14話目 天へ
こうなったらやけだ。話に乗ってやろうじゃないか。
「牛厚切りタン握りなんてどうですか。普通の焼肉風と、仙台牛タン風の2パターンを用意するのもいいかもしれません」
自分の好み丸出しの提案をしてやった。
「なるほど。回転寿司で、過去に牛タンが扱われたことはありますが、どれも薄切りでした。厚切りの牛タンというのは新しいかもしれませんな」
実際、牛厚切りタンの握りがあったとしたら、1度は食べてみたいと自分は思う。2度目以降も食べるかは味次第だが。
「では、次は、おっぱい星人フェアで決まりですな」
さらに顔をテカテカさせながら、
「ええ、それで行きましょう。ただ、仕入れ先との調整がつくかをこれから確認しますので、本決定まで少々お待ちください。確認が取れ次第、ご連絡しますので」
「分かりました」
テーブルの上に置いてあったハニワの破片を、再び胸ポケットにしまい、会議室を辞去した。
ビルから出ると、スシルーの店舗が目に入った。行列はまだ減っている様子がない。何気なく行列のほうを見ていたときに、違和感を抱いた。
何かがおかしい。行きに見たときと、何かが変わっている気がする。
あちこちを凝視して気が付いた。のぼりだ。のぼりの文字が変わっているのだ。
のぼりにはこう書かれていた。
「カニ星人祭り」
バカな。さっき見たときは、たしかにカニ祭りだったはずだ。カニ星人などと書かれていたらすぐに気がつく。いや、今、気づくまでに時間がかかったことを考えると、そう断言することもできないか。
ハニワに聞いてみるか。
「ねえ。君に聞くのもアレなんだけど、あそこののぼりって、さっきもカニ星人祭りって書いてあったっけ」
「はい。行きに通ったときも、カニ星人祭りと書いてありましたよ」
「そっか。っていうか、君、見えてるの? 内ポケットの中に居るのに」
「はい。人間とは、視覚の構造が少々違うもので」
「ああ、宇宙人なんだもんね」
「宇宙人と呼ぶのがふさわしいかは分かりません。土器ですからね。宇宙土器」
「一応、君も土器は土器なんだ」
「ええまあ。ただ、作られかたは地球のそれとは違いますけどね」
がぜん、宇宙土器に興味が湧いてきたが、今はそれを気にしてる場合ではないのだ。話を本筋に戻す必要がある。
「いや、カニ星人祭りなんて書いてあるわけないでしょ」
「そこに戻るんですか。最初からカニ星人祭りだったと言ってるじゃないですか」
「そんなはずは」
「正確に言えば、僕から見れば、最初からカニ星人祭りでした。人間から見れば、カニ祭りと書いてありました。そして、それは今も変わりません」
「なんだって!」
「つまり、あなたが、よりこちら側に近づいたということですよ」
「ということは、来月になったら、あそこののぼりには、人間から見たら牛祭りと書かれ、君ら人外から見ればおっぱい星人祭りと書かれるということ?」
「そうなります」
ううむ。それはちょっと見てみたい。これは、是が非でもおっぱい星人フェアを実現させなければならないな。
考え込んでいると、ハニワが言う。
「今、君ら、と言いましたが、もうあなたも人外の領域に入っているのをお忘れなきよう」
そうか。自分は別の世界への扉を開いてしまったのだ。
改めて行列をよく見てみると、人間じゃない生き物が並んでいるようにも見えてきた。そうか。
「ところで、牛の仕入先にあてはあるんですか」
ハニワに痛いところを突かれた。
「いや、ない。でも、自分としてもなんとか、おっぱい星人フェアを実現させたい。君のツテで牛、入手できないかな」
言ってることがめちゃくちゃなのは分かっているが、今はワラにもすがる思いなのだ。
「できますよ」
あっさりと言われた。
「できるの? 本当に」
「ちょうど、母艦で牛の養殖をしてますから」
「牛の養殖?」
「はい。養殖技術が確立するまで、ずいぶんたくさん、地球上の牛をさらったり、内臓を抜き取ったりしたみたいですけどね」
「それ、キャトルミューティレーションってやつ?」
「おや、ご存知ですか。あなた、さては月刊ヌー読者ですね。今はもう、養殖で事足りてるので、地球上の牛に手は出してないみたいですよ」
それで、最近はキャトルミューティレーションなんて話を聞かないのか。キャトルミューティレーションなんて嘘だと思っていた。なんで宇宙人が牛の内臓を取る必要があるのかと、小馬鹿にしていたが、UFO内で養殖の研究をしていたとは。
「その、母艦ってところに連れてってくれない?」
「え! いきなりきましたね。なんでまた?」
「おっぱい星人フェアの責任者として、仕入先の視察は必要かなと。いい加減な商品を卸すわけにはいかないので」
「何を急にまともなサラリーマンみたいなことを言ってるんですか。どうせ興味本位でしょう」
「否定はしない」
「うーん。でも僕、祝賀パレードすっぽかしてるしなあ。あと、地球人が行くのは多少リスクがありますよ? 最悪、死も覚悟してくださいね」
「え」
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さて、どうする?
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