第81話 ウール王女とハヤブサの妖精

 王位継承者会議が始まると、段々と冷静になっていく俺。

 主賓の席に座って、最初は目ん玉が飛び出るほど驚いたけれど……。


 でも、慣れればどうってことないな。だって、王族も同じ人間だし、殆どの王子や王女達とは以前会っていたから。

 姉ちゃん達の彼氏もこの中に何人かいる。何よりも、言葉足らず……、ほとんど話せない俺をよく理解している、エイル姉ちゃんとヒミン王女が両隣。


 会議は順調に進んでいる。

 主な内容は、魔物の脅威に対して、どの様に対処するかだ。


 また、最前線の国では、経済が疲弊ひへいしている報告を聞かされた。魔物によって経済活動が低迷しているからだ。

 人々が、より安全な大陸の東に移動しているのも大きな要因。人が少なくなるので、更に経済が悪化する。


 魔物の脅威は世界的になっており、これを打破しようと集まっている王位継承者の王子や王女達。

 みんな真剣そのもので、この会議が成功しないと、人類の未来は危ういと思っている。


 モージル妖精女王から、魔物の勢力圏に関しては俺は把握していた。けれど、国の経済に関しては、直接関与している王子や王女がよく知っている。


 その中で、スキュラを倒して、神の娘であったカリュブディスを追い払った俺たち。さらに、ワイバーン戦で全て魔石に変えたこの2つの国で、経済が上向きになったと報告している。


 ハゲワシが現れたこれらの国は安全だと人々が思い、東に移動していた人達が徐々にではあるが、戻ってきているのだとか。

 ヴァール姉ちゃんの彼氏と、シブ姉ちゃんの彼氏でもある2人の王子がそれらを報告した。


 問題はやはり、ディース姉ちゃんの住んでいる国だ!

 ゴルゴーン三姉妹によって滅ぼされた3国に最も近い国。


 人口が以前の半分になっていると、鎮痛な面持ちでディース姉ちゃんの彼氏でもあるソルスティン王子が報告をしている。何とかしてあげたいけれど、今は時期ではないと思う。


 3国に居る魔物の数が多い上に、こちら側はまだ準備ができていない。俺が考えた対メドゥーサ戦で、正面を向いて戦えるメガネの数が全然足らないからだ。


 このメガネ、潜望鏡の構造をしており、直接見たら石にされてしまうメドゥーサに有効。メドゥーサと戦うには、全ての人達にこれを付けてもらわないと、戦闘できずに石にされてしまう。


 ソルスティン王子は、更に問題点を言っている。

 最前線で供給する食料の問題だ。


 硬いパンと干し肉は日持ちはするけれど、激務の人達には栄養が足らない。

 スープで栄養は補給できる。けれど、火を使うのは最前線では無理。

 ここに居ますよと、魔物達に教えているようなものだから。


 日持ちがして、栄養価の高い食べ物か〜〜。

 何かないかなぁ……?


 ん……?


 クロワッサンとは真反対で、すごく硬いけれど栄養価の高いパンの種類がある。卵やナッツ、干しぶどうなどを入れて二度焼きしたビスコッティだ!

 それに、コーヒーに浸して食べれば柔らかくなってすぐに食べれる。

 なによりも、ビスコッティは凄く美味しい!


 ……?

 あ……、この世界にはコーヒーが無かった。


 でも、作ればいいのでは……?


 夜の見張りの人達が、居眠りをするので困っているとヒミン王女が言っていたし。この会議の後、モージル妖精女王と会うのでコーヒーの木があるか聞いてみよう。もしあれば、新たな産業が生まれて、世界経済に貢献するはず。


 ビスコッティの案を紙に書いて、エイル姉ちゃんに渡す。

 姉ちゃんはそれを見た時、疑いの目で俺を何回も見ていた。


 二度も焼いた硬いパンを、戦場で食べるのかと姉ちゃんは思ったみたい。実際に食べてもわらわないと、ビスコッティの美味しさはわからないよな。

 それに、コーヒーに浸して少し柔らかくなって食べる、あのなんとも言えない瞬間の美味しさ。とにかく、次の会議の時に作って持って来ると書いてある。姉ちゃんは、俺を睨みながら、俺が書いた文字を渋々読んでくれた。

 エイル姉ちゃんが会議でそれを言うと、どよめきが起こった。


 ……ま、それは予想通り。


 今あるパンでも相当硬いのに、更に二度焼きしたパンを食べるのかって、王子や王女が俺に対する目付きで分かる。次の会議でそれを持って来ますと姉ちゃんが言ったら、その時に批評しましょうということになった。


 最後の議題は、賢者の塔に関する事。賢者の塔が在る国の王女が報告する。

 どうやら、新しい賢者の長になってからおかしくなったらしい。古参の賢者達を強制的に辞めさせ、新たに若い賢者を増やしたんだとか。


 お金ばかり要求するけれど、それに見合った働きはほとんどしないと。やっぱり、賢者の塔っておかしくなったんだ。

 更に王女によると、若い娘さんが賢者の塔に大勢雇われていみたい。以前も多少はあったみたいだけれど、今回は異常に多い。


 王女が賢者の塔に行っても門前払いで、ここは賢者しか入れないと言われて引き返すしかなかった。

 でもこの王女、凄く若いのですが……。

 7、8歳ぐらいかな……?

 でも、しっかりと発言をしていたのですがビックリした俺。


 あ、でも……、おれのほうが、少しだけ若いか……。


 会議も無事に終わり、ウール王女と王妃様も加わって、今度は晩餐会。今夜の料理で、特に好評だったのがクラーケンの料理とクロワッサン。

 どちらも王子や王女達が今まで食べたことがなく、凄く美味しかったみたい。俺も、クラーケンの離乳食とクロワッサンで大満足。


 晩餐会が終わると、恒例の舞踏会だと思う……。

 嫌〜〜な予感が、またするんですけれど……。


 数日前から、ウール王女とダンスの練習をさせられていた。王子や、王女達と付き合うには、ダンスが必修だと。


 でも、俺の背丈で一緒に踊れるのは、ウール王女だけなんですけれど……?

 ま、隅の方で踊るには、必要なのかと思っていた。


 今夜は主賓の席に座っているので、もしかしたら最初に踊るのは、俺とウール王女……。でも、それなりに練習してきたから、なんとかなる気がする……、たぶん?


 舞踏会専用の大きな部屋に入って行くと、既に管弦楽団の人達が曲を奏でている。執事が俺に、ウールバルーン王女にダンスを申し込んで下さいと言われた……。


 やはりそうだ!

 大勢の王子や王女達が見ている前で、最初に俺とウール王女だけが踊らなくてはいけない。


 武者震いが少しおきたけれど、人形の様に超可愛いウール王女の近くに言ってダンスを申し込む。


 「ウ〜オ〜。

  お〜、ど〜、る〜」


 こ、これが精一杯だ!

 言っている事が通じたか……?


 ウール王女も既に分かっていたのか、優雅に俺に挨拶をすると、差し伸べていた手を取る。2人で中央に進みでると、練習してきた曲に変わってゆく。

 ゆったりとした曲で、ド素人の俺でも上手に踊れる曲だ。


 たぶん、ウール王女とヒミン王女が相談して選んだ曲。

 俺はウール王女を見つめながら踊り始めた。王女を見ていると、周りが気にならなくなった。俺は胸を張って、優雅に、そして気高く、王女と踊りを楽しむことにした。


 ◇


「お疲れ様、トルムル。ダンス、とっても良かったわよ。

 彼が凄く褒めていたわ」


 ふと気がつくと、エイル姉ちゃんが長い廊下を歩きながら俺に言った。

 踊りがいつ終わったのか、自覚がないまま、ウール王女の手を引いて歩いている。


「トームル、とても、おどり、じょーず。

 みなさん、かんしん、していた」


 そうなんだ……。

 大勢の見ている前で初めて踊ったんだけれど、周りの人達が居た記憶がほとんどないんだけれど……。

 ただ、ウールを見ていた事しか記憶に残っていない俺。

 ボケたのかな……?

 

 いやいやそうじゃない、ウール王女の笑顔を見ていたからか……?

 ま、何にせよ、大きな戦いで勝った様な清々しい気分だ。


 ウール王女の部屋に入って行くと、モージル妖精女王が待っていた。

 既に、ハヤブサの妖精との面接は終わっている。


 食物連鎖の頂点に立っている鳥だけに、鋭い目つきをしたハヤブサの妖精。

 妖精は、理性的な雰囲気を醸し出していて、ウール王女にピッタリだと俺は確信した……、と思う。


 いよいよ、俺のこれからの運命が決まる……、友好の儀式が始まった!

 ウール王女の緊張がひしひしと伝わってくる。


 ◇


 儀式が終わり、ウール王女は妖精達が見えて、会話ができるようになった。

 ハヤブサの妖精は可愛らしい女の子なのだけれど、目つきがかなり鋭く、小さな獲物でも見逃さない視線だ!


「初めましてウール王女。

 宜しくお願いしますね」


 分かっていたとはいえ、妖精が見れて聞けるようになったウール王女。

 突然の変化に驚いている。


 しかも、伝説でしか知らなかったモージル妖精女王であるヒドラも挨拶をしている。


「初めまして。私が妖精女王のモージルです。

 横の顔はマグニとドゥーヴェルです」


「よっ、ウールバルーン王女。

 宜しくな」


 バァチィィィーーーーーー!


「いてぇーーーーーー!

 な、何で雷撃が落ちるの?

 ちゃんと挨拶したよ俺?」


「ドゥーヴェル。『よっ』なんて言葉を、王女に言ってはいけません。

 分かりましたか?」


「わ、分かったよ。

 もう言いません」


 モージル女王とドゥーヴェルの、いつもの会話。

 だけれど、これでウール王女の緊張がとけて、王女は少し笑い、いつも通りの可愛い顔にもどる。

 そして、王女らしく彼らに挨拶をしている。


 さっきのドゥーヴェルが言った『よっ』は、わざと言ったみたい。ウール王女が緊張していたので、それを解きほぐす為に。俺がドゥーヴェルを見ていたので、彼は俺にウインクしてきた。

 やはり……、わざとだ!


 俺もウインクで返そうと思ったら……。

 で、できない!


 両目で、ウインクしてしまった俺……。

 それを見たドゥーヴェルが、声を殺して大笑いしている。


 う〜〜〜〜!

 これからは、ウインクの練習もしなければ……。


 気、気持ちを入れ替えて、コーヒーの木について、モージル女王に聞いてみよう。


『コーヒーの木があるのかと、トルムル様は言ったのですか?

 コーヒーの木はあります。妖精から受ける効果は、眠くなくなるだけですが……?

 誰と……、友好の儀式をするのですか?』


 違う〜〜〜〜!

 友好の儀式を姉ちゃんの誰かにするためではないのに〜〜。


 説明が長くなるので、とにかく呼んでもらって種を少し分けてもらう。

 もし、これが上手くいけば、コーヒーの木を人が積極的に植えて増えるからコーヒーの妖精が喜ぶはず。

 でも、最初は白い目で見られそう。種を焙煎するから……。


 ハヤブサの妖精のハヤサがウール王女に言う。


『私の効果で、飛行の速度が速くなっているわ。

 それを確かめてみる、ウール?』


「たしかめーて、みるー」


 その会話を聞いた俺は、重力魔法で窓を開けてあげた。

 ウール王女が重力魔法で浮くと、窓に向かって飛んで……。


 あれ……?

 さっきまでそこに浮かんでいたのに……、もういない!!


 は、早すぎて、飛んで行くのが見えなかった。

 余りの早さに、エイル姉ちゃんとヒミン王女もビックリしている。


 少し経って、いきなり俺の前に現れたウール王女。

 あまりにも早いので、途中の飛んだ姿が全く見えない!

 なんとういう速さだ!


「トームル。あーがとう」


 ウール王女はそう言うと、俺に抱き付き頬にキスをする。

 そして、俺から離れようとはしない。


 こ、これって、もしかして……?

 ハヤブサの妖精がウール王女に与えた効果の一部……?


 もしかして、もしかして……?

 これからウール王女は積極的に……、俺に迫ってくるって事?


 とっても嬉しいけれど、これって喜んでいいのかな……?

 だって俺、まだ赤ちゃんだよ〜〜〜〜〜〜!!!

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