第15話 アトラ姉ちゃんの胸

 翌日、エイル姉ちゃんとヒミン王女は学園から一緒に帰って来た。

 もちろん、俺が魔石にスキルを付与するのを見るためだ。


 店の外には、昨日と同じ人が隠れているのが気配でわかる。

 ラーズスヴィーズルだ!


 家の中にヒミンがいるので、外で、の〜んびりと日向ぼっこしているみたいだ。

 彼からは眠気を感じる。


 でも……、どうして俺は彼の事がわかるのだろうか?

 魔法を使ったわけでもないのに……?




 魔石にスキルを付与する方法は、頭の中ではわかっている。

 しかし、実際にやるのは初めて。


 俺の周りには、真剣な眼差しで見ている人達が居る。

 父ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女も。


 父ちゃんだけでも緊張するのに、美人のお姉ちゃん達に見られると、なおさら緊張度が増している。

 オシャブリを少し吸う。


 とりあえず、ゴブリンの魔石を一個前に置いた。

 最も初歩的な攻撃魔法、火玉魔法ファイアボールを付与することに決める。


 頭ぐらいの火の玉が、魔物に向かって行く魔法だ。

 本によれば、《この魔法は、10才ぐらいから使える子がいる》と書かれてあった。


 俺は、ほんの……、少しだけ規格外らしい。


 さて、スキルを付与する魔法も決まった。

 後は実践するのみだ。


 精神を統一して、手の中で頭の大きさの火の玉をイメージする。

 イメージができたので、魔石に付与するイメージも加えた。


 2つのイメージが、手の中にあるのを確認する。

 魔法力マジックパワーを使って、魔石にその2つのイメージを魔法で付与した。


 パリィ〜〜〜〜ン!


 え……?

 魔石が壊れた?


 な、何で?

 どうしてこうなる……?


 3人から、ため息が漏れた。


「トルムルは、初級魔法のスキルを付与したんだよね?」


 父ちゃんが不思議がって聞いた。

 確かに俺はそうしたので、右手を上げながら返事をする。


「バブゥー」


「なんでだろう?

 トルムルが間違いする筈もないし?」


 父ちゃんが、俺を信じているのが分かって嬉しかった。

 けれど、なおさら壊れた意味が分からない。


 ヒミン王女が、少し興奮しながら言う。


「城の中にある本で読んだのです。

 賢者のように魔力が高くなると、初級魔法でも、中級魔法の威力があると書かれてありました。


 もしかしたら、それではないでしょうか?」


 ヒミン王女は今……、何て言ったの……?

 俺の聞き間違いでなければ、賢者ぐらいになれば、初級が中級になるって言ったような……。


 マ、マジですか?

 俺って、そんなに魔力が高いの?


「それは……、言えているかもしれないね。

 トルムルが使った昨日の魔法も、人から聞いていた以上の威力だったからね」


 そ、そ、そうなんだ!

 俺って、賢者級なの?


 この魔石には、俺は付与できないって事?


 父ちゃんが、別の魔石を俺の前に置く。


「これは、中級の攻撃魔法なら入る魔石だから、同じ魔法で試してごらん」


「バブゥー」


 俺は返事をして、右手を上げた。

 父ちゃんの心遣いに感謝。


 同じ様に繰り返して、スキルを魔石に付与した。


 シューーーーー。


 魔石に魔法が入って行く微かな音が聞こえた。

 すぐに検査の魔法を使って確かめる。


 驚いたことに、ヒミン王女の言うように、中級魔法のスキルが魔石の中に有る。

 父ちゃんにそれを渡した。


 父ちゃんも検査の魔法で確かめている。


「これは驚いた。

 ヒミンの言う通り、中級火炎魔法のスキルになっている。


 もしやと思ったのだけれど……」


 やったね。

 初めて成功した。


 俺って、少しだけ規格外らしい。

 でも、こんなにゴブリンの魔石があるのに、スキルの付与できないのが残念。


 簡単に壊れすぎなんだよな、これって。


 ん……?


 俺……、今……。

 何を考えた?


 壊れるなら、壊れにくくすればいいのでは?

 でも、どうやって?


 ふと、アトラ姉ちゃんに抱かれて、息ができなかったことを思い出した。

 一瞬、身震いした。


 アトラ姉ちゃんの、あの胸の弾力をイメージで追加して付与する。

 そうすると、魔石を強化できるのでは?


 魔石を一個近くに持って来くる。

 そして、先程の2つのイメージに加えて、アトラ姉ちゃんの胸で魔石を強化するイメージを更に加える。


 3つのイメージが手の中でできたので、魔法力マジックパワーを使って、魔法を魔石に付与する。


 シューーーー。


 成功だ!


 焦る気持ちを抑え、検査の魔法で俺は付与された魔石を、検査魔法で確かめる。


 中級の火嵐魔法ファイアストームが、安定して魔石の中に有るのが確認できた。

 ヤッター!


 大成功だね!


「バブブブブブーーーーー!」


 俺は嬉しくなって大声を上げていた。

 父ちゃんが驚いて、すぐに検査の魔法で確かめた。


「これは驚いた!

 ゴブリンの魔石の中に、中級の火嵐魔法ファイアストームが安定して有る。


 し、信じられない!」


 父ちゃんはしきりに首を傾げている。

 エイル姉ちゃんが、興奮しながら俺に聞いてきた。


「トルムルは何をしたの?

 普通では考えられないわ」


 言葉が通じないので、説明が難しい。

 どうやって説明をすれば……?


 エイル姉ちゃんの胸を指差した。


「胸……?

 私の胸と関係があるの?」


 エイル姉ちゃんも首を傾げている。


「アーア!」


 俺はそう言って、もう一度エイル姉ちゃんの胸を指差した。


「アーア?

 もしかして、アトラ姉さんのこと?」


「バブゥ」


 俺はそう言って、右手を上げた。


「アトラ姉さんの胸と関係があるのね」


 俺は、もう一度右手を上げた。


 そして今度は、魔石を置いて両手で挟むように、閉じたり開いたりした。


「アトラ姉さんの胸で、魔石を……?」


 エイル姉ちゃんは、さらに首を傾げた。


「分かったわ!」


 ヒミン王女が突然閃いて、少し興奮しながら言う。


「アトラさんの胸の弾力のイメージを、魔石の付与に加えたのね。

 そうすることによって魔石が強化されて、中級魔法が付与できた。


 そうよね、トルムルちゃん!?」


「ヒーヒ!

 バブブブブブーーー!!」


 正解だよ、ヒミン王女。

 さすが、王女だね。


「私のこと、ヒーヒと呼んでくれたのね。

 ありがとう、トルムルちゃん」


 そう言うと、ヒミン王女は俺の頬にキスをしてくれる。

 そして、ヒミン王女の目がキラッと光ったのを俺は見過ごさなかった。

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