第33話 最大魔法

 万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルの進行方向には、俺の住んでいる町がある。

 このままだと甚大な被害が出るのは間違いない!


 もとはといえば、ウール王女の忠告を無視したからこうなった。

 地面の下に、万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルがいるのに、俺は分かってあげられなかった。


 ウール王女を見ると、俺をつぶらな瞳で見つめ返している。

 どうにかしてくれと訴えている目だ!


 魔法力マジックパワーは残り少ない。

 最大魔法を使うと,ほとんど空になる。


 やるとしたら、もう一回だけ。

 しかし……。


 どうする、俺……?


 もう一度、オシャブリをユックリと吸う。


 ふと、ギガコウモリの被害状況が頭に浮かぶ。

 城の城壁が、豆腐みたいに簡単に壊されていたのを。


 そうだ、どうして俺は気がつかなかったのだろうか。

 超音波で、亀の甲羅を破壊すればなんとかなるかもしれない。


 オシャブリを吸って精神統一する。

 そして手の中に、城壁を破壊できるだけの超音波のイメージを作り出す。



 イメージができたので、俺は最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブを発動した。


 キィィィーーーーーーーーン!!!


 耳をつんざく音と共に、目に見えない最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブ万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルに襲いかかる。


 ドッガァ〜〜〜〜〜〜ン!!!


 爆音と共に、万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルの甲羅が無数に割れて地面に落ちていく。


 どうだ……。

 今度こそやったか?


 よく見ると、全ての甲羅を破壊できなかった。

 まだ生きている!


 万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルは苦しみもがいてはいるけれど、致命傷にはなっていない。

 俺にはもはや、魔法力マジックパワーがほとんど残っていない。


 マズイ!

 父ちゃん達の方に向かい出した。


 父ちゃん達が攻撃したと思っている。


 どうしたらいい、俺……?


 ウール王女を見ると、今にも泣きそうな顔だ。

 自分ではどうにもできないので、悔しさを全身で表している。


 ごめん、ウール王女。

 俺も、……どうすることもできない。


 オシャブリを口に入れたまま、何もできない俺。

 こんなに、情けないことってないよ。


 とても……、悲しい……。


「トームル、トームル!」


 ウール王女は悲痛な叫びをあげている。


 ……?


 そうだ!


 ウール王女の体内の魔法を使えるかもしれない。

 俺の意識をウール王女に飛ばして、彼女の体内にある魔法を使う。


 よし、多分できると思う。

 もう考えている時間はない。


 俺はウール王女に意識を飛ばして、彼女に入った。

 そして、再びイメージを開始する。




 イメージが出来上がると、ウール王女の魔法力マジックパワーをつかって、すぐに最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブを発動した。


 キィィィーーーーーーーーン!!!


 ドッガァ〜〜〜〜〜〜ン!!!



 万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルに直撃をした。

 甲羅の殆どが破壊され、中から現れたのは……。


 え……?

 何あれ……?


 やせ細ったヒョロ長い……。

 亀の中身?


 そうか、長く眠っていたので、やせ細っていたんだ。

 あともう一回、最大超音波魔法アルテメイトスーパーソニックウエーブを発動するとやっつけられるのに……。


 ウール王女にも、魔法力はほとんど残ってはいない。

 もう、俺達にはどうにもできない……。


 父ちゃん達が反撃をしている。


 アトラ姉ちゃんが剣を鞘から抜くのが見える。

 利き腕でない方で持っている。


 アトラ姉ちゃんが、万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルに攻撃を仕掛けていった。


「オリャ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 ここからでも気合が聞こえてくる。

 すごい気合だ!


 襲ってくる万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルに対して、剣で斬りつけていく。


 胴体の下に潜り込んで、深く剣を刺した。

 そして、その剣を胴体に沿って刺したまま切っている。


 凄いパワーだ!


 ハンマーを軽く回していただけあって、豆腐でも切るように見える。

 さすがアトラ姉ちゃん!


 万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルはもがき苦しみながら突然消えていった。

 そこに残っていたのは……、人間の頭ほどの巨大な魔石だ!


 やった〜〜〜〜〜〜!!


 とうとう俺たち、万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルをやっつけたんだ。

 今回は、俺1人ではどうにもならなかった。


「トームル、すー、ちぃー」


 ウール王女がそう言うと俺に抱きついてきた。

 わ、悪い気はしないな。


 父ちゃん達が下で呼んでいる。


 ウール王女と一緒にユックリと降りていく。

 下では、みんなが喜んでいる顔が見える。


 父ちゃんが安堵した声で言う。


「一時はどうなるかと思ったよ。

 ありがとうトルムル」


「トート、バブブブブーーーー」


 エイル姉ちゃんが笑顔で言う。


「トルムルお疲れさま。

 今回もありがとう」


「エーエ、バブブブブーーーー」


 アトラ姉ちゃんが、興奮しながら言う。


「まさか、トルムルが甲羅こうらを破壊するとは思わなかったよ。

 ありがとよ」


「アーア、バブブブブーーーー」


 ヒミン王女が、尊敬の眼差しで俺を見る。


「さすが、トルムル様です。

 歴史上、万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルを倒したのは大賢者様だけでした。

 これで、新たな歴史が始まります」


「ヒーヒ、バブブブブーーーー」


 俺が言うと、ヒミン王女はその柔らかな大きな胸で抱いてくれた。

 歴史よりも、こっちの方が良いと思った俺。


 あれ?

 ヒミン王女に抱かれても、恐怖心が殆ど無い……。


 少しだけ成長したのかな……、俺?


 後ろから突然、ウール王女が抱きついてきた。

 少し、怒っている。


 何で?


 どうやらヒミン王女が俺を抱いたからで……。

 それが原因……?


 ウッソォーーーーーーー!!


 も、もしかして、ヤキモチ?

 その年で……?


 心の成長が、あまりにも早すぎる気がするんだけれど……。

 これから俺たち……、どうなるんだろう?

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