第42話 命力絆


 アトラ姉ちゃんが地面に横たわっていて、身動き1つしていない!

 も、もしかしたら……?


 いや!!


 最悪は考えずに、と、とにかくアングルボーサ教授の周りにいるミノタウルスを何とかしないといけないよな。


 俺はまず最初にオシャブリを吸う。

 精神を統一しないと、危険度が増す気がしている。


 よし、行くぞう〜〜〜〜〜〜!!


 急降下して行き、俺はアングルボーサ教授の周りにいるミノタウルスを、初級の火炎魔法である火玉魔法ファイアボールを連発する。



 俺の攻撃魔法はランクが1つ上がるので、中級の火嵐魔法ファイアストームがミノタウルスを倒して魔石に変えていく。

 アングルボーサ教授に1番近かった弓矢使いの女性の教授が、俺を目で追っているのが分かった。


 猛禽類が……。

 ハゲワシが突然現れて、火炎魔法でミノタウルスを倒しているの超怪しいと思っている感じ……。


 何事が起きたのかという目付きで俺を見ながら、矢の照準を俺に合わせている。

 教授……、頼むから俺を射ないでよ〜〜!


 3本の矢が襲って来たら、俺はひとたまりもない。

 一度は防御魔法が発動するけれど、攻撃の間隔が短か過ぎると、次の防御魔法の発動が遅れる気がする。


 盾の防御魔法を……。

 オッパイの防御魔法を今したら、ミノタウルスに攻撃できない。


 まだ、かなりの数のミノタウルスがアングルボーサ教授の周りにいる。

 とにかく今は、俺を攻撃しないでくれと祈るしかない。


 アトラ姉ちゃんを助けるためには、多少の危険は覚悟の上だ!


 アングルボーサ教授と、弓矢使いの教授の間にいるミノタウルスを集中的に俺は倒していった。

 こうすることによって、アトラ姉ちゃんの応援が増えると思ったからだ。



 やっとのことで、その範囲にいるミノタウルスを倒した。

 俺の意思が通じたのか、弓矢使いの教授がアングルボーサ教授に近寄って行く。


 俺はさらに、アングルボーサ教授の周りのミノタウルスをできるだけ倒していく。


 かなりの数を倒して、アングルボーサ教授の周りにいたミノタウルスが全て魔石に変わっていた。

 俺は安全を確保しながら、ゆっくりとアングルボーサ教授の近くに舞い降りて行く。


 アングルボーサ教授と、弓矢使いの少し小柄で美人の教授は、俺に対して警戒心を解いていない。

 剣と矢が、いつでも俺を襲ってきそうだ!


 アングルボーサ教授が威圧的だけれども、心を奪われるような妖麗な口調で言う。


「お前が本当のハゲワシではないのは分かっている!

 真実の姿を見せろ!

 でないと、即座に攻撃を開始する!」


 こ、怖〜〜!

 め、目の前でこのセリフは……、怖すぎる〜〜。


「バ、バブゥー」


 お、思わず言ってしまった俺。


「バブゥーだって……?」


 アングルボーサ教授は首を横に傾けた。

 俺はすぐに元の赤ちゃんの姿に戻る。


 アングルボーサ教授と弓矢使い教授は俺の姿を見て、腰を抜かすほど驚いている。

 俺はアトラ姉ちゃんを指さしながらいう。


「アーア!

 あー、……」


 危ないと言えなかった。

 何とかならないのか俺の口!


 アングルボーサ教授が近寄って来て、まだ信じられないといった表情で俺に言う。



「本当にトルムルなのか!?

 し、信じられない……。


 こんな赤ん坊なのに、あの凄まじいまでの攻撃力!

 で、でも……、間違いなくトルムル……。


 そうだ、アトラが怪我をしたんだ!

 トルムルは治癒魔法が使えると聞いたんだが?」


 アトラ姉ちゃんが怪我を……。

 最悪はまぬがれたみたいだけれど、危険なのは間違いない。


 弓矢使いの教授を見ると、急展開についていけず固まっている。

 2人の教授に見られながら、俺はアトラ姉ちゃんにユックリと歩いて行く。


 ここで四つん這いだと、いかにも赤ちゃんで頼りなさそうに見えるかもしれないと思った。

 やっと歩けるようになった俺は、威厳を出しながらユックリと歩いて行く。


 え〜〜と、……。

 威厳を出しているけれど、伝わっているか……?


 少しでも信用してもらわないと、治療ができない気がするんだよな。


 やっとのことでアトラ姉ちゃんに近付くと、数カ所から血が流れていた。

 すぐに俺は止血のためのイメージを手の中でして、魔法力マジックパワーをつかって治癒魔法を発動する。


 血は止まったけれど、ピクリとも動かないアトラ姉ちゃん……。

 俺はひざまずいて、アトラ姉ちゃんの右手の脈をとった。


 ほとんど分からないほどの脈で、一瞬動揺する。

 大量の血が失われていたのがこれで判った……。


 出血はすでに止まったので、あと出来る事は限られていた。

 ウール王女にした命力絆ライフフォースボンドをアトラ姉ちゃんにもやるしかない!


 もはや時間がないのは分かっている。

 俺はオシャブリを吸って精神を統一する。


 意識を集中して、アトラ姉ちゃんの全ての傷を治して、体を活性化させるイメージを手の中で作る。

 俺の寿命を、少し分けるイメージも忘れずに付け加える。


 大事なアトラ姉ちゃんのためならば、少しぐらい俺の命が短くなってもかまわないと思った。

 それに、今がそれをするべきだと心の中から俺が叫んでいる!


 手の中でイメージができあがったので、魔法力マジックパワーを使って魔法を発動した。

 俺の手の中から、キラキラ光り輝く命の水みたいな透明なものが溢れ出した。


 ウール王女にしたのと同じだ!


 その水は、アトラ姉ちゃんの体に静かに入っていった。


 ふ〜〜。


 よし!

 いいぞ俺!


 今度は生理食塩水だ。


 手の中に生理食塩水のイメージを作り出す。

 ウール王女の体重に比べて、アトラ姉ちゃんの体重が15倍以上あると思った。


 腕に付着して、水滴が落ちる15倍の速さの量で体内に入って行くイメージも追加する。

 イメージが完了したので、慎重に魔法力マジックパワーを使って魔法を発動した。


 手から生理食塩水が生み出されて、アトラ姉ちゃんの腕に付着する。


 これで全ての治療が終わった。

 あとは見守るだけだけれども、ここは戦場だ!


 周りを見ると、ミノタウルスがこちらに近付いて来るのが見える。


 どうする俺……?

 アトラ姉ちゃんを助けるには、どうしたらいい!?

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