第5話

「うわ~、凄いや!ここがアルバレイス学園!」


 フードを取ったヨハンは、広大な中庭を取り囲むように立つアルバレイス学園を見て目を細めた。陽光を受けて輝く芝生がエメラルドさながらに煌めいている。アルバレイス学園の左手には、白亜の王城が見えた。


 故郷であるシャーロックを出て一月余り。道中様々なトラブルに見舞われながらも、友人の助けを借りてこうして無事に辿り着くことが出来た。村の人達がヨハンの為に工面してくれた金貨一〇〇枚。その金額の大きさを考える度、村人の温かい心に胸を打たれ、涙が零れそうになる。村人達の想いに応えるためにも、なんとしてもここに入学しなければいけない。


 王都アルバレイスに足を踏み入れた時、ヨハンは街の大きさと、初めて目にする魔晶具に面食らった。地上を走る車と呼ばれる物もそうだが、低空を滑るように飛ぶ車には、目を見張った。


 アルバレイス学園に入ってからも驚かされっぱなしだった。周囲にいる人達の服装、それが余りにもヨハンとは違っていた。男性は華美な刺繍を施したジャケットにベスト、装飾されたローブを身につけている人もいる。女性は見とれてしまうほど華やかで、美しいドレスを身につけている姿が多数見受けられた。ヨハンにしてみれば、絵本やおとぎ話でしか聞いた事のない世界だった。


 場違いという言葉が頭を掠めるが、ヨハンはキッと表情を引き締めた。此処が自分に相応しくない場所だというのは分かっている。だが、ヨハンにも譲れない物がある。アルバレイス学園に入学し、アルバレイド王国の為に働く。それがヨハンの夢だったからだ。


 ヨハンは受付でもらった資料を開いた。これからの予定は、約三十分後に聖堂での説明会だ。


「聖堂か……」


 周囲を見渡してみるが、聖堂と思われる場所は中庭には見受けられない。もしかすると、校舎の中にあるのかも知れない。何か道標になる物はないかと思い、当てもなく歩き出したヨハンは不意に声を掛けられた。


「やあ君、どうしたんだい? 何か困ったことでも?」


 見ると、目が眩むようなジャケットを身につけた青年が立っていた。彼の後ろには、オークと見紛う青年と、ネズミを連想させる青年が立っている。やはり、都会は珍しい物で溢れている。


「あのぅ、実は聖堂の場所が分からなくて」


「ああ、聖堂か」


 ポンッと手を打った青年は優しい笑みを浮かべると、北側にある大きな扉を指さした。


「あの扉を入って、左に行ってごらん。聖堂があるから」


「ありがとう御座います!」


 腰を折って頭を下げるヨハン。青年は畏まる必要なないとばかりに手を振る。


「いいって。庶民を助けるのが貴族の役目だ。それよりも早く行った方が良い。もうすぐ説明会が始まるからね」


「はい」


 もう一度頭を下げたヨハンは、青年に教えて貰った通り北側にある扉へ向けて走り出した。

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