササキが言った。


「ストップ! そこに何か見えませんか」


 言われて、あちこちに目を凝らしてみた。


「何も見えないけど」

「そうですか。そこにインド人の像があるんですよ」


「インド人?」

「そうです。ここを右に行くんです。覚えておいてください。インド人を右に」


 どこかで聞いたことがあるフレーズだったので、すぐに覚えられそうだ。


「右に行ってください」

「右にって言っても、道が無いけど」


 廊下はひたすら直進している。分岐路など無いのだ。


「右側の壁は通れます。試しに触ってみてください」


 右を向き、壁に触れようと手を伸ばしてみると、指先が壁を突き抜けてしまった。


 なるほど。そういうことか。


 おそるおそる足を踏み出してみると、身体からだごと壁を通り抜けることができた。

 壁を抜けると、すぐ目の前に、いかにも宇宙船然とした扉があり、その扉の前には門番のごとく、ある存在が立ちはだかっていた。


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 立ちはだかっていたのは何?

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