第67話 クラーケン
風光明美な港町に、オレ達は馬車で向かっている。カリュブディス戦の前に、こちらの魔物と戦うことにした。シブ姉さんの話によると、魔物が港町を、毎日襲っていると聞かされたからだ。緊急を要するのは、こちらだと判断する。馬車の中で揺られながら、ここ1ヶ月間の疲れで、眠気が急に襲ってくる。
「トルムル、寝ちゃった。でも、仕方ないよね。今日までの1ヶ月間、この国のあらゆる所に行って、患者さんの体内にいる、魔物を退治してきたから」
「シブ。そんなに小さな魔物がいるなんて、聞いた事がないんだけれど?」
「アトラ姉さんが知らないのも無理もないわ。私だって、トルムルが見つけてくれなければ、その存在自体知らなかったんだから。それに、へプティ師匠も、聞いた事がないと驚いていたわ。それをトルムルが発見して、患者さんの体内から取り出したのよ。
私も手伝ったけれど、とても大変だったわ。道に落ちているゴマを、手で全部拾うような感じかな? 一粒でも取り残すと、再び増殖していく厄介な魔物だったわ。トルムルはそれを、時間を掛けて丁寧に取り除いていた。
トルムルって魔力が桁違いだけれど、集中力も桁違い。まだ赤ちゃんなのに、大人顔負けの、細かな治療をしていたわ。でも、ずっとオシャブリを吸っていて、とても
今日はこれで終わりにしましょうと、何度もトルムルに言ったのだけれど……。患者さんの命が掛かっているからって、トルムルは治療をやめなかったわ。朝起きてから、寝るまでずっとよ。トイレと食事以外は、治療をしていたわ。いつもはしているお昼寝を、ここ1ヶ月、一度もしていないのよ。そのせいか、少し肌のツヤが無くなったような感じで、見ているこちらが
寝るのも、移動の馬車が殆ど。ベッドで寝たのは、ここ1ヶ月で一度だけ。私は……、頭の下がる思いがして……。まだ赤ちゃんの弟から、治療師の何たるかを教えてもらうとは思いもしなかった。へプティ師匠も言っていたわ。
『トルムル君はまさに、賢者の名に相応しい働きをここ1ヶ月してきた』と。
だからせめて……、港町に着くまでは、グッスリと寝てもらいたいの」
「ここ1ヶ月で、そんな事があったのか……。そうだ! 港町に着いたら、私達だけで魔物を退治しないか? カリュブディスは無理にしても、雑魚相手は、トルムルからもらったこの新たな能力で、簡単に退治できると思うんだよ」
「私もアトラさんに賛成します。トルムル様の肌のツヤが無いので心配していたのです。温泉に入った後は、あんなに肌がツヤツヤとしていたのに……。ここ1ヶ月で、こんなになってしまわれて……」
「ありがとうヒミン。王女の貴女が言ってくれると心強いよ。
みんなはどう思う?」
「「「「賛成〜〜」」」」
「これで決まりだな。今回だけは、トルムルなしで魔物退治!!」
「「「「「オォーーーー!!!」」」」」
◇
ドッゴォ〜〜〜〜〜〜ン!!
大きな音で、オレは起こされた。この音は、アトラ姉ちゃんが伝説の魔剣を使った音だ! 姉さん達とヒミン王女は、すでに馬車から降りていた。前方から魔物の気配を感じて、馬車から外を眺めると、姉さん達が魔物達と戦っている。目的地の港町に着いたことを知ったオレ。
何で、起こしてくれなかったのかと、最初は思った。でも
町中では、魔物の侵入を食い止めるべく、道路のいたる所にバリケードを築いている。そのバリケードの前で、姉さん達は戦っている。港に目をやると、数隻の大きな船が沈められ、無残な姿を海面から覗かせている。その港から、続々と魔物が陸に上がって来ている。
姉さん達は善戦している。けれど、これだけの魔物相手に、最後まで戦い抜くのは難しいと判断。もしもの時のために、ハゲワシになって上空に待機することにする。
ハゲワシ以外には、なれないんだけれど……。あ〜〜あ。いつになったら、カッコイイ
すでに皮の防具を付けているので、その上から厚手の服を着る。秋も深まってきたので、昼間でも寒い。着替えると、後ろの窓から重力魔法で出る。
御者が、馬車の前に座って港を見ているので、そちらから行かれない。
ハゲワシに変身すると、空高く舞い上がった。外は秋晴れで、空を飛んでいるだけで気持ちがいい。さらに高く舞い上がると、遥か彼方に海峡が見えてきた。魔王の幹部である、カリュブディスが住み着いた海峡だ! ここから見る海峡は絶景で、エメラルドグリーンの海が外海まで続いている。ここが観光地だったと、エイル姉さんが言っていた。魔物がいなくなれば、ここは再び観光地になると思う。
下の方では、姉さん達が戦っている。けれど、次から次へと、海から上がって来る魔物を何とかしないとな。ん……? 海峡から、大型の魔物が近付いて来ている。
タコ? 家ぐらいの大きさか? いや、もっと大きい。エメラルドグリーンの海に、魔物の影がハッキリと見えてきた。もしかして、母さんの言っていたクラーケンか? もしそうだとしたら、姉さん達が危ない!
先制攻撃を今、仕掛けないとヤバイ!! 今が最大のチャンスで、真上から攻撃を受けるとはまさか思わないだろうし。俺は、
空に突然、積乱雲が現れた。
ゴロゴローー!!! ゴロゴローー!!! ゴロゴローー!!!
そして巨大なイナズマが、光や音と共にクラーケンの真上から襲いかかる。
ピカァー。ドォカァーーーーーン!!!
やったか? クラーケンは驚いて、頭を海面に持ち上げる。驚いただけで、致命傷にはなっていないんだ。それに……。デ、デカイ!
いや、違う! カリュブディスが、外海から呼んだんだ。クラーケンを見ると、誰が攻撃をしたのか辺りを見回している。上空にオレがいるのが分からないみたいで、困惑している感じが伝わってくる。
チャンスはまだある! ユデダコが好きだけれど、焼きダコでもいいよな。オシャブリを吸って、いつものように精神を統一する。さっき、雷魔法の時にオシャブリを吸うのを忘れたので、威力が下がった気がしたんだよな。やはり、こういう時には焦らずにしないと。
ドォッゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!
以前よりも威力が増しているよ〜〜。これで、やつけたはず……? 頭に直撃をしたのに、次の瞬間には足が攻撃を塞いでいる。二本の足は真っ黒焦げになったけれど……。だめだ、足二本だけのダメージしか与えられない。
あ、こちらを見ている。
「お前はハゲワシ!! ワイバーンとミノタウルスを
魔王様からのご命令で、ハゲワシは第一級要注意人物ですぐに殺せと。お前を殺すと、魔王様の幹部になれる。このクラーケン、絶好のチャンス到来だ!」
そう言うと、クラーケンは長い足を伸ばして、オレを捕まえようとした。すぐに空高く舞い上がる……。あれ……、足に何か絡まって上空に行けない……? あ〜〜〜〜、マジ!! クラーケンの足が足に絡まって……。
ひ、引きずられて行く〜〜〜〜!!! 重力魔法を使っても、ひ・き・は・が・せ・な・い〜〜 〜〜!!! すぐに
ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。
クラーケンの足は細かく切られ、海面に落ちて行く。
いや〜、あぶなかった〜〜。クラーケンの足が、あんなに長いとは! 足の先っぽだから、逃げれたよ。手かな……? と、とにかく、油断大敵だ!
「おのれー! すばしっこい奴め! 降りて来て、俺と勝負しろ〜〜!」
そう言われて降りて行くと、そのズ太い足で、オレを捕まえるくせに……。ここにいる限りは安全だよな。
あ、……? こっちを諦めて、港町を襲う気だ! あんなデカイのが上陸したら、移動しただけで町を壊滅してしまう。カリュブディス戦に取って置いた、秘策の魔法を使うしかないな。
まず最初、オシャブリからだな。念には念を入れないとな。オシャブリを吸って精神を統一すると、手の中でイメージを開始する。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
銀色の大きな
カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!
下の方で、海面が凍った音がする。ダイアモンドダストが風に流されて、視界が元に戻ると、クラーケンが氷づけになっていのが見えた。やったね。クラーケンを魔石に変えられなかったけれど、取り敢えずはよしとしよう。あ、でも……? クラーケンを魔石に変えない限りは、また動き出すんだよね。
姉さん達の方を見ると、掃討戦に入っていて、魔物はほとんどいない。何で?
海から町に上ろうとしていた、魔物の気配が消えている……? クラーケンに使った
やったね。これは、予想外の効果で一石二鳥だった。姉さん達が、全ての魔物をやっつけると、オレは町に舞い降りて行く。町の人達は歓喜しており、踊り出す人達もいる。。嬉しいよね。こうして喜んでもらえるのって。
アトラ姉ちゃんの肩に舞い降りると、他の姉さん達とヒミン王女が近付いて来る。皆んな笑顔で、充実した顔つきだ。アトラ姉さんが、小さな声で言う。
「まさか、ここにクラーケンが来ているなんて、予想外だったよ。トルムルが凍らしてくれなかったら、どうなっていたか。町にクラーケンが上陸するだけで、町は壊滅的になるからな。ありがとう、トルムル」
そう言うとアトラ姉さんは、オレを
優しく、ゆっくりと……、とっても薄〜〜〜〜い、オレの髪の毛を……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます