第22話 誕生日プレゼント

 もうすぐエイル姉ちゃんの誕生日。


 凄く世話になっているエイル姉ちゃんに、誕生日プレゼントしたいと思う。

 しかし俺は赤ちゃんなので、何をプレゼントして良いのかわからない。


 夕方近くなって、エイル姉ちゃんが学園から帰って来た。


「ただいま〜〜」


「お帰りエイル」


「エーエ。

 バブゥー」


 いつものように、一直線に俺の所に来ると抱き上げて頬にキスをしてくれた。

 その柔らかな胸で1日に何度も抱いてくれるエイル姉ちゃん。


 いつものように俺も軽く手足をバタバタさせる。


「今日もトルムルは元気だったみたいね」


 やはり、なにかの誕生日プレゼントをエイル姉ちゃんにあげたいと強く思う。

 でも、何をあげたら良い……?


 エイル姉ちゃんは元気のいい声で、学園での出来事を父ちゃんと俺にしてくれる。

 早口で、エイル姉ちゃんは言う。


 もしかして、興奮している?


「学園では大騒ぎが収まらなくて、今日も大変だったよ!

 誰がギガコウモリを倒したんだ、って!


 多くの人が目撃していたのだけれど、はるか上空で戦っていたので分からなかったみたい。

 その話を聞くたびに、ヒミンと顔を見合わせて内心ドキドキ!


 知っているのは私達だけで、教授達も知らない。

 王妃様は約束を守ってくれて、トルムルがギガコウモリを倒してのを秘密にしていてくれているわ」


 エイル姉ちゃんの話は止まらなかった。


「城でトルムルが多くの怪我をした人達を治した広域治癒魔法ゴールデンパウダーをヒミンが使ったと、これも大騒ぎになっているわ。

 ヒミンはそれを使ったと言っていない。


 けれど、使っていないとも言っていないのよ。

 質問をした人には、王族独特な威厳のある笑顔を返すだけ。


 これって、すごいな〜〜と思うんだ。


 だって、嘘は言っていないのよ!

 それに、秘密もちゃんと守っているし」


 まだ続きがあるのか、エイル姉ちゃんはますます早口になっていく。


「それとね。ゴブリンの魔石に中級の攻撃魔法を付与した事が褒められたんだ。

 もちろん、発見したのはお父さんにした。


 この方法を使って成功する生徒は殆ど居なかったのよね。

 そこで私とヒミンが臨時の講師になって、午前の授業で皆んなに教えたんだ。


 女性の魔法剣士が持っている独特な胸の弾力で包み込むイメージを加えるのよと説明をした。

 でも、実際に成功する生徒は誰も居なくて困ったのよね。


 どうして成功しないかヒミンと相談した。

 彼女が言うには、実際にその胸を触る必要があるのではと。


 それを聞いたクラス中が、大騒ぎになったわ。

 だってそうでしょう。


 教授の中で、最も恐れられている妖麗な女性の魔法剣士、アングルボーサの胸を触る事になるんだよ」


 エイル姉ちゃんは、さらに早口になる。

 どこまで早口で話せるの……?


 早口で話せるエイル姉ちゃんが……、少し羨ましい。


「アングルボーサ教授に相談したら、午後からの授業で体験すれば良いよって言って下さったわ。

 それを聞いた男の子達のだらしない顔ったら……。

 トルムルにも見せてあげたかったわ」


 妖麗な……、えーと、それは……?

 男の子達に一票。


「授業になって、アングルボーサ教授が『触るだけでは、私の鍛えられた胸の真価が分からない。思いっきりぶつかって来なさい』と言われたの。

 それを聞いた男の子達の、情けない顔ったらなかったわ。


 クラスの子達が思いっきりぶつかって行くと、アングルボーサ教授の鍛えられた胸で跳ね返されていたわ。

 それも、遠くに跳ね返されて怪我人が続出。


 さいわい、みんな軽い怪我で済んだけれど、まさかあれ程の弾力が有るとは予想外。

 男の子達はビビリまくりだったわ」


 えーと……、さっきの一票。

 と、取り消します。


 アトラ姉ちゃんと同じか、あるいは……、それ以上なんだ。


「そのあとクラスの子達が魔石の付与をしたら、ゴブリンの魔石に中級のスキルを入れるのに全員が成功したんだよ。

 これで国中……。


 いいえ。世界中に広まってみんなの役に立つわ。

 トルムル、本当にありがとうね」


「バ、バブゥー」


 俺は右手を上げて返事をする。

 しかし、エイル姉ちゃんの話の内容よりも、あまりにも早口なので圧倒されてしまった。


 エイル姉ちゃんのように話したい。

 けれど早口は、バブブブブブーー、としか俺は言えなかった。


「そうだわ。

 肝心な話を忘れる所だった」


 エイル姉ちゃんは今度はユックリと話す。

 何か、あるみたい。


 何だろう……?


「もうすぐ私の誕生日だから、王妃様がお城で祝ってくれるんですって。

 でもそれは表向きで、王妃様は何かトルムルに頼みごとがあるみたいなの。


 ヒミンに聞いたら、『その時に話すから』としか言わなくて。

 ねえ、何だと思う?」


 王妃様が俺に頼みごと……?

 王妃様からの相談なんて、庶民の俺にはさっぱり分かりません……。


 でも、何だろう?


 俺は手のひらを天にかざして、分からないと返事をした。


「トルムルも分からないんだね。


 これが正式な招待状。

 私とお父さん、それにトルムルの名前があるわ」


 エイル姉ちゃんはそれを、父ちゃんと俺に見せてくれた。

 表には、俺たち家族の名前が書かれてある。


 招待状を開けるとヒドラが飛んでおり、火炎、稲妻、毒を吐きながら飛んでいる。


 初めて見るヒドラに圧倒された俺は、食い入るように見ている。

 まるで生きているみたいで、威圧感が半端なかった。


「トルムルはヒドラが気に入ったみたいね。

 ヒドラの妖精はね、伝説の大賢者の仲間達と共に、当時の世界を救ったといわれているわ。


 そして、この国の王族は大賢者の子孫なんだ」


 そ、それってマジなの?

 学園での話よりも、こっちの方が気になる。


 ヒミン王女とウール王女が、大賢者の子孫だったなんて……。


 それに……。

 もし……、もしも俺が大賢者になりたいのなら、ヒドラの妖精と友達にならなくてはいけないのか……?

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