第16話 こちらを実感

 ゴブリンの魔石に、中級の魔法を付与する方法が分かった。

 俺は父ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女に一個ずつ魔石を渡した。


「私達も、試してっていうことなの?」


 エイル姉ちゃんは、目を輝かせながら聞いてきた。

 姉ちゃんの卒業試験の課題で、ゴブリンの魔石にスキルを付与するって言ったのを思い出したからだ。


 俺と同じようにできれば、高評価が得られるのは間違いない。

 父ちゃんの商売もこれで売り上げが増えるし、使ってくれる人も喜ぶ。


「トート、エーエ、ヒーヒ!

 バブゥー」


 エイル姉ちゃんの問いかけに、俺は名前を言う。

 右手を上げて、そうだよと意思表示をした。


「分かったわ。

 中級の魔法は最近覚えたばかりだけれど、やってみるわ」


 父ちゃんとヒミン王女もやる気みたいで、精神を統一している。

 最初に父ちゃんが魔石に付与した。


 シューーーー。


 静かな音と共に、スキルが魔石に入っていった。

 父ちゃんは検査の魔法で確かめる。


「なんと!

 トルムルの方法でやると、私にもできたよ。


 ゴブリンの魔石に、中級のスキルが安定して有る。

 これは凄いことだ!」


 父ちゃんは興奮しながら言った。


 パリィーーーーーン。

 パリィーーーーーン。


 エイル姉ちゃんと、ヒミン王女の魔石が壊れた。


 なんで?

 父ちゃんには出来て、なんで2人には出来ないの?


「え〜〜、どうして壊れるの!

 ヒミンのも壊れている〜〜」


「私にも分かりません。

 同じように、3つのスキルを付与したのですが……?」


 二人はどうして壊れたのか不思議がっている。

 でも、どうしてなんだろうか?


 もしかして、イメージが足らない……?

 アトラ姉ちゃんの胸で受けた苦しさを、二人は知らないからか?


 も、も、もしかしたら……?

 アトラ姉ちゃんと、エイル姉ちゃん達と比べて、胸の弾力がかなり違うのか?


 ありえる!


 アトラ姉ちゃんに抱いてもらった時の方が、はるかに弾力があったのを思い出す。

 でも、それをどうやって伝えたらいい?


「エーエ、ぶーー。

 アーア、バブゥー」


 言った後に、俺はエイル姉ちゃんの胸を指で指した。


「えーと、トルムルが言おうとしているのは……?

 私の胸はダメで、アトラ姉さんの胸でないとダメだってことなの?」


「バブゥー」


「そうだよって言われても……。

 そうだ、成功したお父さんはどう思う?」


 エイル姉ちゃんに言われて、父ちゃんの目線が宙を泳いでいる。

 何かを考えているのが分かる。


「えーと。

 アトラとエイルの胸の違いは、お父さんには分からない」


 父ちゃんがキッパリと言うと、エイル姉ちゃんが頭を下げた。

 そして、呆れ返った顔つきで言う。


「お父さんは、違いが分からないのに成功したの?」


「いや、そうではないんだよ。

 ナタリーとアトラは同じ魔法剣士。


 体格もほぼ同じ二人なので、そのう〜〜。

 アトラは、ナタリーと同じ胸なのかなと思って……。


 ナタリーの胸の弾力をイメージしたんだよ」


「お母さんの?

 そういえば、お母さんの胸は鍛え上げられていて、ゴブリンを跳ね返して殺す程の弾力がある。

 

 魔法剣士の特色でもある弾力のある胸!

 そうか、私の胸をイメージしたから魔石が壊れたんだわ。


 ヒミンはどう思う?」


「私も、自分の胸をイメージして付与しました。

 だからなんですね。


 もっと弾力があって、ゴブリンを跳ね返して殺す程のイメージが必要なのですね」


「もう一回やってみようよ、ヒミン!」


「もう一度、ぜひやりたいです!

 ドールグスヴァリさん、よろしいでしょうか?」


 父ちゃんは当然だよと思って、二人に追加の魔石を渡した。


「みんなで協力して得た魔石だ。

 成功するまで使っても構わないよ」


 父ちゃんはそう言うと、俺の方を見る。


「バブゥー」


「トルムルも賛成みたいだ。

 さ、やってみて」


 二人は魔石を受け取ると、精神を統一する。

 魔石にスキルを付与する為に、行動を最初にしたのはエイル姉ちゃんだ。


 シューーーーー。


 魔石に、スキルが入ったわずかな音がする。


 シューーーーーー。


 ヒミン王女も、魔石にスキルを付与した音が聞こえてきた。


 父ちゃんは2つの魔石を取ると、検査の魔法を使った。

 エイル姉ちゃんとヒミン王女は、真剣な眼差しで父ちゃんを見ている。


「2つの魔石には、中級の魔法が安定して入っている。

 スキル付与は成功だ!」


「やったわ!

 成功したのよ私達」


 エイル姉ちゃんは、素直に大喜びをして飛び跳ねている。

 ヒミン王女は、目を輝かせながら言う。


「これは、本当に凄いことです。

 これでしたら、中級のスキルが入る魔石には、上級のスキルが入る事を意味しています。


 魔石の数がたらない現在において、これは画期的な成功です。

 国が抱えている問題でもあり、上級スキルを付与した魔石の供給に対して、これで緩和されます。


 トルムルちゃん、本当にありがとう」


 そうなんだ。

 国に貢献したんだ……。


 なんか、実感がないんだけれど……?


 そう言うと、ヒミン王女は俺を椅子から出して、その大きな柔らかな胸で抱いてくれた。

 前に感じた恐怖心は、少し減っていた。


 やはり、アトラ姉ちゃんの胸とだいぶ違うと、こちらを実感した俺がそこにいた。

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