4話目 業種

「そんなもの、言えるわけがないだろう!」


 社長はツバを撒き散らしながら怒鳴った。


「申し訳ありません」


 謝罪をしながら、ふと視線をずらすと、小島さんが電話をかけ続けていた。


「お前ら! 何をぼさっとしてんだ。働け働け!」


 喚き散らしながら、社長はオフィスから出ていった。

 社内は、しばし沈黙に包まれたが、やがて各々がため息をつき、立ち上がっていた者は座り、小島さんも電話をかけるのをやめ、緊張から解放されたようだった。

 


「この状況で、働けって言われてもなあ」


 言いながら、隣の加藤を見ると、加藤はこちらを見ずに応える。


「俺はもうバリバリやってるぜ」


 加藤は、目にも留まらぬ速度でキーボードを叩き、華麗にマウスを操作している。モニターには、転職サイトが表示されていた。


 いよいよ、この会社に見切りをつけたか。


 秋山さんが席に着いたのを見届けてから、PCのチャットソフトで話しかけてみた。


**「大変だったね」

秋山「よくも私を売ろうとしてくれたじゃない」


**「違うってば。秋山さんのことは信じてるから。結果的に、最終退出者は佐々木だってわかったじゃん」

秋山「まったく、調子いいんだから」


**「で、金庫からは、いくら無くなったの?」

秋山「はい出た。絶対聞いてくると思った。あんた口軽いからねえ」


**「重い重い。その質量たるやブラックホールにも勝ると聞いてるよ」

秋山「誰から聞いてんの。そういうところが信用できないって言ってんの」


**「今度、美味しいものごちそうするから」

秋山「あ、なんだかカニが食べたくなってきちゃった。刺し身と鍋のコースかなあ」


**「うげ。ふっかけてきたな」

秋山「嫌ならいい。無駄話してないで仕事しな」


**「分かったよ。乗った。カニのコースね」

秋山「よっしゃ」


**「で、いくらだったの?」

秋山「1,000万円」


**「1,000万!? 何のお金なのそれ」

秋山「さあねえ」


**「経理が内容を知らないお金なんてあるの?」

秋山「あ、またそういうこと聞いちゃう? これ以上は別料金よ」


**「強欲め」

秋山「経理だからね」


**「情報ありがとう」

秋山「広めちゃ駄目だからね!」


**「分かってるって」


 隣の加藤にも、チャットで話しかけてみる。


**「金庫から無くなったの、1,000万円だってさ」

加藤「ほー。そりゃまた豪気だね。でも、人生をかけるにはちょっと安いよな。佐々木もバカなことしたもんだ」


**「まだ佐々木だって決まったわけじゃないでしょ」

加藤「まあね。しかし、1,000万円の現金ってのは、うちみたいな業種の、こんなオフィスの金庫にしまっておく額としては、ちょっとアレだな」


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さて、この会社の仕事は何でしょう?

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