第71話 妖精の国
スキュラを倒した俺たちは、港町に歩いて帰っている。
ふと、何かの気配を感じて上空を見ると、風の妖精がこちらを見ていた。
周りは姉ちゃん達とヒミン王女だけだったので、すぐに重力魔法を使って上空に移動。
近くまで行っても風の妖精は逃げず、
妖精の方から近付いて来ると、
なんとも言えない様な香りと共に。
「こんにちは、トルムル。
今回も、すごい活躍でしたね」
どうして俺の名を?
もしかして、俺を見張っていたのか……?
「その顔は、どうして妖精の私が、貴方の名前を知っているのかって思っているわね。
妖精の国では、貴方の名前は既に有名よ。
私達の国に、いつ来てくれるのか、みんな待ちわびているわ」
……?
え、……?
妖精の国で有名で、みんな待ちわびている……?
何で?
「貴方が赤ちゃんで、あまり言葉を話せないのも知っているわよ。
でも、魔力と知識は桁外れ。
妖精界は貴方を必要としている。
この世界と妖精の国は表と裏。
こちらの世界の秩序が乱れると、妖精の世界が小さくなっていく。
このまま魔王が勢力を伸ばすと、この世界から受けている恩恵が少なくなってしまう。
恩恵が無くなると、妖精の世界は成り立たなくなってしまうの。
私達には、清浄な世界の気が必要」
清浄な世界の気が必要だって!
ってことは、妖精の国はこの世界の気で成り立っている世界?
波長がちがう世界って事かな……?
「トーム。
いくー」
「妖精の国に来るのは難しいかもしれない。
私達はこちらの世界とは行き来が自由にできるけれど、人間がどうやって妖精の国に来れるかは私達も知らないの。
でも、過去に1人だけ妖精の国に来てくれた人間がいたわ。
その人が、この世界と妖精の国を救ってくれた。
貴方が2人目になる事を私は祈っている」
そう言うと、風の妖精は俺の目の前で突然消えた。
爽やかな風を残して。
しかし、妖精の気配はまだしていた。
どういうことだこれは?
気配が有るのに見えない……?
もしかして、目が妖精の国を感じる邪魔をしているのか?
大賢者の本に書かれてあった言葉を思い出す。
『妖精の国は、最も近くて、最も遠い所にある』
この言葉は、さっき妖精の言った言葉、『この世界と妖精の国は表と裏』に答えがある気がしてきた。
目は、可視光線内でしか見れないのを俺は知っている。
当然だけれども、可視光線以外の波長は目で見れない。
つまり、目を閉じて妖精の気配を頼りにして行けば、妖精の国に行けるかもしれない。
あ……でも。俺の体の安全を先に確保しないと……。
地上に下りた俺は、再びアトラ姉ちゃんの肩の上に乗った。
姉ちゃんが不思議そうに言う。
「上空に何かいたのかい?
突然行くから、何事かと思ってね」
口で言うと時間が掛かるので、命絆力を使って、さっきあった事を心の声でみんなに言う事に。
『風の妖精が上空にいました。
妖精の国に行ける気がするので、行きたいと思います』
アトラ姉ちゃんがビックリして聞き返す。
『トルムルは、妖精が上空に居たって言ったのかい?
そして、妖精の国にこれから行くと!』
『そうです』
周りで聞いていた姉ちゃん達や、ヒミン王女も驚き出した。
エイル姉ちゃんが言う。
「トルムルは上空で妖精と会って、これから妖精の国に行くって言ったのよね。
でも、どうやって行くの?
それに、私も行きたいのだけれど』
……。
エイル姉ちゃん、又しても観光気分になっているよ。
俺だってまだ行った事ないから、行けるとは限らないし。
それに、俺が行けたとしても、エイル姉ちゃんが行けるかどうか分からないんだよな。
『僕だけ行きます。
それに、行けるとはまだ分からなにので』
『え〜〜、トルムルだけ行くの〜〜?
仕方ないわ。お土産を宜しくね、トルムル』
……。
エイル姉ちゃん、やっぱり観光気分でしか妖精の国を見ていない。
俺はアトラ姉ちゃんの胸に移動して抱いてもらった。
母ちゃんに抱かれているみたいで、安心感が出てくる。
以前のような恐怖心は無くなっていた。
オシャブリを吸って精神統一し、目を
風の妖精の気配が薄っすらと残っていたので追ってみた。
居た!
しかし、肉体では行けない気がする。
ウール王女の体の中に入った要領で、心だけそこに移動させた。
突然、別世界がそこに広がっていていたので驚いた俺。
四季の花々が咲き乱れ、山々の木々は新緑の様に生き生きとしている。
更に驚いたことには、無数の妖精達が飛んでいた。
父ちゃんのパンティの絵柄で知っている妖精も居て、思わず微笑んでしまう。
目の前では、風の妖精が目を見開いて俺を見ている。
「トルムルが私のあとを追って来たの?
凄いわ!
まさか、すぐに来てくれるなんて!
ありがとうトルムル」
小さな風の妖精は近づいて来て頬にキスをしてくれる。
爽やかな風が再び巻き起こり、気分が上昇して行くのが感じられた。
ウール王女が俺の頬にキスをしてくれたことがあったけれど、まるで違う感覚。
これって、精神を強化して、戦闘能力を上げる感じ……?
「 あ……、ごめんなさい。
つい嬉しくって能力を使ったわ。
もう気付いたと思うけれど、妖精は能力を持っていて、人間の持っている能力を強化できる。
私は人間の精神を強化できるわ。
妖精によっては物理攻撃を強化できたり、魔法攻撃を強化できる。
治癒魔法を強化できる妖精もいるわよ」
……。
え……?
そ、それって凄いよ!
更に、俺達の能力が上がるって事だよな。
でも、どうやって妖精達と一緒に戦うんだろうか?
「これから妖精の女王に会ってもらうわ。
彼らはヒドラの妖精で、私達妖精を統べる者。
少しだけ変わった所があるけれど、気にしないでね」
大賢者と共に世界を救った、あのヒドラだよね。
でも、……。彼等って、どう言う意味?
しかも、少し変わった所がある……?
頭の中で考えながら風の妖精に付いて行く。
すると、近くに居た大勢の妖精達も俺の後から付いて来る。
興味津々の感情で。
ま、それは仕方ないよな。
妖精の国に来た人間は、俺で2人目みたいだから。
黄金色に輝く草地の上に行くと、清浄な気が後から後から溢れ出してくるのが分かった。
「トルムルには邪心が全くないんですね」
え……?
何の話なんだ?
風の妖精が振り向くと言う。
「この場所は、邪心のある者が入ると心を焼かれて死んでしまうの。
ここに来たのは、貴方の心に邪心がないか試すため。
ごめんなさい。黙ってここに連れて来て。
貴方の心の真意が分からないので、試す必要性があったの。
そうでないと、妖精の能力を人間には与えられないから」
それって、少しでも邪心があったら、俺はここで死んでいたって事?
ま、前もって言ってくれれば……、心の準備が……。
でも……、分かる気はする。
邪心のある人に妖精達が協力したら、とんでもない事になりかねないからな。
妖精の国が乗っ取られるかもしれないし。
前方から、別の集団の妖精達が近付いて来る。
その中心にいるのは、3つの頭を持ったヒドラの妖精だ!
それは青色のヒドラで、他の妖精と同じく、大人の手に乗るぐらい小さい。
羽ばたいて来て俺の前で止る。
そして、ゆっくりと左右に動きだした。
真ん中の頭が、威厳に満ちた心に響く声で話し始める。
「初めまして、私は妖精女王のモージルです。
トルムルが来るのを心待ちにしていました。
長きにわたって魔王に苦しめられてきた人間界と妖精の国ですが、貴方の出現によって大きく変わろうとしています。
魔王が住んでいる大陸に近い3国が、既に魔物によって数年前に失われました。
その国々を拠点として、更に魔王は勢力を強めています。
幸いな事に、トルムルの活躍によって魔王の勢力を止める事に成功しています。
特に、ワイバーン戦とカリュブディス戦の勝利が大きな意味を持っています。
魔王の進軍を止める事が出来たのですから」
あのワイバーン戦と今回のカリュブディス戦が、そんな大きな意味を思っていたんだ。
世界的な情報が手に入らないから、よく分かっていなかったよな。
待てよ、妖精達と親しくなれば、世界的な情報が瞬時に分かるって事?
そうだよ、間違いない!
でないと、モージル王女の言った事の裏付が取れない、……はず。
人間以上に詳しい情報を得られるから、それが言えるんだ。
「トルムルの顔が変わりましたね。何かを気が付いた様な。
きっと、私達と協力する利点が分かったのではないですか?」
「じょ、ほ」
情報が、い、言えない……。
右の頭が、少し
「おっ。少しは頭が良いんだな」
バチィィーーーーーー!
いきなり右の頭に、小さな雷撃が落ちた。
「イテェーーー!
わ、分かったよ。最後まで黙っています」
モージルが右の頭に言う。
「分かれば良いのよ、分かればね」
え……?
雷撃が何で右の頭に……?
それに、……?
モージルが再び話し出す。
「最後まで話してから私達の事を話そうと思ったのですが……。
さっき言った右側の頭はドゥーヴルで男性。
毒を吐いての攻撃が得意です。
人間には、毒の魔法を強める能力があります。
やや……、
私は女性で雷撃が得意。
人間には、雷撃の魔法を高める能力があります。
左側の頭はマグ二。
男性で、火炎の攻撃が得意です。
人間には、火炎の魔法を高める能力があります。
マグ二は普段は引っ込み思案なのですが、いざとなったら豹変して猛将の如く働きますからご安心下さい」
左側の頭が恥ずかしそうに言う。
「よ、宜しくな、トルムル」
「バ、バブゥー」
おっと。つい、バブゥーと言ってしまった。
こちらこそ宜しくって言えないからな……。
でも……。モージル女王が女性で、両端のドゥーヴルとマグ二が男性?
両性を持っているって事なの……???
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