第70話 スキュラの魔石

 少女の様にあどけない姿のカリュブディスが話し出す。

 喉が潰れた様な、しわがれ声で。


「よくも、私の可愛かわいクラーケンをってくれたね!

 ただではおかないからね、ハゲワシ〜〜!!」


 クラーケンが、か、可愛い……?

 あの、クラーケンが……?


 言った途端に、カリュブディスは火炎魔法を発動した。

 俺はとっさに魔法で盾を作り出す。


 いつも通り……?

 オッパイの盾が現れて、小刻みに揺れている。


 盾の後ろにいても高熱を感じる。

 凄い魔力だ!


 辺りの空気も上昇しており、真夏の暑さ以上。

 突然、盾が高温に耐えきれなくなって霧散した。


 ヤバイ!!


 火炎は俺をめがけてさらに迫って来る。

 目と鼻の先で、皮の防具に組み込まれた防御魔法が発動した。


 ワイバーンの魔石に防御魔法を付与して、皮の防具に組み込んでいたので危機一髪間にあう。


 ふ〜〜。

 思っていた以上の魔力だ。


 オッパイの盾が耐えきれなくなって、霧散したのは初めてだよ。


 今度はこっちの番だ〜〜!!


 手の中に、慎重にイメージを作り出す。

 イメージができたので、俺は最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブを発動した。


 キィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 耳をつんざく音と共に、目に見えない最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブがカリュブディスに襲いかかる。


 やったか?


 カリュブディスは両手を前に出して、防御態勢で耐えている。

 よく見ると、腕からは血が流れ落ちているのが見えた。


「こ、これは、最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブ!!

 どうして人間のお前が使える?」


 どうしてって言われても……。

 ギガコウモリを倒したからと言いたい。


 でも、言ったら俺が赤ちゃんだと分かってしまう。

 驚いているのなら、この攻撃は効いているんだな。


 もう一回だ〜〜!!


 同じように俺は最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブをカリュブディスに発動した。


 キィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 耳をつんざく音と共に、目に見えない最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブが再びカリュブディスに襲いかかる。


「グゥワァーーーーーーーー!!」


 カリュブディスは苦痛の声をあげている。

 腕からは、更に血が流れ出しており、顔は苦痛で歪んでいる。



「ハ、ハゲワシ。これ程の魔力があるなら、魔王の幹部になれる。

 どうだ、ハゲワシ。魔王の幹部にならないか?」


 え……?

 魔王の幹部のお誘いですか……?


 カリュブディスからお誘いが来るとは、全くの予想外……。


 もちろん断るに決まっている。

 今まで多くの人達を苦しめてきた魔王の下に、付くつもりは全くありませ〜〜ん!


「ブゥ〜〜〜〜〜〜!!」


 おっと、つい言ってしまった。

 あ、でも。ハッキリと拒否の言葉が言えて嬉しい。


「お・の・れ〜〜!!

 それならば、お前を殺すしかない。姿にこだわっていたら、お前には勝てない」


 ん?

 何を言っているんだカリュブディスは?


 突然、少女姿のカリュブディスが消えた。

 そして、スキュラぐらいの大きさはある、異様な姿の魔物がそこに現れる。


 老婆の姿で、口が異常に大きい。

 手の指は全てウミヘビで、俺を威嚇している。


「これでお前は終わりだよ!!

 覚悟するんだね」


 カリュブディスがそう言うと、10匹のウミヘビが俺を襲って来る。


 え〜〜!

 ウミヘビって、空を飛べるの?


 きっと、カリュブディスの魔力でコントロールしているんだ。


 ヤ、ヤバいよ!

 1匹、1匹が、大人ぐらいの太さはある巨大なウミヘビ。


 しかも、派手な色なので間違いなく毒ウミヘビ。

 噛まれたら、即あの世行き。


 八方から襲って来るウミヘビに対して、俺はすぐに鎌鼬かまいたちを8回続けて発動した。

 死神鎌デスゴッドサイスになって、ウミヘビを襲う。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ……。


 切る音が無数に聞こえ、ウミヘビは細かく切られ海面に落ちて行く。

 でも……?


 2匹生き残っており、俺の近くに居る〜〜!!

 とっさに防御魔法を発動。


 オッパイの盾が現れると、2匹のウミヘビはオッパイの盾に食らいつく。


 ……?

 これって、ウミヘビがオッパイを吸っているみたい……。


 ウミヘビが食らいつくと、盾は耐え忍んでいるように震えている。

 盾の色が、凶々しい色に変わっていく。


 このままだと、盾が耐えきれなくなって霧散する……。


 すぐに鎌鼬かまいたちを俺は発動した。

 死神鎌デスゴッドサイスになって、2匹のウミヘビを襲う。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ。


 小さく刻まれたウミヘビは、凍った海峡に落ちて行く。


「私の攻撃をふせぎきった……?

 そ、そんなバカな……」


 かなり、ヤバかったんですけれど……。

 今度はこっちの番だよね。


 ……?

 そうだ、クラーケンの攻撃魔法を試す時だ。


 巨大なクラーケンの足が攻撃するイメージを手の中でする。

 イメージが完了したので俺は魔法を発動した。


 巨大蛸足クラーケンレッグとなってカリュブディスを襲う。


 バァキィィィーーーーーー!!


 クラーケンの足がカリュブディスを叩き潰す。

 凍った海面に叩きつけられたカリュブディスは、もがき苦しんでいる。


 一本だけの足だけれど、凄い威力だよこれ。

 もう一回だ〜〜!


 そう思った途端に、カリュブディスが反撃をしてくる。

 とっさに俺は、防御魔法を発動していた。


 オッパイの盾が現れると、いきなり小さくなっていく。


 な、何これ……?

 重力魔法?


 耐えろ〜〜〜〜〜〜!!

 オッパイの盾、耐えろ〜〜〜〜〜〜!!


 オッパイの盾に、魔法を追加でつぎ込んで強化する。

 小さくなったオッパイの盾が、小刻みに震えながら再び元の大きさに戻った。


 ふ〜〜。さすが、神の娘。

 一筋縄ではいかないよ。


 巨大蛸足クラーケンレッグ魔法をすぐに発動する。


 バァキィィィーーーーーー!!


 再びカリュブディスを凍った海に叩きつけた。


 今度こそどうだ?

 ……?


 あれ……?

 カリュブディスの気配が消えた……。


 もしかして、逃げた?


 ……?


 凍っていない海に潜って逃げたんだ。

 海峡を全部、先に凍らしておくんだった〜〜!!


 今更悔やんでも仕方ないよな。

 次に会ったら、同じ過ちは繰り返さない様にしないとな。


 そうだ、スキュラは?


 海峡の反対側を見ると、姉ちゃん達とヒミン王女が苦戦しているのが見えた。

 俺はすぐに飛んで行った。


 スキュラの下半身の犬は4匹に減っている。

 けれど、槍使いのディース姉ちゃんが戦線を離脱して、シブ姉ちゃんの近くで横たわっている。


 シブ姉ちゃんはディース姉ちゃんの腕を治療している。

 腕だけだったら大丈夫だよね。


 すぐに俺は攻撃を開始する。

 巨大なクラーケンの足が攻撃するイメージを手の中で再びする。


 イメージが完了したので俺は魔法を発動した。

 巨大蛸足クラーケンレッグとなってスキュラを襲う。


 バァキィィィーーーーーー!!


 クラーケンの足が1匹の犬を叩き潰す。


 あれ?

 俺……、無意識の内に、スキュラを避けて犬だけ攻撃した。


 何で?


 そうか。毒によって魔物にされたので俺は同情しているんだ。

 魔物になりたくてなった訳ではないからな……。


 え〜〜い。考えても仕方ない。

 犬を先に攻撃だ〜〜!!


 残りの犬達も巨大蛸足クラーケンレッグの魔法を何回も発動した。


 バァキィィィーーーーーー!!

 バァキィィィーーーーーー!!

 バァキィィィーーーーーー!!


 下半身を失われたスキュラは人間の大きさに戻って、凍った海面に横たわった。

 顔を見ると安堵した顔になっている。


 笑顔で俺を見ながら言う。


「ハゲワシさん、犬を殺してくれてありがとう。

 犬のせいで、私は人間の心に戻れなかった。


 私は長い間、犬に苦しめられてきて理性を失っていたの。

 最後の最後で、貴方は私を人間にしてくれた。


 本当にありがとう。


 ハゲワシさん、私にとどめを刺して下さい。

 もはや、この世には未練はありませんから」


 スキュラの目からは涙が流れ落ちている。

 俺は最後の攻撃をした。


 巨大蛸足クラーケンレッグの魔法を発動すると、巨大なクラーケンの足がスキュラを襲う。


 バァキィィィーーーーーー!!


 スキュラのあとには、魔石が在るだけだった。


 スキュラの魔石がある近くに俺は舞い降りると、元の赤ちゃんの姿に戻った。

 魔石を拾うと、なぜか涙が自然と溢れ出す。


 とてもキレイな魔石で、思わず、検査魔法で調べ始めていた。

 魔石からは、今まで感じなかった感覚が伝わってくる。


『これを使って、魔物を倒してください』と。

 しかも、一回の物理攻撃で六回攻撃できる魔法が既に付与されていた。


 スキュラは、最後には人間側になって、自らを悔い改めるように魔石になったみたい。

 しかも、最後に自らの魔石に魔法を付与するなんて……。


 ヒミン王女と姉ちゃん達を見ると、同じ様に涙を流している。

 同じ女性として、スキュラに共感したんだと思う。


 アトラ姉ちゃんが来て、俺を肩の上に乗せてくれる。


「トルムル、ありがとうな。

 スキュラの犬を最初に叩き潰してくれて」


 そう言ったアトラ姉ちゃんは俺を抱き上げ、その大きな硬い胸……、で優しく抱いてくれた。

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