第82話 怪しい老人

 王位継承者会議が終わってから2日経った。

 ハーリ商会のスールさんが国には帰らず、滞在を伸ばしている。目的は勿論、ビスコッティとコーヒーの試食。全面的に俺を信用しているみたいで、これらを商品として世界的に売りに出す。材料が全て届いたので、今日の午後から始める予定。


 俺にとっては、お昼寝が大事なので午後からにしてもらった。成長期にある俺は、薄〜い髪の毛のためには寝なくてはならない。この髪の毛を何とかしないと思っているので……。近い将来、薄毛は解消されるはずだけれど、なるべく早く多くの毛が生えて欲しい。ハゲワシを早く卒業したいと思っているので。

 も、もちろん、お肌と乳歯の為にも必要だ!


 お昼ご飯の後、父ちゃんの店でパンティーが展示してある下のベッドでお昼寝をする事に。

 以前、重力魔法で本を取り寄せたら、格子が折れてしまったベッドだ。父ちゃんがなおしてくれて、今でもそれを使っている。どうも俺は、一旦寝ると、どこでも寝れる体質みたいだ。姉ちゃん達のイビキや歯ぎしりがしている中でも寝れたし、お客さんが店に入って来ても、起きる事は滅多にない。


 けれど今日は、とっても異様な気配で、貴重〜な昼寝から無理やり起こされた。魔物か……?


 いや違う!

 何かを探しているような感覚が伝わってくる。


 もしかして、俺を探している……?


 周りに張り巡らせていた気を俺は完全に消して、普通の赤ちゃんの様な雰囲気を出し始める。俺はベッドから起きて、父ちゃんの横にある椅子に重力魔法で移動して座った。

 珍しく昼寝から俺が早くお起きたので、父ちゃんが心配顔で言う。


「いつも以上に早く起きたけれど、トルムルはどこか具合でも悪いのかい?」


 違う〜〜!


 説明しようと思っていたら、白髪で腰が少し曲がっており、背がかなり低いお爺さんが店に入って来た。服がボロボロで、長旅をしてきた風に見える。


「いらっしゃいませ〜〜」


 元気のいい声で、お客さんを出迎えたのはエイル姉ちゃん。

 先程から感じていた異様な雰囲気は、どうやらこのお爺さんからだ!


 一体何者なんだ……?


 お爺さんがエイル姉ちゃんに近付いて行く。

 そしていきなり、エイル姉ちゃんの体を触った〜〜!!


「キャァ〜〜〜〜、何するの〜〜〜〜!」


 このスケベ爺さん、俺の姉ちゃんに何する!!

 と思った瞬間。


 バチィィ〜〜〜〜!

 ヒューーーーーー。

 バキィー、バキィー、バキィー〜〜!!!


 俺が魔法を発動しようとしたら、姉ちゃんの張り手の方が早かった。

 さすがエイル姉ちゃん……。


「キャーーーーー。

 ご、ごめんなさい、思わず……」


 老人がエイル姉ちゃんの張り手で飛んでいって、父ちゃんが作った超〜〜丈夫なベビーベッドが、か、完全に壊れた……。姉ちゃんって、思っている以上い凄いパワーだ!


 あ、そうだ。それよりも、大丈夫かなスケベ爺さん……?

 スケベ爺さんは起き上がって、腰を触りながら言う。


「持病の腰が少し痛くなってきたわ。見かけによらず、凄いパワーだ。

 まさか、お主がハゲワシなのか?」


 このスケベ爺さん、ハゲワシを探していたのか。でも、何で姉ちゃんの体を触るの? もしかして、悪いやつ?


 警戒心丸出しで、スケベ爺さんに言うエイル姉ちゃん。


「貴方は何者なのです!?」


わしは、元賢者のおさ、リトゥル。

 ハゲワシを探して、はるばるここまで来たんじゃが。


 お主がハゲワシではないのか?

 先程のパワーは、尋常ではないぞ!?」


 元、賢者の長だって!!

 こ、このスケベ爺さんが……? 嘘だろ??

 とても信じられないんですけれど。それに、どうしてハゲワシをさがしているの?


 エイル姉ちゃん、スケベ爺さんを睨みつけて言う。


「お爺さんが元賢者の長と言うのは、とても信じられないわ。

 いきなり私の体を触ったのよ」


「いやー、これはわしが悪かった。

 いつもの悪い癖での〜、綺麗な若いおなごを見ると、体を触りたい衝動が抑えきれなくて。この通り、海よりも深〜〜く反省をしておる」


 そう言うと、スケベ爺さんは頭を深く下げた。

 けれど、本当に反省している様には見えないんですけれど……。


 そこに丁度、店の前に馬車が止まった。中から出て来たのはヒミン王女とウール王女、それにスールさん。

 3人が店の中に入ってきたら、この怪しいリトゥルと名乗る老人が、親しげにヒミン王女に近寄りながら言う。


「久しぶりじゃのう、ヒミングレバー王女」


 さらに老人はヒミン王女に近付こうとしたので、ヒミン王女が腕を伸ばし、それ以上、近寄れないようにしている。まるで、次の動作が分かっているかの様に……。ヒミン王女のこの動作って、もしかしてスケベ爺さんを知っている? でないと、予め手を前に出して、それ以上スケベ爺さんを近付けさせないはず。

 それに、スケベ爺さんがヒミン王女の名前を言ったし。


「お久しぶりでございます、リトゥル様。

 持病で賢者の長を引退されたと聞いたのですが、どうしてここに?」


 マ、マジですか!本当に、このスケベ爺さんが賢者の長だった人なの……?

 到底信じられないんですけれど。

 それとも、賢者になるにはスケベが必要なのか……?

 もしそうなら、俺って、スケベになる素質があるかな??


「単刀直入に言おう。今いる賢者の長は魔物じゃ。

 それを排除する為に、噂のハゲワシに会って退治してもらおうと思ってのう」


 え、……!?


 頭が一瞬空白になった……。


 ここに居る皆んなが、このスケベ……。

 元賢者の長であるリトゥルが言った言葉に、ビックリしすぎて声を出せないでいる。


「怪しい行動を繰り返しておったので、色々と調べてみた。その結果、強大な魔力を持つ魔物と分かったのじゃよ。

 半年前に、引退させられた賢者達と戦いに挑んだ。けれど、ダメじゃった。圧倒的な魔力の前に、多くの古参の賢者達は殺され、儂は逃げるのが精一杯だった。


 最近、やっと傷が癒えて歩けるようになってのう。魔物を退治するには、噂のハゲワシに頼むしかないと判断してここまできたのじゃが。この、綺麗なお嬢さんが、ハゲワシではないのかね?」


 ヒミン王女は、完全に壊れたべビーベッドを見て言う。


「既に、リトゥル様はエイルに手をお出しになられたようですね。彼女のパワーでリトゥル様が飛ばされて、あのベッドが壊れた。

 それでエイルがハゲワシと思われたのですか? しかし、エイルはハゲワシではありませんよ」


 流石ヒミン王女。

 このスケベ……。

 この状況だけで何が起きたのか、リトゥルの行動が読めるみたい。王女は、俺の参謀だけのことはある……って、まだ本人には言っていないけれど。


「ハゲワシは、さっきまで壊れたベッドで寝ていた赤ちゃんですよ」


 リトゥルは不思議そうに、ヒミンと俺を見る。


「冗談はよしてくれないかね、ヒミングレバー王女。赤ちゃんが、ハゲワシであるはずが無い。儂は真剣に話をしているのだよ。それを、ハゲワシが赤ちゃんだなんて……」


 真剣に……?

 スケベなリトゥルが言っても、説得力が全くないのですが……。


「間違いない事ですよ、リトゥル様」


 リトゥルは俺を凝視する。

 警戒心をする必要がなくなったので、再び気を周りに張り巡らした。


 リトゥルの目が段々と鋭くなっていく。

 そして、深呼吸を一回したのが分かった。


「お主がハゲワシなのか?

 到底信じられない事だが、この気は桁外れ。魔力が強大でないと、ここまでの気は出せぬ。う〜〜む」


 更に俺を凝視するスケベ……、リトゥル。

 ヒミン王女が俺について説明を始める。


 胎内教育によって知識を学んだ事。

 お母様が亡くなられた事にショックを受けて、魔法門マジックゲートが大きく開かれた事。


 魔石にワンランク上がった魔法を付与する方法を考え出した事。

 ゴブリンの魔石から魔法を供給して,折り紙のツルやヒドラを一日中飛ばすのに成功した事。


 大賢者以外は行った事の無い妖精の国を訪れて、妖精女王を従わせた事。

 広域治癒魔法ゴールデンパウダーを使える事


 命力絆ライフフォースボンドを使って、瀕死の人を助けた事。

 そして、これをしてもらった人達は驚異的な身体能力と魔力を手に入れた事などを話した。


 リトゥルは黙って聞いてたけれど、ヒミン王女が話し終えると、俺を見ながら言う。


「やはり、信じられぬ。

 伝説の大賢者と共に、当時の世界を救ったヒドラを、この赤ちゃんが従わせているなど笑止千万しょうしせんばん!」


 バチィーーーーーー!!

 ドスゥゥ〜〜〜〜!

 ヒューーーーーー。

 バキィー。バキィー、バキィー、バキィー〜〜!!!

 シュウーーーーー。


  え〜〜〜〜!!!


 モージル女王の雷撃が落ちて、ウール王女が飛んでケリを入れてリトゥルが飛んで、さっき壊れたベッドの方に飛ばされて、こ、今度は壁に大きな穴が空いて、さらに向こうの壁も何箇所か開いている〜〜!! そして最後に、ドゥーヴルが痺れの毒を吐いたよ!


 なんという、息の合った素早い動き! 今まで練習してきた様な、3人の滑らかな連続攻撃。

 しかも、ウールの蹴りの強さは、エイル姉ちゃんの張り手以上だ!!


 モージル、ドゥーヴル、ウール王女達が怒った顔で言う。


『トルムル様をバカにする人は、たとえ元賢者の長でも許せません!』


『元賢者か誰だか知らないけれど、そこで少し痺れていろよな』


「トームル、バカにする、ひと。

 わたしー、ゆるさーない!」


 モージル女王とドゥーヴル、そしてウール王女、怖!

 3人が、こんなに怒ったのを初めて見た。


 俺の為に怒ってくれたの……?


 それに、ハヤブサと友好の儀式をして、ウール王女の性格が少しだけ……、過激になっている気がするんですけれど……。


 リトゥルが痺れている舌で言う。


「わ、儂が〜〜、わ、わる、るかっ〜〜、た〜〜。

 こ、このし、痺れ〜〜、は、でん、伝説〜〜のヒドラの、こー、げぇ〜〜、きぃ〜〜」


 今度は、ヒミン王女が鋭い目つきで言い始める。


「リトゥル様は、モージル妖精女王を怒らせたみたいです。それに、トルムル様をバカにする人は、誰だろうと私も許せません。

 更に、未だに女性の体を触っている悪い癖をお持ちのリトゥル様は女性の敵です。しばらく痺れたままでいて、反省されては!?」


 ヒミン王女も怖!

 リトゥルは訴えかける様に俺を見て言い始める。


「も〜〜、さ、さわ〜〜り、ませ〜〜ん。

 だ〜〜から、ゆる〜〜して〜〜」


 ここは俺が何か言わないと、収集がつかないよな。

 エイル姉ちゃんも両手を腰に当てて、リトゥルを睨みつけているし。


 俺は命絆力ライフフォースボンドを使ってドゥーヴルに言う。


 『リトゥルは反省しているみたのなので、毒消しを吐いて下さいドゥーヴル』


『え、もう許すの? オレ以上に根性が捻くれているよ、この爺さん。

 でも。仕方ないな〜、トルムルがそこまで言うんだったら』


 ドゥーヴルがそう言うと、口から毒消しを吐いた。

 痺れが無くなったリトゥルは、起き上がって言う。


「も、もはや、これは疑いのない事。

 皆の者、誠にあいすまんかった」


 そう言ったリトゥルは深く頭を下げた。そして顔を上げると、俺に言い始めた。


「ハゲワシ殿、賢者の長になりすましている魔物を倒してはくれまいか。

 儂も、命を賭けて戦うゆえに」


 リトゥルに言われるまでもなく、賢者の長になりすましている魔物は倒すつもり。


「たー、すー、

 ……」


 う〜〜、またしも上手く言えない。

 倒すと言いたかったのに。


「たーす?

 え〜〜と、その意味は?」


 リトゥルは俺の返答を理解出来ずに、ヒミン王女の方を見た。俺の真意を聞こうとしているみたい。


「トルムル様は、魔物を倒しに行くと言っていると思われます。

 そうですよね、トルムル様?」


 ヒミン王女が俺を見たので、ゆっくりと俺は頷いた。

 それを見たリトゥルは、しわくちゃな顔を、更にしわくちゃにして笑って言う。


「ありがとうハゲワシ殿。

 これで、死んでいった賢者達も喜ぶだろうて」


 ふぅーー。

 これで何とか収まったよね。


 それにしてもこのスケベ……、リトゥルって、若い女の子の体を再び触ると予想できるのは俺だけか? もしアトラ姉ちゃんに触ろうとしたら、リトゥルは姉ちゃんの桁外れのパワーで殺される……、かも……。

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