1章 背負うモノ
第1話
アルバレイド王国の首都アルバレイス。星を巡る魔晶の吹き出す場所、スポットの真上に建設されたその都市は、石造りの古い街並みと、無機質で冷たい輝きを放つ魔晶具が入り交じる都市だった。
地上では車が猛スピードで走り、十メートル程の上空には浮上車と呼ばれる空を走る車が滑るように飛んでいる。古色蒼然とした石造りの街並みに、魔晶具の近代の器機。それらの組み合わせは、誰の目にも異質で異様に写った。
アルバレイスの中心に位置する白亜の城には、アルバレイド王国を統治する王族が住んでいる。その王城の横に、大きな尖塔を二つ持つ城が存在していた。高さこそ王城には及ばないが、横幅や奥行きなどは、王城を遙かに凌ぐ大きさを誇っている。
白い王城に対して、黒く巨大な城。その城こそ、アルバレイド全土から入学希望者が集う、アルバレイス学園だった。夢と野望を胸に秘めた青年。地位と優雅な生活を望み、将来の結婚相手を貴族の中から選び取ろうとする少女達。不純な動機と立派な志を秘めた若者達が、その登竜門となるアルバレイス学園の門を叩く。
アルバレイス学園の生徒の大半は、貴族の子息達だ。より良き人材を求めるアルバレイド王国の方針に従い、一般人からの受付もしているが、それは狭き門だった。
一般の受験生は、身分を保障できる第十位貴族以上の後見人を持ち、克つ、高額な受験料を支払う。好成績だとしても、合格する人物は十人中一人いるかいないか。代わって、貴族はテストの成績に関わらずほぼ全員が合格できる。貴族優先のシステムを問題視する声も上がるが、アルバレイス学園を運営するのが王族を初めとする貴族の面々であるため、その声は結局握り潰されてしまう。
そんなアルバレイス学園の校門前に、一人の青年が立った。煌びやかな王都に似つかわしくない、薄汚れたボロボロのマントに、垢と汚れで変色した旅装。青年は、周囲から向けられる奇異の視線を受け流していた。
「ここが、アルバレイス。俺様の仇のいる場所か」
目深に被ったフードから赤い瞳がギラギラと輝いていた。激しい憎悪を抱いた瞳が見やるのは、アルバレイス学園の横に聳える白亜の王城だった。
往来の真ん中で王城を睨み付けていた青年は、口元に不適な笑みを浮かべると、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。足が向かう先は、アルバレイス学園の門の横手にある受付だ。
「受験希望者ですか?」
そう尋ねる禿頭の男は、小汚い青年の姿を見て眉を顰めた。
「そうだ、日没までまだ時間がある。間に合うんだろう?」
「そりゃ、間に合いますがね」
言いながら、男は手にした資料を青年に示す。その資料には受験資格が記されており、『金貨一〇〇枚』及び、『第十位以上の貴族、または、それに比肩しうる人物の後見人』と記されている。
青年は口元に笑みを浮かべると、継ぎ接ぎだらけの袋から重みのある袋と一枚の手紙を取り出した。
「これで受験資格は満たしたはずだ」
受付の男は袋から金貨を取り出すと、自動測量機の中に金貨を流し込み、手紙の封を切って中を確認した。
「あっ……これは!」
声を上げた男は細い目を丸くし、手にした手紙とフードに隠れた青年の顔を交互に見やる。
「確かに、書状は受け取りました。そして」
丁度、自動測量機の測量が終わった所だった。
「金貨一〇〇枚、確かに受け取りました」
受付の男は簡単な説明を終えると、受付の証明書と受験の手引きを青年に手渡した。
「ヨハン・クルロックさん。では、そちらの門から中に入って適性試験を受けて下さい。ご武運を」
頭を下げた男に頷いたヨハンは、マントを翻し颯爽とした足取りで門へ向かう。その時、翻ったマントの下から、薄汚れた旅装とは余りにも不釣り合いな、華美な装飾の施された剣がちらりと覗いた。
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