『夜の国』
ビー玉電球が切れたようで、紐を引いても部屋は暗いままだった。部屋の中に声を掛けると、暗闇の中をゆっくりと
街灯を頼りに歩いて行く。黒美は僕に対して大人しい。決して僕を否定しない。明日の食費も
雑貨屋に
二年目の記念日が近かった。黒美と一緒に暮らすようになって、もうすぐ二年だ。僕はその間、結局なんの成長もしなかった。けれど、確かに黒美を死なせないように働いた。僕が一人で生きていた頃には考えられないような、責任感みたいなものが、僕の中にあった。人のために生きようと思うことなんて、きっと生まれてからこの方、あり得なかったのに。そんな僕が、人のために生きたのだ。これは怖ろしい変化だった。
黒美と一緒に部屋に戻って、ビー玉電球を取り替えた。部屋はパッと明るくなって、黒美の美しい顔を照らしてくれる。「リボンをつけてくれよ」と頼むと、黒美は髪を
黒美は僕を絶対に否定しない。僕のしたいことを全てさせてくれるし、どんなときでも僕を優先して考えてくれる。けれどたったひとつだけ、黒美は僕が普通じゃなくなることを嫌った。普通という表現がおかしいならば、平均から
眠くなったら眠るのだけれど、今日はどうにも寝付きが悪かった。僕は
土曜日はゆっくりと目を覚ます。昼食時より前に目を覚まして、僕は黒美を連れて外食に向かうことにした。そして一緒に、五年目の記念をしようと思った。蔵書を処分して金に換えて、食堂に行って、洒落たものを食べた。そして洋菓子店で、小さなケーキをふたつ買った。もう記念品を買うような関係ではなかったし、金もなかった。「もう少し僕が稼げていればいいんだけど」と言うと、黒美はゆっくりと首を振って、あのときリボンをもらえて嬉しかったよと言った。
家に帰って、二人でケーキを食べることにした。夜の国では電球の明かりが必要不可欠だ。
汗ばんだ体のまま、僕にしがみつくようにしている黒美が、突然、もういいよ、と言った。「いいって、何が?」と尋ねると、彼女は
体だけを理解しあったあと、心は理解出来ないままで、僕は疲れて眠ってしまった。そして目を覚ました時、彼女はもういなかった。出かけてしまったのかと思い、急いで部屋を出た。
部屋の外は夕方だった。
夜は終わってしまった。
彼女が消えてしまったことと、もう仕事をしなくて良いことを僕は理解した。
ごめんなさい、ごめんなさい、と僕は言い続けた。君に届けば良いと思った。けれどきっとその謝罪の言葉も君を苦しめるだけだったんだろう。
だから僕は、日の光を浴びながらまた生きようと思った。朝と夜がある国で暮らして、曜日を忘れて、僕は生きて行こうと思った。そしていつか僕が裕福になったら、君を連れて大きな家で暮らすと決めたんだ。だからそれまで、どうか誰のものにもならないでいて欲しいのだ。僕は君に
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