第58話 伝説の魔弓

 異常な物音で起こされ、気がつくと俺はベッドの上にいた。

 温泉で……、本当に眠ったらしい。


 途中まで覚えていたのだけれど……?

 い、嫌なことは、わ、忘れよう……。


 それよりも、この異常な音だ!


 ギィー、ギィー。ギィー、ギィー。


 グウォーーー。グウォーーー。


「キャハハハ。

 ダ、ダメそこは」


 歯ぎしり、イビキ、そして寝言。

 初めて姉ちゃん達と同じ部屋で寝ているのだけれど……。


 よく、この中で姉ちゃん達は寝れるよね。

 とっても眠いのに、音が大きくて眠れない……。


 ……?

 あ、俺も寝ていたか……。


 一晩中起きて、おしゃべりをすると言っていた姉ちゃん達。

 けれど、疲れて寝てしまったみたい。


 東の空が、少し明るくなってきた。





 俺は、ヴァール姉ちゃんの結婚祝いを色々と考えている。

 姉ちゃんは弓矢使いなので、弓に関して賢者の本を調べた。


魔弓まきゅう真空弓バキュイティボー


『この弓にはワイバーンの魔石が適している』


『魔石に真空のスキルを付与する。

 そうすることによって、矢が飛べば飛ぶほど速くなって行く』


 真空の意味はわかるんだよな。

 でも、なんで真空と弓と関係があるのかが分からない。


 父ちゃんの本で、この弓について調べてみた。

 それにはこう書かれてあった。


『数ある魔弓の中で、真空弓バキュイティボウは謎だらけで、誰もこの弓を理解できない。

 そもそも、我々には真空が解らず、謎に満ちた魔弓である。

 伝説によると、矢を放つと初速よりもさらに速さが増していくとある』


『この魔弓がもし存在しているのであれば、最強の魔弓になるかもしれない』


 これを作って、ヴァール姉ちゃんに結婚祝いとして贈りたい。

 だけど、手がかりが真空とワイバーンだけだ。


 ワイバーンと戦ったことがないので、魔石も入手できない。

 父ちゃんに聞いたら、ワイバーンの魔石は市場では出回っていない。


 非常に貴重で、上級の魔石の部類に入るみたい。

 若い時に父ちゃんは一回だけ見ただけだと言っていた。


 この魔弓は、あきらめるしかないのかな……?




 ん……?

 西の空から、何かが近づいている。


 しかも群で飛来しており、かなり強力な威圧感。

 ミノタウルスと匹敵するぐらいの魔物だ!


 これって、超〜〜まずいよね。

 各国の、王子級の人達がこの城にいるんだよ!


 まさか……、それを狙って襲って来る気か?

 俺は、命力絆ライフフォースボンドで繋がっている人達に緊急連絡を入れる。


 アトラ姉ちゃん、エイル姉ちゃん、ヒミン王女、ウール王女に、熟睡してもすぐに起き上がれるくらいの大きな声で。


『みんな起きて〜〜!!!

 西から魔物が襲って来る!!!』


 ヒミン王女がすぐに反応した。


『トルムル様。

 西の空から魔物が来ているのですか?」


『そうです。

 迎撃体制をすぐに始めないと、とっても危険です』


『分かりました。

 戦闘準備をして、来襲に備えます。

 この城の王族に連絡を入れて、緊急対応をするように要請します』


 さすが王女。

 起きて、すぐにこの反応。


 危機管理が体に染み込んでいるみたいだね。


 アトラ姉ちゃんと、エイル姉ちゃんが起きて俺を見ている。

 アトラ姉ちゃんが言う。


「トルムルから新たにもらった体で、魔物の気配がはっきりと分かる。

 これは……、かなりやばいな。


 ヴァールを起こして、この城の防御を強化しないと!

 結婚する一週間前まで、弓矢隊の隊長を続けると言っていたから」


 アトラ姉ちゃんは、隣に寝ていたヴァール姉ちゃんを叩き起こす。


「お姉さん、痛いわ!

 どうして起こすの?

 まだ夜明け前よ」


「優しく起こしたつもりだったんだけれど……。


 それより、西の空から魔物が襲来している。

 今すぐ戦闘準備をしなければ!」


 あれで……、優しく起こしたのアトラ姉ちゃん。

 本気出して起こしたら、怪我しそう……。


「魔物が襲来?

 緊急時の鐘が鳴っていないけれど……?


 アトラ姉さん。それ、本当なの……?

 お姉さん……、もしかして寝ぼけている……?」


 ヴァール姉ちゃんには、この魔物の威圧感が分からないんだ。

 鐘がまだ鳴ってないので、緊張感の全くないヴァール姉ちゃん。


 見張りの人達が見えないくらい、遠い所を飛んでいるってことか。

 それだったら、防御体制は間に合うよね。


「間違いないよヴァール。

 トルムルが教えてくれたんだ」


「トルムルが……?」


 ヴァール姉ちゃんは俺をジッと見る。

 俺は真剣な表情で言う。


「まー、もー!」


 う〜〜〜〜。

 口で言うと、言葉にならない〜〜。


 それでも俺が緊張した声で言ったので、ヴァール姉ちゃんの顔色が変わっていく。


「大変!!

 すぐに準備しないと!」


 俺の一言で、ヴァール姉ちゃんは信じてくれた。

 ヴァール姉ちゃんはベッドから飛び起きた。


 ガウンを羽織って足早に扉に向う。

 扉から出る時、振り向いてヴァール姉ちゃんは言う。


「私はこれから宿舎に行って、隊員を起こしてくるわ。

 アトラ姉さん達は、安全な地下に行って!」


 ヴァール姉ちゃんはそう言うと、扉を開けて出て行った。

 アトラ姉ちゃんは、ヴァール姉ちゃんから言われて地下に行くような行動をしなかった。


 荷物から、防具と剣を取り出している。

 エイル姉ちゃんも同じように、防具と剣を出す。


 そして、着替えるために服を脱ぎ出した。

 俺は、とっさに壁の方を向いた。


 ふー、危なかった……。

 もう少しで、着替えを見るところだった。


 俺も着替えを初めて、防具をつけなければ。


 この防具、父ちゃんが改良してくれて、ダイアモンドが入るポケットがある。

 もしものために、俺の方にダイアモンドを渡してくれた父ちゃん。


 すぐに役に立つとは思わなかったよ。

 さすが、父ちゃんだ!




 アトラ姉ちゃんは大きな声で、まだ寝ている姉妹達を起こす。


「みんな、起きろ〜〜〜〜!!

 魔物が飛来しているから、安全な地下に移動。


 ほらほら、すぐに行動に移す」


 まだ寝ぼけている3人の姉妹が、アトラ姉ちゃんを見る。

 一人の姉妹が、アトラ姉ちゃんに言う。


「アトラ姉さん、大丈夫……?

 緊急時の鐘、鳴ってないよ」


 ゴォーン! ゴォーン! ゴォーン!


 その姉ちゃんが言った後、死んだ人以外は嫌でも起きる大きな鐘の音が聞こえてきた。

 3人の姉妹が、驚きふためいた!


 攻撃魔法と槍を使う双子の姉ちゃん達が、お互いに話している。

 そして、意を決するように言う。


「私達も戦うよ。

 もしものための準備もしてきたし。

 みんな、気を付けて!」


 最後の姉ちゃんは治療師。

 少し考えて言う。


「戦いが得意でないので、怪我をした人達の治療をするわ。

 怪我をして、私の所に来ないようにしてよ!


 父さんもそこに居るはずだから、合流するわ。

 みんなは戦うんだから、気を付けてよ!」


 姉弟きょうだい同士で、お互いを心配している。

 こういう時こそ、心配してくれる心遣いがありがたいよね。


 俺一人ではないんだと、思わせてくれる。

 家族って、本当にいいな〜〜と思う。


 姉ちゃん達のためにも、俺も精一杯頑張らないとな。

 怪我して、父ちゃんが心配しないようにも気を付けなければ!


 準備、完了!

 服を重ね着ているので、外の寒さでも大丈夫……、のはず。


 俺は魔法力マジックパワーを使って魔法でを発動し、ハゲワシ……、に変身する。

 すでに、着替えを終わっている双子の姉ちゃんが言う。


「ハゲワシは、本当にトルムルだったんだ!

 でも、何でハゲワシなの?」


 グサァ〜〜〜〜!!


 何かが心に突き刺さって……。

 一番気にしていることを……。


 それに、頭の毛が薄いからですと、本当のことも言えないし……。


 早く、頭の毛がフサフサにならないかな?

 育毛剤、探して見ようかな……?



 窓枠に重力魔法で移動すると、朝の冷たい風が頬を通り過ぎて行く。

 でも、着込んであるので体は暖かい。


 俺は、朝日が昇りかけている大空に向かって飛んだ。

 そして、魔物がいる西の方を見ると、母ちゃんが教えてくれた魔物が遠くに見えた。


 ワイバーンだ!!


 すでに散開しており、四方から襲って来る気だ。


 最大魔法を使うには遅すぎる。

 範囲が広すぎて、効率がよくない。


 とにかく、城に1番近いワイバーンから撃墜した方がいいよな。

 城の防御体制を整える時間が長いほど有利になるはず。


 母ちゃんの言葉を思い出す。


『ワイバーンはねトルムル、中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイスに弱いのよ。

 翼の皮膜が薄いので、簡単に落とせるわ。


 でもね、トルムル。

 地上に落ちても、ワイバーンは強敵よ!」


 え〜〜と、……。

 と、とりあえずは地上に落とした方がいいんだよな。


 初級の風魔法、鎌鼬かまいたちを俺が発動すると、ランクが1つ上がる。

 それは、ワイバーンを落とせる中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイスになる。


 俺は上空に舞い上がって、1番城に近いワイバーンの上空に行く。

 そして、ハゲワシが獲物を狙うように急降下して、ワイバーンにほんの少しの魔法力マジックパワーを使って鎌鼬かまいたちを発動する。


 中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイスになって、最初のワイバーンの命中。

 俺はワイバーンの横をすり抜けて下降した。


 そして再び上昇する時に次のワイバーンに狙いを定め、同じ魔法を発動。

 中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイスが2匹目のワイバーンに命中。


 2匹とも、皮膜が切り裂かれボロボロになっている。

 なすすべもなく森に落下していく2匹。


 東の空から日が昇ってくる。

 今日は、長〜〜い一日になりそうだ。

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