第7章
第86話 処女航海へ
8才のヤールンサクサ王女から、フィアンセになって欲しいと言われた。その時俺は、フィアンセの話はまだ早いと王女に伝えた。
「分かりました。
それでは、お友達としてのお付き合いはどうでしょうか?」
まあ、それだったら問題ないと思い、ヤールンサクサ王女と友達になった。
王女は笑顔で笑って、微笑んでくれた。改めて王女を見ると、とても可愛い。
ウール王女とは違った可愛さで、純心で、透き通る様な目は凄く魅力的に思えた……。
ふと、かなり強い視線を感じ、その方を向くとヒミン王女だった。
今までに見たことのないような、真剣な目で俺を見ていた。
視線を合わすと、王女はニコッといつも通りに俺に微笑む。
でも、何かが引っかかった……。
◇
家に帰ってから、あまりにもやることが多すぎたので、時間が全く足らない日々を俺は送ってきた。あらゆる種類の魔法を魔石に付与をしなければならなかった。
更に、ハーリー商会の共同経営者であるスールさんの提案で、コーヒーの店を世界的に展開することになる。その為に、コーヒーや一緒に食べるビスコッティと菓子パンの商品開発を試行錯誤しながら作ってきた。
元いた世界で、爺ちゃんのパン屋さんでバイトをしていた経験を元に、この世界にある食材で色々と試している。
しかし、いくら市場で探しても、菓子パンで使いたい、イチゴやリンゴがこの世界にはないので苦労している。
モージル妖精女王に聞いても、その単語すら知らないと言われた。
エイル姉ちゃんと今朝、一緒に市場を見て回ってルバーブがやっと見つかった。でも、エイル姉ちゃんにそれを買うように言ったら、心配した顔でこう言われた。
「トルムルは便秘なの?
このルバーブは、便秘に効果のある下剤の薬草なんだけれど?」
違う〜〜〜〜〜〜!!!
ルバーブには、下剤の薬効効果があるのは知っている。
けれど、これをジャムにすると凄く美味しい。
菓子パンを作る時、このルバーブジャムを使うと、酸味と甘みが絶妙に調和してとても美味しくなる。更に、クロワッサンの生地との相性は抜群。
エイル姉ちゃんは、白い目で俺を見ながら、渋々ルバーブを買ってくれた。家に帰ってから、ルバーブジャムを姉ちゃんに作ってもらう。
ルバーブを細かく切って、鍋に黒砂糖と柑橘類を入れる。ルバーブが柔らかくなって水分がある程度とぶと、トロミが出てきたので窯から鍋を下ろした。
「いい香りね。
便秘でルバーブを使う時は、そのまま食べるので意外だわ」
……?
エイル姉ちゃんは便秘の時、ルバーブを生のまま食べていたんだ……。
木のスプーンで試食すると、甘酸っぱい、懐かしいルバーブジャムが出来上がった。姉ちゃんにも試食してもらう。
試食したエイル姉ちゃんは目が点になって、驚きながら言う。
「ウッソォ〜〜!! これが、あの
こんなに美味しくなるなんて、とても信じられな〜〜い!!
トルムルってば、超〜〜天才〜〜!!
便秘の時には、このジャムを沢山食べればいいわ。早速、お姉さん達にも教えないと!」
他の姉ちゃん達も、便秘になるの……?
き、聞かなかった事にしよう……。
『モージル、ルバーブジャムを試食しますか?』
横に浮かんでいたモージル妖精女王が、いつもと違った反応をする。
『そ、そのう。
ルバーブは、に、苦手でして……』
そう言った女王はうつむく。
珍しく内気なマグニが言う。
『モ、モージルが、いつも食べ過ぎるので、べ、便秘によくなるんです。そ、その時、ルバーブを食べるのですが、モージルは大嫌い。
そ、そこで、僕がルバーブを食べて便秘を治すんですよ。便秘の苦しみは、3人同時に感じますから。
ですから、そのルバーブのジャムは僕が試食しますよ」
ヒドラも……、便秘になるの……? 知らなかった……。
みんな、便秘になるんだね。
俺は便秘になったことが無いので、その苦しみが分からない……。
ルバーブジャムを木のスプーンに少しだけ掬って、マグニの口元に持っていくとパクリと食べる。
彼の顔が、みるみる変わってゆく。
『これって、とっても美味しいですね。
便秘になった時には、独占してこれを食べれるので、とっても嬉しいです』
マグニは、今まで俺に見せたことのない笑顔を見せた。マグニって、苦労しているんだなぁ〜〜。
ドゥーヴルが、マグニを見て不思議そうに言う。
『それ、本当に美味しいのか?
ルバーブって、
ドゥーヴルも苦労しているみたい。
今度はドゥーヴルにルバーブのジャムを食べてもらった。
『ワォ〜〜〜! マグニが言うように、本当に美味しいなこれ。
甘酸っぱくて、生の時と随分違うよ。トルムルってば、本当に凄いよな』
モージル女王はうつむいたままだった。
けれど、これでヒドラの便秘の時には、美味しく治せるので良かったよね。
……?
ちょっと待ってよ!?
みんなの……、便秘を治す為にルバーブジャムを作ったのか、俺……?
違う〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
◇
いよいよ、処女航海に旅立つ朝になった。
朝食は、昨日完成したルバーブのジャムを使った菓子パン。
父ちゃんが目を丸くして言う。
「ナタリーから、ルバーブは
ナタリーが生きている時に分かったら、苦労して生のルバーブを食べなくて済んだのに……」
母ちゃんも便秘だったんだ……。
ヒミン王女が馬車で来る前に、母ちゃんのお墓に行って、ルバーブジャムをお供えしよう。
あの世で、便秘で苦労しているかもしれないからな。たぶん……?
朝食が終わると母ちゃんのお墓に行く。これから処女航海の旅に出るので、しばらくここには来れないと報告。そして、ルバーブのジャムをお供えした。
あの世で母ちゃんが便秘しているのか分からないけれど、ルバーブジャムはとっても美味しいので喜んでくれるはず。
それと、母ちゃんが言っていたラミアーを、魔石に変えた事も報告した。
そのラミアーの魔石に、
このラミアーの魔石をブレスレットに組み込む。
そうすると、イズン姉ちゃんは左右両方の手で
つまり、俺とイズン姉ちゃんが同時に発動した魔法が、イズン姉ちゃん1人でも同時に使えるようになる。
姉ちゃんは魔法を1つしか発動できないけれど、これで同時に発動できるので、イズン姉ちゃんの火炎魔法が格段にレベルが上がる。
姉ちゃんは大喜びで俺を抱き上げてくれて、その大きな柔らかい胸で抱いてくれた。イズン姉ちゃんが喜んでくれて、とても幸せな時間だった。
もちろん、姉ちゃんに久し振りに抱いてもらったのも、俺は嬉しかった……。
◇
母ちゃんの墓参りから帰ると、すでに馬車が店の前に止まっていた。
今回もヒミン王女とラーズスヴェーズル、そして元賢者の長であるリトゥルが同行する。
「お早う御座います、トルムル様。
今朝は天気が良くて、
馬車の中からヒミン王女が俺に挨拶をする。
その後、ラーズヴェーズルとリトゥルに挨拶を交わす。
御者に荷物を預けて、エイル姉ちゃんと一緒に馬車に乗り込むと、見知らぬ子供が乗っていた。
だれ……?
何で、この馬車に乗っているの……?
俺と同じくらいの女の子で、お
触れれば壊れるような繊細な雰囲気で、
その子が静かに、そして威厳を少し含んだ口調で言い始める。
「こんかい、わたしもいくことになりました。
よろしくおねがいします」
そう言うと、見知らぬ女の子は軽く頭を下げる。
この子、俺を知っているみたいだけれど……、誰だっけ???
しかも、同い年ぐらいなのに、滑らかな話し方に少しビックリ。
ウール王女と同じか、それ以上だ!
それに、王女とは全然雰囲気が違う。ウール王女は元気よく挨拶をするので、この子は全く正反対。
そういえば、毎日忙しくてウール王女と最近連絡をしていない。ウール王女からもしてこなかったし、俺も忘れていた。
ふと窓の外を見ると、モージル妖精女王の横には、ハヤブサの妖精が浮かんでいる。ハヤブサの妖精が俺に言う。
『今回、私達も一緒に行く事になりました。
宜しくお願いしますね、トルムル様』
……?
え……?
今、ハヤブサの妖精はなんて言ったの……?
私達って言ったよな。
とすると、この女の子は……。
ウール王女〜〜〜〜!!!
マジかぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!
な、何でこんなに……、超活発だったウール王女が……、突然……、お淑やかに激変したの〜〜〜〜!!
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