第85話 賢者の長

 賢者の塔の最上階に着いた。部屋の中から、人間の気配が消えて、強力な魔物の気配を感じる。

 魔物も俺に気が付いたみたいで、最大限に警戒心を強めているのが伝わってくる。


「みんな退いて!

 い・く・よ〜〜!」


 そう言ったアトラ姉ちゃん。

 も、もしかして、いきなり伝説の魔剣を使うの?


 アトラ姉ちゃんはそう言うと、伝説の魔剣、超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードを使う。


 バゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 前方の壁と屋根が吹き飛び、破片がこちらにも飛んでくる。

 俺の防御魔法が発動して、直前で破片を食い止めている。


 フゥ〜〜。

 

 アトラ姉ちゃんって、戦闘になると、更に荒っぽくなるよ。他の姉ちゃん達も防御魔法が発動して、破片を食い止めたみたい。

 ほこりが収まってくると、魔物が姿を現した。


 あれだけの攻撃なのに、無傷でこちらを睨んでいる。


 上半身裸で、見かけは妖麗な若い女性。

 下半身は巨大な蛇で、とぐろを巻いている。


「やっと来たね、ハゲワシ!

 私は大魔王様直属の部下、ラミアー。


 お前が来るのを、首を長くして待っていたよ。

 お前を倒せば幹部になれるんだ!」


 ラミアーだって!

 母ちゃんが言っていたのを思い出す。


『ラミアーは、自分の子供を殺されたから、人間の子供を食べる凶悪な魔物にかわったのよ。魔力が非常に高く、どんな姿にも化けると言われているのよトルムル。


 大賢者の時代でも現れたけれど、退治した記録がないの。もしかしたら、トルムルと対戦するかもしれないわね』


 母ちゃん。目の前にいるよ、ラミアー!

 魔王直属の部下っていうことは、弱くはないよね……。


 ヴァール姉ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女が、真空弓バキュイティボーで攻撃を開始。

 しかし、上半身はこちらからは見えなくなり、

 下半身である蛇の鱗で塞がれ、矢が通らない。


 蛇の尻尾が襲って来た。

 最前列にいるアトラ姉ちゃんが防いで、剣で攻撃した。


 ガキィィ〜〜〜〜〜〜ン!!!!


  あ〜〜、ダメだった。アトラ姉ちゃん程の怪力でも鱗を切ることが出来ない。鱗が非常に硬いので、姉ちゃんの剣でも少しの傷もできてはいない。


 姉ちゃん達とヒミン王女が、弓矢と剣による攻撃を何度繰り返しても、全く傷を負わす事ができない。さすが、魔王の直属の部下だけのことはある。


 って、感心している場合じゃないよな。


 俺はオシャブリを吸いながら考える。

 ん……?


 一瞬、ラミアーの動きが止まった。

 直感で、強力な魔法攻撃が来ると思い、俺達の前に防御魔法を発動する。すると、大きなオッパイの盾が出現する。


 次の瞬間、蛇の隙間から猛火が俺達を襲ってきた。いつも通りに、オッパイの盾は小刻みに震えながら耐えている。

 周りの空気が段々と熱くなり、サウナに入っているみたいになる。ラミアーは更に魔法を強めて、俺のオッパイの盾を消滅させようとする。


 俺も負けじと、オッパイの盾に魔法を追加して強化する。周りを見ると、岩の壁が溶け始めている。

 何という高温。スキュラ以上の火炎攻撃だ!


 このままでは防戦一方だ。どうする俺?

 硬い鱗なので物理攻撃が効かない。魔法攻撃でもたぶんダメだろう。

 ん、待てよ? 硬い鱗……?


 何か引っかかる……?


 オシャブリを念入りに吸う俺。


 硬い物は、高温にしてから急速に冷やすと、もろくなるよな。

 やってみる価値はありそうだ。


 イズン姉ちゃんは、火炎魔法が得意。俺と協力すれば、ラミアーの火炎魔法を上回るはず。

 ラミアーの火炎を押し返して、俺達の火炎が鱗を高温にする。すぐに、絶対零度アブソリュートゼロの魔法で急速に冷やす。

 もろくなった鱗に、再び攻撃を開始すれば、矢と剣で攻撃ができる。


 たぶん……。


 とにかく、やってみないとな。

 姉ちゃん達とヒミン王女に、俺の考えた計画を命力絆ライフフォースボンドを使って連絡した。


 イズン姉ちゃんが言う。


『分かったわ。

 このオッパイの盾が消えたら、すぐ最大火炎魔法ウルティメイトファイアを発動するのね。

 でもどうして、盾がオッパイの形をしているの、トルムル?』


 グサーー!


 そ、それは……、アトラ姉ちゃんの胸の弾力が、この世で最高の弾力があり、防御に適していると思っているから……?

 あるいは、アトラ姉ちゃんの胸で、何ども窒息死しそうになったから……?


 本当のことは俺にも分からないけれど……。

 か、考えるのは後にしよう。


『イズン姉さん。攻撃を開始してください』


 俺は命力絆ライフフォースボンドを使ってそう言うと、オッパイの盾を消した。すぐに、最大火炎魔法ウルティメイトファイアを右手でラミアーに向かって発動する。


 ドォッゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!


 同時に、イズン姉ちゃんも最大火炎魔法ウルティメイトファイアを発動。


 ドォッゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!


 2つの最大火炎魔法ウルティメイトファイアがラミアーに向かって行く。


 俺1人だったら、互角だったかもしれない。けれど、イズン姉ちゃんが加わったので、ラミアーの猛火を押し返し始める。

 そしてついにラミアーは不意を食らって、猛火が襲った。

 予定通り、下半身の硬い鱗で猛火を受け止めている。


 ゴォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!


 鱗は段々と赤くなって、高温になっているのが確認できる。

 俺はすぐに、絶対零度アブソリュートゼロの魔法を左手で発動。


 ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。


 銀色の大きなかたまりが、ラミアー目掛けて行く。

 かたまりの通った後には、ダイアモンドダストが真昼の太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。


 カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 鱗が凍った音がした。

 成功か?


 ダイアモンドダストが消えて、視界が戻った。

 この時を待っていたヴァール姉ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女が、再び真空弓バキュイティボーで攻撃を再開する。


 3人が3本づつの矢を、ほぼ同時に射る。


 シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ!


「ギャァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 合計で9本の矢が鱗を突き抜け、そこから血が吹き出している。


 3人は攻撃の手を緩めないで、再び矢を射った。今度も9本の矢が鱗に刺さり、血が大量に流れ出している。


 ラミアーは痛さに耐えきれないで、のたうち回っている。不意に、蛇の尻尾がアトラ姉ちゃんに向かって来た。


 ザク!!!


 今度は鱗がもろくなっているので、アトラ姉ちゃんは尻尾の先を軽〜〜く一刀両断した。


「ギャァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 やった〜〜。大成功だね。


 ラミアーは、浮かんで上空に逃げ出す。すぐに俺は右手で重力魔法を発動して、ラミアーが逃げるのをくい止めた。

 俺の魔力の方が強いみたいだけれど、止めるのが精一杯。今度は左手で巨大蛸足クラーケンレッグの魔法を発動した。


 巨大なクラーケンの足がラミアーを襲う。


 バァキィィィーーーーーー!!


 ラミアーはなすすべもなく魔石になっていった。


 やったね俺。

 思っていたよりも簡単だったよ。


 ガラガラァ〜〜〜〜〜〜!


 あれ……?

 何この音……?


 ヤバイ!!


 勢い余って、賢者の塔までクラーケンの足で攻撃してしまったよ〜〜!

 足元から塔が崩れ出したので、上下に俺達が入るくらいの大きなオッパイの盾を作った。


 ドッシャァ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 塔は崩れ、俺達はオッパイの盾に守られ、全員無事に地上に落ちていった。


 そ、そういえば、一人だけ賢者が塔に残っていたのを忘れていた……。瓦礫の山に意識を向けると、うめき声が聞こえてくる。重力魔法を使って賢者を助け出す。怪我をしているけれど、命には別状はないみたいだ。


 ヴァール姉ちゃんが、若い賢者を見て言う。


「この人よ、私の婚約披露宴に来ていた若い賢者。

 でも、実力が伴っていなかったのね。塔が崩壊しただけで、気絶するなんて」


 え……、この人が例のワイバーン戦から逃げた賢者なの?

 ここまでくると、哀れとしか言いようがないよ。


「おーい。

 ハゲワシ殿、無事か〜〜」


 飛ばされたリトゥルが、汗をかきながらやっと戻ってきた。


「魔物はどうなったんじゃ?」


 俺は、地上に落ちる時に、ラミアーの魔石を重力魔法で引き寄せていた。

 それをリトゥルに見せる。


「オオォ〜〜!流石ハゲワシ殿じゃ。

 それにしても、ハゲワシ殿の姉さん達は美人ぞろいだのう」


 ヴァール姉ちゃんの方に、鼻の下を長〜〜くして近付いて行くリトゥル。

 さっき、アトラ姉ちゃんの張り手で、遠くに飛ばされたばかりなのに……。


 ヴァール姉ちゃんは矢筒から一本矢を取り出して、リトゥルに先を向けた。


「それ以上私に近付いたら、矢で攻撃しますよ。

 エイルの体を触ったのは、貴方ですよね?」


 リトゥルは矢を見て理性が戻ったみたいで、急に真面目な顔になる。


「いやわしは、そんな意味でエイルさんに近付いた……」


 ヴェール姉ちゃんは、リトゥルを睨らんで一歩前に出る。

 リトゥルは一歩下がって、情けない顔になっていく。


「もうしません。

 海よりも深〜〜く反省しています」


 そう言ったリトゥルは頭を深く下げた。

 でもこれって、前に聞いたセリフだよな……。


 ◇


 城に戻理、ヤールンサクサ王女にラミアーの魔石を見せたら、超驚いている。


「この魔石が、大賢者でも倒せなかったラミアーなんですか!?」


 エイル姉ちゃんが更に説明を続ける。


「それで申し訳ないのですが、トルムルが強力な攻撃魔法を一回使っただけなのですが、賢者の塔が完全に崩壊してしまいました。

 瓦礫の山になってしまい、元の面影は今は全くありません」


 更に、ヤールンサクサ王女は驚いて言う。


「あの超頑丈な賢者の塔が、トルムル様の一回の攻撃で瓦礫の山に……。

 私が思っている以上に、トルムル様の魔力は超強力なようです。今度の後継者会議で、トルムル様を賢者の長に推薦しますので予めご了承下さい。


 それと、トルムル様にはフィアンセはいないと聞いています。それは本当ですか?」


 え……?何でそれを聞くの……?

 も、もしかして……?


「もしいなければ、私をトルムル様のフィアンセにして下さいませんか?私は8才になったばかりで、トルムル様とは7才しか違いません。

 宜しくおねがいします」


 ヤールンサクサ王女はそう言うと、俺に笑顔を見せ、王族特有の優雅なお辞儀をした。


 えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!

 フィ、フィアンセ〜〜!!


 俺、まだ、赤ちゃんなですけれどォォォォ〜〜〜〜

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