第59話 ワイバーン

 ワイバーンを地上に落とすために、急上昇と急降下を何度も何度も俺は繰り返す。


 初級の風魔法、鎌鼬かまいたちを俺が発動すると、ワイバーンを落とせる中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイスになる。

 ワイバーンは皮膜が切り裂かれボロボロになって、なすすべもなく森に落下していく。


 しかし、ワイバーンは多少の傷を負ってはいるものの、依然として強敵だ。

 一匹に対して5、6人がかりで戦っているのが上空から見える。


 あ……、まずい!

 城の東に広がっている町の上空にも、ワイバーンがまわりこんでいる。


 もし、ワイバーンが落下して町で暴れると、被害が拡大。

 火災などが発生したら大災害になってしまう。


 城からワイバーンに攻撃を開始している。

 ワイバーンは、魔法攻撃と弓矢の攻撃で城には近付けていない。


 あ……、数匹のワイバーンが果敢にも城に近付いている。

 一人の弓矢使いが矢を射るのが見えた。


 一本だけかと思ったら、三匹のワイバーンに同時に命中しているよ〜〜!

 それに、矢がワイバーンに当たると爆発している……?


 ワイバーンの鱗からは血が流れ落ちて、苦痛で落下して行く。

 落下したワイバーンはそれでも生きていて、暴れ始めた。


 近くにいた人達が、そのワイバーンと戦い始めている。

 ワイバーンは重傷を負っていたみたいで、魔石になっていく。


 ヴァール姉ちゃんが昨日言っていた新しい武器に間違いない!

 それにしても、あんなに遠くなのに、3本の矢が同時に命中するなんていったい誰だろう?


 よく見ると、矢を射ったのはヴァール姉ちゃん本人だ〜〜!

 さ、さすが、弓矢隊の隊長だね。


 でも、ヴァール姉ちゃんが言っていたけれど、その矢に付与する魔石は数が足らないと言っていた。

 市場で買いあさっているけれど、供給が間に合ってないみたい。


 その魔石の魔物は確か……?

 あ……、名前を忘れた。


 き、きっと。温泉に無理に入らされたので頭がいっぱいで……。

 もしかして……俺、ボケ始めた……?


 そんなことないよね。

 俺、赤ちゃんだし……。



 そ、そんなことよりも、東の空にいるワイバーンをなんとかしないと……。

 爆発する貴重な矢は限りがあるみたいだし。


 何かないのか……?

 考えろ俺!


 ボケたくないのならば、考えるんだ!


 ……?


 そうだ!

 竜巻があった!


 万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルに使ったけれど、重すぎて成功しなかった。

 しかし、今回はワイバーンなので間違いなく成功する。


 ただし、竜巻の範囲を狭めないと、町にも被害が出てしまう。

 これは……、かなり精神を集中してやらないとな。


 オシャブリを俺は吸い始める。

 今回は、特に念入りに吸って精神統一。


 西の空に、ワイバーンを飛ばす巨大竜巻をイメージした。

 ただし、町の上空だけに範囲を狭めて。


 イメージができたので、魔法力マジックパワーを使って、最大竜巻魔法アルテメイトトルネードを発動した。


 巨大な竜巻が、町の上空に現れた!


 ゴォォォーーーーーーーーーーーーー!!


 竜巻は地面に着くことなく、ワイバーンを西の空に飛ばしている。


 ここにいても、吸い寄せられそうになる。

 俺は重力魔法を強くして、竜巻に吸い込まれなようにした。




 しばらくすると、東の空にいたワイバーンは、全て西の空に飛んでいった。


 ふ〜〜〜〜。

 大成功だね!


 これで、当面の間は町に被害がでないで済む。

 ヴァール姉ちゃんが俺に手を振っている。


 俺の作戦の真意を汲み取ってくれたみたい。

 嬉しいよね、姉ちゃんにこうやって喜んでもらえると。


 しかし、俺の体内の魔法力マジックパワーはほとんどから

 最大竜巻魔法アルテメイトトルネードを使ったので、これ以上魔法を発動できない。


 仕方ないので、持ってきたダイアモンドから魔法力を俺に移す。

 これで、ダイアモンドが空になった。


 戦いはまだ序盤戦だというのに、すでに半分使ったことになる。

 どうなるんだろう……、この戦いは?


 もっと、有利な戦い方があるはず。

 だけれど、思い浮かばない……。


 西の空では、多数のワイバーンが城に近付いて攻撃を開始している。

 頑丈な城の城壁が壊され始めた。


 ギガコウモリに匹敵する破壊力だ!


 母ちゃんが言っていたことを思い出す。


『ワイバーンが口から吐く攻撃は、風の初級魔法鎌鼬かまいたちの上級魔法、巨像鎌コロッサスサイス

 硬い岩も、真っ二つにするぐらい強力なのよ、トルムル』


 凄い攻撃だ!!


 母ちゃんから聞いた時はこれほどとは思わなかった。

 聞くと見るとでは大違いだ。


 やはり、ワイバーンを地上に落とすしかないみたい。

 地上に落ちたワイバーンは魔法剣士達と戦っている。


 5、6人がかりだけれども善戦している。

 あ……、アトラ姉ちゃんがワイバーンを倒して魔石に変えた。


 アトラ姉ちゃんは、次のワイバーンの攻撃を闘気で受け止めて反撃をしている。

 また、ワイバーンが魔石に変わった。


 凄いよアトラ姉ちゃん!


 ん……?

 姉ちゃん、何かをする気だ!


 そうか、伝説の魔剣を使うんだ。

 落下したワイバーンが集団で城に迫っているので、一度に重傷を負わせられる。


 アトラ姉ちゃんは、確か2回超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソード

 を使える。


 1回目は魔石に入っている魔法で。

 2回目は、アトラ姉ちゃんの体内にある魔法で発動できる。


 俺がアトラ姉ちゃんにした命力絆ライフフォースボンドで、魔法を使う量が増えたんだ。

 しかも、両手で剣を持っており、大賢者の本にはこう書かれていた。


『魔法剣士は一刀流が主流で、二刀流を使う人は殆どいない。しかし、二刀流を使いこなせれば破壊力が増し、最強の魔法剣士が生まれる』


 まさに、最強の魔法剣士の誕生だ!


 ドッゴォーーーーーーーーーーン!!


 この音は、アトラ姉ちゃんが超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードを使った音だ!


 ワイバーンの鱗から血が流れている。


 それも、1匹や2匹ではない。

 かなりの数のワイバーンが重傷を負っている。


 近くにいた人達もこれで戦いやすくなって、次々とワイバーンを魔石に変えていく。


 エイル姉ちゃんとヒミン王女が、超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードで弱くなったワイバーンを一撃で魔石に変えていっている。

 アトラ姉ちゃんにも匹敵する強さだ!


 アトラ姉ちゃんほどパワーがないものの、本来二人が持っていた素早さが上がったみたい。

 ワイバーンが翻弄されて、なすすべも無く魔石になっている。


 エイル姉ちゃんの早口は、素早さと関係があるのかな……?

 命力絆ライフフォースボンドをエイル姉ちゃんにしたので、さらに早口になったりして……?


 あ……、今は戦闘中だった。

 余計な考えは切り捨てないと……。


 俺が怪我をして、父ちゃんの所に行くのだけは避けたいので……。


 オシャブリを俺は吸って、精神統一する。

 雑念を払いのけてワイバーンに目を向ける。


 再び俺は、ワイバーンを叩き落とすために上空に舞い上がって行く。

 下を見て、もっとも城に近いワイバーンに狙いを定めた。


 城からの攻撃に当たらないように確認。

 味方からの攻撃を受けたくないので……。


 よし、今だ!

 俺はワイバーンめがけて急降下していく。


 ワイバーンの横を通り過ぎる時に、初級の風魔法、鎌鼬かまいたち魔法力マジックパワーを使って発動。

 中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイスになって、ワイバーンの皮膜をボロボロにする。


 ワイバーンは、今回もなすすべも無く落ちていく。

 俺はそれから、何度も何度も上昇とか下降を繰り返す。


 ふと、群の中に一際大きなワイバーンを発見。

 きっと、この群のリーダーだ。


 今度は、あのワイバーンを落とそう。

 群の士気が落ちるはず。


 俺はそのワイバーンに狙いを定めて急降下していく。

 突然、ワイバーンの首が俺の方を向いた。


 とっさに俺は、防御魔法を発動した。


 ……?


 やっぱり俺って、オッパイの盾にしかならないみたい。


 ワイバーンの口から、巨像鎌コロッサスサイスが俺を襲う。

 しかし、弾力のあるオッパイの盾は、震えながらも耐え忍んでいる。


 さすが、アトラ姉ちゃんの胸をイメージしてできた盾だよね。

 もしかして、最強の盾なの……?


 ワイバーンが俺に大声で言う。


「お前は誰だ!

 賢者なのか?


 俺の最強攻撃を耐えしのげるなんて!!

 もしかして、お前がギガコウモリを倒した奴なのか?


 ギガコウモリの攻撃は俺とほぼ同じ。

 なんとか言ったらどうだ!」


 え〜〜と、なんとかと言われても……。

 バブゥーとしか言えないんですけれど」


「どうした……。

 俺が怖くなって、何も言えなくなったのか?


 よくも、俺の部下を叩き落としてくれたな。

 俺様は、魔王の幹部に仕えているマグエ様の部下クヴァール。


 もう一度言う。お前の名をなのれ!!」


 名をなのれって言われても、困るんだよね。

 バブゥーとしか言えないんだよーー!!


「バブゥーーーーー!!」


 あ……。


 ま、また言ってしまった……。


「バブゥーだと……?

 俺をからかっているんだな。

 お前を食ってやる!」


 リーダーのワイバーンは、口を大きく開けて襲いかかって来た。

 俺はとっさに逃げる。


 しかし、逃げたと同時にワイバーンが急反転してくる。


 は、早い!


 デカイ胴体のわりには、機敏に反転を繰り返すワイバーン。

 このままだと、喰いつかれてしまう。


 考えろ俺!


 ボケたくなかったら、考えるんだ〜〜!!


 そうだ!

 ヴァール姉ちゃんの使った武器が、有効だったのを思い出す。


 爆発だから、直撃しなくてもダメージを与えられるはず……?

 とにかく、今は緊急時なのでやるしかない。


 追っかけられながらも、俺はオシャブリを吸う。

 手の中に、巨大爆発のイメージを始める。


 よし、イメージできた!

 いくぞーー!!


 リーダーのワイバーンめがけて、魔法力マジックパワーを使って、爆発の最大魔法を俺は発動する。


 ドガァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 ワイバーンの近くで、神怒イノーマスエクスプロージョンが大爆発を起こす。


 爆風で俺は飛ばされそうになる。

 けれど、重力魔法を強めてなんとか留まることができた。


 巨大爆発が収まると、リーダー格のワイバーンは魔石になって落ちて行く。

 重力魔法でそれを回収。


 巻き添えになったワイバーンも魔石なっている……。

 これ以上回収できないので、その他の魔石はそのまま落下して行く。


 やったね、俺!

 思っていた以上に凄い爆発だったよ!


 母ちゃんから聞いた以上の威力。

 やはり、聞くと見るとでは大違いだよね。


 でも……。

 これでまた魔法が無くなりかけている。


 どうしよう、俺……。

 オシャブリをくわえて、見るしかないのか?


『トームル、トームル』


 ん……?

 ウール王女が俺を呼んでいる。


 城から、何か急速接近している……?

 ハヤブサ?


 この感覚はウール王女だ。

 でも、何でハヤブサなの?


 俺はハゲワシで、ウール王女はハヤブサ……?

 ウール王女の方が、俺よりも頭の毛が多いからか?


『ピーク、ダイアーモド。

 ミールク』


 ピーク、ダイアモードって、もしかして……?

 あのピンクダイアモンド?


 それに、ミルクだって!

 お腹が、すいていたんだよね。


 やった〜〜〜〜!

 これで、まだまだ戦える〜〜〜〜!!

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