第24話 離乳食のフルコース

 エイル姉ちゃんの誕生パーティーを、王妃様が城で開いてくれる。

 ヒミン王女が、エイル姉ちゃんの親友だからだ。


 でも、それはあくまでも表向きで、俺に何か話しがあるみたい。

 オシャブリを吸いながら考えても、それが何なのかは結局分からなかった。


「みんな準備はできたかい?」


「は〜い」


「バブゥー」


 エイル姉ちゃんは、今日は超〜〜美少女に見える。

 弟だから言っているのではなくて、エイル姉ちゃんは髪の毛から靴まで完璧!


 父ちゃんが誕生日のプレゼントに色々と買ってあげた。

 髪飾りから、ドレス、靴に至るまでコーディネートされている。


 ギガコウモリの一件以来、お金に余裕が出たと父ちゃんが言っていた。

 それに、エイル姉ちゃんが店で手伝いをするのも売り上げに大きく貢献している。


 エイル姉ちゃん目当てに来る若い男性客が増えているのは事実。

 なんと言っても、エイル姉ちゃんはうちの店の看板娘なのだ!


 エイル姉ちゃんをデートに誘うお客さんも後を絶たず、断るのに姉ちゃんが苦労しているほど。

 でも、何でエイル姉ちゃんは彼氏を作らないのだろうか……?



 城に行くと、王妃様達のプライベートで空間である最上階に再び足を踏み入れる。

 第2王女のウールヴルーンの命を助けた以来だ。


 ウール王女に会えると思うと、鼓動が早くなっていく……。


 執事に案内されて、豪華な部屋に通された。

 庶民育ちの俺には、ここは場違いな気がしている。


 オシャブリを吸って心を落ち着かせた。


 しばらくすると、王妃様と抱かれているウール王女、そしてヒミン王女が入って来た。

 3人とも王族らしく豪華な衣装で、特にヒミン王女はエイル姉ちゃんと並んでも引けを取らないほど完璧だ!


 ウール王女は以前見た時よりも愛らしく、つぶらな瞳で俺を見ている。

 見られているだけで、ドキドキが激しくなっていく。


「エイル、誕生日おめでとう」


 ヒミン王女がエイル姉ちゃんにそう言うと、決まりきった挨拶がその後続いた。

 執事の人達が壁際で見ているので、挨拶は表向きしか過ぎなかった。


 今夜は、俺達の家族と王妃様の家族の合計6人の内輪のパーティー。


 ディナーテーブルに、全員が席に着いた。

 俺の隣には、ウール王女が座っている。


 俺の心臓が、さらに早く鼓動を打ち出した。

 ……か、可愛い。


 ベッドに横たわっていた時以上に可愛く見える。

 俺を見つめる眼差しでだけで、心を奪われそうだ。


「トームル! トームル!」


 え……?

 な、なんで……?


 ウール王女が俺を指さして、興奮しながら名前を呼んでいる……?


 ヒミン王女は、妹はまだ話せないと言っていた。

 こんなに短期間で、家族以外の名前を話せるのか……?


「皆さんには、フルコースの料理を食べて頂こうと思っています」


 王妃様がそう言う。


 ウール王女は、俺を見たままだ。

 もしかして、……俺に気があるのか……?


 給仕係の人達が部屋に食べ物を持って入って来る。

 このままだと、精神安定のためにオシャブリをずっと吸っていなければならなくなる。


 顔を給仕係の方に向ける。


 俺の食事は間違いなくミルク。

 運が良ければ、離乳食……。


 給仕係が小さな皿に離乳食を置いた。

 その離乳食からは、とても美味しい匂いがする。


「トルムルちゃんとウールには、離乳食のフルコースを食べてもらうことにしました。

 料理長のボルドンが、腕によりをかけて作りましたのでお楽しみ下さい」


 父ちゃんとエイル姉ちゃんが俺の方を見ながら微笑んでいる。

 離乳食のフルコースは、生まれてからまだ食べたことがない。


 期待して……、いいのか……?


 隣のウール王女をチラッと見るとまだ食べ始めていなくて、王妃様の躾が厳しいのかと思った。

 普通、この頃の赤ちゃんは目の前に食べ物があると、すぐ食べ始めるのに。


 父ちゃん達のも美味しそうだった。

 けれど、この何とも言えない離乳食が気になっている俺。


「それでは食事を始めましょう」


 それを合図に、食事を始める。

 小さな赤ちゃん用の木製のスプーンを掴むと、最初の一口を啜った。


 う、美味すぎる。

 これが離乳食……?


 フルコースの最初だからか、緑色をした野菜を元にした離乳食だ。

 数回啜っただけで無くなってしまった。


「そのお顔ですと、トルムルちゃんは気に入っていただけたみたいですね」


「バブゥー」


 俺はすぐに返事をして、右手を上げた。


「ウールはどうですか?」


「おー、てー」


「おーてー」って言ったよな……?

 もしかして、美味しいと言おうとしている……?


 もしそうなら、俺よりも話せる語数が多い。


「ウールが先ほど言った『おーてー』は美味しいという意味で言ったんですよ。

 そうですよね、ウール?」


「とー」


 間違いない。

「とー』は、そうだよと言う意味で言っている。


 ウール王女の言える語数の多さは、そのあとの会話でも証明された。

 それに、王妃様の言っている言葉を理解しているのは明らか。


 ウール王女の急激な成長ぶりに、離乳食のフルコースの味が頭に入ってこなかった。

 すでに、一歳ぐらいの対応をウール王女はこなしているのか?


 いや、もっと上か……?


 何で……?

 もしかして……、俺が原因?


 ウール王女の治療をした時に確か……?


「わー、ありがとうヒミン。

 手作りのブローチだね」


「あまり自信がないのですけれど、喜んでもらえてうれしいです」


 すでに食事は終わっており、給仕係と執事の人達もすでに部屋にはいなかった。


 ウール王女のことを考えすぎて、せっかくの離乳食のフルコースの味が思い出せない……。


 そうだ、ツルの折り紙をエイル姉ちゃんに渡す時だと、慌てて父ちゃんの方を見る。

 父ちゃんは軽く頷いて、エイル姉ちゃんにツルの折り紙を渡しながら言う。


「これは、トルムルがエイルの為に作ったプレゼントだよ。

 魔石が組み込まれているから、少しだけ魔法力マジックパワーを魔石に入れてごらん」


「ありがとう、トルムル。

 紙を、このように折るのは初めて見るわ」


 エイル姉ちゃんはツルの折り紙を手に乗せて、珍しそうに眺めている。

 突然折り紙が消えたと思ったら、本物そっくりな小さなツルがエイル姉ちゃんの周りをゆっくりと回り始める。


「凄いわ、これは!

 今までに見たことのない技法だわ。

 スキルの付与で、このように出来るなんて!」


 エイル姉ちゃんだけでなく、王妃様とヒミン王女も驚いている。

 魔法がなくなりかけると、テーブルにゆっくりと舞い降りて紙のツルに戻っていった。


 ウール王女が右手を差し出したかと思うと、紙のツルに魔法力を入れた。

 再び本物そっくりのツルになると、今度はウール王女の周りを回り始める。


「とっと」


 ウール王女が言った『とっと』は間違いなく鳥のこと。

 言える語数が、俺よりもはるかに多い!


 どうして?


 それに、誰も教えなかったのに、エイル姉ちゃんの動作だけで魔法力をツルの折り紙に移動せた。

 この学ぶ高さはいったい……?


 父ちゃんとエイル姉ちゃんも、ウール王女の能力の高さに気が付いたようで、すごく驚いている。

 でも、王女様とヒミン王女はさほど驚いてはいない。


 王妃様の話とは、間違いなくウール王女のことだ!

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