第53話 窓から失礼します。

 王妃様が、山賊が出た場合の細かな指示を説明をしている。

 どうやら山賊退治は、王妃様の懸案事項で、この機会に退治したいみたい。


 特に、上官殺しのバルボ率いる山賊を殲滅したいと王妃様は言う。

 バルボは重力魔法が得意で、賢者に匹敵する魔法力マジックパワーを持っているみたい。


 王妃様が話す時、俺をチラッと見る。

 もし俺より強かったらと、少し心配している感じ……。


 ん〜〜と。

 戦って見ないとわからないよな。


 重力魔法以外は得意ではなさそうなので、そちらで戦うか?

 もしものために、あるていど作戦を立てないとな……。



 昼食が終わって馬車に再び乗り込む。

 今度は馬車酔いを抑えるために、前の窓に立った。


 俺は背が低いので……、赤ちゃんなので、席に立つと窓から前の景色が見える。

 少しだけ窓を開けさせてもらって、常に新鮮な空気を吸う。


 あ〜〜、気待ちがいい。

 遠くの景色を見ていると、さほど吐き気もしない。


 俺の可愛い……?

 お尻をみんなに向けているけれど、誰も文句が出ないので……、良しとしよう。




 ん……?

 これから通る遠くの街道で、人の動きがある。


 30人ぐらいの人達が、武器を持って街道を見張っている。

 魔法で視力を上げてしまったので、ハッキリと見える。


 山賊だ!!


 俺はみんなの方を振り向いて大きな声で言う。


「さーくー!」


 う〜〜〜〜、山賊と言えない俺。


 俺は前方を指さす。


 長年一緒に住んでいるエイル姉ちゃんが、すぐに分かってくれた。


「トルムルは山賊が前方に居ると言っているの?」


「とー」


 王妃様が落ち着いた口調で言う。


「思っていたよりも早く現れましたね。

 トルムルちゃんには、特別なお願いがあるのです。


 誘拐された人達を救出して欲しいのです。

 アジトに私達が行った時、その人達を盾にされたら満足に戦えませんから。


 お願いできますでしょうか?」


 え……?

 俺に、特別任務?


 しかも、拉致された人の救出?


 俺、まだ赤ちゃんなんだけれど……。

 でも……、大賢者を目指すのなら、や、やらないとな。


「バブゥー」


 俺はそう言って、いつものように右手を上げた。

 念のために、俺もすでに皮の防具を着けている。


 俺は後ろの窓から飛んだ。


 従者の人達は前に全員座っている。

 俺が後ろの窓から飛んで行っても、誰も気が付かなかった。


 すぐに俺はカッコイイ猛禽類となって……?

 ハゲワシとなって空高く舞い上がる。


 いい景色〜〜。

 少し風が冷たいけれど、気分は最高!


 でも……、いつになったらカッコイイ猛禽類になれるんだろうか?

 毎回ハゲワシでは、カッコ悪いよな。


 頭の毛の薄さが解消しない限り、ハゲワシに変身するしかないのは分かっているんだけれど……。


 オット。

 頭の毛は後回しにして、山賊達の方に行かないとな。


 俺は、ハゲワシのように、優雅に……?

 山賊達の方に飛んで行った。




 山賊達は総数で33名いる。

 俺はこの情報をすぐに馬車に伝える事に。


 どんなに遠く離れていても命力絆ライフフォースボンを使えば、アトラ姉ちゃん、エイル姉ちゃん、ヒミン王女、ウール王女達に伝わるので。

 

『山賊を確認。

 33名』


 ヒミン王女が、すぐに返事をしてくれた。


『分かりました。

 トルムル様、情報ありがとうございます』


 これで良しと。

 命力絆ライフフォースボンだと、口で言わなくても良いから便利だ。


 なんたって、俺は未だに赤ちゃん言葉しか言えないからな。


 後はと、山賊のアジトを探さなければならないんだけれど……。

 まわりの景色を見渡すと、山の峰に古い出城跡が見える。


 あ、人がいる。

 きっとあそこだ。


 ハゲワシが獲物を探すように俺は近付く。

 旋回を繰り返して、出城の情報を得る為だ。


 塔の上には見張りが2人いる。

 横からだと分かりにくいけれど、上から見ているので丸見えだ。


 最初に、この2人をなんとかしないといけないよな。

 大きくて綺麗な湖が近くにあるので、とりあえずそこに移動してもらいましょうかね。


 俺は重力魔法を使って、見張りの二人に最速でここに来るように重力魔法を発動した。

 2人が俺の近くに来ると、全身で恐怖を表している。


 1人はオシッコを漏らしている……。

 そんなに怖いのかな、こんなに気持ちがいい場所なのに……?


「ハ、ハ、ハゲワシさん。た、た、た、頼むから食わないでくれ!」


 1人が悲痛な叫び声をあげた。


 え〜〜と、……。

 食べるために、ここに来てもらったわけでないんだけれど……?


 下の人に見つかるといけないので、湖のど真ん中に2人を移動させた。


 あれ……?

 2人とも溺れてるよ。


 たとえ悪人でも、殺すのが目的でないよな。

 仕方ないので、流木を2人の近くに落とした。


 2人は必死の思いで流木までたどり着く。

 水が冷たいのか、2人が震えだした。


 えーと……。

 今日中に、……助ければいいかな?


 俺は出城に降下して、建物の周りをユックリと回った。

 小さな窓から人の声が聞こえる。


 窓は小さかったけれど、赤ちゃんの俺には十分すぎるほど。

 ハゲワシのように優雅に飛行して、声のしていた窓にとまる。


「ハ、ハゲワシが、窓に居る!」


 中の人が叫んだ。

 え〜〜と、何で驚くんだろうか?


 中を見ると、22名の老若男女が俺を見ている。

 大人達は手首を縛られて、何かの魔法を感じる。


 たぶん、魔法を使わせない魔法か……?

 そう言えば母ちゃんが言っていたよな。


『魔法を発動させない魔法もあるのよトルムル。気を付けるのですよ』


 か、母ちゃん……。

 もし、そうなった時の対処方法を教えてもらっていないよ〜〜!


 その時になったら、自分で考えなさいってことかな?

 それとも、母ちゃんの言い忘れ……?



 え〜〜と、それよりも、この人達のことを考えないとな。

 この部屋の出口は、頑丈そうな扉と小さな窓のここだけ。


 22名の人達を、どうやって救出したらいいんだろうか?

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