第72話 ヒドラの妖精女王
「あっ……。
トルムルは、疑問に思っているよ。
男と女の両方の性を持った俺達の体がどうなっているか。
目線が下がったからな」
バチィィーーーー!
「イテェ〜〜〜〜!
わ、分かったよ。もう言いません」
モージル女王は、再びドゥーヴルに雷撃を落とした。
女王、怖!
女王が再び話し出す。
「今度言ったら、10倍の威力の雷撃をお見舞いするわよ」
「わ、悪かった。もう言いません」
モージル妖精女王は、再び威厳に満ちた口調で話し出す。
「動植物の妖精達は、それぞれの種族に指示をだせ、戦闘に参加させる事が可能です。
私は、ヒドラの種族に指示を出せるので、いざとなったら大きな戦力になります。
その他の妖精達は、特殊な能力を合わせ持っている者達も居ます。
例えば、風の妖精は風を操る事ができます。
そして、この場所に私がいると、多くの妖精達から情報が集まってきます。
それを、トルムルが得る事が出来るのです。情報は、戦争をする上に置いて最も重要であり、不可欠なものです」
俺は軽く頷いた。
でも戦争って……。
規模が、さらに大きくなっている気が……。
俺、まだ赤ちゃんなんですけれど……。
それに、動物が戦争に参加って分かるけれど、植物が戦争に参加って……?
どうやって戦うんだろうか?
「流石ですね。
トルムル様なら分かってくれると思いました。
既に、後継者会議のメンバーがトルムルを信じていますので、今後の事はやり易いと思いますよ。
トルムル様と私の間で服従の儀式を行うと、貴方は私から情報を得る事ができます」
服従の儀式だって!
今まで自分の行動に対して、自由にしてきたのに……。
例え世界を救う目的でも、会ったばかりの妖精女王に服従したくはない……。
「服従の儀式では、私がトルムル様に従う事であり、トルムる様は私に命令をする事が出来るのです」
逆ですか!?
でもそれって、どう考えていいか……?
「更に、他の妖精達にも命令する事ができ、トルムル様が妖精国の頂点に立つ事を意味します」
……?
お、俺が妖精国の頂点に……?
マ、マジですか?
まだこの世界に生まれて、一年も経っていないのに……。
「服従の儀式の為に、トルムル様について色々と今まで調べさせて頂きました。
そして最後の試練が、ここに来て私と話をする事だったのです。
少しでも邪心があれば、ここでは心を焼かれてしまいますので。
トルムル様がここに来た事によって、邪心が全くない事が証明され、全ての条件を満たしました。
世界と妖精国を救う為、何卒この儀式を受けて下さるよう、心より御願い申し上げます」
そう言うと、モージル妖精女王と両脇のドゥーヴル、マグ二が深く頭を下げる。
そして……、周りを取り巻いていた妖精達も頭を下げていく。
いきなり言われても困るんですけれど……。
でも……、大賢者も同じ儀式をしたのは間違いがない。
大賢者を目指す俺にとっては避けられない宿命か?
そう思うと、決心がしやすい。
母ちゃんを思い出す。
俺を生んで、すぐに亡くなった母ちゃん。
俺は、母ちゃんの意思を継いで大賢者……、になると心に誓った。
それが今、大きな一歩を踏み出す事になる。
「わーた。
するー」
モージルはそれを聞くと頭を上げて、笑みを浮かべながら言う。
「トルムル様ならそう言って頂けると思っていました。
それでは、服従の儀式を早速始めましょう。
スマシタイオキシギ、ノウュジクフ、ハチタシタワラカレコ……」
モージル女王が呪文を唱え出すと、俺と女王の下に光り輝く魔法円が現れた。
呪文の続きを女王が唱えだすと、更に魔法円が眩しく光り輝き出す。
魔法円が2つに分かれ、俺と女王の体に入ってゆく。
魔法円が体に入って行く時、体が異常に熱くなり焼かれるのではないかと思った。
そのあと、俺の体と王女の体が光り輝きだしてくる。
ふと……、何かが俺の心に結び付いた感覚がした。
それを確かめる為に意識を伸ばす。
すると、女王と心で繋がっているのが分かった。
更に、女王からは無数の妖精達とも繋がっているのが判り、その情報量の多さに圧倒された!
すぐに俺はオシャブリを吸って精神統一。
最初は混乱したけれど、情報画面を見ている様に、大量の情報を整理する事ができた。
ふー。
こんなに、情報があるなんて……。
でもこれで、世界で何が起きているのか手に取るようにわかる。
これは……、すごい武器になる!
でも……。
思っている以上に、魔王の勢力は広範囲にわたっている。
西の大洋に面している4つの国々は、カリュブディスと戦った国以外は全滅。
3つの奪われた国を拠点として、魔物達は内陸部へと進撃をしている。
ワイバーンとカリュブディス戦が、魔物の進撃を地理的に止めた重要な拠点だったと分かる。
そうすると、この国が次の段階では重要になってくる。
あ……。
この国は、槍使いのディース姉ちゃんが住んでいる国だ。
「これで服従の儀式は終わりました。
お姉さん達とヒミングレバー王女、そしてウールバルーン王女には、妖精達と個別に友好の儀式を近い将来受けてもらう事になります。
そうすることによって、彼女達は妖精を見れて、話もできるようになります。
最終的にはトルムル様に、全て決めて頂く事になります」
全てって……。
俺まだ赤ちゃんなんですけれど。
でも、姉ちゃん達と妖精が友達の儀式をするば、姉ちゃん達も妖精が見えて話せるようになるんだ。
姉ちゃん達に合う妖精を探すのは苦労しそうだな。
あ、このプラナリヤの妖精は治癒能力の魔法を高める能力を持っている。
シブ姉ちゃんに相性が良さそう。
シブ姉ちゃんは治療師なので、治癒をする時に治癒魔法を更に高めてくれる。
服従の儀式で心が繋がったモージル妖精女王に、心で会話をする事にした。
命
『プラナリの妖精とシブ姉さんとで、友達の儀式をと考えています
どう思われますか、モージル妖精女王?』
ドゥーヴルが驚きの顔で俺を見た!
『これは驚いた。
心の声が、口から出てくる言葉と全く違っているよ!
今の今まで、赤ちゃん言葉でトルムルは考えていたと思っていたけれど、大人と同じ様に頭の中で考えていたんだ!』
モージル女王が、ドゥーヴルに向かって当然ですよという顔つきで言う。
『当たり前の事ですよ、ドゥーヴル!
だからこそ、トルムル様と私は服従の儀式をしたのです。
失礼いたしました、トルムル様。
ドゥーヴルは、やっとトルムル様の真のお姿に納得した様です。
先程まで、トルムル様が服従の儀式に相応しいか、彼は半信半疑だったのです。
これで彼も認めざるをいないでしょう』
ドゥーヴルを見ると先ほどと打って変わって、少し頭を下げ、尊敬の眼差しで俺を見ている。
モージル女王は、話の続きを言い始めた。
『プラナリヤの妖精ですね。
流石です。彼を推薦しようと思っていた所だったのです。
彼の名前はプラ。
私の後ろに居ると思いますよ』
モージル女王の後ろから、少し寄り目の可愛らしい男の子が羽ばたきながら前に進み出る。
『初めまして、プラです。
シブお姉さんと僕は、相性がとても良いと自分でも思っていました。
皆さんのお役に立てるよう、精一杯頑張りたいと思います』
そういうとプラは軽くお辞儀をする。
どの妖精も見かけは若いけれど、生きてきた年数は俺とは比べ物にならないくらい長いはず。
それなのに、目上の人に接してくれる様にとても礼儀正しい。
彼の性格が現れているのかなと思う。
決まりだね。シブ姉ちゃんにはプラナリアの妖精、プラに決めよう。
そろそろ元の体に戻らないと、姉ちゃん達が心配しているはず。
さっそく、プラを連れて帰ろう。
『私はこれで元の世界に帰ります。
それで、プラを連れて帰って、シブ姉さんと友達の儀式をしようと思います。
プラ、一緒に来てくれますか?』
プラが喜びの顔で言う。
『僕を選んでくれて有難うございます。
ご希望に添える様に頑張りたいと思います』
モージル女王が、少し驚いた様子で言う。
『トルムル様は的確な判断が早いですね、流石です。
すぐに決めて頂けるとは予想外でした。
私もトルムル様に付いて行って、妖精が見えるようになるシブお姉様にご挨拶をしたいと思います。
それと、私のことはモージルと呼び捨てにして下さい』
え……?
伝説の大賢者と共に、当時の世界を救ったモージル妖精女王を呼び捨てにするの!?
でも……、服従の儀式をしたから、俺が上になるんだ……。
ふ、複雑な気分……。
それにしても、モージル王女を見た時、シブ姉ちゃんは驚くだろうな。
姉ちゃんは、実物のヒドラの妖精を知らないからな。
あ、そうだ……。
エイル姉ちゃんが、お土産って言っていたけれど……。
今回は仕方ないよな。
持って帰るもの、何も無いし。
持って帰ったとしても、波長が違うのでエイル姉ちゃんは多分見れないだろうし。
『分かりました。
それでは行きましょう、モージルとプラ』
俺はそう言うと、妖精達に手を振った。
妖精は、俺を見送る様に手を振っている。
どの妖精も目が光り輝いており、俺に信頼の眼差しを向けている。
妖精って、純真で一途な性格なのかなと思った。
ドゥーヴルを除いて……。
でも何で彼は、あんなに
◇
意識を俺の体に向けると、心を体に移動する。
目が覚めると、アトラ姉ちゃんに抱かれたままだった。
「トルムルが戻って来たよ!」
アトラ姉ちゃんは凄く喜んで俺を抱きしめる。
く、苦しい!
い、い、息ができない……。
姉ちゃん、またしても強く抱きすぎだ〜〜!!
新生児の時に受けた恐怖が再び起こってくる。
俺は思いっきり暴れた。
「アトラ姉さん、トルムルが苦しんでいるわ!
トルムルはまだ赤ちゃんなの忘れたの!?」
そう言ったのはエイル姉ちゃんだ。
「え……?
ほんの少しだけ、強く抱いているだけだよ」
これが少しだけだって!
お、俺には致死レベル……。
だ、ダメだ、意識が……。
そう思った瞬間に、エイル姉ちゃんが俺を抱いて救ってくれる。
ふーー。
た、助かったーー。
「アトラ姉さんの能力が
少し強めに抱いても、トルムルは赤ちゃんだから命に関わるのよ!」
そうだそうだ!
こういう時は、エイル姉ちゃんの判断は正しい。
しかし……、オッパイ恐怖症が再発したような気が。
アトラ姉ちゃんの胸を見るのが怖い……。
手がまだ少し震えている。
アトラ姉ちゃん、恐るべし!
アトラ姉ちゃんは、反省をする様に俺を見る。
「ごめんな、トルムル。妖精の国からトルムルがなかなか帰らないので、とっても心配していたんだよ。
それで、妖精の国には行けたのかい?」
俺が姉ちゃんを心配させていたんだ。
それで、俺を少しだけ強く抱いてくれたんだね。
でも、以前より遥かに抱く力が強くなっている!
胸の弾力も……。
そうだ、妖精の国に行った報告をしないと。
俺は命絆力を使って、妖精国に行った細かな経緯を説明を始める。
黄金色に輝く草原に居る事が最後の試練だと言うと、姉ちゃん達は驚きの声をあげた。
そうだよね。もし俺に邪心が少しでもあったら死んでいただろうから。
妖精の女王と服従の儀式をした事を言うと、驚きの声を姉ちゃん達は上げ始めた。
俺以上に姉ちゃん達が驚いている。
ヒミン王女だけは冷静になって俺の言っている事を聞いている。
客観的に物事を見る能力が、王女はズバ抜けている気がしている。
幼少の時から、国を治める勉強をしたからだろうな。
大局を相談するには、ヒミン王女が適役かも。
あれ……?
俺って、ヒミン王女を参謀にと考えている。
最後に、プラナリヤの妖精とシブ姉ちゃんが友好の儀式をすることを言う。
シブ姉ちゃんは両手で口を押さえ、大きな目を、更に大きく見開きながら驚いて俺を見て言う。
『わ、私にも、妖精が見えるようになるの……?
とても信じられない……。
しかも、治癒魔法の能力が更に上がるなんて……。
ありがとうトルムル』
そう言ったシブ姉ちゃんは俺を抱き上げてくれて、その柔らかな胸で抱いてくれる。しかし、ほんの少しだけ、オッパイ恐怖症が再発した。
でも、姉ちゃんの柔らかな胸の中で、俺は姉ちゃんのやさしを感じていた。
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