第23話 ツル
エイル姉ちゃんの誕生日を、城で祝う日が明日に迫っていた。
父ちゃんの店は相変わらず忙しく、俺も微力ながら手伝いをしている。
城で広域治癒魔法ゴールデンパウダーを発動してから、治癒魔法のスキル付与も出来るようになった。
やれる事が増えて、父ちゃんの手助けになっているのでうれしい。
さらに、魔石のスキル付与に興味を掻き立てられ、暇があれば父ちゃんが持っている付与に関する本を読んでいる。
その中で、パンティなどに描かれた絵を、魔石で動画みたいに動かす方法の本を今読んでいる。
《描きたい鮮明なイメージを、紙に埋め込んだ魔石に付与する。
そうする事によって、紙に描きたい絵も描ける。
その時、動くイメージも加えて行う》
《紙の形は自由で、立体的に紙を折って付与する事も可能である》
立体的に折る?
折り紙……?
よく分からなかった。
これは、大先輩である父ちゃんに聞くしかない。
「トート、コー」
『これは』とは言えなくて、『コー』になるけれども、父ちゃんとエイル姉ちゃんには通じるようになった。
指で示した箇所を、父ちゃんが覗き込んだ。
「えーと、これは難しいんだよ。
そうだ、父さんが作ったのがあるから見せるよ」
父ちゃんはそう言うと、後ろの棚から紙でできた四角い箱を俺の目の前に置いてくれた。
何の変哲も無い、ただの白い紙の箱。
え〜〜と……、これが、それ……?
父ちゃんが触ると、劇的な変化が起き始める。
白い箱は消えて、さっきの箱に入るぐらいの植木鉢と可憐な花が現れた。
そして、そよ風に花が吹かれる感じで、花びらや葉が揺れている。
まるで本物の植木鉢を目の前に置いて、心地よいそよ風が花を躍らせているように見える。
その完成度の高さに、思わず目を大きく見開いている俺。
「気に入ってくれたみたいだね。
ナタリーのために、父さんが作ったんだよ。
それはナタリーのお気に入りで、最初に見た時はトルムルと同じ顔になっていたよ」
そう言う父ちゃんは微笑みながらも、どこか寂しさもにじませていた。
母ちゃんもこれが気に入ったんだ。
そう思うと、なんだか見ているだけで母ちゃんを思い出してくる。
少し、懐かしさがこみ上げてきた。
「トルムルも何か作ってみるかい?」
そう言いながら、父ちゃんは紙を渡してくれた。
「最初は失敗をしてもいいから、思いきってやる事が肝心だよ」
いきなりそう言われても……。
とりあえず、知っているツルを折ることに決める。
というか、俺はそれしか知らなかった。
苦労しながら思い出し、なんとかツルを折ることができた。
「ま、まさか……、最初から紙をこのように折れるとは!?
紙だけで、これだけ表現できるなんて……」
父ちゃんを見ると、紙のツルを興奮しながら見ている。
えーと……。
普通にツルを折っただけで、父ちゃんを驚かすことになるとは。
この世界には、折り紙がないんだ。
……そうだ、これだよ!
エイル姉ちゃんの誕生日プレゼントは!
でき上がったツルの折り紙に、小さな魔石を父ちゃんに入れてもらった。
オシャブリを吸って、精神を統一する。
動いている本物のツルを鮮明に思い出し始める。
最初は上手く思い出せなかった。
また、オシャブリを吸う。
徐々に細かな所まで思い出していき、ツルが飛ぶ動作もイメージできた。
そうだ!
重力魔法を使って、ツルに触った人の周りを飛ぶイメージも追加した。
すぐに
検査魔法で調べると、ツルのイメージで人の周りを回っていた。
父ちゃんに渡して、評価をもらうことにした。
「トルムルが考えたイメージの付与が終わったんだね。
それでは父さんが試してみるよ。
いいね?」
上手くできているか分からなかった。
けれど、最初に父ちゃんに試して欲しかった。
もしダメな所があれば、専門家の父ちゃんならその部分を教えてくれる。
父ちゃんは、折ったツルを手に持つと魔法力を魔石に流した。
紙のツルは消えて無くなり、そこには本物そっくりのツルが現れた。
そして、父ちゃんの周りを素早く回り始めた。
あ……。
ゆっくり周るイメージを忘れた。
父ちゃんは目を見開いて、ツルをよく見ようと首を左右に激しく振っている。
ご、ごめん父ちゃん。それだと首が痛くなるよね……。
ツルの中にあった魔法がなくなると、静かに机の上に舞い降りた。
そして、元の紙に戻っていく。
「これは素晴らしい。
もちろん……、ゆっくり飛ばす必要なあるけれど」
父ちゃんは、前歯を俺に見せて笑う。
トルムルでも、失敗するんだなという表情になっている。
俺は、前歯のないハグキを父ちゃんに見せて笑った。
父ちゃんが、さらに笑っている。
「これは、店で商品として売りに出すことができるよ。
色々な空飛ぶ生き物もこれで応用できるね。
別の鳥とかドラゴンの形に折って、さっきの様に飛ばす。
子供が喜ぶし、プレゼントにも最適だよ」
そう言った父ちゃんは俺をジッと見る。
最後に言った、プレゼントに何かを感じたみたいだった。
「もしかして……、明日のエイルの誕生日プレゼントのために作ったのかい?」
さすが、父ちゃん。
察しがいいので嬉しい。
「ただいま〜」
エイル姉ちゃんが学園から帰って来た。
父ちゃんはすぐに、ツルの折り紙を隠した。
エイル姉ちゃんは、父ちゃんが何か隠したのを見逃さなかった。
「お父さん、何かを隠したでしょう?」
「エイルの気のせいだよ」
そう言って父ちゃんは、前歯を見せて笑った。
エイル姉ちゃんは俺の方も見たので、同じく前歯のないハグキを見せて、俺も笑う。
それを見たエイル姉ちゃんは、胡散臭そうに俺と父ちゃんを見つめていた……。
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